郵政研究所研究調査報告書



                                       1997年7月:調-97-VI-02

『放送メディアの再編の行方』

                               客員研究官  音  好宏
                        通信経済研究部主任研究官  進藤 文夫
                                 研究官  大石 明夫
 米国をはじめとして欧米主要国では、放送メディアの再編が進んでいる。

 米国、英国等の欧米主要国はアジアに比べ、外資規制等の緩和が進んでいる。従って、規制緩和の潮流が放送のグローバル化に向けての大きな要因となりつつある。

 また、欧州、アジアとも、ローカルコンテント規制(放送番組のいくらかの割合は、自国制作のものにすべきであるとする規制)を行っている国・地域もあるが、多チャンネル化の過程で比較的外国制作の番組比率が高くなっている。特に米国で制作された番組に依存する傾向が強いといえよう。しかし、アジアでは、国内の番組制作体制が整備されてくれば、自国制作番組比率が向上してくるものと予想される。

 メディア産業の再編の特徴は次のとおりである。

【米国を中心】
 映像ソフトの制作から流通までといった垂直的統合の動き、マルチメディア市場に対応できる経営資源の確保の動き、さらに、新たな提携・買収のための投資力を確保するための経営規模の拡大の動きである。また、魅力ある番組ソフトを供給できる能力を有する企業を確保することが重要なポイントとなっている。

【欧州を中心】
 現在、SECA(カナル・プリュスとベルテルスマンが出資)開発のメディアボックスとキルヒ・グループ/ネットホールド開発のd-boxの2種類のデコーダによる競争が繰り広げられている。カナル・プリュス、キルヒ・グループ及びBスカイBのニューズ・コーポレーションの3者によるメディア市場への影響力/支配力が急速に高まりつつある。

【アジアを中心】
 1991年以降、衛星放送を中心とした多チャンネル化、グローバル化が進展している。今後、デジタル放送の普及に伴って、より一層の多チャンネル化が進むと予想される一方、収益や番組ソフトを重視した再編が進む可能性がある。

 メディアの再編に伴い、想定される課題とその対応策は次のとおりである。

(1)【課題】
 国内放送事業者の競争力の強化
  【対応策】
 @グループ関係の強化、A水平統合等である。

(2)【課題】
 アジアを中心とした番組ソフト流通の促進
  【対応策】
 @人材育成のための支援、A放送事業者相互による共同制作の推進、B翻訳システムの構築や翻訳者の育成等である。

 今後とも、メディア事業の「デジタル化」、「ボーダレス化(グローバル化)」、「市場化」(株の売買、買収・統合等市場原理が際立った企業活動をいう)は、ますます進むものと予想される。そのようななかで、本来、放送サービスが持っていた社会的機能、公共的機能をどのように担保していくか、議論される必要があろう。

 また、そのときの行政のあり方として、規制緩和策に象徴される産業政策とメディア事業の公共的役割とのかねあいをどのようにつけていくのか。また、サービス内容の質の向上を図るために、行政の施策としてどのように取り組むべきか。放送のデジタル化に見られるように、既存の放送事業が電気通信系のサービスとどのような形で融合することが、その社会的機能、公共的機能を有効に果たし得るか。加えて、急速な成長を見せるアジアのメディア市場において、日本のメディア事業はどのような役割を担えるのか、多角的な視点からの論議が必要と思われる。