『情報処理体制の動向に関する研究調査報告書』


                           情報システム研究室研究官 倉石 祥裕

 1.1950年代初めにコンピュータ産業が形成されて以来80年代に至るまで、同産業は、基本的
 にメインフレームのグレードアップを中心にして展開されてきた。
  しかし、半導体技術の急激な発展とともに80年代後半以降大変動の様相をみせ始めている。こ
 の変動を規定しているのは、ダウンサイジング化、ネットワーク化、オーブン・システム化、マル
 チメディア化などの働きである。これまでにも、幾つかの情報システムの変革の流れはあった。

  即ち、真空管からトランジスタ、トランジスタからICへ、また、ミニコンピュータやオフィス
 コンピュータの誕生などである。

 2.しかしながら、現在進展しているダウンサイジングが注目されているのは、単なるコンピュータ
 ・ハードウェアの小型化という現象に止まらず、「情報システム・パラダイムの変革」ともいえる
 からである。従来の変革は、主にコンピュータのメーカ・サイドからのものであったのに対し、ユ
 ーザが中心となってきたところに大きな変化がある。また、コンピュータ・ハードウェアの小型化
 ・多様化、高性能化を基に従来の「中央集権型」から「分散処理型」の情報システムの変化をもた
 らした。ダウンサイジングといわれる現象は、このようなコンピュータに基づく情報処理分野で起
 こりつつある質的な変化を意味している。

 3.情報技術の発達とその処理形態は、1.1950年代に入って本格的にビジネス分野でコンピュー
 タが会計処理や複雑精密な技術計算など個別業務処理の分野で使われるようになった時代、2.19
 50年代後半から1960年代前半にかけて、ソフトウェア及びハードウェアが飛躍的に進歩した
 ことを背景に、コンピュータを従来の縦割的、単発的個別業務処理から横のつながりを重視する総
 合的業務処理時代、3.1960年代後半からのIC、LSIの誕生による高性能、多様な端末装置
 の開発と、中央処理装置との間をデータ通信回線で結合する時代、4.1970年代半ばからのコン
 ピュータ利用分野の総合的、抜本的な見直しによる柔軟性に富んだ情報のアクセスやより高品質の
 アウトプットを求めるシステム作りと、データベース・システム技術を活用した時代というように
 分けられる。

 4.1980年代に入るとOA(オフィスオートメーション)についての議論が活発になってきた。
  従来、工場の生産現場はFA(ファクトリーオートメーション)に代表されるように、先端技術
 の導入によって自動化が進んできているのに対し、人間の手作業や頭脳労働を主体としたオフィス
 では、自動化はほとんど進んでいないといっても良い状態であった。そこでOAという概念が唱え
 られた。これは、それまでの汎用コンピュータに適合しない非構造的業務やローカルで小規模な構
 造的な業務を現場で分散的に処理するシステムである。こうして個人の情報処理能力を拡大したり、
 あるいは、オフィス業務の生産性を上げ自動化、合理化によって生み出される余裕時間を創造的な
 仕事に振り向けることが可能となったが、この背景には、価格/性能比が高いパソコン等の出現に
 負うところが大きい。

 5.ダウンサイジングが進展してきた技術的背景には、IC技術の急激な進歩でパソコン、ワークス
 テーションなどの小型コンピュータがかつての大型汎用コンピュータ・レベルの能力を備えるよう
 になったことが挙げられる。また、もう1つの機能面の背景としては、エンドユーザのニーズの高
 まりがある。

 6.更に、ダウンサイジングが進んできた要因としては、1.コンピュータ利用者のニーズの高まり、
 2.技術進歩による価格/性能比の工場の他、3.分散データベース技術の発展、4.ネットワークO
 Sの開発、等が挙げられる。

 7.ダウンサイジングの効果としては、1.高性能低価格の小型機によるコストダウン、2,エンドユー
 ザの使いやすさ(操作性)の向上、3.アプリケーション開発の容易性、4.バックログの解消、5.コ
 ンピュータの利用時間が制限されない、6.クライアント/サーバで負荷分散が可能、等が挙げられ
 る。

 8.ダウンサイジングを組織に取り入れる場合、信頼性・安全性・利便性・処理能力等を考慮し、対
 象処理の重要度等を勘案してコンピュータを決定することにより、その効果が発揮される。また、
 単に全ての汎用機をパソコンやワークステーションに変えるのではなく、処理に合った適正なコン
 ピュータを選択(ライトサイジング)することが重要である。

 9.コンピュータ界におけるダウンサイジングと組織効率化のためのスリム化、フラット化とは密接
 不可分の関係があり、従来の縦割型組織構造だけではなく、ネットワーク型組織構造も重要になっ
 てくる。