(第6号 1995.3.発行)

『資産の蓄積と遺産・相続の実態』

                          特別研究官(一橋大学教授) 高山 憲之
                         特別研究官(新潟大学助教授) 麻生 良文
                           第二経営経済研究部研究官 宮地 俊行
 本稿では郵政研究所が1992年12月に行った調査(「家計における金融資産選択に関する調査」)をもとに遺産動機や相続の実態について分析を行っている。
 分析の結果、以下のことが明らかになった。まず高齢者ほど遺産動機が強いことが確認された。世帯主職業別でも地方別でも遺産動機に違いがみられ、遺産動機が強いのは、職業では農林漁業を含む個人業主や法人経営者であり、地域では北陸・東北・東海・四国地方であった。
 また持家世帯の方が非持家世帯に比べて明らかに遺産動機が強かった。ただし土地資産を持っているから遺産動機が強いのか、遺産動機が強いために土地資産を取得したのか、どちらであるのかわからない。遺産動機がある場合、相続税制上有利な土地資産の保有割合を高めるということは容易に想像できる。一方、土地資産は事実においても資産運用上最も有利な資産であった。土地をたまたま保有した世帯が土地の値上がりによって遺産動機を強めたということも考えられる。
 遺産動機の種類については、純粋に世代間利他主義と思われる回答はほとんどみられず、戦略的遺産動機やjoyofgivingが多かった。
 相続・贈与の経験および予定があるのはほぼ4割程度であった。相続の経験および予定の有無別に遺産動機の有無をみると、両者の間にはかなりの相関があることが認められた。遺産動機のある世帯は、相続経験のある場合には74%であるのに対し、経験はなく予定のみある場合には64%、経験も予定も無い場合には44%であった。
 また総資産に占める相続資産の割合は不動産のみに限ると、およそ34%であった(Barthold-Itoよりやや低い)。実際に相続を受けた世帯では、その相続額の平均値は5,300万円であった。そして、相続した不動産の取り崩しがきわめて少ないことも明らかになった。