1994年6月:調―94―VI―04

『情報通信の産業連関分析に関する研究調査報告書』

                              通信経済研究部研究官 竹下  剛
                                     研究官 田中 明宏
                                     研究官 大村 真一
第1章 はじめに

 通信経済研究部では、近年の情報化の進展や情報通信産業の発展に鑑み、情報化が経済や社会全体に与える影響や情報通信産業の産業構造について、昨年度から産業連関表を用いた分析を行っている。昨年度は、情報通信産業の分析に初めて単位構造分析を採り入れ、また、1985年の地域内郵政産業連関表を作成して地域特性の比較分析を行った。

 今年度の研究では、情報通信産業の中でも特に情報サービス業に注目して分析を行った。これは、近年「地域の情報化」施策において改めてソフト面の振興の重要性が認識されてきているためである。手法的には、昨年度に作成した地域内郵政産業連関表を中心に用い、単位構造分析をこの地域内表にも適用する等、さまざまな角度から分析を行っている。情報サービス業は、情報通信産業の中でも最も関東地方への集中が著しい産業の一つでもある。本研究は、産業構造を分析することによって、このような一極集中の原因を把握することを目的としている。

第2章 情報サービス業の近年の動向

 第2章では、既存の文献・資料から、情報サービス業の近年の動向についてまとめている。

 地域内郵政産業連関表で見ると、1985年における情報サービス業の関東地方への集中度は66.5%に達しており、非情報通信産業の39.9%や情報通信産業全体の57.1%などに比べて極めて高くなっている。近年、この比率は70%前後でほとんど変化していない。また、都道府県別に見ると、関東の中でも東京都のシェアが半分以上を占めている。

 このような一極集中の原因として、これまでの議論では、・製造業のように工場用地を必要としないこと、・オンライン化がかえって情報サービス業の需要者の一極集中を助長したこと、・情報サービスは需要との近接性が必要であるために供給者も需要の集中に従って一極に集中したこと、などが挙げられている。

 しかし、近年は国や自治体の積極的な振興策、地方の人材を求めての情報サービス企業の地方進出、情報化需要の地方への広がり等の理由から、情報サービス業の地方への分散傾向が見られると言われている。

第3章 「情報サービス業」の全国における生産技術構造

 第3章では、郵政産業連関表(全国表)を用いて、全国の情報サービス業の単位構造の特色、及び1980年代における変化について検討する。

 単位構造分析の前に、国内生産額の推移を見るが、両産業の生産額とも、1980年代を通じて大幅に増加してきている。特に、後半5年での「ソフトウェア業」生産額の増加は大きい。

 まず、1990年の単位構造から「情報サービス業」の生産技術構造の特色をつかむ。13部門で見ると『情報ソフト業』『情報関連サービス業』『一般サービス』『その他サービス業』の各部門から情報サービス産業への投入が大きな役割を占めることが分かった。これは70部門では、「情報サービス業(狭義)」「ソフトウェア業」「不動産」「対事業所サービス」の各部門の投入の占める割合が大きい。また、「情報サービス業(狭義)」の方が、各部門との相互依存関係が強いこと、『情報ソフト業』『情報関連サービス業』以外の各部門を見ると広範囲に渡ることが分かった。

 次に、1980年代における単位構造の変化の特色を検討する。前半5年では、『情報ソフト業』『情報関連サービス業』等の情報通信産業の中の情報通信サービス産業間の投入が増加しているのに対して、『製造業』『一般サービス業』等の非情報通信産業相互間の投入は減少しており、特に非情報通信産業の中の非サービス部門間の投入の減少が大きい、と言える。後半5年になると、全体として、増加傾向が強くなる。情報通信産業間の投入はさらに大きくなり、また『一般サービス』『その他サービス業』という非情報通信産業のうちのサービス部門からの投入も大幅に伸びている。

 1980年代、特に後半5年の生産額の増加に伴って、「ソフトウェア業」「情報サービス業(狭義)」の生産構造は変化してきている。両部門と各産業との相互依存関係は広がり、かつ強まってきている。それは、情報関連産業とその他サービス産業の各部門間、特に情報関連産業間における生産波及の広がりによるものであることが分かった。

第4章 「情報サービス業」の各地域における生産技術構造

 第4章では、単位構造の手法を用い、地域内郵政産業連関表の地域区分に基づき、各地域における「情報サービス業」の単位構造を算出し、技術構造の特徴、他の産業との相互依存関係について考察し、地域毎の比較を行うことで、「情報サービス業」の関東への一極集中の現状が、技術構造の違いに起因するものであるのかを確認している。

 まず、単位構造における「情報サービス業」への投入を見ると、13部門における「情報サービス業」を含む『情報ソフト業』への投入構造は、全国9地域でほとんど差がなく、この構造は、70部門で見た場合でも同様であった。

 次に、「情報サービス業」への投入から、副次的に発生する『情報ソフト業』以外の部門間の取引を見ると、各地域で構造の違いが確認できた。基準値を1%としてみた場合では、基準値を超える取引は関東が5つと最も多かった。また、8つの地域で『一般製造業』自部門間の取引が基準値を超えていたが、沖縄のみは1%を大きく下回っていた。この結果は、沖縄における『一般製造業』の相対的なウエイトの低さから生じていると言えよう。

 「情報サービス業」の生産技術構造は、結果としては、中間取引において多くを占める『情報ソフト業 』への投入では、各地域で目立った差異がなかった。

 つまり、「情報サービス業」の単位構造分析の結果からは、関東と他の地域の間に技術構造の違いはなく、このことから、情報サービス業は、どの地域にも容易に移転し得る産業であると言うことができる。

第5章 「情報サービス業」の各地域における需要構造

 第5章では、「情報サービス業」に対する、各地域の需要構造について、需要量・投入係数などの側面からの分析を行っている。

 各地域における情報サービスの需要の構成を見ると、いずれの地域でも『一般サービス業』と『その他サービス業』で全体の60%〜80%を占めているが、情報サービスの需要量の比較的少ない地域、特に北海道や沖縄などでは、「公務」を中心とする『その他サービス業』の比重が高くなる傾向が見られる。これは、これらの地域の「公務」部門において情報サービスの利用度が高いのではなく、むしろ「商業」をはじめとする民間の需要が弱いために、結果的「公務」部門の比重が高まっているものと考えられる。

 『情報通信機器製造業』をはじめ各種の情報通信産業は、非情報通信産業に比べ情報サービスの投入係数が高い傾向にあり、「情報サービス業」とは、投入要素としてだけではなく、需要者としても強い繋がりを持っている。また、情報通信産業の中でも、「情報サービス業」自部門への投入比率が8%台と最も高い。このような自部門投入の比率は、サービス業としては比較的高く、このことから、「情報サービス業」を地域内に集積した場合には、需要の面でも相乗的な効果が得られるものと思われる。

 各地域で情報サービスに対する需要量に差異が生じる原因としては、地域によって情報サービスに関する技術構造が異なることが需要量に影響を与えている場合が、特に『情報通信機器製造業』や『一般製造業』を中心として多く見られる。このような差異が生じる要因としては、例えば『一般製造業』のような大分類については、情報サービスの利用度の高い産業がその中に占める比重が異なるという、産業構造の違いが挙げられる。もう一つの要因としては、特に製造業において、情報を集中的に処理する中枢管理部門と製造部門の機能が分化し、情報サービスの利用度に差異が生じていることが考えられる。

第6章 「情報サービス業」の移出・移入構造

 第6章では、地域内産業連関表に特有の項目である、移出と移入に注目した分析を行っている。

 地域内総需要のうち、移入の占める割合を示す移入係数を移入先別に分け、自地域において生産された分を示す地域内自給率を併せて比較することで、当該地域における情報通信サービスが、どの地域の影響を受けているかを確認し、情報通信サービスがどの地域に多く移出されるかを見ることで、地域間の結びつきの強さを見ている。

 関東の「情報サービス業」の生産額は、他の地域と比較して圧倒的に大きいが、移出額を見ても、他のすべての地域における移入額の100%近くを占めており、移出・移入状況から見て、「情報サービス業」は、関東一極集中が著しい産業であることが分かった。その他の地域の特徴としては、近畿では輸入係数が9つの地域では最も高いこと、中国と九州が共に移出先として比較的強く結びついていること、沖縄と北海道は、情報サービスの需要が相対的に少ないため、移入が少なく、結果として自給率が高くなっていることなどが確認できた。

 「情報サービス業」の関東一極集中の度合いは、他の産業と比較しても特に顕著であるが、関東からの情報サービスの移出が、近隣の地域だけではなく、全国に広く行われていることから、「情報サービス業」が、関東地方への一極集中の要因の一つと言われている「需要との近接性」を要しない側面を持つ産業であると考えることができる。

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