郵政研究所月報 

1998.6

調査・研究


多チャンネル時代の視聴者行動に関する分析補論





通信経済研究部長  上条 昇




【要約】

 月報前月号「細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動」において、郵政研究所が昨年10月に実施した「多チャンネル時代の視聴者行動に関するアンケート調査」の集計結果に基づいて、CSデジタル加入世帯の視聴者の特徴を一般世帯及びCATV加入世帯と比較して明らかにした。本稿においては、基本的な重回帰分析によって、性別、年齢、職業の有無、専用テレビの有無などの視聴者行動に影響を及ぼすと考えられる多様な要因を考慮しつつ多チャンネル化が視聴者行動に及ぼす影響の抽出を試みた。その主要な結果は次のとおりである。
  1.  視聴行為者を対象にした回帰結果では、年齢(高齢の方が)、性別(女性の方が)、職業の有無(職業なしの方が)、世帯収入(収入が小さい世帯の視聴者の方が)、専用テレビ所有という属性と並んで、CSデジタル加入及びCATV加入が(いずれにも加入せずに比べて)視聴時間との間に正の有意な関係がある。また、CSデジタル加入はCATV加入と比べても視聴時間との間に正の有意な関係がある。全回答者を対象にした場合でも、単純集計では一般世帯、CATV加入、CSデジタル加入の間に視聴時間に殆ど差はなかったが、回帰結果では(少なくとも15歳以上の視聴者において)、CSデジタル加入とCATV加入の間の視聴時間の差が有意でないことを除いて、視聴行為者を対象とした場合と同様の結果が示された。
  2.  メディア利用と視聴時間の関係を回帰した結果、テレビ視聴との両立が困難と考えられるCD・レコード・テープを除き、ビデオ、新聞、書籍・雑誌、マンガ、映画、テレビゲームという従来からのメディアは全てテレビ視聴時間との間に正の有意な関係がある。これは、これらのメディアがテレビ視聴との間で時間を奪いあう関係にあるのではないこと、また、テレビ視聴を含めて一般的にメディア利用に積極的な層とそうではない層があることを示唆している。一方、パソコン、インターネット・パソコン通信利用については視聴時間との間に負の有意な関係が示された。
  3.  視聴チャンネル数については、CSデジタル加入、CATV加入は前月号の集計結果と同様に(いずれにも加入せずに比べて)正の有意な関係が示された。ただし、回帰係数の大きさから判断して、CSデジタル加入ないしCATV加入の視聴チャンネル数への影響は小さい。また、CSデジタル加入の方がCATV加入よりも視聴チャンネル数への影響が大きいということも言えない。逆に、専用テレビ所有、高齢化は視聴チャンネル数との間に負の有意な関係が示された。
  4.  視聴ジャンル数については、CSデジタル加入、CATV加入、専用テレビ所有、高齢化が負の有意な関係が示された。特に、CSデジタル加入については、その回帰係数の大きさから見てかなり大きな影響が認められる。すなわち、チャンネルを切替えながら自分の興味あるジャンルを集中して視聴する傾向がうかがえる。
  5.  視聴者属性やメディア利用などと番組ジャンル別視聴時間の関係について回帰した結果、前月号の集計結果と同様に、CSデジタル加入はアニメ、スポーツ、音楽等の番組ジャンルと正の有意な関係がある。また、男性は報道、スポーツ、社会・教養番組と、女性はワイドショー、ドラマ番組と、中高年齢層は報道番組、趣味・生活番組等と、20、30歳代はワイドショーと正の有意な関係が示された。その他、メディア利用との関係では、テレビゲーム、マンガ利用はアニメ番組と、新聞・ラジオ利用は報道、音楽、社会・教養番組などと正の有意な関係が示された。



多チャンネル時代の視聴者行動に関する分析補論

1 はじめに
 月報前月号「細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動」において、郵政研究所が昨年実施した「多チャンネル時代の視聴者行動に関するアンケート調査」結果の概要をご紹介したところである。これは、CSデジタル放送サービスの開始に見られる多チャンネル化の進展が視聴者行動にどのような変化をもたらすかを明らかにすることを目的に実施したものである。前月号では、CSデジタル加入世帯とCATV加入世帯の視聴者を一般世帯の視聴者と比較して、その特徴を明らかにすることを試みた。その際、特に視聴者行動の大きな決定要因と考えられる性、年齢による影響を考慮して比較したところであるが、視聴者行動はこれ以外に職業の有無、通学の有無、専用テレビの所有の有無など多様な要因の影響を受けているものと考えられる。また、多メディア化の進展の中で、パソコン、インターネット利用などが視聴者行動に一定の影響を与えていることも考えられる。そこで本稿においては、基本的な重回帰分析によって、このような多様な要因の影響を考慮しつつ多チャンネル化が視聴者行動に及ぼす影響の抽出を試みた。

2 視聴時間

(1)視聴行為者を対象とした分析
 前月号においては、視聴行為者(調査日にテレビを実際に視聴した、と回答した者)のみを見た場合、調査日1日のテレビ視聴時間は一般世帯、CATV加入世帯の間にはほとんど差がなく、CSデジタル加入世帯の視聴者は約27分(約9%)長かった。
 視聴行為者を対象にして、視聴時間(単位:分)を目的変数、また、視聴時間に影響を与えると予想される項目を説明変数として回帰分析した結果は表1のとおりである。なお、説明変数は全て[1,0]のダミー変数であるため、回帰係数の大きさは各々の説明変数が視聴時間に与える影響の大きさもある程度示すものとなっている。
 回帰分析の結果は、すべての説明変数について0.1%水準で有意な関係が示された(ただし、CSデジタル加入とCATV加入の間の視聴時間の差は5%水準で有意。)。CSデジタル加入及びCATV加入は、それぞれ20分弱、10分弱と大きくはないが視聴時間の増加要因となっている。また、年齢が高くなるほど、また、職業がない視聴者ほど視聴時間がかなり長くなっている。その他、専用テレビの所有、性別(女性である方が)、世帯収入(収入が小さい世帯の視聴者の方が)が視聴時間と有意に正の関係がある。この世帯収入についての結果は、テレビ視聴が経済学でいう「下級財」である可能性を示唆している(なお、説明変数間の相関係数は比較的高い場合があるが、説明変数を入れ替えても回帰係数の値が安定していること、t値が高いことなどから多重共線性が発生している可能性は小さいものと考えられる。)。


表1 視聴時間(視聴行為者のみ)に関する回帰分析結果


[1] [2] [3] [4]
定数

一般

CATV加入

CSデジタル加入

男性

職業有り

専用テレビ有り

0―20歳

20―40歳

40―60歳

60歳以上

収入600万円未満

収入600―1200万円

収入1200万円以上
 255.606 ***
[182.934]


  8.499 
***
[5.451]
 18.776 
***
[4.055]
 ―22.923 
***
[―20.408]
 ―54.218 
***
[―40.915]
 26.427 
***
[25.811]


  69.64 
***
[43.063]
 78.073 
***
[49.949]
 113.508 
***
[67.330]


 ―22.794 
***
[―20.499]
 ―29.288 
***
[―19.103]
 310.951 ***
[160.115]
 ―8.499 
***
[―5.451]


  10.277 

[2.128]
 ―22.923 
***
[―20.408]
 ―54.218 
***
[―40.915]
  26.427 
***
[25.811]
  ―69.64 
***
[―43.063]


  8.433 
***
[6.770]
  43.868 
***
[27.207]
  22.794 
***
[20.499]


  ―6.494 
***
[―4.603]
 323.166 ***
[66.641]
 ―18.776 
***
[―4.055]
 ―10.277 

[―2.128]


 ―22.923 
***
[―20.408]
 ―54.218 
***
[―40.915]
  26.427 
***
[25.811]
 ―78.073 
***
[―49.949]
 ―8.433 
***
[―6.770]


 35.435 
***
[22.137]
 29.288 
***
[19.103]
  6.494 
***
[4.603]
 369.114 ***
[241.313]


  8.499 
***
[5.451]
  18.776 
***
[4.055]
 ―22.923 
***
[―20.408]
 ―54.218 
***
[―40.915]
  26.427 
***
[25.811]
―113.508 
***
[―67.330]
 ―43.868 
***
[―27.207]
 ―35.435 
***
[―22.137]




 ―22.794 
***
[―20.499]
 ―29.288 
***
[―19.103]
自由度修正済決定係数    0.08    0.08    0.08    0.08

(注)
1 回帰分析は、一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯の視聴者の回答に、重み付けを行って実施した。なお、今回のアンケート調査は関東圏において実施したものであるが、関東圏のCSデジタル加入者数が公表されていないため、全国ベースのデータを用い、一般世帯3933万(1995年度末住民基本台帳世帯数―CATV加入世帯数―CSデジタル加入世帯数)、CATV加入世帯500万(1996年度末自主放送を行うCATV加入世帯数)、CSデジタル加入世帯50万(1997年12月契約数)の比率となるようにケースへの重み付けを行った。2 重み付け前のサンプル数5914(一般世帯視聴者2125、CATV加入世帯視聴者2574、CSデジタル加入世帯視聴者1215)。これは目的変数及び説明変数への有効回答サンプル数である(以下同じ)。
3 ***、**、*は、それぞれ0.1%、1%、5%水準で有意(以下同じ)。
4 [ ]内はt値(以下同じ)。


多チャンネル時代の視聴者行動に関する分析補論

 なお、表1に示されているように、決定係数の値はかなり小さい。アンケート調査に基づく回帰分析の場合に決定係数が小さいことはしばしばあるが、それに加えて視聴時間の場合には以上の説明変数以外に、個々人のテレビへの選好や、当日の具体的自由時間など多様な要因によって決定されているためと考えられる。今回のアンケート調査では、「日常生活とテレビ」に関して幾つかの質問を行ったので、その中からテレビへの選好や自由時間に係わりがあると考えられる次の3項目を説明変数に加えて回帰を試みた。

 「見たい番組があれば、深夜や早朝でも起きて見ることがある」
 「暇なときは、テレビをつけていることが多い」
 「見ようと思っていた番組でも、仕事などの都合で見られなくなることがよくある」

 このうち最後の質問項目については有意でなかっため、残りの2項目を加えた回帰結果を表2に示す。なお、この「日常生活とテレビ」に関する質問は15歳以上の視聴者のみを対象として行った。これら2項目を説明変数に加えない場合の自由度調整済決定係数は0.073であり(表2[5]欄)、2項目を追加した場合の方が決定係数は大きくなっている(0.095)。また、これらテレビへの選好を示すと考えられるこれら2項目は視聴時間と0.1%水準で有意に正の関係が示されている。特に「暇なときは見る」の回帰係数が大きいことは、テレビ視聴に占める所謂「ながら視聴」の比重の大きさを示唆している。なお、前月号で紹介したように「深夜・早朝でも見る」、「暇なときは見る」との回答者の比率はCSデジタル加入世帯の視聴者において高く、テレビへの愛着が強いことが示されているが、これらを説明変数に加えてもCSデジタル加入の回帰係数が依然として大きいことは、CSデジタル加入世帯の視聴者が単に他の世帯の視聴者に比べて相対的にテレビへの愛着が強いために視聴時間が長い、というわけでないことを示唆していると言えよう。

表2 視聴時間(視聴行為者のみ)に関する回帰分析結果(2説明変数を追加)


[1] [2] [3] [4] [5]
定数

一般

CATV加入

CSデジタル加入

男性

職業有り

専用テレビ有り

0―20歳

20―40歳

40―60歳

60歳以上

収入600万円未満

収入600―1200万円

収入1200万円以上

深夜・早朝でも見る

暇なときは見る
 219.517 ***
[89.744]


  9.826 
***
[5.635]
  25.841 
***
[4.970]
 ―29.511 
***
[―22.573]
 ―60.781 
***
[―42.948]
  18.869 
***
[16.632]


  75.395 
***
[32.094]
  90.004 
***
[38.743]
 125.263 
***
[51.814]


 ―20.776 
***
[―16.446]
 ―30.036 
***
[―17.757]
  36.023 
***
[29.539]
  39.012 
***
[33.743]
 283.962 ***
[127.449]
 ―9.826 
***
[―5.635]


  16.015 
**
[2.954]
 ―29.511 
***
[―22.573]
 ―60.781 
***
[―42.948]
  18.869 
***
[16.632]
 ―75.395 
***
[―32.094]


  14.609 
***
[11.379]
  49.867 
***
[29.223]
  20.776 
***
[16.446]


  ―9.259 
***
[―6.011]
  36.023 
***
[29.539]
  39.012 
***
[33.743]
 305.326 ***
[56.027]
 ―25.841 
***
[―4.970]
 ―16.015 
**
[―2.954]


 ―29.511 
***
[―22.573]
 ―60.781 
***
[―42.948]
  18.869 
***
[16.632]
 ―90.004 
***
[―38.743]
 ―14.609 
***
[―11.379]


  35.259 
***
[20.850]
  30.036 
***
[17.757]
  9.259 
***
[6.011]


  36.023 
***
[29.539]
  39.012 
***
[33.743]
 344.78 ***
[194.554]


  9.826 
***
[5.635]
 25.841 
***
[4.970]
 ―29.511 
***
[―22.573]
 ―60.781 
***
[―42.948]
 18.869 
***
[16.632]
―125.263 
***
[―51.814]
 ―49.867 
***
[―29.223]
 ―35.259 
***
[―20.850]




 ―20.776 
***
[―16.446]
 ―30.036 
***
[―17.757]
  36.023 
***
[29.539]
 39.012 
***
[33.743]
 257.422 ***
[110.706]


  10.81 
***
[6.124]
  28.963 
***
[5.502]
 ―25.623 
***
[―19.450]
 ―54.598 
***
[―38.293]
  24.849 
***
[21.778]


  69.174 
***
[29.137]
  78.223 
***
[33.452]
 112.822 
***
[46.409]


 ―21.146 
***
[―16.533]
 ―33.692 
***
[―19.699]
自由度修正済決定係数    0.095    0.095    0.095    0.095    0.073

(注)重み付け前のサンプル数4854(一般世帯1704、CATV加入世帯2147、CSデジタル加入世帯1003)。


多チャンネル時代の視聴者行動に関する分析補論

(3)全回答者を対象とした分析
 前月号においては、視聴行為者に限定せず全回答者を対象とすると、CSデジタル加入世帯の視聴者において「視聴せず」との回答者の比率が高かったため、CSデジタル加入世帯の視聴者の平均視聴時間は、一般世帯、CATV加入世帯とほとんど差が見られなかった。今回全回答者を対象にして、上記 (1)と同様に回帰した結果は表3のとおりである。
 これによると、CSデジタル加入については、5%水準ではあるが有意に正の関係が示され、全回答者を対象としてみた場合でも、CSデジタル加入世帯の視聴者の方が一般世帯の視聴者に比べて長時間テレビ視聴をしていることが強く示唆された(なお、これは15歳以上の視聴者を対象とした回帰結果であり、15歳未満も含めた回帰ではCSデジタル加入について視聴時間との間に有意な関係は示されなかった。)。また、CATV加入についても0.1%水準で正の有意な関係が示されている(但し、CSデジタル加入とCATV加入の間の視聴時間の差は有意ではなかった。)。このように、多チャンネル化がわずかではあるが視聴時間の増加要因となっていることが示されている。他の説明変数についても表2の視聴行為者のみを対象とした回帰分析結果と同様の結果となっている。なお、「仕事などの都合で見られないことがよくある」も負に有意であり、「視聴せず」との回答者の中には、調査表への記入が繁雑であったためそのように回答した視聴者がいることが想定される一方で、実際に仕事などの都合で視聴できなかった者が多いことも示唆している。

表3 視聴時間(全回答者)に関する回帰分析結果


[1] [2] [3] [4]
定数

一般

CATV加入

CSデジタル加入

男性

職業有り

専用テレビ有り

0―20歳

20―40歳

40―60歳

60歳以上

収入600万円未満

収入600―1200万円

収入1200万円以上

深夜・早朝でも見る

暇なときは見る

見られないことよくあり
 198.039 ***
[81.072]


  11.75 
***
[6.784]
  12.4 

[2.425]
 ―31.047 
***
[―24.130]
 ―60.509 
***
[―43.240]
  11.428 
***
[10.249]


   82.44 
***
[36.305]
  98.799 
***
[44.112]
   141.7 
***
[60.039]


 ―23.347 
***
[―18.868]
 ―35.711 
***
[―21.054]
  35.027 
***
[29.134]
  41.547 
***
[36.639]
  ―4.233 
***
[―3.760]
 257.131 ***
[153.974]
  ―11.75 
***
[―6.784]


    0.65 
[0.122]
 ―31.047 
***
[―24.130]
 ―60.509 
***
[―43.240]
  11.428 
***
[10.249]
  ―82.44 
***
[―36.305]


   16.36 
***
[12.961]
   59.26 
***
[34.841]
  23.347 
***
[18.868]


 ―12.364 
***
[―7.951]
  35.027 
***
[29.134]
  41.547 
***
[36.639]
  ―4.233 
***
[―3.760]
 261.127 ***
[136.286]
   ―12.4 

[―2.425]
   ―0.65
[―0.122]


 ―31.047 
***
[―24.130]
 ―60.509 
***
[―43.240]
  11.428 
***
[10.249]
 ―98.799 
***
[―44.112]
  ―16.36 
***
[―12.961]


  42.901 
***
[25.470]
  35.711 
***
[21.054]
  12.364 
***
[7.951]


  35.027 
***
[29.134]
  41.547 
***
[36.639]
  ―4.233 
***
[―3.760]
 339.739
[187.254]


   11.75 
***
[6.784]
    12.4 

[2.425]
 ―31.047 
***
[―24.130]
 ―60.509 
***
[―43.240]
  11.428 
***
[10.249]
  ―141.7 
***
[―60.039]
  ―59.26 
***
[―34.841]
 ―42.901 
***
[―25.470]




 ―23.347 
***
[―18.868]
 ―35.711 
***
[―21.054]
  35.027 
***
[29.134]
  41.547 
***
[36.639]
  ―4.233 
***
[―3.760]
自由度修正済決定係数    0.098    0.098    0.098    0.098

(注)重み付け前のサンプル数5275(一般世帯1842、CATV加入世帯2297、CSデジタル加入世帯1136)。


多チャンネル時代の視聴者行動に関する分析補論

3 多メディア化と視聴時間
 近年パソコンやインターネットの利用が普及し、いわゆる多メディア化が進展しつつある。このような状況はテレビ視聴にいかなる影響を与えているのであろうか。例えば、インターネット利用者はテレビ視聴時間が短い、というような調査結果も報告されている。今回のアンケート調査結果から分析を試みたい。
 今回のアンケート調査においては、各種メディアについて、「毎日3回以上利用する」から「ほとんど・全く使わない」まで利用状況を8段階に分けて記入を求めた。表4は、このような各種メディア利用も説明変数に加えて視聴時間を回帰分析した結果である。なお、各メディアについては、視聴時間への影響可能性を考慮して、「1日1回以上利用する」を「1」、それ以外を「0」とするダミー変数としている(なお、利用頻度を考慮して、新聞利用については「1日2回以上」、映画については「月1―2回以上」を「1」としている。)。
 これを見ると、テレビ視聴との両立が困難と考えられるCD・レコード・テープが視聴時間と負の有意な関係にあることを除いて、ビデオ、新聞、書籍・雑誌、マンガ、映画、テレビゲームという既存のメディアは全て視聴時間との間に正の有意な関係が示された(なお、テレビ視聴との両立が困難と考えられるラジオにおいても負の有意な関係は示されなかった。)。このことは、これらのメディアはテレビ視聴との間で時間を奪いあう関係にあるのではないこと、また、テレビ視聴を含めて一般的にメディア利用に積極的な層とそうではない層があることを示唆している。
 その中にあって、パソコン利用、インターネット・パソコン通信利用については視聴時間との間に負の有意な関係が示され、その具体的影響は回帰係数から20―40分程度と推測することができる。ただし、ここでの回帰は、パソコン、インターネット・パソコン通信利用を1日1回以上利用する者を「1」とした結果であり、かなりのヘビーユーザについての視聴時間への影響を分析したものであること、また、パソコン、インターネットについては、テレビのような受動的メディアとは異なり能動的性格が強いメディアであり今後その利用がどの程度伸びるかにについては留保が必要と考えられることから、今後このようなメディアの利用がテレビ視聴全体にどの程度の影響を与えるかについては慎重な判断が必要であろう。

表4 視聴時間(視聴行為者のみ)への各メディアの影響 


[1] [2] [3] [4]
定数

一般

CATV加入

CSデジタル加入

男性

職業有り

専用テレビ有り

0―20歳

20―40歳

40―60歳

60歳以上

収入600万円未満

収入600―1200万円

収入1200万円以上

ラジオ

ビデオ・ディスク

CDレコードテープ

新聞

書籍・雑誌

マンガ

映画

パソコン

インターネット・パソコン通信

テレビゲーム
 242.808 ***
[148.569]


  12.565 
***
[7.517]
  24.413 
***
[4.908]
 ―24.345 
***
[―19.167]
 ―50.243 
***
[―34.282]
  20.928 
***
[18.577]


  76.125 
***
[42.818]
   81.12 
***
[43.971]
 110.113 
***
[54.942]


 ―23.522 
***
[―20.127]
   ―26.8 
***
[―16.639]
  ―1.074
[―0.888]
  12.059 
***
[6.640]
 ―10.344 
***
[―7.484]
  19.659 
***
[16.758]
   17.75 
***
[14.269]
  10.543 
***
[5.339]
   5.149 
***
[4.164]
 ―44.342 
***
[―23.558]


  15.875 
***
[7.794]
 304.337 ***
[140.564]
 ―11.876 
***
[―7.084]


  10.738 

[2.065]
 ―27.225 
***
[―21.396]
 ―53.888 
***
[―36.880]
  20.869 
***
[18.467]
 ―72.791 
***
[―40.835]


   7.185 
***
[4.987]
  38.471 
***
[21.157]
   25.23 
***
[20.981]


  ―4.848 
**
[―3.177]
 0.03994
[0.033]
  13.034 
***
[7.157]
 ―11.109 
***
[―8.003]
  18.854 
***
[16.034]
   15.45 
***
[12.410]
   9.552 
***
[4.826]
   5.329 
***
[4.296]


 ―18.924 
***
[―6.038]
  16.129 
***
[7.900]
 321.16 ***
[61.114]
 ―24.201 
***
[―4.865]
 ―11.857 

[―2.287]


 ―24.387 
***
[―19.193]
 ―50.102 
***
[―34.155]
  21.181 
***
[18.794]
 ―81.162 
***
[―43.981]
  ―5.288 
***
[―3.678]


  28.891 
***
[16.865]
  27.228 
***
[15.908]
    3.04
[1.932]


  ―1.093
[―0.903]
  12.395 
***
[6.828]
 ―10.458 
***
[―7.566]
   19.84 
***
[16.909]
  17.739 
***
[14.256]
   9.654 
***
[4.888]
   5.048 
***
[4.081]
  ―44.86 
***
[―23.842]


  15.164 
***
[7.445]
 356.182 ***
[199.476]


  11.865 
***
[7.079]
  22.687 
***
[4.547]
 ―27.089 
***
[―21.295]
 ―54.041 
***
[―37.008]
  20.634 
***
[18.265]
―111.271 
***
[―55.378]
 ―38.289 
***
[―21.056]
 ―31.383 
***
[―18.319]




 ―25.299 
***
[―21.633]
 ―28.045 
***
[―17.370]
―0.03329
[0.027]
  12.786 
***
[7.020]
 ―11.022 
***
[―7.941]
  18.671 
***
[15.879]
  15.384 
***
[12.359]
  10.474 
***
[5.288]
    5.46 
***
[4.403]


 ―18.759 
***
[―5.986]
  16.827 
***
[8.239]
自由度修正済決定係数    0.098    0.093    0.098    0.093

(注)
1 重み付け前のサンプル数4804(一般世帯1711、CATV加入世帯2079、CSデジタル加入世帯1014)。
2 パソコンとインターネット・パソコン通信利用は相関係数が0.5を上回り多重共線性の可能性があるため、交互に入れ替えて推計した。
3 パソコン、インターネット・パソコン通信を利用しているとの回答の中にはパソコン所有世帯でないケースもあり(職場等で利用していると推測される。)、それは除外した。


多チャンネル時代の視聴者行動に関する分析補論

4 視聴チャンネル数
 前月号で紹介した集計結果においては、調査日1日の視聴チャンネル数は一般世帯<CATV加入世帯<CSデジタル加入世帯の順で多くなっているが、その増加率は視聴時間の伸びほどではなかった。視聴チャンネル数について回帰分析した結果は表5のとおりである。なお、ここでは説明変数として上述の諸項目に加えて量的変数としての視聴時間(単位:分)を追加してある。
 CATV加入及びCSデジタル加入は、視聴チャンネル数と正の有意な関係が見られる(但し、CSデジタル加入とCATV加入の間の視聴チャンネル数の差は有意ではなかった。)。しかしながら、回帰係数及び定数項から見て、CATV加入及びCSデジタル加入が視聴チャンネル数を増加させる程度は5%程度であり、前月号の集計結果と同様に多チャンネル化によっても視聴チャンネル数はそれはどに増加しないことが示されている。
 また、それ以外の説明変数を見ると、専用テレビ所有は視聴チャンネル数と負の有意な関係が見られ、専用テレビ所有者は自分の関心のあるチャンネルだけを比較的集中して視聴していることがうかがえる。また、年齢との関係を見ると、20歳未満の視聴者については正の有意な関係があり、逆に60歳以上の視聴者は負の有意な関係が示されている。高齢化とともに、関心分野を相対的に絞ってきていることがうかがえるのではないだろうか。

表5 視聴チャンネル数に関する回帰分析結果


[1] [2] [3] [4]
定数

一般

CATV加入

CSデジタル加入

男性

職業有り

専用テレビ有り

0―20歳

20―40歳

40―60歳

60歳以上

収入600万円未満

収入600―1200万円

収入1200万円以上

視聴時間
   1.563 ***
[168.865]


 0.09036 
***
[9.999]
 0.08822 
**
[3.288]
―0.01304 

[―2.000]
―0.07588 
***
[―9.807]
―0.07485 
***
[―12.577]


―0.05006 
***
[―5.297]
―0.04297 
***
[―4.691]
―0.09491 
***
[―9.520]


   0.101 
***
[15.623]
 0.08894 
***
[9.994]
0.005118 
***
[291.519]
   1.704 ***
[136.264]
―0.09036 
***
[―9.999]


―0.00214
[―0.076]
―0.01304 

[―2.000]
―0.07588 
***
[―9.807]
―0.07485 
***
[―12.577]
 0.05006 
***
[5.297]


 0.00709
[0.982]
―0.04486 
***
[―4.785]
  ―0.101 
***
[―15.623]


―0.01192
[―1.458]
0.005118 
***
[291.519]
   1.697 ***
[59.209]
―0.08822 
***
[―3.288]
0.002136
[0.076]


―0.01304 

[―2.000]
―0.07588 
***
[―9.807]
―0.07485 
***
[―12.577]
 0.04297 
***
[4.691]
―0.00709
[―0.982]


―0.05195 
***
[―5.587]
―0.08894 
***
[―9.994]
 0.01192
[1.458]


0.005118 
***
[291.519]
   1.468 ***
[133.725]


 0.09036 
***
[9.999]
 0.08822 
**
[3.288]
―0.01304 

[―2.000]
―0.07588 
***
[―9.807]
―0.07485 
***
[―12.577]
 0.09491 
***
[9.520]
 0.04486 
***
[4.785]
 0.05195
[5.587]  
***




   0.101 ***
[15.623]
 0.08894 
***
[9.994]
0.005118 
***
[291.519]
自由度修正済決定係数    0.457    0.457    0.457    0.457

(注)重み付け前のサンプル数は表1に同じ。


多チャンネル時代の視聴者行動に関する分析補論

5 視聴ジャンル数
 前月号で紹介した集計結果では、CSデジタル加入世帯においては一般世帯に比較して視聴時間は増加しているものの、調査日1日の視聴ジャンル数はわずかではあるが逆に減少の傾向が見られた。また、CATV加入世帯の視聴者においては明確な傾向が見出せなかった。視聴ジャンル数について回帰分析した結果は表6のとおりである。
 この結果によると、CATV加入、CSデジタル加入は視聴ジャンル数と有意に負の関係があり、特にCSデジタル加入については回帰係数の値が大きく、CSデジタル加入の視聴ジャンル数に与える影響の大きさを示唆している。これは、多チャンネル化に伴って、チャンネルを切り替えながら自分の興味あるジャンルを集中して視聴する傾向があることを示すものと考えられる。
 それ以外では、専用テレビ所有や高齢者は視聴ジャンル数と負の有意な関係が見られ、視聴チャンネル数と同様の傾向が現れている。また、世帯収入1200万円以上の視聴者においても視聴ジャンル数と負の有意な関係がある。
 なお、今回のアンケート調査においては、調査日1日に実際に視聴した番組とは別に、よく見る番組ジャンルを「毎日3回以上」から「ほとんど・全く見ない」までの8段階で回答してもらった。この結果を使って、各視聴者が週1―2回以上見るジャンル数について、上述と同様の説明変数を使って回帰分析を行って見た。これによって、1週間というより長期における視聴ジャンル数に関する特徴を明らかにすることが可能となる。その結果は表7のとおりである。なお、ここでは視聴時間という視聴した番組ジャンル数に大きな影響を有すると考えられる変数を説明変数に入れていないことに留意する必要があるが、次のような傾向が見出せる。
 視聴ジャンル数は、表6の視聴行為者の1日の視聴ジャンル数の場合と同様にCATV加入及びCSデジタル加入との間に負の有意な関係が見られる(但し、CSデジタル加入については5%水準。また、CATV加入とCSデジタル加入の間の視聴ジャンル数の差は有意ではなかった。)。一方、専用テレビ所有や高齢者については、表6の結果とは回帰係数の正負が異なっているが、専用テレビ所有者や高齢者は比較的視聴時間が長いため、視聴時間の影響がこの説明変数の回帰係数に現れた可能性がある。


表6 視聴ジャンル数に関する回帰分析結果


[1] [2] [3] [4]
定数

一般

CATV加入

CSデジタル加入

男性

職業有り

専用テレビ有り

0―20歳

20―40歳

40―60歳

60歳以上

収入600万円未満

収入600―1200万円

収入1200万円以上

視聴時間
    1.81 ***
[147.722]


   ―0.16 
***
[―13.443]
  ―0.469 
***
[―13.215]
―0.09644 
***
[―11.155]
―0.09785 
*** 
[―9.529]
―0.05002 
***
[―6.378]


―0.04392 
***
[―3.499]
  ―0.158 
***
[―13.017]
  ―0.271 
***
[―20.555]


 0.06591 
***
[7.749]
  ―0.137 
***
[―11.528]
0.007657 
***
[323.255]
   1.672 ***
[100.653]
    0.16 
***
[13.443]


  ―0.309 
***
[―8.356]
―0.09644 
***
[―11.155]
―0.09785 
***
[―9.529]
―0.05002 
***
[―2.946]
 0.04392 
***
[3.499]


  ―0.114 
***
[―11.950]
  ―0.227 
***
[―18.416]
―0.06591 
***
[―7.749]


  ―0.203 
***
[―18.494]
0.007657 
***
[323.255]
   1.045 ***
[27.463]
   0.469 
***
[13.215]
   0.309 
***
[8.356]


―0.09644 
***
[―11.155]
―0.09785 
***
[―9.529]
―0.05002 
***
[―2.946]
   0.158 
***
[13.017]
   0.114 
***
[11.950]


  ―0.113 
***
[―9.255]
   0.137 
***
[11.528]
   0.203 
***
[18.494]


0.007657 
***
[323.255]
   1.539 ***
[105.738]


   ―0.16 
***
[―13.443]
  ―0.469 
***
[―13.215]
―0.09644 
***
[―11.155]
―0.09785 
***
[―9.529]
―0.05002 
***
[―6.378]
   0.271 
***
[20.555]
   0.227 
***
[18.416]
   0.113 
***
[9.255]




 0.06591 
***
[7.749]
  ―0.137 
***
[―11.528]
0.007657 
***
[323.255]
自由度修正済決定係数    0.535    0.535    0.535    0.535

(注)重み付け前のサンプル数5482(一般世帯1974、CATV加入世帯2394、CSデジタル加入世帯1114)。


多チャンネル時代の視聴者行動に関する分析補論

表7 視聴ジャンル数(1週間に1ー2回以上視聴するジャンル)に関する回帰分析結果


[1] [2] [3] [4]
定数

一般

CATV加入

CSデジタル加入

男性

職業有り

専用テレビ有り

0―20歳

20―40歳

40―60歳

60歳以上

収入600万円未満

収入600―1200万円

収入1200万円以上
   7.482 ***
[273.838]


  ―0.144 
***
[―4.637]
  ―0.216 

[―2.356]
  ―0.517 
***
[―23.221]
   ―0.84 
***
[―31.826]
   0.626 
***
[30.869]


   2.188 
***
[69.844]
   2.105 
***
[69.055]
   2.294 
***
[65.933]


   ―0.16 
***
[―7.263]
  ―0.164 
***
[―5.219]
   9.367 ***
[244.109]
   0.144 
***
[4.637]


―0.07233
[―0.757]
  ―0.517 
***
[―23.221]
   ―0.84 
***
[―31.826]
   0.626 
***
[30.869]
  ―2.188 
***
[―69.844]


―0.08374 
**
[―3.422]
   0.106 
**
[3.150]
    0.16 
***
[7.263]


―0.00373
[―0.129]
   9.207 ***
[95.571]
   0.216 

[2.356]
 0.07233
[0.757]


  ―0.517 
***
[―23.221]
   ―0.84 
***
[―31.826]
   0.626 
***
[30.869]
  ―2.105 
***
[―69.055]
 0.08374 
**
[3.422]


   0.189 
***
[5.628]
   0.164 
***
[5.219]
0.003727
[0.129]

   9.776 ***
[307.361]


  ―0.144 
***
[―4.637]
  ―0.216 

[―2.356]
  ―0.517 
***
[―23.221]
   ―0.84 
***
[―31.826]
   0.626 
***
[30.869]
  ―2.294 
***
[―65.933]
  ―0.106 
**
[―3.150]
  ―0.189 
***
[―5.628]




   ―0.16 
***
[―7.263]
  ―0.164 
***
[―5.219]
自由度修正済決定係数    0.089    0.089    0.089    0.089

(注)重み付け前のサンプル数5390(一般世帯1912、CATV加入世帯2288、CSデジタル加入世帯1190)。


多チャンネル時代の視聴者行動に関する分析補論

6 視聴ジャンル
 前月号において、一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯のジャンル別視聴時間の特徴を紹介した。スポーツ、アニメ、音楽、映画、子供向け番組のジャンルにおいて、CSデジタル加入世帯の視聴者は視聴時間が長いという結果であった。ここでは、それ以外に上述のような様々な要因を説明変数に加えて、ジャンル別視聴時間との間の回帰分析を行った(なお、相対的な視聴時間をみるために説明変数には総視聴時間も加えてある。)。この結果は表8のとおりである。
 ここから以下のような特徴を指摘することができる。

視聴者属性と番組ジャンルの関係

  • 報道番組は、男性、職業有り、中高年齢層と正の有意な関係があり、世帯収入600万円未満の視聴者と負の有意な関係がある。
  • ワイドショーは、女性、職業なし、20、30歳代と正の有意な関係がある。
  • ドラマは、20、30歳代と60歳以上の2つの世代と有意な関係がある(なお、視聴するドラマの内容はこれら世代の間で相違することが予想される。)。
  • スポーツ番組は男性、20歳未満と有意な関係にあるが、世帯収入との間には有意な関係は見られない(世帯収入の大小にかかわらず視聴されているものと考えられる。)。
  • バラエティ番組は、女性と正の有意な関係があり、中高年齢層と負の有意な関係がある。
  • 音楽番組は性、年齢、世帯収入の大小との間に有意な関係が見られず、これらの要因にかかわらず視聴されているものと考えられる。
  • 社会・教養番組は、男性、世帯収入1200万円以上の視聴者、中高年齢層と正の有意な関係がある。
  • 趣味・生活番組は、女性、職業なし、世帯収入600万未満の視聴者、中高年齢層と正の有意な関係がある。
  • 成人向け番組は、世帯収入、年齢層等との間に有意な関係はない。

利用メディアと視聴ジャンルの関係

  • CSデジタル加入は、アニメ、スポーツ、音楽、成人向け番組というCSチャンネルで主に放映されているエンタテイメント系ジャンルと正の有意な関係があり、報道、ワイドショー、ドラマ、バラエティ、クイズ番組と負の関係がある。一方、CATV加入は有意な関係のあるジャンルもあるが、特徴的な傾向は見出せない。
  • ラジオ利用は、報道、音楽・歌謡、社会・教養番組と正の有意な関係があり、ワイドショー、ドラマなどと負の有意な関係がある。新聞利用もラジオ利用と近い傾向がある。
  • ビデオ・ディスク利用はドラマ、子供向け番組と、CD・レコード・テープ利用は映画、音楽・歌謡、バラエティ番組などと正の有意な関係がある。
  • マンガ利用は、アニメ、スポーツ番組などと正の有意な関係がある。
  • パソコン利用及びインターネット・パソコン通信利用と視聴ジャンルの関係は必ずしも同一の傾向になく、パソコン利用が報道番組との間に正の有意な関係があり、一方インターネット・パソコン通信利用がアニメ、音楽・歌謡番組との間に正の有意な関係があるなど、インターネット・パソコン通信利用の方が娯楽的色彩が強い番組ジャンルとの間の関係が強いように思われる。なお、回帰係数は小さかったが、パソコン、インターネット・パソコン通信利用は成人向け番組と正の有意な関係がある。

多チャンネル時代の視聴者行動に関する分析補論

表8 ジャンル別視聴時間に関する回帰分析結果



報道 ワイドショー ドラマ 映画 アニメ スポーツ バラエティ
視聴者属性 男性
職業有り
世帯収入600万円未満
世帯収入600−1200万円
世帯収入1200万円以上
0−20歳 ○○
20−40歳
40−60歳 ○○
60歳以上 ○○ ○○ **
専用テレビ有り
メディア利用 CATV加入 (○) (*)
CSデジタル加入 ** (*) (○) **
ラジオ
ビデオ・ディスク
CD・レコード・テープ (○)
新聞
書籍・雑誌
マンガ (*)
映画 (○)
パソコン (○)
インターネット・パソコン通信 (*) (*) (○) (○)
テレビゲーム



音楽・歌謡 クイズ 社会・教養 趣味・生活 子供むけ 成人むけ
○○
○○ **
○○
(*)
(*)
(○)
(*) (○)

(注)
1 重み付け前のサンプル数4437(一般世帯1573、CATV加入世帯1933、CSデジタル加入世帯931)。
2 〇は正の有意な関係、*は負の有意な関係を示す。( )なしは0.1%水準で有意、( )ありは1%水準で有意。また、〇、*の数は回帰係数からその影響の大きさを示す。


多チャンネル時代の視聴者行動に関する分析補論

7 おわりに
以上の結果を要約すると次のとおりである。

  1.  視聴行為者を対象にした回帰結果では、年齢(高齢の方が)、性別(女性の方が)、職業の有無(職業なしの方が)、世帯収入(収入が小さい世帯の視聴者の方が)、専用テレビ所有という属性と並んで、CSデジタル加入及びCATV加入が(いずれにも加入せずに比べて)視聴時間との間に正の有意な関係がある。また、CSデジタル加入はCATV加入と比べても視聴時間との間に正の有意な関係がある。全回答者を対象にした場合でも、単純集計では一般世帯、CATV加入、CSデジタル加入の間に視聴時間に殆ど差はなかったが、回帰結果では(少なくとも15歳以上の視聴者において)、CSデジタル加入とCATV加入の間の視聴時間の差が有意でないことを除いて、視聴行為者を対象とした場合と同様の結果が示された。
  2.  メディア利用と視聴時間の関係を回帰した結果、テレビ視聴との両立が困難と考えられるCD・レコード・テープを除き、ビデオ、新聞、書籍・雑誌、マンガ、映画、テレビゲームという従来からのメディアは全てテレビ視聴時間との間に正の有意な関係がある。これは、これらのメディアがテレビ視聴との間で時間を奪いあう関係にあるのではないこと、また、テレビ視聴を含めて一般的にメディア利用に積極的な層とそうではない層があることを示唆している。一方、パソコン、インターネット・パソコン通信利用については視聴時間との間に負の有意な関係が示された。
  3.  視聴チャンネル数については、CSデジタル加入、CATV加入は前月号の集計結果と同様(いずれにも加入せずに比べて)に正の有意な関係が示された。ただし、回帰係数の大きさから判断して、CSデジタル加入ないしCATV加入の視聴チャンネル数への影響は小さい。また、CSデジタル加入の方がCATV加入よりも視聴チャンネル数への影響が大きいということも言えない。逆に、専用テレビ所有、高齢化は視聴チャンネル数との間に負の有意な関係が示された。
  4.  視聴ジャンル数については、CSデジタル加入、CATV加入、専用テレビ所有、高齢化が負の有意な関係が示された。特に、CSデジタル加入については、その回帰係数の大きさから見てかなり大きな影響が認められる。すなわち、チャンネルを切替えながら自分の興味あるジャンルを集中して視聴する傾向がうかがえる。
  5.  視聴者属性やメディア利用などと番組ジャンル別視聴時間の関係について回帰した結果、前月号の集計結果と同様に、CSデジタル加入はアニメ、スポーツ、音楽等の番組ジャンルと正の有意な関係がある。また、男性は報道、スポーツ、社会・教養番組と、女性はワイドショー、ドラマ番組と、中高年齢層は報道番組、趣味・生活番組等と、20、30歳代はワイドショーと正の有意な関係が示された。その他、メディア利用との関係では、テレビゲーム、マンガ利用はアニメ番組と、新聞・ラジオ利用は報道、音楽、社会・教養番組などと正の有意な関係が示された。

 なお、本稿執筆に当たっては松浦克己横浜市立大学商学部教授から貴重なご助言をいただいた。この場を借りて感謝申し上げます。