調査・研究



インターネット放送の現状と課題
〜インターネット広告と著作権問題〜




情報システム研究室研究官   姫野 桂一


[要約]

 我が国におけるインターネットの急速な普及は、ビジネス分野においても、電子商取引をはじめ様々な利用サービスを創出するに至っている。
 こうしたサービスの中でも、インターネットの映像や音声の送信技術を活用したインターネット放送が注目されている。
 インターネット放送は、既存の放送と比べると以下のような特徴を有しているため、放送業界だけでなく、広告業界においても注目を集めていると考えられる。

@ 既存の放送に比べて、インターネット放送の事業コスト(投資コスト)が低廉である。
A 既存の放送は電波の届く範囲に視聴が限られるのに対し、インターネット放送は世界中、どこからでもアクセスが可能である。
B インターネット放送は、インタラクティブ性(双方向性)を活用したサービス提供が可能である。
C インターネット放送の方が、損益分岐点が既存の放送に比べて低いため、少人数の利用者のニーズに適応したサービスの提供が行いやすい。

 今後、インターネット放送が商業的に成長していくためには、インターネット利用者の増加をはじめ、次のような条件をクリアしていくことが重要である。
@ 技術力の向上(データ圧縮技術、映像や音声の質的な向上等)
A インターネットの利用環境の充実(インターネット利用者の増加、回線使用料の低廉化等)
B 利用者を想定したマーケティングの研究(提案するコンテンツの充実、インターネット広告の充実、コンテンツに対する課金等)
C インターネット放送に関する法的な問題の解決(著作権問題等)

 特に著作権問題に関しては、1996年12月に締約されたWIPO著作権条約(WIPO Copyright Treaty)及びWIPO実演家・レコード条約(WIPO Performanses and Photograms Treaty)を受け、1998年1月から施行された著作権法においては、インターネット等のリクエストを受けて行うインタラクティブ通信において、「送信可能化権」が認められることとなった。インターネット放送における著作権問題についても、今後、国際的な連携によって解決を図っていくことが求められる。


はじめに

 我が国におけるインターネットの急速な普及にともない、その利用分野は大きな広がりを見せている。
 本稿では、多様なインターネットの利用の中でも注目を浴びているインターネット放送(Internet Broadcasting)を中心に、その現状と課題について、インターネットの利用動向、インターネット広告や著作権問題などについてもふれながら、体系的な整理を試みた。
 インターネット放送に関しては、インターネットを取り巻く環境の変化、例えば画像圧縮技術の進歩や利用者数の増加といった今後の発展がさらに期待される要因もある反面、インターネット広告のマーケットの捉え方やインターネット放送における著作権問題など、現段階ではどのような方向に向かうかを断定的に述べることが難しい問題もある。このため、様々な分析が表層的なものにとどまっていることを予めお断りしておきたい。
 本稿では、内容を大きく4つに分けた。

1.「インターネットの利用動向」では、我が国のインターネットの利用状況を中心に既存の資料から整理する。

2.「インターネット放送の現状と課題」では、インターネット放送の特徴とマーケティングの考え方について整理する。

3.「インターネット広告の動向」では、インターネット広告の現状と課題を整理する。
4.「インターネット放送と著作権問題」では、特にインターネット放送における音楽著作権の管理とその課題についての動向をまとめる。

 なお、本稿において意見にわたる部分は、郵政省の公式な見解ではなく、筆者の私見である。

 本稿の執筆にあたり、インターネットにおける著作権問題については、東京大学先端科学技術研究センター教授の玉井克哉先生よりご助言をいただきました。
 また、インターネット放送、インターネット広告の動向については、株式会社Jストリームの伴野菊太郎様、古株均様、株式会社博報堂の永塚秀明様、若林稔様よりご助言をいただきました。
 紙面を借りて厚く御礼申し上げます。




1.インターネットの利用動向

1)我が国におけるインターネットの利用動向

 我が国においては、1995年からの3年ほどの間に、インターネットの利用者数が飛躍的に増加したと言われている。ここでは、JPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンター)が提供する統計データ(ftp://ftp.nic.ad.jp/jpnic/statistics/Allocated_Domains)からJPドメイン数の推移を見ることにする。
 JPドメイン数は、1993年2月には979に過ぎなかったが、1998年2月には35,361になっている。特に1995年以降の増加が著しく、1995年2月の2,313から3年間で約15.3倍となっている(図1)。

図1JPドメインの割り当て数の推移

出所)JPNIC統計資料(ftp://ftp.nic.ad.jp/jpnic/statistics/Allocated_Domains)をもとに作成
(データはいずれも2月1日の数値である)


 それでは、我が国におけるインターネット利用者は現在、どのくらいと推計されているのであろうか。アクセスメディアインターナショナル社の調査によると、1997年12月時点でのインターネット利用者数を約884万人(推計値)としている(日本経済新聞社 1998年1月23日 朝刊)。
 類似の調査では、野村総合研究所が1998年12月に発表した「情報通信利用者動向の調査」(訪問留置法によるアンケートで全国15〜59歳の男女個人2,000人を抽出。有効回答数1,409人)において、インターネットの利用率を11.6%としている(図2)。

図2 インターネットの利用率(N=1,409)
出所)「情報通信利用者動向の調査」(1997年12月)野村総合研究所
(http://www.nri.co.jp/nri/news/971208.html)


 また、郵政研究所が1997年12月に実施した「新世代のメディア利用動向に関するアンケート」(訪問留置法によるアンケートで、首都圏15〜29歳の男女個人を抽出。有効回答数320人)のWWWの利用に関する設問では、「主にプライベートで利用している」と回答した人が4.7%、「プライベートと仕事(学業)の半々で利用している」と回答した人が3.4%、「主に仕事(学業)で利用している」と回答した人が6.9%であり、何らかの形でWWWを利用している人は15.0%となった(図3)。

図3 若者世代のWWW利用率(N=320)

出所)「新世代のメディア利用動向に関するアンケート」(1997年12月)野村総合研究所




 当研究所が実施したアンケート調査は、15歳〜29歳までの若者世代のメディア利用に関して、サンプリングを行っているため、他の全国調査と単純に比較できないが、既存の資料を見る限り、現時点でのインターネット利用者の割合は約1割前後と考えられる。



2)我が国のパソコン使用率と日米比較

 インターネットの利用動向とやや論点がはずれるが、パソコンの使用率とインターネットの利用率には、ある程度の相関があるものと一般的に考えられている。
 パソコンの使用と言っても、インターネットのようなネットワークに接続するか、スタンドアロンとして使用するかの違いもあるが、ここでは、我が国における性別・年齢別のパソコン使用率とパソコン保有の日米比較についてふれる。
 野村総合研究所が1997年12月に発表した「情報通信利用者動向の調査」では、性別・年齢別の個人パソコンの使用率について図4のような結果が得られている。

図4 性別・年齢別の個人パソコンの使用率
出所)「情報通信利用者動向の調査」(1997年12月)野村総合研究所
(http://www.nri.co.jp/nri/news/971208.html)




 パソコンの使用率については、全体で17.0%、男性では「30〜34歳」で34.7%、「20〜24歳」で28.1%、「25〜29歳」で26.3%などとなっており、女性では「20〜24歳」が16.9%、「40〜44歳」が14.6%、「20歳未満」が13.2%となっている。総じて、女性の使用率が男性よりも低い傾向にある。
 それでは、パソコンの保有・使用については、我が国と我が国よりもコンピュータの利用が進んでいる米国では、どのような差があるだろうか。
 ここでも、野村総合研究所の行った「情報機器やサービスの利用に関するアンケート」(1997年9月〜12月)で日米比較をしているので、このデータを見ると、我が国のパソコン保有・使用率は17.0%であるのに対し、米国では44.8%になっている(図5)。

図5 パソコン保有・使用の実態と購入意向の日米比較
出所)「情報通信利用者動向の調査」(1997年9月〜12月)野村総合研究所
(http://www.nri.co.jp/nri/news/980212.html)


 米国において、パソコン普及率が我が国に比べて非常に高いのは、税申告用にパソコンが普及していったことやキーボードに対するリテラシーが高い人が多いこと等の要因が考えられる。
 先にもふれたように、パソコンの保有・使用がすぐに、インターネットの利用に直結するわけではないが、我が国においても、パソコン保有・使用者が増加していくことによって、インターネットの利用の機会も増すものと思われる。




2.インターネット放送の現状と展望

1)インターネット放送の利用動向

(1)インターネット放送の位置づけ
 インターネットの利用の中でも注目される動向として、東京大学社会情報研究所の小林宏一教授は、「インターネットの将来・現状・歴史」(1997年 ジュリスト増刊号 新世紀の展望 変革期のメディア)(有斐閣)において、インターネット放送についての取り組みを紹介している。具体的には、リアルオーディオ、ストリームワークス、VDOといったヘルパーソフトの開発によって、WWW上におけるラジオ放送、さらには、テレビ放送が可能となり、こうした事例が日増しに増加していることを指摘されている。
 我が国の通信・放送関連の法令は、「放送」と「通信」の2つの領域を区分している。「放送」については、電波法、放送法、有線テレビジョン放送法等によって規律されており、「通信」については、電気通信事業法、有線放送電話に関する法律、電波法によって規律されている。
 それでは、インターネット放送は、法的にはどのように扱われているのであろうか。
 放送法の第2条第1号では、「放送」を「公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信をいう」と規定している。また、「有線放送」については、「公衆によって直接受信されることを目的とする有線電気通信の送信をいう」と定義している(有線テレビジョン放送法第2条第1項)。さらに、「有線ラジオ放送」については、「公衆によって直接受信(又は聴取)されることを目的」としている(有線ラジオ放送業務の規正に関する法律第2条)。
 この規定に基づくと、インターネット放送は「放送」でも「有線放送」でもなく、「有線送信」として扱われることになる。
 インターネット放送については、明確な定義づけはされていないようなので、本稿では、インターネットの音声伝送機能、映像伝送機能を用いて、コンサートを生中継して多数の人々が同時に視聴させるなど、あたかもラジオ放送・テレビ放送であるような放送類似の機能を「インターネット放送」として扱うことにする。
 まず、インターネット放送の一般の認知度について概観する。
 当郵政研究所が、衛星放送を視聴している世帯、CATVを視聴している世帯並びに地上波放送のみを視聴している世帯に対して、1997年10月に実施した「テレビに関するアンケート調査」(回答数は5,691サンプル)では、インターネット放送の利用動向に関する設問を設けている。
 アンケートの結果、「インターネット放送」に関する利用動向は、「利用したことがある」が6.9%であるのに対し、「利用したことはない」が74.6%、「言葉も聞いたことがない」が16.5%であった(図6)。

図6 インターネット放送に関する利用動向(N=5,691)
出所)「テレビに関するアンケート調査」(1997年10月)(郵政省郵政研究所)


 また、「言葉も聞いたことがない」という人が約2割弱いることから、インターネット放送が商業的に成立するためには、今後、利用者がどの程度まで増加していくかを見極めることも重要な条件となると考えられる。



(2)インターネット放送の特徴
 インターネット放送の特徴を例示列挙すると、概ね次のようなことがいえる。

@ 既存の放送に比べて、インターネット放送の事業コスト(投資コスト)が低廉である。

A 既存の放送は電波の届く範囲に視聴が限られるのに対し、インターネット放送は世界中、どこからでもアクセスが可能である。

B インターネット放送は、インタラクティブ性(双方向)活用したサービス提供が可能である。

C インターネット放送の方が、損益分岐点が既存の放送に比べて低いため、少人数の利用者のニーズに適応したサービスの提供が行いやすい。

 その一方で、既存の放送に比べると、パソコンの購入が必要なこと、画質がテレビほど鮮明でないこと、回線利用料などの利用者側のコスト負担が大きいこと、特定のサイトにアクセスするまでの労力を要するという問題点もある。

図7 インターネット放送の形態
出所)「日経コミュニケーション 1996年2月3日号
(実用段階のインターネット放送 企業内運用も始まる)」(藤川雅朗)(日経BP社)をもとに作成



(3)インターネット放送の形態
 インターネット放送の形態としては、一般にリアルタイム型とオン・デマンド型に大別される(図7)。
 リアルタイム型は、コンテンツを撮影し、エンコーディング(変換)しながら放送するしくみのものをいう。
 リアルタイム型の特徴としては、

@ インフラ整備にコストがかかる

A 既存の放送に近い形態である

B インターネット利用者のアクセス時間が放送時間に集中する

C インターネットの特徴であるインタラクティブ性を活かしにくい

といったことが挙げられる。
 一方、オン・デマンド型は、エンコーディング済みのコンテンツファイルを見るしくみのものをいう。
 オン・デマンド型の特徴としては、

@ ネットワークの負荷が大きい

A インターネット利用者のアクセス時間が分散する

B インターネットの特徴であるインタラクティブ性を活かしサービスを提供できる

といったことが挙げられる。



 次に、インターネット放送の事業者及び利用者にとってのメリットを整理してみた(表1)。

表1 インターネット放送の事業者及び利用者にとってのメリット
事業者にとってのメリット ・放送チャンネルに対する投資コストが低い
・アクセスに対して履歴をとることができるため、効果測定が容易である
・インターネットのインタラクティブ性を活かして、利用者の反応をモニタ
ーすることが容易である
利用者にとってのメリット ・利用者のニーズにあった映像や音声コンテンツが得られる
・コンテンツをダウンロードすることなく視聴できる
・番組への参加などインタラクティブに楽しむことができる
出所)Jストリーム社へのインタビューをもとに作成



 インターネット放送の事業者にとってのメリットは、放送チャンネルに対する投資コストが低いことやアクセスに対して履歴をとることができるため、効果測定が容易であること等があげられる。
 一方、インターネット放送の利用者にとってのメリットは、利用者のニーズにあった映像や音声コンテンツが得られることやコンテンツをダウンロードすることなく視聴できるできること等があげられる。

2)インターネット放送の課題

 インターネット放送は、インターネットビジネス分野においても、最近、特に注目を浴びているメディアである。それでは、このインターネット放送の解決すべき課題にはどのようなものであるだろうか。
 インターネット放送の利用意向について、先にふれた「テレビに関するアンケート調査」のデータを用いて整理した。
 インターネット放送に関する今後の利用意向に関する設問では、「利用してみたい」という回答は19.4%、「内容が充実したら利用してみたい」という回答は12.0%、「画像がテレビ並なら利用してみたい」という回答は10.8%であり、何らかの条件付きながら利用意向を持っている人の割合は32.2%であった。
 一方、「利用したいとは思わない」という回答は17.9%、「わからない・判断できない」という回答は37.9%であった(図8)。

図8 インターネット放送に関する今後の利用意向(N=5,691)
出所)「テレビに関するアンケート調査」(1997年10月)(郵政省郵政研究所)



 このアンケート調査では、設問の制約から、利用料金についての条件設定等を設けていないが、インターネット放送のコンテンツの充実や画質の向上に対するニーズが利用の条件として考えている人が多いことが窺える。

 こうしたことをふまえ、インターネット放送の利用者が増加し、商業的に成長していくための条件としては、次のような視点が考えられる。

@ 技術力の向上(データ圧縮技術、映像や音声の質的な向上等)

A インターネットの利用環境の充実(インターネット利用者の増加、回線使用料の低廉化等)
B 利用者を想定したマーケティングの研究(提供するコンテンツの充実、インターネット広告の充実、コンテンツに対する課金等)
C インターネット放送に関する法的な問題の解決(著作権問題等)

 の技術力の向上としては、MPEG1、MPEG2等の画像圧縮技術の進歩、音声や映像ソフトの開発によって、大量のデータを送信していくことや音質や画質の向上を図っていくことが必要である。
 のインターネットの利用環境の充実では、先にふれたように、低廉な価格で利用者がインターネット放送を楽しめる環境づくりが求められる。
 の利用者を想定したマーケティングの研究、特にインターネット広告に関する動向とのインターネット放送に関する法的な問題の解決、すなわちインターネット放送における著作権の問題については、様々な問題を内包しているので、後半で詳述することにする。



3)インターネット放送におけるマーケティングの考え方

 インターネット放送は、先に述べたように既存のテレビ放送とは異なった特性を有するため、商業ベースにのせて事業を展開していくためには、新たなマーケティング手法を確立していく必要がある。

図9 ある番組を想定した場合のテレビ放送、インターネット放送の視聴率の概念図
注)インターネット放送の場合は、テレビ放送の視聴率のような測定手法ではなく、
提供するコンテンツに対するアクセス数等の指標によって、表示することも考えられる。
出所)博報堂へのインタビュー調査をもとに作成



 この時、問題になるのは図9に示したようなテレビ放送で確立されている視聴率の概念がインターネット放送に当てはまるかどうかという問題である。
 テレビ放送における視聴率はすでに測定手法が様々な角度から研究されているが、インターネット放送で同様のものを測定しようとすると、提供するコンテンツ(番組)が細分化されていることもあり、その数値も大きく変動すると考えられる。
 表1の事業者へのメリットでもふれたが、「アクセスに対して履歴をとることができるため、効果測定が容易である」という特性を活かし、マーケティング手法を確立していくことも考えられる。この方法は、利用頻度や属性まではある程度測定できるが、幅広い年齢層に対する手法としては完全には、確立されてはいない。
 次のインターネット広告でもふれるが、インターネット放送においても、放送より低いコストで番組提供が可能であるという特性を生かし、利用者のターゲットを絞ったマーケティング手法が研究されていくものと考えられる。



3.インターネット広告の動向

 インターネットを使った広告、すなわち、一種の電子カタログとして自社の取り扱う製品を掲載して広告媒体として利用するケースは増加している。データがやや古いが、インターネット広告のマーケット規模については、電通が1997年の我が国のインターネット広告費を約40億円と推計している(日経流通新聞 1997年4月3日)。これは、1996年の広告費推定額16億円の約2.5倍に相当する。この年の全体の広告費5兆7,699億円からみるとそのシェアはわずかであるが、将来的には大きなマーケットになることが期待されている。
 インターネット広告の利点としては、戸田覚氏の「インターネット広告」(ダイヤモンド社)では、次のようなことを指摘している。

@ 他の広告媒体に比べて安価であること

A 大量の情報を流すことができること

B 膨大な数の全世界的なインターネットユーザーを対象とすることができること

C テレビCMや雑誌広告と異なり広告を率先して自主的に見たいと思う人々がアクセスして来るため広告効果が高いこと

D 最新情報への更新が迅速かつ容易であること

E 検索エンジンと呼ばれるソフトを搭載することで大量の掲載商品につき電子検索が可能となること

F インターネットの双方向性を利用して、加工が簡単なデジタル・データ方式で消費者からアンケートを集めやすいこと

 ホームページ上で自社の取り扱い製品や役務の広告を掲載するのではなく、自社のホームページ上で有料で他社の広告を掲載するものを特に「バナー広告」という。
 また、インターネット広告においては、サイト全体のヒット数、時間帯ごとの変化の分布、広告状況の把握、各ページ・各バナーのチェック、クリックの順番、利用時間の長さ、同一人の利用回数の計測等が可能であるため、広告効果を測定することが可能である。

 インターネットのバナー広告の利用動向について、ここでは情報通信総合研究所が実施した「インターネット広告に関する意識調査」をもとに概観する(この調査は1996年10月から1996年12月までの期間にインターネットを利用して実施し、有効回答数は1,416であった)。
 「インターネット上に広告掲載のページがあることを知っているか」という設問については、回答者の94.6%が、バナー広告を掲載しているページがあることを知っていると回答している(図10)。

図10 インターネット上のバナー広告の認知度(N=1,403)
出所)「インターネット広告に関する意識調査」(情報通信総合研究所)(1997年2月)
(http://www.commerce.or.jp/minfo/enq/enq_back/report6/index.html)

 また、印象に残った企業の業種としては、コンピュータ(メーカー)が40.6%、コンピュータ(ソフト)が28.7%、「雑誌」が18.7%、「エンターテイメント」が18.4%であった(図11)。

図11 印象に残った広告の種類(N=1,304)
出所)「インターネット広告に関する意識調査」(情報通信総合研究所)(1997年2月)
(http://www.commerce.or.jp/minfo/enq/enq_back/report6/index.html)



このように、インターネットの利用者の印象に残る広告、すなわち、広告効果が高い商品の選択もインターネット広告の発展の鍵を握っていると考えられる。



2)インターネット広告と法制度

 インターネットを通じ、商品を販売したり、役務を提供する場合、ホームページを開設すると商品や役務の広告が国境を越えて世界中に発信されてしまう。インターネットによって、商品または役務の広告をすることは、我が国の商標法第2条第3項第7号において「商品又は役務に関する広告、定価表又は取引書類に標章を付して展示し、又は頒布する行為」に該当するため、商標の使用になる。
 商標権は、ある国で付与した権利の効力はその国内に限られ、成立、変動、効力等は全てその権利を認めた国の法律によるという属地主義の原則がとられている。このような属地主義の観点から、パリ条約においては、加盟国で付与される商標権は、相互に独立であるという商標独立の原則を明文化している(パリ条約第6条)。
 したがって、我が国においては、適法に登録商標として使用できるものが、諸外国で使用すると商標権侵害になる場合も生じる可能性がある。また、サーバーを商標登録のない国に設置することにより、商標権侵害を回避することも予想される。
 こうしたインターネットを利用して商標権の侵害が国境を越えた場合の判例としては、米国では1996年に出されたプレイメン事件の判例(Playboy Enterprises, Inc. v. Chucklberry Publishing, Inc. 1996 wl 337276)が代表的である。これは、イタリアの「プレイメン(Playmen)」のインターネット・サイト上のコンピュータ画像が米国からアクセス可能なことを理由に、米国における頒布(distribution)に該当するとして、米国商標権を侵害するとされたものである。
 このような問題は、外国法では知的財産権の侵害にならなくても、国内法では侵害になる場合、自国でその責任を追及できるかどうかという問題でもあり、我が国においても大きな問題を引き起こす可能性が高いと考えられる。
 商標法以外にインターネット広告が深く関わる論点としては、ドメイン名の商号使用に関する問題が代表的である。こうした問題は、景品表示法、不正競争防止法等とも深く関連し、国境を越えるというインターネットの情報流通の特性に応じた対応が求められると考えられる。

4.インターネット放送と著作権問題

 インターネットと知的財産権の問題は、インターネットの情報流通に関して、最近特に注目されている論点の1つである。その大まかなトレンドは、郵政研究所月報1月号の「インターネットの抱える諸問題と今後の展望〜特に知的財産権保護に関して〜」(http://www.iptp.go.jp/japanese/posts/research/monthly/no112/P50.html)でもふれているので、ここでは、主としてインターネットと音楽著作権を中心とした著作権問題についての動向について述べる。

1)現行の著作権法とインターネットにおける著作物の扱い

インターネットにおける情報においては、

@ デジタルであるために情報が劣化しないこと

A 編集や改変が容易であること
B 国境を越える利用が可能なこと
 大量かつ多様な情報発信が可能なこと
等が特徴としてあげられる。
 最近の検索用ソフトの普及によって、インターネット上を流通している情報をモニターすることで、知的財産権に関する権利侵害の認知が従来より容易になったといえる。また、インターネットにおける情報は、インターネットにおける情報の複製が容易であることをはじめ、先に例示した特徴を有するために、逆に国際的な著作権侵害等の問題をより顕在化させる可能性が大きくなったといえる。
 世界の主要国は「著作権の保護に関するベルヌ条約」(以下、ベルヌ条約という。)の締約国となっており、インターネットのコンテンツも同条約及び国内法によって、保護されることになっている。しかし、ベルヌ条約は、インターネットの特性(デジタル情報であること、容易に情報が国境を越えること等)を予定していないこともあったため、1996年12月に開催されたWIPO(世界知的所有権機関)の国際会議において、著作権者、著作隣接権者に対して、アップロード権(ネットワークに接続することに対する許諾権)を付与することが採択され、我が国でも、著作権者、著作隣接権者にアップロード権と同等の権利である「送信可能化権」を付与する改正著作権法が1998年1月1日より施行されている。
 インターネットで著作物を無断で利用した場合、著作権法では、次のような著作権が侵害されると解されている。すなわち、コンテンツを著作権者に無断でサーバーに配置することは、著作権法第21条の複製権の侵害に該当し、アクセス者へのリクエストに対応して著作権者に無断で配信することは、著作権法第23条の公衆送信権の侵害に該当すると解されている。



2)インターネット利用における音楽著作物の扱い

 インターネット放送のように、音楽の送信を行う場合は具体的にどのような手続きを要するのであろうか。端的に言えば、インターネットで使われる音源によって、利用者が許諾を求めるべき権利者も変化することになる。具体的には、著作権法では、作曲者・作詞者など著作者の他に、著作隣接権者として、実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者の権利を保護しているので、使用する音源によって、著作権使用の許諾を得る必要がある。
 音楽著作物に対する著作権の扱いについては、我が国においては、日本音楽著作権協会(JASRAC)等の著作権管理団体に委託され、使用料を徴収後、一定の分配式に基づき権利者に配分されることとなっている。
 1998年1月から施行された改正著作権法により、公衆送信権が認められたこともあり、サーバーへの複製を伴わない送信であっても、著作権侵害となることとなった。したがって、インターネット放送において、音楽をネット上で流すことについても、楽曲については日本音楽著作権協会からの使用許諾を得る必要がある。
 ただし、日本音楽著作権協会では、インターネット等のネットワークを用いた利用形態に関する使用料率や許諾条件などの使用料規定を策定中のため、利用者の便を考慮して、暫定的に以下の対応をとっている(1998年2月時点)(http://www.jasrac.or.jp/jhp/faq.htm)。

 有料番組や著作物販売など営利目的で著作物を利用する場合は、使用者と覚書を締結し、保証金を支払うなど一定の条件の下で、暫定的に使用を許諾している。納付する保証金は使用料規定が実施された段階で清算される。
 無料サイトなど営利性の低い場合については、企画書や使用曲目等を報告し、利用状況等を確認する。暫定的に使用許諾することが決まれば、規定が実施された時に著作物の使用開始にさかのぼって使用料を支払う旨の承諾書を、日本音楽著作権協会に提出する。

 なお、インターネットでの著作物利用については、どの国の法律を適用し、どの著作権管理団体との許諾をとるか等について、海外の著作権管理団体と協議、調整する必要がある場合も考えられる。
海外に設置されたサーバーを利用して送信する場合は、その国の法律や規定に従うことが一般的である。例えば、米国にサーバーを設置した場合の音楽著作物の利用にあたっては、米国の演奏権管理団体であるASCAP(American Society of Composers, Authors and Publishers)やBMI(Broadcasting Music Inc.)から許諾を得ているケースが見られる。

3)インターネット放送における著作権問題の課題

 インターネット放送における著作権問題の課題について、例えば、テレビ放送をそのまま配信する場合を想定してみる。この場合、テレビ番組はテレビ放送に使うことを前提に契約しているため、インターネットを用いた配信については、契約にその旨の許諾がなければ、利用することはできない。また、テレビCMも同様であり、インターネット広告として利用する場合は、はじめから著作権に抵触しないコンテンツを配信することで対応しているケースが多い。
 なお、現行の方法では、音楽著作物の利用に当たって、曲の出だしや一部分だけを利用するという単位での使用料システムになっていないこともあり、たまたまネットサーフィンして音楽著作物のあるサイトにアクセスした場合の扱い等についても、著作権法の適用があるかどうか議論のあるところである。
 インターネットにおける知的財産権侵害の問題は、国境を容易に越えるというインターネットの情報流通の問題と属地主義に基づく各国の商標権法や著作権法等の法制度の関係をどのように扱うかという問題になると思われる。例えば、サーバーの設置国において、著作物を送信していると考えてしまうと、ベルヌ条約、万国著作権条約の非加盟国へサーバー設置して、著作物を送信した場合、著作権法を容易に潜脱してしまうのではないかという問題が起こる。また、他国法に基づく知的財産権の侵害について、国内で責任を追及できるかという問題やその実効性を如何に確保していくかという問題も生じる。
 以上から、インターネット放送の利用を促進していくためには、著作権等の知的財産権の問題をクリアしていく必要があり、著作権侵害を防ぐ実効性のあるしくみづくりについて、今後さらに検討していくことが求められるといえる。


(参考文献・引用文献)


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(8) 「日経コミュニケーション 1996年2月3日号 (実用段階のインターネット放送 企業内運用も始まる)」(藤川雅朗)(日経BP社)(1997年2月)
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(13) 「情報通信利用者動向の調査」(1998年2月)野村総合研究所(http://www.nri.co.jp/nri/news/980212.html)
(14) 「インターネット広告に関する意識調査」(情報通信総合研究所)(1997年2月)(http://www.commerce.or.jp/minfo/enq/enq_back/report6/index.html)