第11号(日本評論社・1995.11.発行)

『社会資本の生産性と公的金融』

                 編著:*1 三井  清、*2 太田  清
                 執筆:*1 三井  清、*2 太田  清、*3 井上  純、
                    *4 河内  繁、*5 竹澤 康子、*6 山崎 勝代
 公共投資と社会資本整備の問題は、この数年間にわたって、もっとも白熱した議論が展開されたテーマのひとつであろう。1980年代終盤あたりから、それまではやや見落とされがちであった「国民生活」面の課題に注目が集まりはじめ、政策の視点は「生活者重視」へとシフトしていった。そうしたなかで、とくに生活関連の社会資本の立ち遅れが目立つとのことから、社会資本整備への関心が高まることとなった。
 また、1990年には、日米構造協議をも受けて、政府は、10年間で総額(名目)430兆円の公共投資を行うとした「公共投資基本計画」を策定した。このときの米国側の関心のひとつは経常収支への影響にあり、日本が社会資本整備を増額すると、経常収支の黒字を縮小させる効果を持つと期待していた。
 その後、91年半ばから、日本経済は、「バブル」崩壊後の大きな景気後退を経験することになったが、この時には、景気を下支えすべく公共投資が積み増されることとなった。さらに、94年10月には、「公共投資基本計画」が改定され、今後10年間で630兆円の公共施設が行われることとされた。
 しかし、公共投資をどの分野にどれだけ配分するかという点に関しては、政治的な事情もあって、かなり硬直化し、大幅に変更することが困難となっていることが、とくに近年では問題となっている。
 一方、21世紀になると、わが国は本格的な高齢化社会を迎えることとなり、貯蓄率が低下していく可能性が強いとみられている。このため、貯蓄余力のある今のうちに、積極的に社会資本整備を推進すべきであるといわれている。これは、貴重な貯蓄を国内に向けるのか、海外に向けるのか、国内であれば、民間資本に投資するのか、社会資本に投資するのか、という選択の問題に関わっている。
 このような貯蓄の配分を決めるには、それぞれの投資がどれだけのリターン、便益を生むのかを考慮する必要がある。しかし、社会資本整備の経済効果としては、その需要面の効果はマクロ的にも従来から計測されてきたが、社会資本ストックがそれ自体としてどれほどの便益を生むのかという供給面の効果については、マクロ的な計測が十分行われてきたとはいえない。つまり、社会資本整備が、その供給面の効果を通じてマクロ経済や財政バランスの中長期的な経路にどう影響していくか、ということなどは分析されていない。
 本書の主たる対象となっている研究テーマは、こうした要請に応えようというものである。すなわち、社会資本の持つ供給面の効果のうち、民間部門の生産活動に対する寄与の大きさ、具体的には民間部門の生み出すGDPをどれだけ増加させているのかという、社会資本の生産力効果を、生産関数を求めること等を通じて計測している。さらに、そうした効果を通じて経済にどのような影響が及んでいるのかを計測している。
 なお、このような研究は、米国では一歩早く進められた。社会資本整備のテンポが、経済全体の生産性向上のテンポと関わっているとする研究結果は、「情報スーパーハイウェイ構想」をはじめとする、クリントン政権の社会資本重視の政策にも影響を与えたといわれている。
 また、社会資本整備においては、郵便貯金、簡易保険等の資金を原資とする財政投融資資金が財源として重要であるが、その財政投融資資金は、政府系金融機関を通じて民間部門等にも貸出されている。本書のもう1つのテーマは、こうした公的な金融仲介システムによる貸出いわば政策金融とその役割である。
 本研究は、郵政省郵政研究所が1991年秋以来取り組んできた4年間の研究成果である。

*1 特別研究官(明治学院大学助教授),*2 第二経営経済研究部長,*3 同部研究官(現国民金融公庫総合研究所),*4 同部研究官(現国民金融公庫総合研究所),*5 同部研究官(現主席研究官付研究官),*6 同部主任研究官(現郵政省通信政策局地域通信振興課)