郵政研究所月報
1998.6
多チャンネル時代の視聴者行動に関する分析補論
通信経済研究部長 上条 昇
【要約】
月報前月号「細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動」において、郵政研究所が昨年10月に実施した「多チャンネル時代の視聴者行動に関するアンケート調査」の集計結果に基づいて、CSデジタル加入世帯の視聴者の特徴を一般世帯及びCATV加入世帯と比較して明らかにした。本稿においては、基本的な重回帰分析によって、性別、年齢、職業の有無、専用テレビの有無などの視聴者行動に影響を及ぼすと考えられる多様な要因を考慮しつつ多チャンネル化が視聴者行動に及ぼす影響の抽出を試みた。その主要な結果は次のとおりである。
- 視聴行為者を対象にした回帰結果では、年齢(高齢の方が)、性別(女性の方が)、職業の有無(職業なしの方が)、世帯収入(収入が小さい世帯の視聴者の方が)、専用テレビ所有という属性と並んで、CSデジタル加入及びCATV加入が(いずれにも加入せずに比べて)視聴時間との間に正の有意な関係がある。また、CSデジタル加入はCATV加入と比べても視聴時間との間に正の有意な関係がある。全回答者を対象にした場合でも、単純集計では一般世帯、CATV加入、CSデジタル加入の間に視聴時間に殆ど差はなかったが、回帰結果では(少なくとも15歳以上の視聴者において)、CSデジタル加入とCATV加入の間の視聴時間の差が有意でないことを除いて、視聴行為者を対象とした場合と同様の結果が示された。
- メディア利用と視聴時間の関係を回帰した結果、テレビ視聴との両立が困難と考えられるCD・レコード・テープを除き、ビデオ、新聞、書籍・雑誌、マンガ、映画、テレビゲームという従来からのメディアは全てテレビ視聴時間との間に正の有意な関係がある。これは、これらのメディアがテレビ視聴との間で時間を奪いあう関係にあるのではないこと、また、テレビ視聴を含めて一般的にメディア利用に積極的な層とそうではない層があることを示唆している。一方、パソコン、インターネット・パソコン通信利用については視聴時間との間に負の有意な関係が示された。
- 視聴チャンネル数については、CSデジタル加入、CATV加入は前月号の集計結果と同様に(いずれにも加入せずに比べて)正の有意な関係が示された。ただし、回帰係数の大きさから判断して、CSデジタル加入ないしCATV加入の視聴チャンネル数への影響は小さい。また、CSデジタル加入の方がCATV加入よりも視聴チャンネル数への影響が大きいということも言えない。逆に、専用テレビ所有、高齢化は視聴チャンネル数との間に負の有意な関係が示された。
- 視聴ジャンル数については、CSデジタル加入、CATV加入、専用テレビ所有、高齢化が負の有意な関係が示された。特に、CSデジタル加入については、その回帰係数の大きさから見てかなり大きな影響が認められる。すなわち、チャンネルを切替えながら自分の興味あるジャンルを集中して視聴する傾向がうかがえる。
- 視聴者属性やメディア利用などと番組ジャンル別視聴時間の関係について回帰した結果、前月号の集計結果と同様に、CSデジタル加入はアニメ、スポーツ、音楽等の番組ジャンルと正の有意な関係がある。また、男性は報道、スポーツ、社会・教養番組と、女性はワイドショー、ドラマ番組と、中高年齢層は報道番組、趣味・生活番組等と、20、30歳代はワイドショーと正の有意な関係が示された。その他、メディア利用との関係では、テレビゲーム、マンガ利用はアニメ番組と、新聞・ラジオ利用は報道、音楽、社会・教養番組などと正の有意な関係が示された。
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