(第7号 1996.7.発行)

『既婚女性の就業パターンと家計の状況・貯蓄率』

                          特別研究官(一橋大学教授) 高山 憲之
                          主任研究官         山崎 勝代
                          研究官           桜井 俊行
 女性の労働力率は1975年以降徐々に上昇してきており、特に既婚女性の労働力率上昇が目立つ。一方、家計の貯蓄率は石油ショック直後は上昇したが、その後は緩やかに低下してきている。女性労働力の上昇は家計貯蓄率低下の一因になっているのだろうか。
 本章では、まず1989年に実施された「全国消費実態調査」の個票データを用いて、フルタイムかパートか専業主婦かという就業パターン別に既婚女性の就業状況および家計の状況を調べる。そしてそれを1984年時と比較する。さらに既婚女性の就業情況が家計の貯蓄率にどのような影響を与えているのかを就業パターン別に検証する。
 1984年と1989年を比較すると、既婚女性の有職率は横ばいだったが、フルタイムの比率は高まり、女性の勤労収入も伸びている(フルタイムの伸び率は20%、パートは23%)。ただし男性の勤労収入もいわゆるバブルの時期で伸びており、家計収入全体に占める女性勤労収入の割合は両年ともほぼ同じであった。また、女性年齢階層別・家計年間収入階層別・就業パターン別に消費支出年額を比較すると、フルタイム世帯と専業主婦世帯の間で約55万円の差があった。そして、その差となる消費支出項目は就業に伴うものが多い。
 さらに貯蓄率の決定要因を分析した。家計全体の可処分所得が同じであるとすると、30歳代から40歳代では専業主婦世帯に比べてフルタイム世帯の方が貯蓄率は1.4%から3.6%低い。他方、同じ年齢階層における平均貯蓄率はフルタイム世帯の方がほぼ6.3%から10.2%高い。女性が就業すると消費支出が増大するものの、そのマイナスの貯蓄効果は(女性の就業に伴う)所得増の貯蓄増大効果より小さい。
 以上の考察結果から70年代後半以降における貯蓄率の低下スピードは女性の就業により緩和されていたと示唆しうる。


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