『定量的方法による通話トラヒックの特性分析に関する研究調査報告書』


                             通信経済研究部研究官 山崎  健
                                    研究官 大村 真一
 本研究は、定量的手法を用いて、国内通話トラヒック交流、国際通話トラヒック交流及び専用回線
通信交流の特性分析を行っている。

第1章 電話加入・通話トラヒックと地域経済・社会

 1.本章では、相関分析により、電話加入・通話トラヒックと地域経済・社会との関連性を明らかに
 している。

 2.事務用・住宅用別電話加入者数と地域・経済指標との相関分析を行った結果、住宅用電話加入者
 数は、人口、世帯数、課税対象所得額、就業者数との間に高い相関が認められ、事務用電話加入者
 数は、従業者数、事業所数との間に高い相関が認められた。

 3.通話回数・時間と地域経済・社会指標との相関分析を行った結果、通話回数・時間は、人口、世
 帯数、課税対象所得額、従業者数、就業者数、事業所数、小売業年間販売額との間に高い相関が認
 められた。

 4.以上のことから、電話加入及び通話トラヒックは、地域経済・社会の状況、特に人口規模と経済
 規模に依存していることが推測される。

第2章 通話トラヒック交流と人流・物流・商流

 1.本章では、通話トラヒック交流と人流・物流・商流の都道府県間発着行列データを用いて、Qア
 ナリシス及び相関分析により、通話トラヒック交流と人流・物流・商流の関連性を分析し、通話ト
 ラヒック交流を規定している要因を明らかにしている。

 2.閾値を2.13%とし、Qアナリシスの影響関係図により、通話トラヒック交流と人流・物流・
 商流の交流圏を求めている。その結果、商流の交流パターンが、通話トラヒックの交流パターンと
 類似していることが明らかになり、閾値を2.13%とした場合、通話トラヒック交流は、人流・
 物流・商流の中では、商流の影響を最も強く受けていることが推測される。

 3.Qアナリシスの影響関係図により顕在化する地域間交流構造は、閾値以上の交流に限られてしま
 い、閾値未満の交流は無視されてしまう。そのため、地域間交流構造を把握するためには、閾値に
 とらわれない分析も必要となる。そこで、閾値にとらわれない分析として、通話トラヒック交流と
 人流・物流・商流の発着行列データを用い、各々の発地ベース・着地ベースの構成比に関する相関
 分析を行っている。その結果、相関はいずれも高い水準にあり、閾値の影響を受けなければ、通話
 トラヒック交流と人流・物流・商流は、ほぼ同じ交流パターンを示し、各々の地域間交流構造は互
 いに相似していることが推測される。

 4.Qアナリシスの分析により、通話トラヒック交流においては、東京都・大阪府・福岡県が3つの
 主たる通話圏の中心として認められた。そこで、通話トラヒック交流と同様に人流・物流・商流に
 おいても、これら都府県の中心性が認められるかどうかを定量的に把握するため、これら都府県の
 発地・着地ベースの構成比に関する相関分析を行う。その結果、相関はいずれも高い水準にあり、
 通話トラヒックにおける東京都・大阪府・福岡県の中心性は、人流・物流・商流においても認めら
 れている。

 5.以上のように、通話トラヒック交流と人流・物流・商流の間に相似性が認められるのは、地域に
 おける主体の行動パターンと我が国の地域構造が、通話トラヒック交流と人流・物流・商流を規定
 する要因になっているためだと思われる。

第3章 移動選択指数による通話圏の設定

 1.一般に、地域間交流は、地域の自然的条件・歴史的条件を背景にして、地域間の生活文化・経済
 等の結びつきにより生じるものである。しかし、地域間交流の絶対量を見ると、地域間交流は人口
 規模の影響を強く受けており、人口規模の大きい地域に交流量が集中している状況にある。MA間
 通話トラヒック交流においても、人口規模の影響を強く受け、人口規模の大きい主要都市のMAで
 は、通話トラヒックの絶対量も多く、人口規模の大きいMAと通話交流が盛んに行われるのは当然
 とも考えられることから、通話圏を設定するには、人口規模の影響を捨象した分析も必要である。
  そこで、本章では、移動選択指数を用い、全MAを対象に人口規模の影響を捨象した通話圏の設
 定を行っている。

 2.移動選択指教により通話圏を設定した結果、人口規模を捨象すると、東京・大阪・名古屋の大都
 市MAや仙台・福岡等の地方中枢都市MAの影響力は希薄化されてしまい、大都市MAや地方中枢
 都市MAを中心とする通話圏はかなり狭まったものになってしまう。また、大都市圏や地方中枢都
 市圏以外の地域においては、県庁都市MAを中心として県全体がひとつの通話圏としてまとまって
 いるのではなく、大部分の県が複数の通話圏に分かれている(なお、設定した通話圏は地図化して
 いる。)。

 3.地域間交流は、人口規模の影響を捨象すれば、地域の生活・文化・経済等 の結びつきにより生
 じるものであることから、本章で設定した通話圏は、各地域の生活圏・文化圏・経済圏を反映した
 ものになっているものと思われる。

第4章 電話加入者数・通話トラヒックの2時点比較分析

 1.本章では、1988年と1991年の電話加入者数・通話トラヒックの2時点の変化に注目して
 分析を行う。

 2.まず、1988年と1991年の電話加入者数・通話トラヒックの増分を求め、各都道府県で差
 異があるかどうかをみたところ、電話加入者数・通話トラヒックは、大都市圏で特に増大している
 ことが分かった。

 3.次に、1988年から1991年にかけての電話加入者数・通話トラヒックの2時点変化につい
 て、地域経済・社会指標を用いて回帰分析を行い、電話加入者数・通話トラヒックの将来変化を予
 測する際に有効な指標を求めている。
  その結果、住宅用電話加入者数は世帯数と新設住宅着工戸数、事務用電話加入者数は県内総生産、
 通話回数・時間は世帯数と新設住宅着工戸数が、各々の将来変化を予測する際の変数として有効で
 あると考えられる。

第5章 国際通話における需要構造の分析

 1.本章では、「日本発信→海外着信」の国際電話の通話トラヒックデータを用い、我が国の主な通
 話相手国として20か国を対象にして、国際通話の需要構造を国別に分析している。なお、分析期
 間は、1970年から1991年までの22年間である。

 2.まず、通話相手国の経済水準や通話相手国との経済交流・人的交流は、二国間の国際通話需要に
 影響を及ぼすと仮定し、通話量と実質GDP・貿易取引・対外直接投資・外国人入国者数・海外在
 留邦人数との相関係数を国別に求め、国際通話需要と実質GDP等との間に関連があるか国別に推
 測している。例えば、イランとブラジルは、外国人入国者数以外の指標との相関は認められないこ
 とから、イランとブラジルとの国際通話需要は、主にこの両国からの日本への入国者数との間に関
 連があると推測している。


 3.次に、国際通話需要関数モデルの構築を試み、二国間の通話量を被説明変数、通話相手国の実質
 GDPと国際通話料金を説明変数とし、最小二乗法により、国際通話需要に関する推定式を国別に
 求め、国際通話需要における所得効果・価格効果の分析を行っている。GDP弾力性(所得弾力性)
 により所得効果を国別にみてみると、イラン以外のすべての国でGDP弾力性は1以上であり、経
 済成長に関して国際通話需要は弾力的であり、通話相手国の経済成長は国際通話需要を拡大させる
 要因となっている。ただし、国によってGDP弾力性の水準に相違があり、ニュージーランドとオ
 ーストラリアのGDP弾力性が特に高い水準にある。また、価格弾力性により国別に価格効果をみ
 てみると、すべての国で価格に関して国際通話需要は弾力的であり、国際通話料金の引下げが国際
 通話需要の増加に結びついている。ただし、国によって価格弾力性の水準に相違があり、イラン・
 香港・マレーシアの価格弾力性が特に高い水準にある。

第6章 景気変動と国際通話需要

 1.本章では、1970年から1991年までの22年間の月次の国際通話トラヒックデータを用い、
 我が国の景気変動と国際通話需要との間にどのような関連があるかを分析する。

 2.分析期間である1970年から1991年までの間、国際通話トラヒックは著しく伸びており、
 国際通話トラヒック(発信分数)は22年間で約138倍にもなった。通常、経済指標と景気変動
 の関連は、絶対量の増減又は対前年同月比により判定される。しかし、国際通話トラヒックは上昇
 傾向が極めて強いため、トラヒックの増減や対前年同月比だけで景気変動との関連を見るのは困難
 である。
  そこで本章では、時系列解析の手法により、景気変動と国際通話需要との関連を推定する。

 3.具体的には、国際通話トラヒックのトレンドの型を仮定し、国際通話トラヒックの原系列の動き
 から、循環変動を分離することにより、国際通話需要が景気変動に対して先行性があるか又は遅行
 性があるかを検証する。

 4.その結果、景気変動と国際通話需要との間に関連が認められ、国際通話需要は景気の山に対して
 先行し、景気の谷に対して遅行する傾向があることを明らかにしている。

第7章 専用回線の特性分析

 1.本章では、平成3年度末の専用回線数のデータを用いて、専用回線の特性を明らかにしている。
  分析の対象は、回線数の多い一般専用サービスと高速デジタルサービスである。まず、地域経済
 ・社会指標との相関分析を行い、専用回線と地域経済・社会との関連を推測し、次にQアナリシス
 により、専用回線の通信交流構造を分析している。

 2.専用回線と地域経済・社会指標との相関分析から、専用回線は、県内総生産、卸売業販売額や事
 業所の規模との関連は高くなっているが、人口・世帯数、小売業販売額・商店数や県民総支出等と
 の関連はあまり高くない。

 3.閾値を2.13%とし、Qアナリシスの影響関係図により、一般専用と高速デジタルの通信交流
 構造の違いを明らかにしている。一般専用では、地域ブロックを単位とした通信圏が形成されてい
 るのに対し、高速デジタルでは東京都・大阪府を中心とした全国規模の通信圏が形成されている。
  このことから、一般専用は主に地域ブロック内の通信に利用されているのに対し、高速デジタル
 は地域ブロックを越えた全国規模の通信に利用されていることが分かる。