1995年6月:調―95―VI―01

『定量的方法による通話トラヒックの特性分析に関する研究調査報告書』

                           通信経済研究部主任研究官 佐々木祐二

                                    研究官 遠藤浩二郎
1 平成5年度国内電気通信トラヒックの現状
 1章では、加入電話及び自動車携帯電話のトラヒックデータの整理を行い、その特徴を分析した。
 まず、加入電話については、加入数及び通話量ともに増加はしているものの、増加率は年々小さくなる傾向にある。加入電話は普及が十分に進み、安定成長の段階に既に入っている。
 通話構造については、まず平均通話時間は、東京都、大阪府の2大都市の周辺都道府県で大きく、大都市に隣接しない都道府県で小さい傾向が見られた。通話終始率をみると、同一県内、同一MA内の全体に占める割合は年々わずかずつ低下しており、他都道府県、隣接MA及びその他のMAの占める割合が上昇している。すなわち、通話による交流圏が徐々に拡大している。都道府県の通話交流状況をみると、近隣の都道府県との交流が深い一方で、東京都と大阪府は全国的に圧倒的な影響力を持っている。わが国全体では、これらの2大都市に各地域の中心となる宮城県、千葉県、埼玉県、神奈川県、愛知県、石川県、福岡県等が続き、さらにその他の地域が続く、という3段階の構造が形成されている。
 一方、自動車携帯電話については、サービス開始が最近であるため、全国加入数の増加率は平成4年度末から5年度末まで24.5%であり、同時期の加入電話における増加率2.0%に比べて極めて大きい。また、都道府県ごとで増加率の差が大きいことも特徴である。これは、地域によってサービス開始時期が異なっていることも原因の一つと考えられる。
 通話構造についてみると、平均通話時間については自動車携帯電話が加入電話に比べて明らかに小さい。通話交流については、基本的な傾向は加入電話と同じであるが、加入電話と比較して、隣接都道府県レベルの交流の比率が高いことが特徴として挙げられる。サービス開始以来急速に加入数が増加している自動車携帯電話のトラヒックは、基本的には加入電話と同様の傾向を示しているが、平均通話時間のように大きく異なる点もある。これは利用形態の違いを示していると思われる。
 1章の分析結果からは、加入電話、自動車携帯電話ともにその通話交流は経済的交流や人的交流と深く結び付いていることがわかる。加入電話と自動車携帯電話で共通に浮かび上がった、東京と大阪の2大都市、それに続く地方中核都市、そしてその他の地域、といった構図は日本における地域間の影響力を反映していると考えられる。
2 国際電気通信トラヒックの弾力性分析
 2章では、過去20年間の国際通信トラヒックデータに対し定量的に分析を加えることにより、国際通話の要因及び構造について検討を行った。
 国際通話トラヒックは1980年代後半から現在に至るまで急激に増加してきており、平成5年度には発信が2.9億回、着信が2.3億回に達している。しかし、その伸び率は徐々に減少しており、平成5年度には対前年比10%増にとどまるなど、国際通信トラヒックも安定成長の段階に入ったことが窺える。また、通話相手国のシェアはアメリカを筆頭として、歴史的地理的に我が国と結び付きの強い韓国、中国、台湾及び香港等の近隣諸国・地域が上位を占める一方で、新進アジア諸国も徐々にそのシェアを上げてきており、近年におけるアジア地域との経済交流の高まりがトラヒック量にも反映されていると考えられる。
 この国際通話トラヒック量を決定する要因をマクロ的に把握すべく、主要20か国の1973年から1992年まで20年間のトラヒックデータを目的変量、経済指標等を説明変量として重回帰分析を実施し、国ごとの特殊要因を捨象した形での一般的なモデルの作成を試みた。この分析から、通話トラヒック量は日本のGNP、当該国との貿易額及び当該国の登録外国人数を説明変量とする重力モデルにて説明できるとの結果が得られた。また、今回のデータの範囲からは、相手国GDP、在日邦人数、両国の人口及び通話料金は重要な要素ではないと考えられる。
 さらに、各期の時間的に固有な変化を取り込んだ上で、マクロに通話構造を把握する目的で、推計期間を5年毎4期に分割して重回帰分析を実施し、各期における各要因の国際通話トラヒックの伸びに対する寄与率を求めた。先進諸国は概して貿易額の寄与度の方が登録外国人による寄与度よりも大きく、経済交流に基づいた国際通信が盛んであると推察される結果が得られた。一方、近年特に外国人の流入が目立っている相手国においては、登録外国人による寄与度が貿易額の寄与度を上回った。
 2章の分析結果からは、日本の国際通信はヒト・モノ・カネの交流に大きな影響を受けていることが明らかとなった。日本経済の発展と貿易の活発化等により、国際通話トラヒック量は今後とも成長を続けていくと考えられる。