郵政研究所月報

1998.11


調査・研究

移動体通信事業の現状に関する分析★


通信経済研究部主任研究官  実積 寿也

[要約]

 料金の低廉化・多様化を背景に移動体通信の加入者数は類例を見ないハイペースで伸びている。しかしながら、最近になって、サービス間・事業者間にある程度の格差がつきつつある。サービス毎にみた場合、携帯電話の加入者数が引き続き順調に伸びている一方で、PHS加入者数は減少に転じており、PHS各社はマーケティング戦略の根本的な見直しを迫られている。同一サービスを提供する事業者の間においても「強い者はより強くなる」という現象がみられる。

 本研究では、ヒアリング調査及びアンケート調査などを実施し、移動体通信事業の現状分析及び今後の課題の整理を行った。本稿で説明される主要な結論は以下の3点に集約できる。

  1. 急速に普及が進んできた移動体通信の普及速度は96年度前後にピークを過ぎて鈍化しつつあり、最大普及率は36.3%程度と予測される。地域毎の最大普及率は、関東、東海、近畿では40%前後、その他の地域で30%前後になる。移動体通信の需要が多いと考えられる15〜34歳までの人口が総人口に占める割合と最大普及率の間には強い正の相関が存在する。
  2. 携帯電話事業者は多岐に渡る料金プランを、PHS事業者は低廉かつシンプルな料金プランを提示しており、移動体通信市場において一種の棲み分けを行っている。
  3. 移動体通信事業者各社は先行安定グループ、後発追い上げグループ、新規参入グループに類型化することが可能で、それぞれの類型に応じた経営課題が存在する。


* 本稿は、郵政研究所ディスカッションペーパー・シリーズ 1998―06「移動体通信事業の現状分析」をベースにして構成されている。詳細な推計値等についてはそちらを参照されたい。もちろん本稿に関するありうべき誤謬などは全て実積の責任である。 Return

 

1.はじめに

 本研究の目的は、携帯・自動車電話事業及びPHS事業(以下、「移動体通信事業」)の現状を把握し、今後の政策展開のための議論の基礎資料を提供することにある。

 需要の高度化・多様化、技術の発展と規制緩和、さらには、料金の低廉化・多様化を背景に、移動体通信は、他に例を見ないハイペースで普及が進んできており、携帯電話とPHSを合わせた総契約数は、98年8月末現在4,209万契約に達した(図1−1)。しかしながら、ここにきてサービス間・事業者間にある程度の格差がつきつつある。サービス毎にみてみると、携帯・自動車電話(以下、「携帯電話」)の加入者数は98年8月末で対前月比2.7%増の3,572万人に達し、引き続き順調に伸びている一方で、PHSに関しては前月比1.7%減の636万人(97年度末時点からは6.9%減)となっており、「料金が安い携帯電話」として営業を展開してきたPHS各社はマーケティング戦略の根本的な見直しを迫られている。同一サービスを行う事業者間においても優劣の差が顕れつつあり、「強い者はより強くなる」という現象がみられる。

 本研究では、移動体通信事業分野を対象に、ヒアリング調査及びアンケート調査などを実施し、それらから得られたデータをもとに分析を行った。

 本稿の構成は以下のとおりである。まず次節において、移動体通信サービスに関する地域毎の普及状況を分析し、最終的な普及水準の予測を行う。次いで、97年12月に実施したアンケート調査で得られたデータをもとに、第3節において現在提供されている移動体通信サービスの料金プランの特徴とそれがどの程度の需要を引き寄せているかを分析し、第4節で移動体通信事業者各社の事業展開状況を把握する。続く第5節では、各移動体通信サービス毎の加入者数を被説明変数として様々な角度からの重回帰分析を試みる。最後の第6節においては、全体のまとめと今後の移動体通信事業の課題整理を行う。

 

図1−1 移動体通信サービスの普及状況

 

2.普及状況について

 各種消費財の普及率は時間経過を説明変数とするロジスティック曲線などの成長曲線に従うことが経験的に知られている。移動体通信サービスの人口普及率の推移につき、92年度末、93年度末、94年度末、及び、95年度〜98年度6月末までの各四半期の計16時点のデータを用いて、ロジスティック曲線へのあてはめを行った。式形は、以下のものを用いている。

(1)

 (但し、Kは最大普及率、a及びbはそれぞれ、Kまでの相対普及速度と普及時期を決定するパラメータ。0K1、a0であり、tは年度末である。曲線はt=bでK/2となり、このときdY/dtが最大となる。)

 普及率の推移とロジスティック曲線によるあてはめ結果を図2−1及び図2−2に示し、パラメータの推定結果を表2−1に示す。

 最大普及率Kに近づく相対速度を表すaの絶対値は1.20〜1.73となっており、他の消費財の普及と比較しても最大普及率までの到達期間が極めて短い。地域別にみてみると、中国、九州、沖縄で速く、北陸、関東、近畿で遅いことがわかる。

 推計したb(最大普及速度達成時期)は最小が近畿の95.4、最大が東北の96.1であり、いずれの地域においても、現時点では既に普及速度のピークを過ぎているという結果が導かれる。普及速度dY/dtの実績値(図2−3)でも同様の結論が得られた。各地域における移動体通信事業の競争の推進状況を併せて考慮すると、いずれの地域も普及の中間点に達したのは全ての事業者が参入した後であり、事業者の参入時期と普及の進展時期に相関があることがうかがわれる。

 また、今回のデータからは、現在提供されている移動体通信サービスの最大普及率Kは、関東(信越も含む)、東海、近畿で40%程度、その他の地域で30%程度という推定結果が得られており、大都市圏では最大普及率が大きいことがわかる。

 移動体通信の需要が多いと考えられる15〜34歳までの人口が総人口に占める割合(若年比率)と最大普及率Kの関係を図2−4に示すが、北陸と沖縄を異常値として、両者に強い正の相関が存在することが示唆される。

 

図2−1 携帯電話&PHSの地域別普及状況と曲線のあてはめ(1/2)

 

図2−2 携帯電話&PHSの地域別普及状況と曲線のあてはめ(2/2)

 

表2−1 携帯電話&PHSのパラメータ推定結果
地域 K a b
北海道 30.3% ―1.47 95.6
東北 29.7% ―1.46 96.1
関東 40.4% ―1.32 95.9
北陸 38.2% ―1.20 96.0
東海 39.3% ―1.32 95.8
近畿 37.5% ―1.35 95.4
中国 30.3% ―1.49 95.8
四国 32.9% ―1.36 95.9
九州 29.4% ―1.57 95.6
沖縄 28.1% ―1.73 95.5
全国 36.3% ―1.35 95.7

 

図2−3 普及率の変化率(実績値、年率換算)

 

図2−4 若年比率と最大普及率Kの関係

 


ロジスティック曲線の特定に際して、一般には最大普及率Kを既知として線形化し、aとbを求める。しかし、今回は最大普及率も未知として計算を行うため、収束計算による残差自乗和の最小化により、K、a、bを求めた。ただし、収束計算であるために、計算結果は初期値に依存する。ここでは、まず全国計にK=0.5、a=−1.0、b=96という値を入れて収束計算を行い、そこで得られた結果を初期値として各地域の収束計算を行った。 Return
カラーテレビ世帯普及率でa=0.77(K=1)程度である。 Return
bが大きい(現在まだ最大普及率に至るまでの初期段階にある)、あるいは図2−3でピークがはっきりしない地域については推計精度が低くなってしまう傾向があり、具体的には、北陸や四国がこれに該当する。 Return

 

3.料金プランについて

3.1.主成分分析による特徴の判別

 消費者ニーズの高度化・多様化、技術進歩、及び規制緩和を背景にした移動体通信市場における競争の進展は、利用料金の絶対水準を引き下げるとともに、利用者が選択できる料金プランの多様化をもたらした。現在、提供されている料金プランを大きく二分すると、基本料金は高めであるが、通話料が安く設定されている「標準型プラン」と、基本料金は低いが、その分、通話料が高めに設定されている「ローコールプラン」の2タイプに分割することができる。

 しかしながら、それぞれの料金プランには、平日昼間の通話料金、深夜早朝の通話料金、及び基本料金の三種の料金が含まれているため、当該料金プランの特徴を明確に判別することはそのままでは困難である。本稿では主成分分析の手法を利用して、各料金プランの判別を試みる。

 主成分分析の結果を表3−1に示すが、これに従えば各料金プラン毎に利用料金の水準を表す主成分得点と、ローコール度(標準度)の強さを表現する主成分得点が得られる。

 

表3−1 主成分の固有値と寄与率、固有ベクトル
  主成分名 1 利用料金水準 2 標準度
  固有値 2.124 0.751
寄与率(%) 70.79 25.04
固有ベクトル 平日昼間(円/秒) 0.638 ―0.312
深夜早朝(円/秒) 0.641 ―0.290
基本料金(円) 0.426 0.905

 

3.2.料金プランの特徴

 前節で算出した主成分得点に基づいて各料金プランのポジショニングを図3−1に示す。利用料金水準に関しては、携帯電話とPHSは明らかに異なる水準を示している。標準度については、携帯電話サービスが標準型とローコール型に分解可能であるのに対して、PHSは分解不能で、ポジション的には両タイプの中間に位置する。ここからは、「料金水準は比較的高めであるが、料金プランの多様性をセールスポイントにしている携帯電話サービス」と「料金の多様性をある程度犠牲にしても、料金の低廉化を追求しているPHSサービス」という姿が示唆される。標準度に関しては、PHSサービスは携帯電話サービスの二グループの中間にポジションをとっている。

 需要の情報を加味し、さらに評価を容易にするために「利用料金水準」軸あるいは「標準度」軸に沿って図を集約したものが図3−2である。料金水準との関係を示す左側のグラフでは、PHSと携帯電話の需要が別個のピークを形成し、「料金が安い携帯電話」としてのPHSのマーケティングが新規需要の掘り起こしに成功したことを示している。標準度を横軸にとった右側のグラフではふたつの需要のピークが表れており、携帯電話サービスの提供する料金プランの多様性が奏功したことを示唆している。PHSの需要は、ローコール型の携帯電話に隣接しつつ、かつ携帯電話サービスの需要のピークの間に位置している。

 これらのことは、「先行の携帯電話事業者は、料金水準よりもむしろ、料金プランの多様性を中心に消費者への訴求を考え、標準度軸方向に幅広い需要を獲得した。しかしながら、現実には、全般的な料金水準さえ十分に安ければ、特に料金プランの多様性は問わないという需要層が存在し、後発のPHSサービスはそのセグメントを対象にしたマーケティングを展開し、市場浸透に成功した。」という姿を映している。すなわち、携帯電話とPHSのサービスは一種の棲み分けを行っており、PHSサービスの導入は、移動体通信サービスに対する利用者の選択可能性の拡大という意味があったことになる。

 

図3−1 主成分による料金プランの分類

 

図3−2 移動体通信サービスへの需要(利用料金水準、標準度別)

 


但し、携帯電話サービスとPHSサービスの区別は行わない。これは、(i)両サービスに関して別々に主成分分析を行うと算定された主成分得点間の比較可能性が失われること、(ii)PHSサービスは、携帯電話のサービスの廉価版としてマーケティングされてきたという経緯があること、という二点を考慮した結果である。 Return

 

4.アンケート調査による結果

 97年11月に、全国の携帯電話事業者30社及びPHS事業者28社に対し、アンケート調査を実施した。さらに、定性的な項目を中心に携帯電話事業者5社(関東2社、東北3社)とPHS事業者6社(関東3社、東北3社)に対してヒアリング調査を実施した。得られた知見の概要は以下のとおりである。

4.1.サービス間の優位性の比較

 事業者自身が、下に挙げた9つの特性に関し、携帯電話とPHSのどちらが優位性を持っていると考えているかを、現在と将来(3年後程度)について調査した結果を図4−1に示す。

(1)個人ユーザに対する訴求性
(2)法人ユーザに対する訴求性
(3)エリアの広さ・密度(つながりやすさ)
(4)通話料金レベル(基本料金含む)
(5)通話音質
(6)個人ユーザに対するデータ通信機能の訴求性
(7)法人ユーザに対するデータ通信機能の訴求性
(8)端末の軽さ
(9)端末の料金

 「現在」の状況としては、(1)〜(3)に関しては携帯電話優位、(4)〜(9)に関してはPHS優位と考えている事業者が多いが、「将来」についてはそれぞれの優位性は小さくなり、携帯電話とPHSのサービス特性の差がなくなる方向に進むと捉えられている。これは、通信方式の改良などの技術革新により格差が改善されるということに加え、それぞれの事業者自身の企業努力によるエリア展開や営業推進などの将来的な経営方針を反映している。携帯電話とPHSの両者の特性を比較すると、PHSの方が圧倒的に優位な面も多い。しかし、PHSの伸び悩みという現状を考えると、利用者サイドからは「エリアの広さ・密度(「つながりやすさ」)」が重要なサービス要素となっていることがわかる。

 

図4−1 携帯電話とPHSの優位性比較

 

4.2.同業他社間での優位性の比較

 サービスエリア内の同業他社の平均レベルと比較し、自社が優位性を持っていると考えているか否かを次の8項目に関して調査した結果が図4−2、図4−3である。

(1) 個人ユーザへの訴求性
(2) 法人ユーザへの訴求性
(3) エリアの広さ・密度(つながりやすさ)
(4) 通話料金レベル(基本料金含む)
(5) ブランドイメージ・知名度
(6) 営業力
(7) 技術
(8) 資金力

 全般的な傾向として、携帯電話事業者間及びPHS事業者間においては、料金、端末、エリアなどの面で、さほど違いはないと認識されている。

 携帯電話に関しては、(3)の「法人ユーザへの訴求性」が他社より「劣っている」と考えている事業者が若干多くなっているが、他の項目に関しては、いずれも「平均的である」か「優位である」と考えている。現在「劣っている」という事業者に関しても、将来的には改善され平均的になるか優位になると考えている。PHSに関しても携帯電話とほぼ同様の傾向を示しているが、携帯電話よりもいずれの項目に関しても若干、「優位である」が減少し「平均的である」の割合が高い。

 

図4−2 サービスエリア内の同業他社との優位性比較(携帯電話)

 

図4−3 サービスエリア内の同業他社との優位性比較(PHS)

 

4.3.主要ユーザーの特性

 各社の主要ユーザーとなっている加入者層を調査した結果を図4−4、図4−5に示す。 携帯電話事業者は、現在、20〜39歳が主要なユーザー層であり、将来的には法人ユーザの吸収を強めたいという意向をもっている。PHS事業者は、最大のユーザー層は20〜39歳であるが、携帯電話に比較すると20歳未満も主要なユーザー層であることが示されている。

 

図4−4 携帯電話事業者の主要加入者層

 

図4−5 PHS事業者の主要加入者層

 

4.4.現在及び将来における最優先課題

 現在及び将来の事業課題について、(1)加入者数の増加を優先、(2)主に加入者からの収入増による収益改善、あるいは(3)主に投資・コストなどの削減による収益改善、のいずれであるかを尋ねた結果が図4−6、図4−7である。携帯電話事業者、PHS事業者ともにほぼ同様の傾向を示しており、現時点では加入者数の増加を優先するという事業者が最も多く半数近くを占めているが、将来的には収入増による収益改善を優先するという事業者が最も多い。事業者の指向が規模拡大から、効率化による経営安定に代わりつつあることがわかる。事業者は、これまでグロスの加入者増に重点をおいた販売方針をとり、格安あるいは無料での端末販売も行ってきた。しかし、最近は安定ユーザーを増やし収益を改善する方向に変わりつつあり、解約率を下げることを目標に販売方法やインセンティブの見直しを行っている。 料金の回収もれをなくすために、これまで十分とは言えなかった加入時の与信チェックを強化する動きもこの一環である。

 

図4−6 携帯電話事業者の優先課題

 

図4−7 PHS事業者の優先課題

 

4.5.サービスエリア展開の現状と判断基準

 サービスエリア展開の現状をみると、携帯電話事業者、PHS事業者ともに、現在でも積極的に展開を進めているという事業者が圧倒的に多いが、その値は、参入時期の方が遅かったPHS事業者の方が10ポイントほど高くなっている(図4−8)。

 サービスエリア展開に際しての判断基準について図4−9、図4−10に示す。傾向としては、携帯電話事業者、PHS事業者ともに、現在はカバー率を重視するが、将来的には密度を重視するという結果が出ている。エリア展開に関しては、中核都市から、周辺に徐々に拡大していくというのが一般的であるが、事業者によっては、一定規模以上の全中小都市に一斉にサービス提供を開始するという戦略をとる場合もある。同一都市では、当初は駅や繁華街などを重点的にカバーし、その後住宅地にエリアを拡大するといった順序で展開を進めている。

 

図4−8 サービスエリア展開の現状

 

図4−9 携帯電話事業者のサービスエリア展開の判断基準

 

図4−10 PHS事業者のサービスエリア展開の判断基準

 


エリア展開には、面的カバー率拡大と、既存エリア内の不感地域の解消や通話可能回線数の増強が含まれる。本稿では単に「エリア展開」という際にはこれらを全て含んでいる。 Return
構成比が大きいものから順に順位づけしてもらい、1位を3ポイント、2位を2ポイント、3位を1ポイントとし、ポイントの累積を構成比で表示した。図4−6、図4−7、図4−9、及び図4−10についても同様の方法を採用している。 Return
解約率は各事業者とも一時期に比べると低下してきているが、無料で端末を手に入れたようなユーザーは、解約に対する抵抗感も少ないことが予想される。実際、サービス開始当初に加入したユーザーに比べ、乱売合戦が激化した時期のユーザーは解約率が高い。 Return

 

5.重回帰分析

5.1.推定のフレームワーク

 データの特性やアベイラビリティを考慮し、次の3つのモデルを推定する。モデルA及びモデルBについては線形モデル、モデルCは多肢選択ロジットモデルとして関数形を特定化している。推定方法は最小自乗法を、説明変数選択の基準は説明変数間の相関係数と偏回帰係数に対するt値を用いた。

A.事業者別モデル
各事業者の加入契約者数を被説明変数として、営業努力とエリア展開が及ぼす影響を分析する。
B.料金プラン別モデル
各料金プランの技術特性を考慮しつつ、サービス毎の加入契約者数を被説明変数として推定を行う。
C.競合モデル
競合他社(他プラン)の特性を考慮し、当該事業者が獲得した加入者シェアを被説明変数として推定を行う。

5.2.事業者別モデル

 推計にあたり、被説明変数である加入契約数として96年度の新規加入契約数を考慮するというオプションと96年度末時点の累積加入契約数を考慮するというオプションとが検討可能である。いずれのオプションが適当かは、加入者の流動性の大きさに依存する。 96年度当時は、事業者間の激烈な加入者獲得競争により、端末料金と新規加入料金が無料とされる例も見られるなど、ユーザにとっての契約変更コストは些少であったことを想起すれば、加入者の流動性はかなり大きかったといえる。 そのため、本稿では、累積加入者数を被説明変数として採用した。最小自乗推定の結果からは、「販売促進費を多量に投入し、エリアの拡大を積極的に行い、設備投資を積極的に行う事業者ほど、さらに当該地域でサービスを長期にわたって提供してきた事業者ほど、加入者の獲得に成功している」という直感とも齟齬のない結果が得られた(補正R=0.945,F(5,52)=195.207)。

 この分析をより精緻化するため、F検定10の結果を参考にしつつ、全標本を表5−1に示す3つのグループに分類し、グループそれぞれについて次のような知見を得た。まず、第一グループについては、販売促進費のみが有意な説明変数であることが示され、エリア展開が一定の段階に達した事業者間での競争は販売促進費の多寡がその帰趨を左右することが示唆された(補正R=0.552)。次に、第二グループに関する推定結果からは、広告宣伝費と販売促進費及びエリア規模がこのグループ内での加入者獲得に影響を及ぼしていること(補正R=0.899)、第三グループに属する事業者に関する推定からは、販売促進費とサービス提供日数が加入者獲得に大きな力となっていること(補正R=0.911)がそれぞれ明らかになった。

 

表5−1 標本分類
標本属性   分類グループ
NTTグループに属する携帯電話事業者 第一グループ
NTTグループ以外の携帯電話事業者 第二グループ
PHS事業者 第三グループ

 

5.3.料金プラン別モデル

 各サービスの加入契約数を被説明変数として行った重回帰分析からは、「料金水準が低いサービス」、「エコノミー性の強いサービス」、「面積カバー率が大きいサービス」、及び、「トップシェアを誇るNTTドコモグループ、DDIポケット電話グループの提供するサービス」ほど加入者獲得に有利であるという結果が得られている(補正R=0.594,F(5,73)=23.855)。

5.4.競合モデル

 事業者別モデルおよび料金プラン別モデルでは、加入者数が決定される要因として、地域の特性、当該料金プラン(事業者)の特性の2つを検討している。しかし、現在どの地域でも複数の事業者が参入しているため、実際には第3の要因として、地域内競合他社(他プラン)の特性が考えられる。本節では、各事業者の地域内シェアを被説明変数Wとして(2)式によって重回帰分析を試みる(モデル構築の基本的考え方については補論を参照のこと)。

(2)

(但し、Wi:料金プラン i の地域内シェア、V:ある料金プランが個人に与える効用のうち観測可能な要因による確定項、β:推定すべきパラメーター、Xi:料金プラン i の特性。)

さて、通話時間が長い需要層には通話料金が割安な標準的料金プランの方が低廉になるが、通話時間が短い需要層にとっては基本料金が割安なローコール的料金プランのほうが低廉になる。標準的料金プランとローコール的料金プランを一つの効用式で扱った場合、計算された効用でどちらかが大きいとして扱うのは適切ではない。そこで、競合モデルの検討に当たっては標準度に関する主成分得点の正負により、各料金プランを標準的プランとローコール的プランにカテゴライズしそれぞれについて推計を行った。11

5.4.1.標準的料金プランの分析結果

 標準度を示す主成分得点の正負により、標準的タイプに属すると判定されたプランについて推定を行った結果を表5−2に示す(補正R=0.698,F(2,24)=31.107)。符号条件と5%のt検定有意水準を条件に説明変数を選択した結果、面積カバー率と他と比べて大きくかけ離れた提供条件をもつ特定の料金プランを示す特殊プランダミーのみが残った。

 

表5−2 偏回帰係数(標準的プラン)(N=27)
  係数 標準誤差 t値 有意性判定
切片 ―1.038 0.160 ―6.467 1%有意
面積カバー率 5.400 0.610 6.079 1%有意
特殊プランダミー ―2.372 0.890 ―3.889 1%有意

 

5.4.2.ローコール的料金プランの分析結果

 標準度を示す主成分得点が負で、ローコール的と判定されたプランについて推定を行った結果を表5−3に示す(補正R=0.510,F(3,51)=19.759)。PHSは全てこちらに含まれている。符号条件と5%のt検定有意水準を条件に説明変数を選択した結果、面積カバー率、料金水準を反映する主成分得点、提供時間が一日当たり数時間に限定されているサービスを示す時間限定プランダミーのみが残った。自由度修正済み決定係数は0.510であった。決定係数は、5.4.1節に比べて低くなっている。また、料金水準が残っているのが対照的である。これは利用者の選択基準が、標準プランでは料金よりも性能(面積カバー率)であるのに対し、ローコールプランでは料金も重視されていることを示している。これは表5−2と表5−3での面積カバー率に関する偏回帰係数の大きさの違いからも明らかである。また、PHSダミーは有意ではない。

 

表5−3 偏回帰係数(ローコール的プラン)(N=55)
  係数 標準誤差 t値 有意性判定
切片 ―0.828 0.169 ―4.902 1%有意
面積カバー率 1.869 0.478 3.911 1%有意
料金水準 ―0.149 0.478 ―3.933 1%有意
時間限定プランダミー ―3.583 0.038 ―7.497 1%有意

 


契約解除・締結に対するコストが些少であるなどの理由で契約変更に関する加入者の流動性が無限大(契約変更に対する抵抗がゼロ)であれば、現在の累積加入者数は、当該年度の経営努力の賜物である。この場合、累積加入者数を被説明変数として設定するのが適当である。逆に、契約変更に関する加入者の流動性がゼロである場合には、新規加入契約数を被説明変数として取り上げるのが相応しい。 Return
契約事業者を変更することは、電話番号の変更、電話番号のメモリーの更新などを必要とするため、ユーザにとって、全くのコストレスであるとはいえない。 Return
10 F検定についての詳しい解説はPindyck&Rubinfeld[1981],P.123に見ることができる。 Return
11 主成分分析の結果は次表の通りである。欠値のあるデータを除くなどの処理を行っているため、表3−1とは厳密には一致しないが、本質的な違いはない。
  主成分名 1 利用料金水準 2 標準度
  固有値
寄与率(%)
2.219
73.97
0.643
21.45
固有ベクトル 平日昼間(円/秒) 0.919 ―0.301
深夜早朝(円/秒) 0.933 ―0.240
基本料金(円) 0.710 0.704
Return

 

6.総括的な評価

6.1.普及状況

 「普及状況について」における分析から、以下の4点が明らかになった。

@ 急速に普及が進んできた移動体通信事業は既に普及速度のピークを過ぎつつある。また、普及速度のピークはどの地域についても96年度前後であった。
A 最大普及率は全国で36.3%程度と見込まれる。推計された最大普及率は地域によって異なり、東京、名古屋、大阪を含む関東、東海、近畿では40%前後、その他の地域では30%前後となっている。若年層の比率が高い都市部で最大普及率が高い傾向が推察される。
B 普及速度が最大になった時期の早さと、事業者が全て参入した時期の早さには相関が見られる。事業者が多く参入することによって競争が激化し、需要を掘り起こしたことをうかがわせる。
C 最大普及率までの相対的な普及速度は、他の耐久消費財と比較して極めて速い。

 移動体通信の普及は今後鈍化していくため、新規加入者の獲得競争から既存加入者間のシェア争いに競争の重点が移行していくことが予想される。

6.2.料金プランの分析

 現在提供されている料金プランの特徴は、「多岐に渡る料金プランを展開する携帯電話」と「シンプルであるが低廉な料金プランのPHS」という言葉にまとめることができる。料金プラン別の需要の分布のデータからは、携帯電話とPHSのサービスは一定の棲み分けを行っていること、利用者の観点からみるとPHSサービスの導入は選択可能性の拡大という意味があったことが明らかになった。

 料金プランの多様化は、プランに合致した利用者にとって値下げを意味するため、異なった通話特性を持つ利用者の開拓につながる。新たに獲得した利用者が事業者にとって収益を生む顧客層とは必ずしも限らないが、利用者の多様化は通話ピークの分散につながり、設備の有効活用にも寄与する。しかし、料金プランの選択肢が多すぎると、利用者にとって判断が難しくなってしまう恐れがあるため、訴求力がある料金プランを利用者にわかりやすく整理していくことが求められよう。

 料金水準が低いサービスほど契約数が多いという結果も得られている。特に、ローコール的プランでは料金の影響が強い。しかしながら料金に関しては現在の水準が底であるという見方もあり、その場合、これまでのような大幅な値下げは今後期待できず、低廉さのみをシェア獲得の武器とすることは困難である。

 また、料金プラン別の加入数の多寡に最も強く影響を及ぼしたのがカバー率である。PHSの加入数が携帯電話の加入数より小さいことは、エリアの狭さが大きな要因であると見られる。DDIポケット電話グループがPHS市場において有利に競争を進めている理由について、500mWのアンテナをいちはやく投入し、広いサービスエリアを確保したことが有利に働いているとの意見もあった。人口分布は偏っているため、後発の事業者も人口カバー率では大きく出遅れているわけではないが、面積カバー率が大きな影響を及ぼすという今回の結果は、移動体は必ずしも居住地でのみ用いるのではない、ということを示唆している。また、面積カバー率については、単なるエリアの広さということだけではなく、エリア内における不感地帯の解消も重要なポイントとなっている。

 加えて、市場において最大のシェアを有するという事実が加入者数獲得に有利な状況を生み出していることも確認された。提供されているサービスそのものは各社間でそれほどの差は認められないが、トップシェアを持つ事業者は、知名度やブランド力によりサービス内容・品質以上の競争力を手に入れられるわけである。12

6.3.事業者別の経営課題

 第5節の分析結果及びヒアリング調査からは、移動体通信事業者は表6−1のような3つの類型に整理し、それぞれの事業課題を挙げることができる。

 先行安定グループのエリア展開は、単にカバー地域を広げるのではなく、需要密度の高い商業地域でのエリア展開を最も優先するなど、カバー地域よりも密度を優先する傾向がみられる。これは、エリア展開に関し、将来の需要を見越した先行的な投資という面より、顕在化した需要への対応といった面が強いということを示唆している。すなわち、エリア充実が即加入者増につながり、加入者増が収入増をもたらし、エリア充実(と料金値下げ)の原資が獲得され、それが加入者の更なる増加を可能にする、という正の循環が生じていると見られる。このグループの事業者にとっては、現在の先行ポジションを維持しつつ、解約率の低下や乱売を抑制して、収益を上げていくことが課題となる。具体的な方策としては、事業者別モデルで明らかになったように、販売促進に注力することによって既に優位なサービスレベルを十分に活かすことがさらなる加入者獲得につながると思われる。

 後発追い上げグループは、設備投資や料金値下げを他社に先行しては行う余裕は持たない。しかし、先行安定グループとの競争上、設備投資面において遜色ないレベルにキャッチアップしていくことが求められている。少ない事業体力で有効に競争力を確保するため、効果的な投資内容と投資機会を見極めていく必要がある。広告宣伝、販売促進に注力するとともに、営業エリアの規模の拡大を図ることが重要である。

 市場での位置づけが未だ不安定である新規参入グループは、シェア獲得を狙って先行的な設備投資を継続するか、事業体力にバランスした設備投資で時間をかけてキャッチアップするか、のシビアな経営判断を問われる。技術の陳腐化、需要の高度化・多様化が極めて速い移動体通信市場では、既存の蓄積がないことを逆手にとって最新の技術をいち早く取り入れて市場環境に即したサービスを効率的に実現する、あるいは、データ通信など既存事業者と異なった分野での先行を狙うことが有効な戦略として考えられよう。

 また、最近の普及ペースの鈍化から、現在提供されているサービスの最大普及率は、関東、東海、近畿では40%前後、その他の地域で30%前後になるという予想が成り立つ。普及速度が鈍化してくる市場環境を考慮すると、端末安売りに過度に依存した競争状態から、それ以外のサービス内容も含めた競争状態への移行、端末メーカーと事業者間の適正な関係、業界全体の統一的な与信管理などの実現が利用者の便益を生む競争状態の維持にとって重要な課題となってくる。通話需要のみに頼った携帯電話やPHSのトラヒック増は限界があると考え、データ伝送などの新しいサービスに乗り出す動きも顕著である。特にデータ伝送に関しては、インターネットへの対応を充実したりしている。料金体系も、需要喚起型の料金体系として、大口割引やヘビーユーザー向けの格安プランを検討するなど、データ伝送における料金体系の多様化にも取り組んでいる。これ以外にもコンテンツサービスや位置情報検索型のサービスなど革新的なアイデアがいろいろ検討されている。

 一方、現在提供されているサービスの需要層は20代〜30代にかなり偏っていることを考えれば、さらなる発展の余地もありうると見ることも出来よう。より広い利用者層を満足させる料金・サービスの実現は、設備の有効活用という観点からも望ましい。例えば、携帯電話、PHSともに法人ユーザーに比べて圧倒的に個人ユーザーが多いが、個人ユーザーは夜間に通話が集中するため、設備の効率的使用の観点からも、昼間利用が多い法人ユーザーを今後積極的に増やすことが求められている。また、子供向け、高齢者向けサービス、カーナビとの結合、モバイルバンキングなどの新サービスが次々に実現している。13 イリジウムのような衛星携帯電話の実現は、新しい市場を生み出す可能性もある。「一人に一台」という個人需要の喚起や、従来にはない高度移動体通信サービスへの需要の立ち上がりが期待できれば、より一層の普及実現もみこまれよう。

 PHSから携帯電話への利用者の流出は、携帯電話との対比の中で、PHSの魅力が相対的に落ちている、ということに原因があり、PHS全体のイメージアップが重要である。「料金が安い携帯電話」として営業を展開してきたPHS事業者は、携帯電話各社の相次ぐ値下げ攻勢により、マーケティング戦略の大幅な見直しを迫られている。特に、PHS事業については、その技術的特性を活かし、データ通信サービスなどの特色あるサービスを充実させるなどの方策が必要である。PHSをLAN端末として活用する新規需要も期待できよう。本年8月、PHS事業者は文字通信機能の共通化を発表したが、今後このような企業横断的な付加サービスの一層の拡大も必要である。エリア展開についても、単に携帯電話に対抗してカバー率を広げるだけではなく、地下鉄や公共施設の構内など、PHSの強さを生かせる部分を強化していく選択肢を考慮すべきである。

 ちなみに、普及速度は96年度前後をピークに鈍化してきているが、通話利用量は依然として伸びていることは注目に値する。携帯電話からの通話回数は97年度174.5億回(対前年度59%増)、通話時間は4.6億時間(対前年度73%増)に達し、PHSからの通話も38.6億回(対前年度104%増)、1.1億時間(対前年度110%増)となっている。これは、一時的な新規加入ブームが落ち着き、実際の経済活動・ライフスタイルに根差した底固い移動体通信需要が姿を表しているものと解釈できよう。

 

表6−1 事業者の類型
グループ名 定義と特徴
先行安定グループ  当該市場に他社に先んじて参入し、既に優越的なシェアを獲得したグループ。新規参入事業者からの競争にさらされている。
後発追い上げグループ  事業として成り立ちうる見込みが一応立ち、当該市場におけるシェア拡大を目指している段階。相互間での競争優位の獲得とともに既存のトップシェア企業に競争力などの面で追いつくのが目標。
新規参入グループ  サービスの提供を開始した直後、あるいはサービスの提供を開始したもののクリティカルマスを超えるに至っていない段階。他社の動向はともかくとして自らの事業の足場を確固たるものにすることが当面の課題。

 

6.4.支援措置の必要性

 今回の分析からエリア展開が加入者の獲得に重要であることが明らかになったが、エリア展開のための設備投資はどの類型の事業者にとっても大きな負担になっている。エリア展開は収益率が高い地域から順次行われ、ほとんどの事業者は今後、需要密度が低く投資効率の悪い地域にエリア拡大を進めていく段階に達しているが、十分な収益が見込み難い地域への設備投資はリスクが大きい。PHS事業者の中には、投資効率の悪い地域へのエリア拡大はほどほどにして、今後は建物内や家庭内を充実させるという方針に転換している事業者もある。また、サービス開始が後発になればなるほど、短期間に集中して設備投資をする必要があり、事業者にとって償却負担が大きくなっている。さらに、最近ではビルなどに基地局を作ろうとしても、先行の事業者に先に設置されていたり、反対運動があったりと条件が悪くなっており、ビルのオーナーとの交渉に難渋している例も増加している。複数事業者の競争状態を維持しつつ、より一層のエリア展開を進めていくためには、無線局設備の設置支援、他事業者との鉄塔設備などの共同利用促進などの政策的支援措置が有効と考えられる。ネットワークの大部分を 他に依存しているPHSについては、ネットワーク接続のコスト設定やサービス導入までのスピードアップを図る措置も有効であり、不感地域の減少のための技術基準の改正なども考慮の余地があろう。

 既存の移動体通信サービスへの需要は間もなく一巡すると見られることから、新サービスの導入支援も重要である。超高速マルチメディア移動体通信技術や次世代LEOの研究開発を行うとともに、事業者の投資リスク軽減のために技術の国際的標準化が求められる。次世代移動通信システム(IMT−2000)については99年中に、国際電気通信連合において、基本仕様に関する勧告が作成される見通しであり、政府の積極的な取り組みが期待される。

 移動体通信の進展は生産要素である周波数資源の逼迫をもたらす。そこでは、周波数利用効率の高い通信サービスの導入を推進するという観点も必要となる。さらに、過疎地域などの条件不利地域の生活の利便性を向上し国土の均衡ある発展を図るという観点からは、移動体通信事業のカバー区域の一層の充実・拡大を忘れることはできない。

6.5.残された分析課題

 調査時点ではバラエティに乏しかったPHSのサービスプランも、現時点においては多様化が大きく進んできており、定額制サービスや時間帯割引サービス、あるいは、通話先限定サービスを提供し、また、主婦や子供といった新たなユーザー層への利用の拡大を狙った様々な特色を打ち出している。また、利用形態についても、近年、データ通信のトラヒックが増加してきている。携帯電話についても一定時間までの通話に対しては定額制の料金体系をとるものや、長期加入者を対象とした割引も増加している等、事業環境は大きく変貌しつつある。これらの変化を取り込んだ分析を行うことが今後期待されよう。

 また、本稿では、加入数を説明変数とするモデル、競合を考慮したモデルの構築を行ったが、必要なデータ毎に区分がサービスエリア毎、事業者毎、料金プラン毎とまちまちであったため、精度の高い計算が行えなかった。より詳細な分析を行うためには、データの体系的な整備が必要である。

 


12 利用者が多いことが、トップシェアの事業者に巨大な購買力を与え、そのことが端末機器製造メーカーへの影響力の行使を可能にする。そのため当該事業者は、新サービスや新端末をいちはやく導入でき、有利な競争環境を享受しているという意見も多い。 Return
13 若年層は通話需要も旺盛であるので、事業者にとっては「よい顧客」と言えるが、低年齢化とともに、「お小遣い」では料金を払えないという事例も増えており、普及を進める上での障害となっている。このため、未成年の加入に際しては保護者の承諾を得ることを徹底する事業者や、上限料金を設定したり、通話相手先を限定するサービスを開始している事業者もある。 Return

 

【参考文献】

実積寿也・外薗博文・高谷徹「移動体通信事業の現状分析」郵政研究所ディスカッションペーパー・シリーズNo.1998−06、1998年。

Pindyck, Robert S. and Daniel L. Rubinfeld. Econometric models and economic forecasts (2nd. Edition). New York: McGraw-Hill, 1981.

 

補論 多肢選択ロジットモデルについて

 多肢選択ロジットモデルでは、個人がJ個の離散的な選択肢から選択肢iを選ぶのは、その選択肢によって与えられる効用Uiが他の選択肢によって与えられる効用よりも大きい場合、すなわち、iとは異なる全てのjについてUi>Ujの場合であると仮定される。Uiが確定していれば、同じ属性を持った個人が選択する選択肢は全て同じとなる。しかしながら、Uiが確率的に変動するとすれば、個人がiを選択する確率Piは(1)式で与えられる。

(1)

 次に、選択肢iの与える効用を観測可能な要因による確定項Vと観測不可能な要因により確率的に変動する部分εに分けて(2)式のように表現する。

(2)

 ここで、Xiは選択肢iの特性、Sは個人の社会経済的属性、βは未知のパラメータである。さて、確率項εの分布は様々なものが考えられるが、ロジットモデルではガンベル分布を仮定する。14 その結果、Piは(3)式のようになる。

(3)

(3)式が多肢選択ロジットモデルであり、本稿の取り扱うケースにこれを応用すると、ある料金プランiの累積加入数の地域A内シェアWiは結局以下の(4)式で与えられることになる。集計値に対して適用するので、個人属性に関わる項は存在しない。

(4)

ここでVを(5)式のような線形式として特定化する。但し、x〜xnはiの特性を表す変数である。

(5)

(5)式が地域を問わず同じ形(係数)であると仮定すると、地域A、B、C、・・・についてその地域内のある事業者の料金プランjを基準として用いることで、

(6)

として線形化することが出来る。これに最小自乗法を適用して(6)式の係数を求める。本稿における分析では被説明変数として、アンケートから得た料金プラン毎の加入者数を対象営業エリアの携帯電話及びPHSの合計加入者数で除したシェアを用いた。また、説明変数として取り上げる料金項については多重共線性の問題を回避するため、主成分得点を計算して説明変数としている。

 


14 正規分布を仮定した場合はプロビットモデルとなる。プロビットモデルはパラメータの推計が煩雑になるため、正規分布近似のガンベル分布を用いたロジットモデルが広く用いられている。
Return