(クリエイト・クルーズ・1994.10.発行)

「マルチメディア社会を支える 徹底研究メディア・ソフト」


                                編:郵政研究所
1 本書の目的と構成
 技術革新や利用者ニーズの多様化によって、メディア・ソフトの形態は複雑化、多様化してきており、その実態は必ずしも明らかではない。そこで、本書は、メディア・ソフトの制作・流通構造についてソフトそのものの視点からできるだけ定量的に整理・分析したものである。
 第1部でメディア・ソフト市場の全体像について、第2部で個別のメディア・ソフト市場の現状と動向について、それぞれ整理・分析した状況をまとめている。
2 実態把握フレームの策定
 本書では、まずメディア・ソフトについて定義、分類し、その上で実態把握の枠組みを策定している。ここでは、メディア・ソフトを「各種のメディアを通じて広く人々に利用されることを目的として作成・流通する情報ソフト」と定義し、さらに、それが「何らかの市場を形成しているもの」すなわち「その流通が経済活動として行われていること」という条件を加えることとした。
 具体的なメディア・ソフトとしては、映像系、音声系、テキスト系に大別される16のソフトが対象となる。次に、これらのソフトと各メディアとの関係を整理し、メディア・ソフトの制作・流通実態を定量的に把握するための枠組みを策定した。
3 メディア・ソフト業界構造の現状
 メディア・ソフトの制作・流通構造を捉えるためには、まずその業界構造を整理する必要がある。各メディアによっていろいろなパターンが存在するが、本書に掲げたような構造モデルが考えられる。これをみると、・マスメディア事業者、・ソフト制作業者、・ソフト流通業者、・広告代理店、・ソフト製造業者など多くの者が関係していることがわかる。
 業界構造をみる上で、最近の変化として「メディア・ソフトの制作と流通の分離」を踏まえておく必要がある。これは、制作の外部委託とマスメディア事業者のサービスの単純化である。
4 メディア・ソフト制作の現状
 初めに「制作」について定義し、その上で制作の規模を「制作費」という金額ベースと「制作量」の二つの視点から捉えている。ここでは制作を「メディア・ソフトの原盤が完成するまでの過程を指すもの」とし、印刷やレコードプレスなどの商品としてのパッケージの製造は含まないものとした。  この範囲で制作の規模の概要を取りまとめると次のとおりである。
 なお、数値は、原則として平成4年度のものを用いたが、データの制約上、一部これによらないものがある。(以下「流通」も同様である)。
(1)制作金額(約3.6兆円)
   映像系ソフト   約2.0兆円(55.1%)
   音声系ソフト   約0.4兆円(11.4%)
   テキスト系ソフト 約1.2兆円(33.5%)
(2)制作量
   映像系ソフト   約26.5万時間
   音声系ソフト   約50.4万時間
   テキスト系ソフト 約4.4千頁(B5判書籍換算)
(3)個別ソフトの状況
 制作金額・制作量について、形態別にその内訳をみると、映像系ソフトではテレビ番組が79.8%(75.0%)、音声系ソフトではラジオ番組が64.5%(96.4%)、テキスト系ソフトでは新聞が44.6%(32.4%)とそれぞれ一位を占めており、多少構成比は異なるが、制作金額・制作量とも形態別の第一位は変わらない。(注:前者は制作金額、後者の( )内は制作量でみた各比率)
5 メディア・ソフト流通の現状
 流通の現状を把握するために、ソフトが一つのメディアだけではなく、多目的に利用されるようになってきている、いわゆる「ワンソース・マルチユース」のソフト流通実態を踏まえた市場構造モデルを考え、次のような市場を設定している。
 ・ 一次流通市場
 ・ 二次利用市場(マルチユース市場と素材利用市場とに区別)
 ・ 海外市場
 ただし、ここでは市場が未成熟であったり、データの制約から、素材利用市場及び海外市場については検討が不十分であるので、詳細な説明はしていない。
 流通市場の現状についても、「制作」同様、金額規模及び流通量の二つの視点から捉えることができる。流通市場の規模を捉えた概要は次のとおりである。
 (1)市場規模(約10.1兆円)
  〔流通段階別〕
   一次流通市場   約9.0兆円(89.0%)
   二次利用市場   約1.1兆円(11.0%)
  〔ソフト形態別〕
   映像系ソフト   約3.5兆円(34.5%)
   音声系ソフト   約1.0兆円(10.0%)
   テキスト系ソフト 約5.6兆円(55.5%)
 (2)流通量
   映像系ソフト   約1,400億時間
   音声系ソフト   約250億時間
   テキスト系ソフト 約8.1兆頁(B5判書籍換算)
 (3)個別ソフトの状況
 まず市場規模について、流通段階別にその内訳をみると、一次流通市場ではテレビ番組と新聞記事が2兆円を超えて市場規模が最も大きく、これに雑誌ソフトが続いている。二次利用市場では、テレビ放送、ビデオなどへのマルチユース化が進んでいる映画ソフトが約0.4兆円で市場規模が最も大きく、これにコミックが続いている。次に市場規模・流通量について、形態別にその内訳をみると、映像系ソフトではテレビ番組が93.0%(62.4%)、音声系ソフトではラジオ番組が92.2%(35.6%)、テキスト系ソフトでは新聞記事が76.4%(38.8%)となっており、最も大きく、いずれも流通市場規模でみた比率より高くなっている。(注:前者は流通市場規模、後者の( )内は流通量でみた各比率)
6 メディア・ソフト制作・流通構造の分析
 このように、制作及び流通の構造をみてくると、いくつかの点が整理できる。
(1)ワンソース・マルチユースの進展状況
 本書では主要メディアで各ソフトがどの程度流通しているかを定量的に整理した。
 まず、映像系ソフトについては、映画ソフトが一次流通市場である劇場上映のほか、テレビ、ビデオ、衛星放送、CATVの各メディアを通じて二次利用市場に広く流通しており、マルチユースが進んでいることがわかる。次に、音声系ソフトについては、詳細な分析は困難であるが、音楽ソフトのマルチユースの状況はみることができる。テキスト系ソフトについては、いろいろなメディアでのマルチユースが発生していることがわかる。特にコミックではマルチユースが定着している。また、最近では、電子出版やオンラインDBによる利用も目立っており、テキスト系でのマルチユース環境が整いつつある。
(2)主要ソフトの拡大率の比較
 主要なソフトについて、一年間にソフト制作量の何倍のソフト流通量があったかを示す「拡大率」を比較すると、一次流通市場では、テレビ番組の拡大率が66万倍と最も大きく、これにコミック、新聞記事が続いている。しかし、マルチユース市場では、映画ソフトの拡大率が920万倍と突出して高く、映画ソフトが多数のメディアで繰り返し利用されていることが数値の上に如実に表れている。
(3)主要ソフトの制作・流通単価の比較
 主要ソフトの制作単価及び一次流通単価を算出したところ、映像系・音声系では映画ソフトの制作単価が最も高い。また、新しいソフトであるゲームソフトやマルチメディアソフトの制作単価及び流通単価が高いのが目立つ。テレビ番組では、制作単価及び流通単価がいずれも相対的に低い。テキスト系ソフトでは書籍ソフトの制作単価が低く、流通単価が高くなっている。
 制作・流通単価について、同じ単位で捉えるために、形態別に各ソフトの単位格差をみると次のようになる。
  〇映像系・音声系ソフト
   ・制作単価  映画>ゲーム>マルチメディア>音楽>ビデオ>テレビ番組
   ・流通単価  マルチメディア>ゲーム>音楽>映画>ビデオ>テレビ番組
  〇テキスト系ソフト
   ・制作単価  コミック>新聞>雑誌>書籍
   ・流通単価  書籍>雑誌>コミック>新聞
7 メディア・ソフト市場の課題
 以上の結果から、メディア・ソフト市場には次のような構造的な課題があることが、データの上からも明らかになった。
 ・多メディア化と言われているが、まだ不十分であり、一部のソフトを除きマルチユース市場は未成熟であること。
 ・ソフトの種類によって制作単価に格差がみられるが、この格差はマルチユース市場が未成熟のためより拡大されているとみることができる。
 ・このような制作単価の格差は、制作されるソフトの質にも影響していると考えられる。その結果、多メディア環境が進む中で、一部のソフトへの需要の集中、利用価値のあるソフトの絶対量の不足という問題に結びついているといえよう。
 したがって、メディア・ソフト市場の健全な発展を促すためには、メディア・ソフトの充実に向けての支援とともに、メディア相互のバランスがとれた多メディア環境を意識的に実現していく方策が望まれる。

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