郵政研究所月報 

1998.5

調査・研究


細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

―多チャンネル時代の視聴者行動に関するアンケート調査結果速報版―





通信経済研究部長   上條  昇 
通信経済研究部研究官  外薗 博文 




【要約】

 郵政研究所では、多チャンネル化に伴って視聴者行動がどのように変化するかを明らかにするために、平成9年10月に「多チャンネル時代の視聴者行動に関するアンケート調査」を実施した。本調査は、関東圏のCATV加入世帯、CSデジタル放送加入世帯及び一般世帯(CATV及びCSデジタル放送に未加入の世帯)から抽出した計7,100世帯を対象に、平日1日に実際に視聴したチャンネル及び時間帯、視聴を希望する番組ジャンルと時間帯などを尋ねたものであるが、そこから得られた示唆は次のとおりである。
1 CSデジタル加入世帯においては、一般世帯やCATV加入世帯に比較して、情報機器の所有比率が高く、また、その構成員は自分専用テレビの所有比率、イノベーション度、未来型テレビの利用意向などが高い。
2 CSデジタル加入世帯の視聴者は、見たい番組は深夜・早朝でも見る比率が高いなどテレビへの愛着がやや強い傾向が見られる。
3 回答者全体の平均テレビ視聴時間は一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯でほとんど差はない。ただし、調査日にテレビを実際に視聴した人だけを取り出すと、CSデジタル加入世帯の視聴者の平均視聴時間は他の世帯に比べて約27分(9%)長い。いずれにせよ、CSデジタル加入世帯においては、既存放送局の平均視聴時間はやや減少し、いわゆる視聴者が多数のチャンネルに分散、細分化されるという「細分化」の傾向が見られる。
4 CSデジタル加入世帯の視聴者は、一般世帯の視聴者を基準に比較すると、視聴時間の伸び率よりも視聴チャンネル数の伸び率が小さく、視聴ジャンル数はわずかではあるがむしろ減少している。視聴者が自分の好みのジャンルの番組を集中して視聴する「分極化」の傾向がうかがえる。
5 CSデジタル加入世帯の視聴者の視聴チャンネル数や視聴ジャンル数は、他の世帯に比較して視聴者間のばらつきが大きく、視聴行動の「多様化」の傾向がうかがえる。
6 一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯の視聴者の間で番組ジャンル毎の希望視聴時間に大きな差はないが、実際に視聴した時間はCSデジタル加入世帯の視聴者において映画、アニメ、スポーツ、子供向けなどのジャンルで大きくなっている。また、希望視聴時間と実視聴時間の差はCSデジタル加入世帯の視聴者において最も小さく、番組ジャンルという点における満足度はCSデジタル加入世帯の視聴者が最も高いことが示唆される。
7 一般世帯とCSデジタル加入世帯の視聴者の間には視聴行動においてかなりの差が観察された。それに対してCATV加入世帯の視聴行動は、一般世帯とCSデジタル加入世帯の視聴行動の間に位置付けられる場合も多かったが、CSデジタル加入世帯とは逆方向の結果が示される場合もあった。これは、本稿の分析がCATV加入世帯の視聴者の属性の特徴等を十分に吟味していない面もあろうし、他方CATV加入世帯における自主放送の視聴時間がCSデジタル加入世帯に比べて比較的小さいなど、我が国における多チャンネルメディアとしてのCATVとCSデジタル放送の性格の相違に起因する面もあろうかと考えられる。
8 以上のCSデジタル加入世帯と他の世帯の視聴者行動の差異は小さなものであり、また、平日1日のみの調査であるため、これをもって「マスオーディエンス」としての視聴者の性格が基本的に変質した、というような過大な評価は避ける必要がある。 


細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

1 はじめに

 郵政研究所では平成9年10月に「多チャンネル時代の視聴者行動に関するアンケート調査」を実施した。本調査の目的は、CATV加入世帯の増大、CSデジタル放送サービスの開始など放送市場が多チャンネル化へ向かいつつあることを踏まえて、多チャンネル化に伴って視聴者行動がどのように変化するかを明らかにするために実施したものである。
 本調査は、関東圏のCATV加入世帯、CSデジタル放送加入世帯、及び一般世帯について加入者名簿及び住民基本台帳等から無作為で抽出した計7,100世帯を対象に、世帯及びその世帯構成員全員に対して

(対世帯)

  1. 家族構成・年収・所有する情報機器等

(対構成員)

  1. 10月28日から30日のうちの1日に実際に視聴したチャンネル及び時間帯
  2. 視聴を希望する番組ジャンルと時間帯
  3. よく見る番組
  4. よく利用するメディア
  5. テレビ視聴形態等 

などについてアンケート形式で尋ねたものである(調査の概要は本稿の末尾を参照)。
 アンケートの回収からまだ間もない段階であるが、多チャンネル化の進展など我が国の放送分野の環境の急速な変化を踏まえて、調査結果の概要をなるべく早く関係者に提供すべきとの趣旨から、本稿ではその中から基本的な項目についての暫定的な単純集計及びクロス集計結果を紹介する。
 そのため、集計結果についての統計的検証を含む十分な検討を経たものとはなっていない。従って、以下に示された集計結果及びそれに対する筆者のコメントは、そのような可能性が示唆される、というものとして認識していただきたい。なお、今後更に分析を加えた結果については、適宜公表していきたい。 


細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

2 視聴者環境

 視聴者行動は、多チャンネル化だけでなく視聴者を取り巻く多種多様な環境要因によって、少なからず影響を受けているものと考えられる。そこで最初に、世帯や個人の視聴環境について、CSデジタル加入世帯、CATV加入世帯、一般世帯別に比較しながら、その特徴をみることとする。

(1)情報機器の保有状況

 世帯におけるいくつかの代表的な情報機器についてその保有状況をみると、総じてCSデジタル加入世帯>CATV加入世帯>一般世帯の順に高くなっている。特に、現在あまり保有率が高くなく普及の初期段階にあるファクシミリやパソコンにおいてその差が大きくなっている。この指標は、CSデジタル加入世帯における情報化に対する関心の高さを示していると考えられる。
 なお、CSデジタル加入世帯において、相対的にワープロの保有率が高くないのは、パソコンにワープロ機能があるためと考えられる。



図表1 世帯における情報機器の保有状況


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(2)テレビ環境

 次に、視聴者を取り巻くテレビ環境についてみると、テレビ放送が開始されてまもない昭和30年代から40年代にかけては、テレビは一家に一台が普通で、お茶の間で家族一緒にテレビを見るというのが、一般的な視聴形態であった。しかし、最近では、特に若い世代を中心に、自分専用のテレビで自分の好みの番組を見るというテレビ視聴における「パーソナル化」の傾向がみられる。今回の調査においても、視聴形態に関する質問に対して、半数近くの人が「家族で一緒に見ることよりも、自分一人で見ることが多い」と回答している。
 こういった傾向を反映して、現在、世帯で使用しているテレビの平均台数は3台を上回っており、また、半数近くの人が自分専用のテレビを持っている。
 このため地上波放送については、家庭内のほとんどの部屋において地上波が見られるような状況になってきているが、ただ、CSデジタル放送やCATVに関しては、これらに加入契約していても複数台のテレビに接続するためには追加的コストが必要になるために、通常、1台のテレビにしか接続されていないのが現状である。実際、サービス開始してまもないCSデジタル加入世帯における接続台数は、1.1台となっている。このため地上波放送に比べ、テレビ視聴をする際に、家庭内における場所的制約やチャンネル占有における制約を受けることになる。
 この点に関しては、NHK・BSやWOWOWについても同様の状況がある。
 なお、自分専用のテレビの所有比率について、男女年齢層別にみると、どの年齢層においても、女性よりも男性の所有比率が高くなっている。また、年齢層別では20歳代と60歳以上をピークとした曲線となっている。特に、20歳代の男性の所有比率が高く、70%を超えている。
 次に、それぞれの世帯のテレビを通して実際何チャンネル視聴できるかを調べてみると、よくCSデジタル放送は1社で約100ものチャンネルを提供しているといわれているが、そのほとんどのチャンネルがペイ・チャンネルで構成されている。視聴者はその中からいくつか自分の好みのチャンネルを選択して、パックあるいは個別のチャンネルごとに契約することになり、料金も契約チャンネル数みあいの部分が大きい。そのため、実際、CSデジタル加入世帯でも日常視聴できるチャンネルの総数は、それほど多くなく、CATV加入世帯とほとんど変わらない。ただ、CATVにも一部ペイ・チャンネルはあるがその数はCSデジタルの方が圧倒的に多く、CATV加入世帯より専門性の高いチャンネルを数多くのチャンネルの中から選んで契約できるので、自分の嗜好にあったチャンネル環境を整えることができる。
 また、今回調査したCSデジタル放送においては、映画を中心にPPV(ペイ・パー・ビュー)も提供されているが、半数以上の世帯でPPVを利用しており、これによってもチャンネル選択の幅は大きく広がっている。
 また、視聴者が、いわゆる未来型テレビに対して、どのような機能を求めているかについて調べてみると、若干であるが、CSデジタル加入世帯の人の方が、いずれの項目においても利用意向が高くなっている。
また、項目別に比較すると、最近、話題になっているパソコン機能やインターネット機能などを有する多機能型テレビよりも、番組の自動録画や自動選択機能などテレビそのものの機能を高めることに対するニーズの方が強く出ている。



図表2 世帯で現在所有しているテレビの台数



図表3 自分専用テレビの有無(構成比)



図表4 男女年齢別の自分専用テレビの所有比率
(CATV加入世帯)



図表5 実際に視聴可能なチャンネル数



図表6 未来型テレビの利用意向(個人)


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(3)有料放送への対応

 これまでの我が国の放送の歴史は、受信料によるNHKと広告放送による民放の2つの放送形態を中心に発展してきたが、今後、デジタル技術等の進展を背景に有料放送という新しい放送環境の成長が期待されている。そこで現在、有料放送に対して世帯がどのように対応しているかをみることとする。

有料放送への加入動機
 加入動機について、CSデジタル放送とCATVを比較すると、CSデジタル放送が「各種専門チャンネルがあるから」というのが最も大きな理由となっているのに対し、CATVの場合は「チャンネルが増えるから」というのが最も大きく、チャンネルの専門性はそれほど高くない。
また、CATVの場合これ以外にも、「地元チャンネルがある」、「アンテナを付けなくていい」、「テレビの映りが鮮明」など複合的な要因が加入動機となっているが、CSデジタル放送の場合、チャンネルの専門性とチャンネル増以外に大きなを要因が見当たらないことから、今後ともチャンネルの専門性とチャンネル増を如何に追求していくかが、成長の鍵といえる。

有料放送への加入意向
 CATVに加入していない一般世帯の約三分の一が、CATVに今後加入契約したいと考えているが、ただ、その大半が、加入料金や基本料金が安くなったらという条件付きになっている。

 また、全体の約4割の世帯が、現状のテレビで満足しており、お金を払ってまで見たいと思わないという世帯も2割近くある。

有料放送に対する支払額
 NHKの受信料やWOWOWなどの料金を含めて、世帯が放送に月々支払っている額を総合計したものが図表9である。CSデジタル加入世帯やCATV加入世帯は、毎月一般世帯の4倍前後の額を支払っている。



図表7 CSデジタル及びCATVへの加入動機



図表8 CATVへの加入意向



図表9 有料放送に対する1ヶ月の支払額(NHK受信料含む)


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3 視聴者特性

(1)テレビの視聴形態
 テレビの視聴形態を始めとする視聴者行動は、性や年齢層によってかなり異なっている。例えば、CATV加入世帯の「いろいろチャンネルを切り替えてから見る番組を決める」視聴者の比率は、図表10のように男性の方が、また、若中年層の方が高くなっている。今回の調査の回答者の属性を見ると、例えばCSデジタル加入世帯の視聴者は男性や若年層の比率が高いなどの性・年齢層に相違があるため(本稿末尾の「参考」を参照のこと。)、これを単純に集計しては、CSデジタル加入世帯と一般世帯、CATV加入世帯の視聴者行動の違いに、多チャンネル化という要因以外に性・年齢構成の相違という要因が強く反映する可能性がある。そこで、本稿においてはこの3種類の世帯の視聴者行動を比較する際には、適宜、厚生省人口問題研究所(平成9年1月推計)の男女年齢各歳別人口によって加重平均(10歳単位、60歳以上は一括)したデータを使い、その点は「人口補正済」と注記した。
 さて、まずテレビの視聴形態を見ると、フリッピング、ザッピングなどと呼ばれるチャンネルの頻繁な切替え、あるいは「ながら視聴」は、CSデジタル加入世帯>CATV加入世帯>一般世帯の順に大きくなっている。一方、「テレビを見る前に番組表で確認する」視聴者の比率はCSデジタル加入世帯の視聴者が最も小さい。直感的な印象とは反対に、これらの結果からは、視聴環境が多チャンネル化したからと言って、必ずしもより明確な目的意識をもって視聴するようになっているとは言えない。
 なお、多チャンネル化している世帯では、視聴者にとって、チャンネル数が増えすぎたために、これまでのようにチャンネル選択が容易にできなくなったり、面倒になっているということも考えられる。今後、多チャンネル化の進展に併せて、視聴者の効率的な番組選択や番組検索システムの改善や開発が望まれる。
 また、図表12に示されているように、見たい番組は「深夜・早朝でも見る」、あるいは「ビデオに録画する」視聴者の比率はCSデジタル加入世帯が最も高く、前述の「ながら視聴」のデータと併せて、テレビへの言わば「こだわり」や「愛着」というものは、一般世帯やCATV加入世帯に比べてCSデジタル加入世帯の方が大きいと考えることも可能である(なお、「ながら視聴」と「深夜・早朝でも見る」におけるテレビへの愛着の性格はやや異なるものであろう。)。このようなテレビへの愛着が比較的小さい利用者まで受容されるかどうかが、今後のCSデジタル放送サービスの普及の行方を占う一つのポイントとなるとも考えられる。

(3)視聴者のイノベーション度
 一般的に新しい商品やサービスは、まずいわゆる「新しい物好き」或は「イノベーター」と呼ばれる購買層から普及していくと言われている。図表13は男女年齢層別のイノベーション度をCATV加入世帯の視聴者について見たものであるが、若年層の方が、また、30歳代までは女性の方、40歳を超えると男性の方がイノベーション度が高くなっている。これはこれで興味あるデータであるが、人口補正して一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯のイノベーション度を比較したものが図表14である。CSデジタル加入世帯のイノベーション度が最も高くなっており、CSデジタル放送サービスも他の新しい商品等と同じように、イノベーション度の高い人から普及を始めていることが分かる。



図表10 男女・年齢層別にみた視聴形態




図表11 テレビの視聴形態




図表12 テレビの視聴形態



図表13 男女年齢別にみた視聴者のイノベーション度
(CATV加入世帯、「人より先に・・」及び「少し様子を見て・・」を合計)



図表14 視聴者のイノベーション度(個人)


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4 視聴者行動に関する分析

(1)視聴時間

テレビ平均接触時間及び平均視聴時間
 視聴者はテレビ受像機を介して放送番組をリアルタイムで視聴したり、ビデオに録画して後で視聴する。あるいはそれ以外に、セル・レンタルビデオを視聴したり、テレビゲームを楽しんだりする。本稿では、このようなテレビ受像機を利用する時間を全て含めて「テレビ接触時間」と呼び、このうちリアルタイムで放送番組を視聴する時間を「テレビ視聴時間」と呼ぶこととする。
 図表15に示されているように、テレビ視聴時間は一般世帯、CATV加入世帯、CDデジタル加入世帯の3種類の世帯とも260分台でほとんど差が見られない。すなわち、多チャンネル化によってテレビ視聴時間が長くなる、という結果はこのデータからは導き出されない。この結果、必然的に既存放送局の視聴時間は減少し、視聴時間の多数チャンネルへの「細分化」が進んでいる。
 一方、ビデオの視聴時間はCSデジタル加入世帯の視聴者においてやや長く、これは前述のテレビ視聴形態に関するデータと整合している。また、「不明」の時間がCSデジタル加入世帯では他の世帯に比べて10分ほど長い。これは、回答者がテレビに接触はしたが、どのチャンネルを視聴したか、あるいはビデオを視聴したかなどを調査表に記入しなかったものである。CSデジタル加入世帯では、視聴したチャンネルの記入が他の世帯に比べてやや繁雑と考えられるため、「不明」との回答が多かった可能性が考えられる。この点を考慮すれば、CSデジタル加入世帯の視聴者のテレビ視聴時間は他の世帯より10分程度長いということも考えられる。
 以上のテレビ視聴時間ないし接触時間は、回答者全体を分母として計算したものであるが、調査日に実際にテレビを視聴したと回答した人、つまり、「視聴行為者」だけを取り出した平均視聴時間は図表16のとおりであり、CSデジタル加入世帯の視聴者の視聴時間が他の世帯に比べ約27分(約9%)長くなっている。これは、CATV加入世帯と一般世帯の視聴者の行為者率がともに93.9%であったのに対し、CSデジタル加入世帯の視聴者の行為者率は88.4%と低かったためである。この理由として、以下のようなことが考えられるが、なお精査する必要がある。CSデジタル加入世帯と他の世帯の視聴時間の差は、以上の回答者全体及び視聴行為者のデータの間にある、と考えるのが妥当であろうか。

(ア) CSデジタル加入世帯の視聴者の方が、他の世帯に比べて視聴行動が多様である。すなわち、テレビを長時間視聴する人がいる一方で、興味のない番組のときにはほとんど見ない。
(イ) CSデジタル加入世帯の方が、チャンネル数が多く調査表への記入がやや繁雑と考えられるため、「視聴せず」との回答が多かった。



図表15 テレビ平均接触時間と内訳


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男女年齢層別平均視聴時間
 平均視聴時間を男女年齢層別にみると、男性よりも女性、若中年齢層よりも高齢者層の視聴時間が長い。特に、60歳以上の高齢者の平均視聴時間は6時間を超えており、1日24時間のうち1/4以上テレビを見ていることになる。
 CSデジタル加入世帯について、CSデジタルチャンネルだけの平均視聴時間をみると、どの年齢層についても、女性よりも男性の視聴時間が上回っている。また、年齢層別では、男性では20〜40歳代、女性では30歳代までの世代において総視聴時間に占める比率が高い。特に男性の20〜40歳代ではCSデジタルチャンネル視聴の結果総視聴時間も嵩上げしていることがこの図表からはうかがえる。


図表16 行為者の平均視聴時間



図表17 男女年齢層別視聴時間




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時間帯別視聴率
 次に一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯の視聴者の時間帯別視聴率の特徴を見る。CSデジタル加入世帯では、一般世帯で視聴率が低い時間ではやや高く、逆に視聴率が高い時間ではやや低く、というように時間帯別視聴率の起伏はゆるやかになっている。これは、従来視聴者はテレビの放映時間に合わせて視聴していたのに対して、多チャンネル化に伴って、自分の都合に合わせて視聴する時間を選択する方向に視聴形態が変化する方向にあることを示すものと考えられる。
 これに対して、一般世帯とCATV加入世帯の間には顕著な差は見られない。



図表18 時間帯別視聴率(地上波+BS+自主放送・CSデジタルチャンネル)


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(3)視聴チャンネル

多チャンネル化と視聴チャンネル数
 1日に実際何種類のチャンネルを視聴したかを見ると、CSデジタル加入世帯>CATV加入世帯>一般世帯の順に大きくなっている。ただし、いずれも3チャンネル前後とそれほどの差はない。前述のようにCSデジタル加入世帯やCATV加入世帯においては、視聴可能なチャンネル数が一般世帯の約4倍となっており、チャンネル選択の幅は大きく増えているにもかかわらず、実際視聴したチャンネル数はそれほどには伸びていない(もちろん調査日が1日ということによる制約はある。)。
 なお、CSデジタルチャンネルの視聴時間が比較的多い20〜40歳代についてみると、視聴行為者全体に比較して視聴チャンネル数の伸びはより大きい。また、視聴チャンネルに占めるCSデジタルチャンネルの比率も高くなっている。
 なお、本調査では視聴時間の10分単位での記入を求めたため、視聴したチャンネル全てを必ずしも把握していない点に留意する必要がある。
 前述のとおり、視聴行為者だけを見ると視聴時間もCSデジタル加入世帯では長くなっている。図表20は、一般世帯に比べたCSデジタル加入世帯の視聴時間と視聴チャンネル数の伸び率を示したものであるが、視聴時間の伸び率の方が大きい。すなわち、視聴時間ほどには視聴チャンネル数は伸びていない。

視聴チャンネル数の分布
 以上は、一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯の視聴時間、視聴チャンネル数の平均像であるが、個々の視聴者は当然のことながらより多様な視聴行動を行っている。図表21は、一般世帯とCSデジタル加入世帯の視聴チャンネル数のヒストグラムを比較したものである。CSデジタル加入世帯では1チャンネルしか見ない視聴者及び5チャンネル以上の多数のチャンネルを見る視聴者が相対的に多くなっている。

 さらに、図表22のとおり視聴チャンネル数のばらつきを変動係数(標準偏差/平均)によってみても、CSデジタル加入世帯の値が最も大きくなっている。20〜40歳代についてみると、特に変動係数の差が大きいことが示されている。多チャンネル化によって選択の幅が広がったことによって、各人はそれぞれの選好を反映して、視聴チャンネル数という面においてより多様な視聴行動を展開していることが示されていると言えるのではないだろうか。



図表19 平均視聴チャンネル数




図表20 視聴時間及び視聴チャンネルの伸び率
(CSデジタル加入世帯/一般世帯)



図表21 視聴チャンネル数のヒストグラム



図表22 視聴チャンネル数の変動係数(視聴行為者のみ)



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(4)視聴ジャンル

視聴ジャンル数の特徴
 多チャンネル化と視聴ジャンル数の間にはどのような関係が見られるだろうか。回答者が記載した視聴チャンネル及び時間帯から視聴したジャンルを以下の15に分類して観察した。
 当然のことながら、視聴ジャンルは性や年齢によってかなり異なっているが、視聴ジャンル数にも相違がある。図表23はCATV加入世帯の視聴ジャンル数を示したものであるが、10歳未満が多く、10歳代で低下した後高齢者ほど多くなり、また、女性の方が多い傾向がある。
 図表24は一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯の視聴ジャンル数をみたものである。視聴行為者についてみた視聴時間や視聴チャンネル数はCSデジタル加入世帯が最も大きかったが、視聴ジャンル数は増加しておらず、特に一般世帯に比べると全体でも20〜40歳代のいずれでも少なくなっている。ここからは、各視聴者の興味ある分野は比較的限定されており、多チャンネル化によって従来よりもより多くのジャンルを視聴するというのではなく、むしろチャンネルを切替えながら自分の好みのジャンルの番組を比較的集中して楽しむという、「分極化」あるいは「タコツボ化」とも言われる視聴行動がうかがえる。

1報道 2ワイドショー 3ドラマ
4映画 5アニメ 6スポーツ
7バラエティ 8音楽・歌謡 9社会・教養
10クイズ 11子供向け 12趣味・生活
13成人向け 14ショッピング 15その他


図表23 男女別視聴ジャンル数
(CATV加入世帯、視聴行為者のみ)



図表24 視聴ジャンル数(人口補正済、視聴行為者のみ)



図表25  28〜30日回答の行為者の視聴時間及び視聴チャンネル



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(参考)
 調査日は10月28日から30日までの3日間であったが、それ以外の日の視聴行動について記入した回答も若干あった。それについては、都合上視聴ジャンルを集計していない。10月28日から30日の間のみの視聴行為者の視聴時間及び視聴チャンネル数は図表25のとおりであり、その傾向は全視聴行為者の傾向と全く同様である。


細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

視聴ジャンル数の分布
 図表26は視聴ジャンル数のヒストグラムであるが、一般世帯では3〜4ジャンルを視聴している視聴者が多いのに対して、CSデジタル加入世帯の場合は、1ジャンルのみの視聴者、あるいは5ジャンル以上の視聴者の比率が大きいなど、視聴ジャンル数はかなり幅広く広がっている。図表27のとおり視聴ジャンル数の変動係数もCSデジタル加入世帯が最も大きい。
 視聴チャンネル数と同様に、視聴ジャンル数においても多チャンネル化に伴って視聴行動はより多様になったと言うことができよう。視聴者を一つの「マス」として一括して把握することがより困難となったことがうかがえるのではないだろうか。


図表26 視聴ジャンル数のヒストグラム



図表27 視聴ジャンル数の変動係数(視聴行為者のみ)




細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

(5)CSデジタルチャンネルの視聴特性

チャンネル当たり平均視聴時間
 以上に示されたCSデジタル加入世帯の視聴行動の特徴は、視聴可能チャンネル数の増加を背景としたものである。しかしながら、単にチャンネル数が増加したということだけではなく、その内容が、総合編成を基本的な特徴とする既存の地上波チャンネルに対してCSデジタルチャンネルは特定のジャンルに特化した専門チャンネルという性格を有することも、このような視聴行動の背景にあるものと考えられる。そこで、既存地上波チャンネルとCSデジタルチャンネルの視聴形態の相違を見てみたい。
 図表28は、CSデジタル加入世帯に関して、既存地上波主要6チャンネルとCSデジタル主要15チャンネルについて、当該チャンネルを視聴した者の平均視聴時間を示したものである。それぞれ全回答者の総視聴時間の多い順(言わば視聴率の高い順)に左から並べてある。これを見ると、既存地上波チャンネルでは総視聴時間と当該チャンネル視聴者の平均視聴時間の長さは同じ順序となっている。すなわち、視聴率の高いチャンネルでは、そのチャンネルを視聴する者の平均視聴時間も長い傾向がある。それに対して、CSデジタルチャンネルでは、総視聴時間が短いチャンネルでも、当該チャンネルを視聴している者の平均視聴時間が必ずしも短くなっていない。すなわち、視聴している人の数は少なくとも、そのチャンネルを視聴している人はそのチャンネルを比較的長時間視聴していることがわかる。ここに、いわゆる専門チャンネルとしての性格の一面が現れていると言えよう。



図表28 地上波及びCSデジタルの主要チャンネル平均視聴時間
(人口補正済、当該チャンネル視聴行為者のみ)


細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

総視聴時間に占める比率
 図表29は、各視聴者の総視聴時間に占める既存地上波チャンネル及びCSデジタルチャンネルの視聴時間の比率を12等分して、それに該当する視聴者数の比率をヒストグラムで示したものである。ここでは、既存地上波チャンネルについては一般世帯のデータを用い主要なチャンネルから1チャンネルを選びその視聴時間を、また、CSデジタルチャンネルについてはその合計視聴時間を使っている。また、総視聴時間に占める比率がCSデジタルチャンネルとほぼ同様となるような地上波チャンネルを選んである。
 これを見ると、地上波については、総視聴時間に占める当該チャンネルの視聴時間の比率は、3/12を中心に正規分布に近い形で分布しているが、CSデジタルチャンネルの場合には、CSデジタルチャンネルだけを視聴している(12/12)視聴者が多いことを含めてばらつきが非常に大きい。すなわち、視聴時間という面における多様性が大きいことが示されている。



図表29 総視聴時間に占める地上波1チャンネル及び
  CSデジタルチャンネルの視聴時間の比率



細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

総視聴チャンネル数に占める比率
 また、図表30は、総視聴チャンネル数に占める地上波1チャンネル及びCSデジタルチャンネル合計の比率を同様にヒストグラムで見たものであるが、ここでも視聴時間と同様にCSデジタルチャンネルにおけるばらつきが大きい。
 このように、CSデジタルチャンネルは、総合編成という既存地上波チャンネルとの編成方針の相違を背景として、その視聴形態はかなり異なっていることがわかる。


図表30 総視聴チャンネルに占める地上波1チャンネル及び CSデジタルチャンネル数の比率


細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

(6)ジャンル別視聴特徴 

希望視聴時間
 今回の調査では、実際に視聴した番組以外にテレビ視聴を希望するジャンル及び時間帯(睡眠、仕事等でテレビ視聴ができない時間は除く。)の記入も求めた。
 図表31は実際のテレビ総視聴時間と希望する総視聴時間を比較したものである。それによると、一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯のいずれでも希望視聴時間の方が2割程度大きくなっている。また、CSデジタル加入世帯が他の世帯に比べて実際の視聴時間と同様に希望視聴時間が長く、テレビへの愛着がやや強いことをうかがわせる。また、このデータは、テレビ視聴時間が現在の視聴時間より伸びても2割程度であること、すなわち視聴時間の上限を示すものとも言えよう。



図表31 テレビ視聴時間の実際と希望の比較



細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

ジャンル別視聴者比率
 図表32は、一般、CATV加入及びCSデジタル加入各世帯の視聴行為者の内で各番組ジャンルを視聴した者の比率を示したものである。ここではCSデジタル加入世帯と他の世帯の視聴者の間に大きな相違が見られ、一般世帯、CATV加入世帯において視聴者比率の高い報道、ドラマ、バラエティ、趣味・生活などのジャンルにおいてCSデジタル加入世帯における視聴者比率はかなり低くなっている(特に報道の視聴者比率が大きく低下しているが、これは放送の社会的役割の変化を考える上で一定の意味を有するものと考えられる。)。一方、映画、スポーツ、音楽・歌謡、子供向けなどのジャンルにおいて高くなっている。
 図表33は、図表32の中から「その他」を除いた各ジャンルの視聴者比率の平均を計算したものである。CSデジタル加入世帯の視聴者比率が最も小さく、これは前述のCSデジタル加入世帯において平均視聴ジャンル数が最も小さいことと同様の結果となっており、この面からも視聴者の分極化の傾向がうかがえる。



図表32 ジャンル別視聴者比率(視聴行為者のみ)



図表33 ジャンル別視聴者比率の平均(「その他」ジャンルを除く)



細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

ジャンル別視聴時間
 図表34は一般、CATV加入及びCSデジタル加入各世帯のジャンル別の実際及び希望視聴時間を示したものである。いずれの世帯においても、報道、バラエティ、趣味・生活などのジャンルは実際の視聴時間よりも希望視聴時間の方が短く、一方、映画、アニメ、スポーツ、音楽・歌謡などのジャンルでは逆の傾向となっている。



図表34 番組ジャンル別の視聴時間(実際視聴時間と希望視聴時間の比較)

〈CSデジタル加入世帯〉


〈CATV加入世帯〉


〈一般世帯〉


細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

 以下では一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯の視聴ジャンルの傾向の相違を比較してみたい。図表35のように、ジャンル別の視聴時間の比率は性や年齢層によってかなり異なっている。



図表35 ジャンル別実視聴時間シェア(CATV加入世帯)


細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

 そこでここでも性・年齢層によって人口補正して、3種類の世帯を比較する。図表36はジャンル別の実際の視聴時間について、一般世帯を100としてCATV加入世帯、CSデジタル加入世帯を比較したものである。CATV加入世帯においては一般世帯とそれほど大きな相違は見られないが、CSデジタル加入世帯においては、映画、スポーツ、音楽、アニメ及び子供向けというCSデジタル放送でチャンネルが充実しているジャンルの視聴時間が大きいことが分かる。なお、CSデジタル加入世帯においては、「成人向け」などを含む「その他」のジャンルの視聴時間もかなり大きくなっている(CATV加入世帯で144.3、CSデジタル加入世帯で825.8)が、この図では他のジャンルの増減をわかりやすくするため「その他」ジャンルは除いてある。



図表36 ジャンル別実視聴時間
(人口補正済、一般世帯を100として比較)


細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

 一方、図表37はジャンル別の希望視聴時間を同様に比較したものである。これを見ると、「子供向け」及び「その他」のジャンルの視聴希望がCSデジタル加入世帯において強いことを除いて、一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯の間に大きな違いは見られない。視聴を希望するジャンルにおいて、CSデジタル加入世帯の視聴者が他の世帯に比較して特に異なる選好を有しているとは言えない。すなわち、他の世帯も潜在的なCSデジタル加入世帯である、と言うことができるのではないだろうか。



図表37 ジャンル別希望視聴時間
(人口補正済、一般世帯を100として比較)


細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

 図表38は、各世帯の各ジャンル毎の実際と希望する視聴時間の乖離の程度を下式によって比較したものであるが、CSデジタル加入世帯の乖離度が一番小さくなっている。各世帯ともジャンル別の希望視聴時間には大きな差はないが、実視聴時間には選択上の制約から大きな差が生じ、結果的には選択の幅の大きいCSデジタル加入世帯の乖離度が一番小さくなっている。



図表38 実視聴ジャンルと希望視聴ジャンルの乖離度



細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

(7)既存放送局への影響 

時間帯別視聴率(地上波)
 前述のとおり、CSデジタル加入世帯の視聴者においては、総視聴時間がそれほど増加しない中でCSデジタルチャンネルの視聴時間が一定のシェアを占めることによって、既存放送局の視聴時間は減少しているが、図表39は既存地上局の時間帯別視聴率を見たものである。CSデジタル加入世帯では、特にプライムタイムにおいて既存地上局の視聴率が低下している。


図表39 地上波の時間帯別視聴率


細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

既存放送局の視聴時間シェアへの影響
 CSデジタル加入世帯において既存放送局の視聴時間は減少しているが、この減少の度合は放送局によって異なるのであろうか。図表40は、一般世帯とCSデジタル加入世帯のNHKと地上系民放の視聴時間シェアを比較したものであるが、一般世帯に比較してCSデジタル加入世帯においては、民放の視聴シェアがやや低下しており、また、その低下幅はCSデジタルチャンネルの視聴時間が長い20〜40歳代においてやや大きい。これは、CSデジタルチャンネルがNHKとの比較で言えば民放と同様に娯楽性が強い番組が比較的多いことが要因と考えられる。



図表40  NHKと地上系民放の視聴時間シェア


細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

(8)専用テレビ所有の有無と視聴行動
 専用テレビの所有の有無と視聴行動との関係について20〜40歳代の年齢層を取り上げて見てみたい。なお、この場合、専用テレビの所有の有無と職業の有無の間に大きな関係があることに注意する必要がある。図表41のとおり20〜40歳代の女性において、専用テレビを所有している者の比率は、今回の調査で「仕事をおもにしている」と回答した標本においてかなり高くなっている。そして、この「仕事をおもにしている」者は図表42のようにテレビ視聴時間が短い傾向にある。そのため、単に専用テレビの所有の有無だけで視聴行動を比較すると誤った結論を導く可能性がある。



図表41 CSデジタル加入世帯20〜40歳代女性の専用テレビ所有比率




図表42 CSデジタル加入世帯20〜40歳代女性のテレビ視聴時間



細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

 そこで、ここではCSデジタル加入世帯の20〜40歳代の男性、及び「仕事をおもにしている」者以外の20〜40歳代の女性について専用テレビの所有の有無による視聴行動の違いを比較した。
 図表43及び図表44に示されているように、男女とも専用テレビの所有者の方が視聴時間、視聴チャンネル数、視聴ジャンル数のいずれも大きくなっている。専用テレビの所有者は一般的にテレビへの愛着が強いと考えられ、また、専用テレビ所有の結果一層テレビ視聴が多くなるということであろう。また、男女総体としては、視聴時間の伸びが最も大きく、視聴チャンネル数がそれに続き、視聴ジャンル数の伸びはそれほど大きくない。これは既に述べたCSデジタル加入世帯と他の世帯の視聴行動の相違と同じような特徴である。すなわち、専用テレビ所有者においては、多チャンネル化の特徴がより明確に出ているということが言えるかもしれない。
 なお、一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯の女性の「仕事をおもにしている」者の比率はそれぞれ25.2%、27.3%、27.3%と大きな相違はなく、 (7)までの分析結果が職業の有無によって大きく振れていることはないものと考えられる。



図表43 CSデジタル加入世帯20〜40歳代男性



図表44 CSデジタル加入世帯20〜40歳代女性(仕事をおもにしている者以外)


細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

(9)加入後の時間経過と視聴行動
 一般に、新しい商品は購入直後は物珍しさもあってあれこれ使用してみて、時間経過とともに使用形態が安定してくるものと考えられるが、CSデジタル放送の場合はどうであろうか。図表45は、CSデジタル放送加入後の時間経過とCSデジタルチャンネルの平均視聴チャンネル数の関係を示したものである。この表では、加入後2か月以内の視聴者の視聴チャンネル数がやや多く、3か月経過後の視聴者の視聴チャンネル数はほぼ安定している。ただし、加入後2か月以内の視聴チャンネル数については標本数が極めて少なかったため、このデータのみでは明確なことは言えないものと考える。



図表45 時間経過とCSデジタル視聴チャンネル数(20〜40歳代平均)


細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

おわりに
 調査結果から得られる示唆をまとめると、次のとおりである。

1 CSデジタル加入世帯においては、情報機器の所有比率が高く、また、その構成員は自分専用テレビの所有比率、イノベーション度、未来型テレビの利用意向などが高い。

2 CSデジタル加入世帯の視聴者は、見たい番組は深夜・早朝でも見る比率が高いなどテレビへの愛着がやや強い傾向がある。

3 テレビ視聴時間は、回答者全体の平均視聴時間は一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯でほとんど差はない。ただし、調査日にテレビを視聴した人を対象にした平均視聴時間では、CSデジタル加入世帯の視聴者は他の世帯に比べて約27分(9%)長い。いずれにせよ、CSデジタル加入世帯における既存地上局の平均視聴時間は減少しており、いわゆる「細分化」の傾向が見られる。

4 CSデジタル加入世帯の視聴者は一般世帯の視聴者に比較すると、視聴時間の伸び率よりも視聴チャンネル数の伸び率が小さく、視聴ジャンル数はわずかではあるがむしろ減少している。視聴者が自分の好みのジャンルの番組を集中して視聴する「分極化」の傾向がうかがえる。

5 CSデジタル加入世帯の視聴者の視聴チャンネル数や視聴ジャンル数は、他の世帯に比較して視聴者間のばらつきが大きく、視聴行動の「多様化」の傾向がうかがえる。

6 一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯の視聴者の間で番組ジャンル毎の視聴希望時間に大きな差はないが、実際に視聴した時間はCSデジタル加入世帯の視聴者において映画、アニメ、スポーツ、子供向けなどのジャンルで大きくなっており、希望視聴時間と実視聴時間の差はCSデジタル加入世帯の視聴者において最も小さくなっている。

7 一般世帯とCSデジタル加入世帯の視聴者の間には視聴行動においてかなりに差が観察された。それに対してCATV加入世帯の視聴行動は、一般世帯とCSデジタル加入世帯の視聴行動の間に位置付けられる場合も多かったが、CSデジタル加入世帯とは逆方向の結果が示される場合もあった。これは、本稿の分析がCATV加入世帯の属性の特徴等を十分に吟味していない面もあろうし、他方CATV加入世帯における自主放送の視聴時間がCSデジタル加入世帯に比べて比較的小さいなど、多チャンネルメディアとしてのCATVとCSデジタル放送の性格の相違に起因する面もあろうかと考えられる。

 なお、以上のCSデジタル加入世帯と他の世帯の視聴行動の差はいずれも小さいものであり、多チャンネル化による視聴行動の変化を過大に評価することは避ける必要があろう。

なお、今後の検討課題としては以下のようなことがある。

1 今回の調査はかなり標本数も多く、その基本的な単純集計、クロス集計からも視聴行動に関するかなりの示唆を得ることが可能ではあったと思われるが、その結果の意味についての統計的検定は省略してある。

2 視聴行動は、性、年齢、職業、収入、家族構成、専用テレビの有無、他のメディアの利用などの多様な要因の影響を受けるものと考えられるが、本稿は単純な集計に止めそのような多様な要因の影響を十分に考慮していない。

3今回の調査は平日1日を対象としたものであるが、テレビ視聴行動をより正確に把握するためには休日を含む1週間程度の長い期間の視聴行動を調査する必要があり、それによって本稿とは全く異なる結論が導き出されることも考えられる。

 今後上記1及び2については引き続き調査分析を進めて、その結果を適宜紹介することとし、また、3については今後の検討課題としたい。
 なお、本アンケート調査実施に当たっては、野崎茂メディア学舎総主事、長屋龍人NHK放送文化研究所研究主幹、橋元良明東京大学社会情報研究所助教授から貴重なご助言をいただいた。また、日本デジタル放送サービス株式会社にご協力いただいた。この場を借りて感謝申し上げます。


細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

(参考)アンケート調査の概要及び属性比較等

1 アンケート調査の概要

(1)調査の目的
 多チャンネル化により世帯及び個人の視聴環境や視聴行動がどのように変化するか、あるいはどのような視聴特性を示しているかを明らかにし、将来の放送市場や視聴者象を展望する際の資料とする。

(2)調査実施日
平成9年10月28日(火)〜10月30日(木)

(3)調査方法
 郵送法

(4)調査対象地域
 東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県を中心とした関東圏

(5)サンプル抽出
 調査対象地域内の住民基本台帳及び加入者名簿等からの無作為抽出

(6)有効回収等



細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

2 属性比較
 以下の世帯や個人の属性は、アンケート回収ベースでの属性である。通常のアンケート調査においては、若い年齢層や高額所得者層における回収率が悪くなるという一般的傾向がみられるが、本アンケート調査においても、実際の母集団との間にこのような傾向があるものと考えられる。

(1)世帯属性

家族構成
 CSデジタル加入世帯で、「単身」世帯の加入比率が極端に高くなっている。その分、2世代世帯や3世代世帯の比率が小さくなっている。


世帯年収(家族全体の税込み年間収入・単身者世帯は個人年収)
 平均年収では、CATV加入世帯がもっとも多く、次いで、CSデジタル加入世帯となっている。一般世帯とCSデジタル加入世帯を比較すると、高額年収層においてCSデジタル加入世帯の方が比率が高くなっている。


(2)個人属性

性別・年齢層別
 性別では、CSデジタル加入世帯において男性の比率が上回っている。
 年齢層別では、CSデジタル加入世帯においては25〜39歳の層の構成比が高くなっている。また、CATV加入世帯においては、65歳以上の高齢者の比率が極端に高くなっている。


就業形態
 CSデジタル加入世帯では「仕事」、CATV加入世帯では「家事」、一般世帯では「通学」の値が若干高くなっている。



細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動

(参考文献)
1)「多チャンネル化と視聴行動」東京大学社会情報研究所編、東京大学出版会、1993(特にその中の「多チャンネル化と視聴行動ー研究の課題・意義・方法ー」(児島和人)を参考にさせていただいた。)
2)「日本人の情報行動1995」東京大学社会情報研究所編、東京大学出版会、1997
3)「多チャンネル放送時代」佐々木一朗、ダイヤモンド社、1997
4)「将来の視聴者像」調査報告書、日本民間放送連盟研究所、1996
5)「2005年の放送ビジョン」放送の将来研究報告書、日本民間放送連盟研究所、1997
6)「マルチメディア型テレビの開発とISTV」長屋龍人・柳町昭夫、放送研究と調査、1998

(注)CSデジタル加入世帯、CATV加入世帯におけるチャンネル数は、地上波やBSの再送信等を含む。



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