第15号(日本評論社・1996.6.発行)

『ネットワーク未来−新しい経済・経営の見方』

                             著者:*1 辻 正次、*2 西脇  隆
 本書での中心的な概念はネットワークの経済性である。それは、ネットワークに参加する主体が多く、相互交流の度合いが多いほど、また参加者の専門性が高くなるほど、ネットワークに参加することによるメリットが大きくなることをいう。参加者が企業であればその生産性は高まり、個人であればネットワークに参加することによる効用がより増大するのである。この経済性は、またネットワークの外部効果とも呼ばれる。
 もちろんネットワークは、上述のような定義では人類とともに発生し、それがもつ重要性は時代時代により変化してきている。農業の時代には農業に適したネットワークが、工業の時代にはそれに適したネットワークが誕生し、形成された。それぞれのネットワークは、導入、成長、成熟、そして衰退とライフサイクルをたどる。一つのネットワークのライフサイクルも興味ある考察対象であるが、ネットワーク間の競争や、融合といった、ネットワークをめぐるさまざまな関係、あるいはダイナミズムといってよい激しい動きが、経済や企業経営に大きく影響する。これは逆に、新しいネットワークを先取りする経済、あるいは企業が、今日のメガ・コンペティションと呼ばれる大競争の時代を生き残れるのである。
 事実、1990年代に入ってからの日本経済や日本企業のパフォーマンスの悪化は、このようなネットワークの観点からも分析することができるのである。本書では、ネットワークの変遷を支配する要因はなにか、今日のグローバル化する経済・経営のなかではなにがそれに相当するのか、日本の経済・経営は激動するネットワーク・ダイナミクスのなかで生き残れるのか、そのための方策はなにか、これらを解明するのが目的である。
 これらを明らかにするために、本書は、次の3部から構成されている。
 第1部では、ネットワークの定義を与え、ネットワークの経済性、あるいはネットワークの連結、競争、融合などを中心に、ネットワークのダイナミズムについて分析する。
 第2部では、ネットワーク理論を応用して、現在の日本が抱える経済・経営・地域での課題と、それがなぜいま問題かを明らかにする。また、過去の経済性の変遷や、米国・ドイツとの国際比較をも行う。
 ネットワークの未来はどうあるべきかは、最後の第3部で展開される。これからのネットワークの理想を実現するには、個人、企業、政府、大学はなにをすべきかについて考察する。
*1 特別研究官(大阪大学教授)、*3 第三経営経済研究部長