2.通話料金指数の考え方

2.1 対象とした電話サービス

 個人向けの電話サービスは現在多数の事業形態で提供されているが、本稿においては自ら回線設備を設置してサービス提供を行う第一種電気通信事業者(NTT及びNCC)の提供する電話サービス(以下、「対象電話サービス」と称する)から算出対象を選択している。具体的なサービス種類としては、加入電話と携帯電話が該当する。このうち、加入電話についてはサービス提供事業者がNTTであるかNCCであるかを考慮して2種類に分けることとした。

2.2 通話料金指数の定義

 電話サービスに関わる利用者側の費用あるいは料金としては、主に次の四つが挙げられる。

(1) 加入時に負担する費用
(2) 毎月一定額を支払う基本料金
(3) 従量制によって支払う通話料金
(4) 付加サービスに関する追加料金

(1)は電話サービスの利用開始(契約)時に一度だけ発生する初期費用であり、(2)は月々の電話サービスの利用量とは無関係に発生する固定費用である。(3)は、時間帯・距離区分別に単位時間料金の水準が異なる従量制料金である。(4)は付加サービスの種類に応じて固定料金のケースと従量制料金のケースが混在している。

 本稿では、(3)の通話料金を対象とし、加入電話についてはMA単位、携帯電話については都道府県単位で通話料金指数を作成した。ただし、国際通話は対象としておらず国内終始の通話のみの通話料金である。

2.3 使用データ

 今回の指数作成にあたっては、2.4節及び2.5節で後述するように各事業者の料金表および電気通信事業報告規則に基づく平成8年度トラヒックデータを利用した。今回の料金指数算出にあたって対象とした事業者を表1に示す。



表1 対象とした事業者



2.4 算出に用いたデータの特性

2.4.1 各事業者の料金表および料金体系

 加入(固定)電話の通話料金は、通話する曜日別、時間帯別及び通話相手との距離(距離段階)別で異なる。曜日別については、「平日」か、あるいは「土曜・日曜・祝日」かによって異なる料金水準が設定されている。時間帯区分は昼間(午前8時〜午後7時)、夜間(午後7時〜午後11時)、深夜・早朝(午後11時〜午前8時)の3区分である。距離段階別では区域(MA)内通話、隣接区域(MA)内通話、それ以外の区域(MA)外通話に大別できる。このうち、区域外通話については、MA毎に定められている基準地点の間の距離に応じてさらに数種類の距離段階別に区分されている。

 携帯電話の通話料金についても通話する曜日別、時間帯別及び通話相手との距離(距離段階)別で異なっている。曜日別、時間帯別の区分は加入(固定)電話と同様であるが、距離段階別は、現在は都道府県をベースとした課金体系となっている。ただし、通話相手の電話の種類によっては、距離に関係なく同一料金のものがある。また、携帯電話の料金体系に関してもここ数年で大きく変わってきている。



2.4.2 トラヒックデータ

 郵政省では、1988年に電気通信事業法報告規則を定め、第一種電気通信事業者から毎年度報告を受けている。このうち国内電話のトラヒックデータに相当するのは、「電気通信役務通信量等状況報告」である。

 報告は事業年度終了後3か月以内(6月末まで)に提出することになっているため、現在の最新データは1996年度のものである。報告されるデータは全て年度の集計データであり、月次毎、曜日毎等のデータは把握することが出来ない。

 さて、通話という便益は発信と着信という二つの構成要素が対応することで成立する。発信と着信を提供するサービスとしては、加入電話、ISDN、携帯電話、及び、PHSという4種類があり、さらに着信部分のみを提供するものとして無線呼出サービスがある。従って、通話を実現する発信と着信の組み合わせは全部で20通りがある。電気通信役務通信量等状況報告は、これら20種類の組み合わせのそれぞれに関し、表2のように報告者を定めている。表頭は着信側の電話の種別を、表側は発信側の電話の種別をあらわす。表中の記載は、その発着の組み合わせ毎にどの事業者から報告されているかをあらわす。例えば、携帯電話から加入電話への通話は、携帯電話事業者から報告される。

 各事業者からのトラヒックデータは、表3の様式で提出されている。これらの様式による表は、事業者毎、電話サービス種類毎に提出される。

 

2.5 料金指数算出上の注意点

2.5.1 データ上の制約

 通話便益を提供するサービスには、表2のとおり加入電話(ISDNを含む)、携帯電話、PHS、ページャー(無線呼出)があり、通話料金は発着信の組み合わせに応じて異なっている。今回、算定を試みる料金指数は発信側のサービスに着目したものであり、従って、加入電話(ISDNを含む)、携帯電話、PHSという3種の指数が算定の目標となりうる。

 ところで、携帯電話に関する料金は、1996年度を境として体系自体が根本的に変わっており、最近の料金体系を前提として作成されたトラヒックデータから得られた1996年度のウェイトをそれ以前の旧い料金体系に適用することは不可能である。具体的に言えば、1995年度までは通話距離に応じて異なる料金が適用される料金体系となっていたが、1996年度からは営業区域か否かを基本とした料金体系となっている。事業者から報告されるトラヒックデータは発信県・着信県を基準として集計されており、旧い料金体系下での料金指数を作成する場合に必要となる通話距離毎のトラヒックとして分類、報告されているわけではない。そこで携帯電話の料金については1996年度のウェイトを使用し、当該年度のみに関する指数を作成した。

 また、PHSに関しては、料金体系はMAを基準にしているが、MA間のトラヒックを示す第5表がないため、料金表と整合したウェイトを作成することができない。よって、PHSは、今回の対象とする電話サービスから除くことにした。

2.5.2 使用データの選択

 料金指数の算出にあたっては以下の点によって生じる料金の違いを考慮する必要がある。

  1. 事業者別
  2. 時間帯別(昼間・夜間・深夜早朝)
  3. 曜日別(平日、土・日・祝日)
  4. 距離段階別(加入電話はMA単位、携帯電話は都道府県単位)
  5. 加入プラン等別
  6. 通話時間(保留時間)の分布(例えば加入電話の平日昼間区域内通話で1分3回と3分1回では合計通話時間は同じ3分であるが料金は前者が3倍となる)
  7. 距離段階別の通話量の分布
  8. 加入電話の場合、加入者が属するMAの広さ(面積)とその中の加入契約数、また携帯電話の場合、加入している事業者の営業エリアとその中の加入契約数

 1〜5は料金表自体に示された違いであり、6〜8はそれに対応した実際の需要に起因する違いである。  今回の通話料金指数を算出するにあたり、料金表から得られるデータのみを使用する場合、1〜8までの全ての項目を考慮することはできない。つまり、ある事業者のある時間帯のある曜日の特定の料金をもって加入電話あるいは携帯電話の料金とすることは適切でない。そこで、今回は料金表とトラヒックデータを使用し、上記の項目を考慮して料金指数を作成することにした。しかし、この場合でも3及び6の項目については考慮することはできない。


MAとは、”message area”の略で、単位料金区域とも呼ばれる。昼間3分10円で通話できる区域(一般的には市内通話と呼ばれる区域)であり、加入電話サービスの基本料や通話量を算出するための最も基本的な単位である。MAはNTTとNCCで共通であり、1998年3月現在、全国に567のMAがある。通話距離はこのMAを基準に算定される。

Return

加入電話料金は、各事業者の距離段階別の通話料金収入を各通話時間で除して、各事業者のトラヒックのシェアおよび距離段階別のトラヒック量(時間)の比で加重平均することで算出することもできる。この方法によれば、料金に影響を及ぼしうる全ての項目を考慮することができるが、利用できるデータが1988年度以降のものに限られるため、時系列の分析が十分にできない。そこで、本稿では、料金表とトラヒックデータを併用することとした。なお、携帯電話については、1996年度の指数を作成するのみであるから、この方法で算出することも可能であるが、加入電話との統一性を考え、料金表とトラヒックデータを併用することとした。