銀行業におけるデッドウェイトロスの計測



                                   特別研究官(大阪大学教授)  筒井  義郎
                                     第二経営経済研究部研究官  松浦  秀樹

  当論文の目的は従来の推定方法に改良を加え、日本の貸出市場におけるデッド
ウェイトロスの大きさを推定することである。従来のデッドウェイトロスの推定方
法は独占の利潤最大化の条件を用いるもの(以下、方法1と呼ぶ)と用いないもの
(方法2と呼ぶ)の2つに大別できる。当論文は基本的に方法1に従い、それを、

  a)銀行の限界費用一定という仮定をゆるめる、

  b)対数線形の貸出需要関数と費用関数を仮定して、デッドウェイトロスの面積
    を正確に計算する、

という2点で改良を試みる。

  実証分析の結果は、

 1.貸出市場における地銀・第2地銀のデッドウェイトロスは、1975年から
   89年の期間では、貸出収入の1〜3%程度である。

 2.超過利潤は正常利潤の13〜20%程度である。

 3.従来の方法1に従ってデッドウェイトロスを推定すると、それは貸出収入の5
   %程度である。

  また、従来の方法2によると0.1〜0.3%程度である。

と要約される。

  従来、デッドウェイトロスは極めて小さいと考えられることが多かったが、それ
は方法1がしばしば過大な推定値を与えるために、方法2の推定結果に基づいて判
断されたためである。当論文の結果は、上記のような改良を施せば、方法1による
推定によっても妥当な結果を得ることが可能であり、その値は従来の方法2の推定
値よりもかなり大きいことを示唆している。したがって、方法2の推定結果に基づ
いて「デッドウェイトロスは小さい」と考えてきた従来の通念には、再検討の余地
がある。