5.おわりに

 本稿で作成した通話料金指数の限界について簡単にふれたい。今回作成した指数は、第2節で述べた問題点に加え、全ての料金パターンを考慮できているわけではない。さらに今後ますます多様化するサービスを考慮した料金指数を作成するには、今回使用したトラヒックデータだけではウェイト付けすることが困難となる。もっともトラヒックデータのみを用いて脚注2で示した方法で指数を作成すれば様々な通話料金および通話パターンを考慮した通話料金指数の作成が可能であるが、この方法でもデータの蓄積の問題と、例えば毎月一定額を支払うことによって通話料金が変化する通話サービスや定額制と従量制を組み合わせた通話サービスなど、分析の対象および方法に応じて通話料金指数が対象とする料金の範囲をどのように定義するかが問題となってくる。

 また、料金水準の変化は通話パターンにも影響を及ぼし、特に、地域毎の料金指数を比較するにあたっては、競争導入時期の違いによる通話パターンの変更の有無を考慮することも必要であるが、そのためには本稿のようなラスパイレス型ではなく、基準時点から比較時点までの間の数量と価格との構造の経過的変化というプロセスに含まれる全情報を保持して作成されるディヴィジア指数が必要である。

 一方、同様の通話に関する価格指数を算定したものとしては、総務庁統計局が作成している全国品目別価格指数及び東京都区部品目別価格指数に含まれている指数がある(グラフ1を参照)。総務庁では、本稿と同じく、トラヒックデータを元に通話利用パターンを把握し、それを利用して指数を作成するという手順をとって作成されているが、NTTを利用する加入電話サービス及び公衆電話サービスのみを考慮していること、構成要素として基本料金が含められていること、といった点で本稿で算出した価格指数とは異なる。 また、近年、わが国においても通話需要の研究がいくつか試みられてきている(星合・上田[1994]、樋口・島根[1996]、松浦・橘木[1991]、斯波・中妻[1993]、三友[1995]、実積・太田・大石[1998、近刊]等)。それらにおいて通話料金は、距離区分別に細分化した通話需要に対して、対応する通話料金を説明変数として導入する(星合・上田[1994]、三友[1995]、樋口・島根[1996])、あるいは、トラヒックデータから得られた距離段階別の平均通話時間を対応する通話料金に乗じることで、ラスパイレス型の通話料金 指数を算定する(斯波・中妻[1993])、標準的な通話利用量を仮定しそれに対応する通話利用料を計算する(松浦・橘木[1991])、又は、Brandon(ed.)[1981]で採用された手法に準じて通話料金をそもそも考慮しない(実積・太田・大石[1998、近刊])といった方法で取り扱われている。

 本稿で採用した手法は、の手法をさらに精緻化したものである。の手法で得られた料金項には、距離段階別の通話回数パターンの特徴(距離段階毎に通話回数が異なるということ)が反映できないという限界があるが、本稿ではその点を十分に考慮できる体系が示されている。加えて、本稿の手法によれば、第4節に示した全国あるいは都道府県単位の価格指数のみならず、価格設定の最少単位であるMA毎に別個に算定された価格指数を得ることが可能である。

 従来、わが国で実施されてきた通話需要の研究は、大半は入手が相対的に容易な集計データに依拠したものであり、アンケート調査で得られた個別データを利用したものは松浦・橘木[1991]のクロスセクション分析、あるいは、実積・太田・大石[1998、近刊]に限られる。本稿で示した手法で算出した通話料金に関する価格指数を採用した上で、いくつかの適切な仮定を追加し、さらにはアンケート調査の方法を工夫することによって、通話料金の及ぼす影響をより適切に考慮した通話需要分析が可能になることが期待できよう。