1994年6月:調―94―VI―03

『定量的方法による通話トラヒックの特性分析に関する研究調査報告書』

                              通信経済研究部研究官 山崎  健
                                     研究官 山浦 家久
                                     研究官 大村 真一
第1章 加入電話のトラヒック
 第1章では、過去5年間の加入電話のトラヒックデータをまとめることにより、その特質を明らかにし、また、その変化について検討した。

 まず、加入数・通話量(通話時間・通話回数)の推移を見るといずれも5年間一貫して着実に増加していること、その増加率が徐々に低下してきていることが分かった。

 次に、都道府県別のトラヒックデータの分析を行った。この分析により、首都圏・近畿圏の県と、周辺に大都市のない地域の県では、大きな違いがあることが明らかになった。まず、加入数は首都圏・近畿圏の各県で大きい。これは、人口の多少が大きく影響するためであろう。加入数の増加率が高いのも、首都圏・近畿圏の各県である。通話終始率は首都圏・近畿圏では低くなっている。これは、他地域との交流の強さが影響するためであろう。MA内通話終始率が低い、埼玉・千葉・神奈川・群馬・栃木、滋賀・三重などでは隣接MA内通話終始率は高く、周辺地域との通話交流の強さが伺える。このうち、埼玉・千葉・滋賀等では県外隣接MA内通話終始率が高いことから、これらの地域では東京や大阪という首都圏・近畿圏の中心地域との交流の強さが確認できる。一通話当たりの平均通話時間では、首都圏・近畿圏の各県では長いことが分かった。

 過去5年間の変化は次のようにまとめることが出来る。まず、加入数はいずれの県でも増加しており、順位の変動は少ない。MA内通話終始率・県内通話終始率は逓減しており、隣接MA内通話終始率や県外通話が増加していることから、短距離の通話に比した長距離の通話交流が強まっていることが分かった。一通話当たりの平均通話時間は増加してきている。そして、これらの傾向には県による偏りがほとんどないことも確認された。

 幾つかの方法により通話圏の策定を試みたが、概括すると宮城を中心とする東北通話圏、東京を中心とする関東・信越通話圏、愛知を中心とする東海通話圏、大阪を中心とする近畿通話圏、香川を中心とする四国通話圏、福岡を中心とする九州通話圏という通話圏が存在していることが確認された。さらに、Qアナリシスによる分析から広域的な通話圏として、東北、関東・信越、東海通話圏にまたがる東日本通話圏と、近畿、四国通話圏にまたがる西日本通話圏の存在が確認された。しかし、通話選択指数を用いて人口の影響を排除した分析を行うと、東京と他地域の繋がりが弱まり、また、いずれの通話圏にも含まれない独立の県が増加することが分かった。

第2章 自動車・携帯電話のトラヒック
 第2章では、自動車・携帯電話の都道府県間のトラヒックデータから、県内通話終始率及び通話圏形成に関する各種分析を行うことで地域間の交流状況を探るとともに、地域経済指標との相関分析を行い、地域経済との関連を調べた。

 自動車・携帯電話の県内通話終始率は全国平均で79.0%で、これは、加入電話よりも2.3%低い数字になっている。さらに、東京・大阪という2大都市圏の中心地域では、加入電話よりも5%以上高くなっているのに対し、奈良・埼玉・茨城など大都市圏の中の周辺地域の他、大都市圏以外の地域も含め23県では、加入電話よりも5%以上低い通話終始率になっていることが分かった。

 通話圏の設定では、まず、発信地からの発信量に基づく分析をした。この分析からは、宮城を中心とする東北通話圏、東京を中心とする関東・信越通話圏、愛知を中心とする東海通話圏、石川を中心とする北陸通話圏、大阪を中心とする近畿通話圏、広島を中心とする中国通話圏、香川を中心とする四国通話圏、福岡を中心とする九州通話圏が形成されていることが分かった。

 発信地と着信地双方から通話圏の階層を考慮した分析(Qアナリシス)では、大別すると、東京を中心とする東日本通話圏、大阪を中心とする近畿通話圏、福岡を中心とする九州通話圏に分かれる。さらに、中規模の通話圏としては、東日本通話圏の中の東京・埼玉を中心とする関東・信越通話圏及び宮城を中心とする東北通話圏、石川を中心とする北陸通話圏、愛知を中心とする東海通話圏、香川を中心とする四国通話圏が形成されていることが分かった。

 一方、発信都道府県の人口の影響を排除した分析(通話選択指数)では、全般的には発信地からの発信量に基づく分析及びQアナリシスとほぼ同様の通話圏となっているが、東京と他の通話圏と繋がりが弱くなるとともに、各通話圏の中心地が多極化し、さらに、いずれの通話圏にも含まれない独立した県が増加することが分かった。

 地域経済指標との相関分析では、通話回数・通話時間と相関の高い経済指標は、世帯数、課税対象所得額、事業所数、県内総生産全体、従業者数全体、小売業販売額、旅客輸送人員、貨物輸送人員などである。

第3章 国際通話交流の変動要因分析
 第3章では、1970年度から1991年度までの国際通話トラヒックデータ(発信回数・着信回数)を用い、計量的方法により国際通話交流を規定している要因を分析し、何が国際通話交流を拡大させているかを明らかにした。

 まず、国際通話トラヒックと社会経済指標との相関分析により世界全体及び国別の国際通話交流構造を推定した。全体的な傾向として、国際通話交流は、・日本及び海外の経済成長、・貿易取引や対外直接投資にみられる企業活動に伴う経済交流、・外国人入国者や日本人出国者にみられる人的交流の影響を受けているが、国別にみると、通話相手国の経済水準や日本との地理的条件の相違等を反映し、国際通話交流を規定する要因に特徴がみられる。その違いを経済交流・人的交流という2つの要因からみてみると、欧米先進国のように、経済交流・人的交流の双方の影響を受けている国や、イランやブラジルのように、経済交流の側面より専ら人的交流の影響を強く受けている国があることが明らかになった。このように、国際通話交流の要因分析により、各国との国際関係を別の角度から明らかにすることができた。

 次に、発信(日本発信→海外着信)・着信(海外発信→日本着信)別に国際電話需要関数を推定することにより、所得要因と料金要因が国際電話の需要に与える影響を世界全体及び国別に分析した。発信は、世界全体及び国別ともに、海外の所得水準の上昇と国際電話料金の低廉化が国際電話の需要を増大させたことが分かった。また、日本への着信は、日本の所得水準の上昇が日本向けの国際電話の需要を増大させているのは各国共通だが、海外の国際電話料金の影響については、国によって異なっており、国によっては非弾力的になっていることが分かった。

 最後に、MTV分析を参考にして、因子分析を用いて国際通話トラヒック(総発信回数)の変動要因を抽出した。その結果、国際通話トラヒックの変動要因として3つの変動要因が抽出され、第一変動要因が経済水準・国際交流要因、第二変動要因が料金要因、第3変動要因が企業業績要因である。その中でも、経済水準・国際交流要因が、国際通話交流に最も大きな影響を与えていることが分かった。

第4章 企業立地と情報通信
 第4章では、企業立地の分析に当たって、通話交流の関連を分析することとし、情報通信の進展が企業活動における交通から通信への代替を促進し、東京以外の都市の立地費用を相対的に低下させ、多極分散化を促す要因となることが明らかになった。

 立地費用を、事務所・工場・営業所それぞれについて、1992年、2000年、2010年の各時点において、札幌・仙台・東京都区部・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸・広島の11都市(事務所及び営業所)又は、前記11都市が含まれる都道府県(工場)の各地域を対象として、就業者一人当たりの交通費用・賃金・通信費用・賃料を計測した。

 その際、2000年・2010年の計測では、情報通信の進展がもたらす企業活動における交通から通信への代替の状況を生産・営業・庶務経理など8つの業務に分けて交通から通信への代替率を算出し、その代替率を基に交通費用(減少)・賃金(減少)・通信費用(増加)・賃料(不変)を計測した。

 その結果、事務所及び営業所については、1992年時点では東京よりも立地費用の高い都市は幾つか存在し、2000年も同様の傾向が続くが、2010年になると東京の立地費用が他のすべての都市よりも上回る結果になった。一方、工場については、1992年の時点でも東京の立地費用は他のすべての都道府県を上回っており、2000年・2010年の時点においてもこの傾向は依然として続くという結果になっている。

 このように、情報化の進展は、企業の各業務に関して交通から通信への代替を促進させ、事務所・工場・営業所それぞれについて、東京以外の地域の立地費用の相対的低下をもたらすことにより、企業立地の多極分散化を促す要因になることが明らかになった。

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