郵政研究所研究叢書



                                       第13号(日本評論社・1996.3.発行)

『女性の就業と富の分配−家計の経済学』

                         著者:*1 松浦 克己、*2 滋野由紀子
 本書は、家計の抱える個々の課題がどうなっているかを、家計の他の問題とどう関連しているかに注意を払って取り上げたものである。その行動が日本の社会経済にどう影響するか、逆に社会システムからどう影響されているかにも注意を払った。
 前半部分では、女性の就業に関連する問題を取り上げる。その理由は、女性(既婚女性)の雇用の場への進出が、家計の行動を大きく変えるのではないかと予想したからである。男性(夫)にとって働くことは当然の前提であろう。出産、子供の教育、貯蓄、住宅の取得、老後生活の計画は、多くの家計にとり男性が働くことを見越して意思決定されているであろう。社会制度についても同様である。それは、税制や年金、社会保障など法律として目にみえる形のシステムについても、あるいは雇用慣行なども目にみえないシステムについてもいえるであろう。
 後半では所得や富の分配の問題を取り上げる。所得や富は家計の経済行動の帰結である。また同時に現在と将来の家計の行動を左右する出発点である。所得や富の分配の平等が確保されていることは、その社会の安定と成長に重要であろう。しかし、かつて先進国で最も平等といわれた日本の分配が揺らいでいるのではないかという疑問が、所得と富の分配に焦点をあてた理由である。

*1 官房専門調査官、*2 客員研究官(大阪大学助手)