『日本の通話トラヒックの特性分析』


                             通信経済研究部研究官 山崎  健
                                    研究官 今川 拓郎

 本研究は、平成2年度の通話トラヒックデータに基づき、全国地域間の通話トラヒック交流の実態
について、通話圏、通話にみる情報の階層構造、重力モデル分析、通話の諸特性等の視点から明らか
にしている。

1 通話トラヒック交流の現状

 (1) 通話特性による通話圏の分析

   各MA(通話単位区域)ごとにMA内通話終始率・隣接MAグループ内通話終始率・同一都道
  府県内通話終始率を求め、東京特別区・名古屋市・大阪市を中心とする大都市圏での隣接MAグ
  ループや都道府県を越えた広範な通話圏と、自MAの範囲が通話圏とほぼ合致している他方圏と
  の状況を分析している。

   また、通話範囲をMAから隣接MAグループ及び都道府県に広げた場合、平均的にはその通話
  完結度は増すものの、大都市圏とそれ以外の地方圏では通話完結度の程度は異なっている。

(2) 主要都市向け通話とその影響力の分析

   主要都市向け通話率(閾値=1%)を求めることにより、主要都市が地域に及ぼす影響力を分
  析している。例えば、東京特別区は全国に対して、大阪市は西日本の地域に対して地域ブロック
  越境的な影響力を有しているのに対し、名古屋市の影響力は東海を中心とした地域に限られてい
  る。また、仙台市・福岡市等の地方中枢都市は、各地域ブロック内に影響力を有しているが、そ
  の影響力は地域全体に及んでいるわけでない。その他の県庁所在地都市は、同一県内のみに影響
  力を有する場合と同一県内のほか近隣県にまで影響力を有する場合がある。

(3) 移動選択指数による通話トラヒック交流の分析

   県間通話トラヒック交流状況を分析するため、方向性を持ちつつ規模の影響を捨象したモデル
  である移動選択指数の値により都道府県側の結びつきを分類したところ、東北・関東・甲信・北
  陸・東海・近畿・中国・四国・九州の通話ブロックが確認でき、北海道・新潟県・静岡県・沖縄
  県についてはどの地域ブロックにも属さず独立していることが分かった。

2 通話トラヒックパターンによる結節地域・機能地域の分析

  Qアナリシスとクラスター分析の2種類の計量手法により、都道府県間及びMA間の通話トラヒ
 ック交流における結節地域・機能地域を分析している。

  まず、Qアナリシスを用いた都道府県間通話交流図では、日本には1.東京都を中心とする東日本
 通話圏、2.大阪府を中心とする西日本通話圏、3.福岡県を中心とする九州通話圏という3大通話交
 流圏があることが分かる。また、Qアナリシスを用いた地域内MA間通話交流図では、1.北海道・
 関東・近畿に見られる一極集中型、2.東北に見られる階層ツリー型、3.東海・中国・九州に見られ
 る一部独立型、4.四国・信越北陸に見られる相互並列型という4パターンに分類されることが分か
 る。

  次に、都道府県レベルでのクラスター分析では、関東臨海部・近畿・中京・九州・中国・東北の
 順に独立クラスターが抽出され、各クラスター内で生活実感とも合致するまとまった通話交流が行
 われていることが分かる。また、地域内MA間レベルでのクラスター分析でも、Qアナリシスによ
 る上記4パターンと同様の通話交流が確認された。

3 重力モデルによる通話特性分析

  重力モデルを通話トラヒック交流分析に適用し、通話量と距離、通話量と規模の関係を分析して
 いる。日本の通話特性の一般特性としては、距離による通話量の逓減度合いが大きいものの、大都
 市圏と地方圏ではその傾向は大きく異なっている。つまり、大都市圏では距離による通話の逓減の
 度合いは比較的小さく、都市相互間のほか地方の小規模なMAとも通話交流が行われているが、地
 方圏では距離による通話逓減度合いが極めて大きい。ただし、その際の通話交流は近隣の小規模M
 Aよりも県庁所在地や地方中枢都市あるいは東京・大阪という大都市との間で頻繁に行われており、
 通話は都市に集中している。

  さらに、地理上の直線距離の場合と、料金上の課金距離(通話料金距離段階区分)の場合とでそ
 れぞれが通話量に与える影響を比較し、東京MAとの通話交流のように地理上の直線距離に左右さ
 れない基幹的な通話交流が存在するとき、中距離段階で課金距離が直線距離より通話量マイナス要
 因に作用している、つまり「中近格差問題」が存在することを明らかにしている。

4 事務用・住宅用別の通話特性

  事務用・住宅用別のデータが存するNTTの都道府県間データに基づき、事務用・住宅用別の通
 話特性を分析している。まず、1回当たりの平均通話時間では、ビジネスライクな事務用通話に比
 べて住宅用通話は夜間及び深夜の時間帯を中心にかなり長くなっている。次に、Qアナリシスを用
 いた都道府県間交流図では、東京都・大阪府・福岡県を中心とした3つの通話交流圏が事務用・住
 宅用双方に存在するものの、このことを更に通話回数と通話時間とに分けて分析すると、通話回数
 ベースでは事務用の方が住宅用よりも東京都・大阪府の影響力が強く表れているが、通話時間ベー
 スでは事務用・住宅用の通話交流圏にほとんど違いはないことが分かる。