「公益企業の料金理論」


                         箸 :スティーブン・J・ブラウン
                            デーヴィッド・S・シブレー
                          監訳:三友 仁志(*1)
                         訳 :白金 郁夫(*2)、木村 順吾 (*3)、
                            八田 恵子(*4)太田 耕史郎(*4)、
                            大村 真一(*4)

 本書は、電気通信サービスの効率的料金形成原理に関する数理経済学的アプローチを体系的に整理
しているほか、厳格な前提条件の下での経済学モデルと現実の経済現象との差異、あるいは現実社会
における利害対立解決の要請といった要素も念頭に踏まえた上で、従来の理論一辺倒の見解に批判を
加えつつ、電気通信料金について若干の現実的な政策提言を行っている。

 まず、第2章では、次章以下で用いる基礎的な経済学理論(例:限界概念、消費者行動、生産者行
動)について難解な表現を避けつつ簡潔に解説している。

 第3章では、規模の経済性の働く産業において独立採算、つまり収支制約を受ける中で効率的な料
金設定を行おうとすれば、需要の価格弾力性を勘案したラムゼイ料金(逆弾力性料金)となることを
紹介している。ただし、このラムゼイ料金は、理論上の効率的資源配分を超えて、巧妙な価格差別や
略奪的料金設定が行われる危険性もある。そこで、その際の内部相互補助判定基準についても吟味し
ている。内部相互補助検証のために従来規制庁が採用してきた「完全配賦費用基準」は、経済学者か
ら、1.料金形成の効率性を無視している、2.恣意的で理論的基礎がない、3.それでも内部相互補助は
防止不可能であるとの批判を受けてきたものの、ゲーム理論や公理的アプローチといった近年の理論
的発展の下で再評価してみると、完全配賦費用基準それ自体「サブシディ・フリーな(内部相互補助
がない)」基準であり、修正されたオーマン・シャプレイ料金として理論的基礎もあることを証明し
ている。

 これを受けて、第4章及び第5章では、コストに差がない場合でも大口割引料制(例:逓減ブロッ
ク料金、選択的料金、滑らかな非均一料金)が正当化され得ることを理論的に証明している。また、
第6章では、非均一料金体系は、大口・小口すべての消費者及び企業にとって望ましい料金を提示す
ることができるので、再販を認容することで選択可能な料金体系の組合せを減少させ、小口消費者の
厚生を損失させることよりも優れているとしている。さらに、独占事業者がこの再販波及効果を勘案
して効率的な料金形成を行えば、実際の第一種事業者の参入がなくとも競争環境と類似の料金形成が
行われる可能性はあるものの、現実にはそこで前提とされているコンテスタビリティ理論が現実世界
において成立し得ない特殊な条件の下に構築されていることから、独占事業者に必ずしも効率的料金
形成を期待できないことも付け加えている。

 第7章では、AT&TのMTS(一般通話サービス)とWATS(広域通信サービス)のデータを
用いて、第4章及び第5章で示した料金体系がもたらす厚生状態についてシミュレーションを試みて
おり、非均一料金が大きな厚生をもたらすことを実証している。最後に、政策立案に当たっては、経
済的効率性のほかに社会的倫理(所得分配上の公正)も勘案する必要があり、ライフラインやユニバ
ーサルサービスといった社会的弱者への補助も、ネットワーク全体維持の観点から見てネットワーク
費用を幅広く万人で共有できる点で適切であることも付記している。


(*1) 特別研究官(専修大学助教授)(*2) 通信経済研究部長
(*3)同主任研究官(*4)同研究官