戦前期日本の金融 −パフォーマンスとその評価−



                                           第二経営経済研究部長  原田  泰
                                       第二経営経済研究部研究官  堀内  聡


1  戦前期の日本の金融は、一般に混乱と失敗のイメージで語られることが多い。
  しかし、金融資産のGNPに占める比率を見ると、極めて高い値を示しており、
  戦前期の日本の金融が、高度に発展していたことを示唆している。例えば、M3
  の対GNP比のピークは1928年には1を超えていたが、戦後1を超えるのは
  1960年代半ばになってからである。

2  戦前期日本の金融規制は、極めて緩やかであり、金利は自由に設定され、業際
  規制も存在しなかった。日本の銀行はユニバーサル・バンクだったのである。銀
  行を規制する「銀行法」が施行されたのは金融恐慌後の1928年になってから
  である。

3  取付けにあった銀行を見てみると、単なる流動性リスクに対応できなかったの
  ではなく、信用リスクに対応できていなかった。特に、中小銀行は高い金利を提
  供するなどリスキーな経営を行っていた。

4  しかし、人々はリスクを承知しながら預金を行っていた。繰り返された銀行救
  済によって危険資産としての認識に欠けるようになったのである。

5  結局、戦前期の金融混乱は自由な金融制度の帰結でなく、自己責任のない自由
  の帰結であったのではないだろうか。