郵政研究所月報
1998.9
家計の主要金融機関の決定に関する分析第二経営経済研究部リサーチ・アソシエート 奥井 めぐみ
[要約]
1.はじめに家計の家族構成によって、選択される金融機関はどのように変化するのであろうか。また、決済と貯蓄という金融機関の利用目的の違いによっても、金融機関の選択に影響が生じるのか。本稿では、金融機関の利用目的別に、どのような属性を持つ家計がどの金融機関を選択するかを、実証的に明らかにすることを目的としている。本稿の分析結果は、急速に変化しつつある家族構成に伴い、今後どのような金融機関の需要が高まるかを検討する上で、参考になると思われる。分析には、郵政省郵政研究所の「金融機関利用に関する意識調査(平成7年度)」の個票データを利用した。 本稿では、決済目的主要金融機関と貯蓄目的主要金融機関の二つを定義している。これは、利用したアンケート調査に準じている。決済目的主要金融機関とは、家計が調査時点において最もよく決済取引を行っている金融機関を意味し、貯蓄目的主要金融機関とは、家計が調査時点において最も多く貯蓄している金融機関を意味する。 分析するのは、以下の二つである。一つは、主要金融機関の選択に、家計の属性が与える影響を、決済目的主要金融機関、貯蓄目的主要金融機関のそれぞれについて分析する。二つ目は、預貯金額が貯蓄目的主要金融機関に集中するのか他の金融機関にも分散するのかについて、家計の属性が与える影響を調べる。ある金融機関が家計の貯蓄目的主要金融機関として選択されている場合でも、その金融機関へ預け入れている金額の貯蓄総額に占める比率の大小によって、主要金融機関としての重要性が異なることが予想されるからである。 分析結果より、決済目的主要金融機関の選択と貯蓄目的主要金融機関の選択とでは、家計の属性が与える影響が若干異なることが示された。また、貯蓄目的主要金融機関への預貯金額が家計の貯蓄総額に占める割合については、貯蓄目的主要金融機関が銀行、郵便局の場合に世帯主の年齢や貯蓄総額が影響することが観察された。 本文の構成は以下の通りである。第2節で家計の金融機関選択に関する背景を説明し、第3節では先行研究について述べている。第4節は分析方法について、第5節はデータについての説明を行い、第6節に分析結果を示す。第7節はむすびである。 |
2.背景2.1 決済目的と貯蓄目的家計によっては、決済と貯蓄のそれぞれの目的別に異なる金融機関を選択する場合がある。それを考慮すると、本稿のように目的別の分析を行うのが自然である。以下に、目的によって異なる金融機関が選択される原因として考えられることをいくつか挙げてみる。まず第1に、勤め先との関係がある。メインバンクを持つ民間企業では、従業員の給与はメインバンクに振り込まれるとしよう。その結果、勤務先のメインバンクがそのまま決済目的主要金融機関となる。一方、貯蓄目的で金融機関を選択する場合は、他の金融機関を選択することがありうるので、決済目的と貯蓄目的で金融機関が異なることが生じる。 2番目に考えられるのは、借り入れとの関係である。借り入れを行っている金融機関があれば、その金融機関で決済を行うのが一般的であるといえる。しかし、借り入れを行っている金融機関と貯蓄目的主要金融機関は必ずしも同じにはならない。家計に借り入れを行う必要が生じた場合に、現在貯蓄を行っている金融機関とは別の金融機関を借り入れ先に選択することがありうるからである。 借り入れを行う金融機関として、現在貯蓄を行っている金融機関と異なる金融機関を選択するケースを以下に挙げる。1)貯蓄を行っている金融機関で借り入れを行うことが必ずしも容易ではないと判断されるケース、2)家計が住宅ローンのため不動産会社の提携先を借り入れ先として選択するケース、3)公的金融機関からの借り入れを行うケース、4)融資機能がない金融機関を貯蓄目的で利用しているケースである。 3番目に考えられるのは、目的別に異なる金融機関を利用する際にかかるコストと便益とのトレード・オフである。決済目的と貯蓄目的で異なる金融機関を選択している家計は、決済目的の金融機関から貯蓄目的の金融機関へ預貯金を移動させる手続きが必要となり、そのためのコストが生じる。一方で、目的別に異なる金融機関を選択することで、リスクの分散化が図れることや、目的に応じて高い利率を選択できることといった便益も生じる。 2.2 金融機関選択要因ここで、家計が主要金融機関を選択する場合に考慮される要因を考えよう。家計が主要金融機関を選択する際に考慮する要因は、各金融機関の金融商品を保有した場合の収益率、リスク1、費用である。費用とは、金融機関にアクセスするための費用をさす。これら3つの要因のトレードオフによって、主要金融機関の決定がなされると予想される。決済目的主要金融機関には頻繁にアクセスする必要性が生じると予想されるので、アクセスすることによって失われる機会費用が高い家計は、アクセスしやすい金融機関を選択するであろう。貯蓄目的主要金融機関の選択には、アクセス回数よりも、金融商品を保有した場合の収益率とリスクとの関係を重視すると予想される。生活に余裕のある家計では、少々のリスクを伴っても平均収益率が高い金融機関を選択するであろうし、ローンを抱えていたり、養育費が必要であるなど、生活に余裕の少ない家計ではリスクの少ない金融機関を選択するであろう。 本研究では、各金融機関の金融商品を保有した場合の収益率(以下、収益率)、リスク、費用に関する明示的な変数は加えていないが、調査時点における各金融機関の特性を考慮に入れて、間接的に、家計の属性と重視される要因との関係を探ることが可能である。 収益率、リスク、費用に関して、簡単に各金融機関の比較を行ってみよう。まず、収益率の差についてみるために、郵便貯金と銀行との金利を比較する。金利の比較は単純ではない。金融機関によって商品が異なるので、異なる金融機関で同様の商品が存在しない場合や、単利・複利計算の違いが生じているからである。以上の点をできるだけ調整するために、平成7年の郵便貯金3年ものの表面金利と、銀行2年定期の元利を1年定期に入れて都合3年運用した時の利回りを1年複利表面金利に引き戻した金利とを比較する。郵便貯金の表面金利は1.779、銀行預金の表面金利は1.792で、若干銀行の方が金利が高いことがわかる。 リスクに関しては以下のことがいえる。日本では根強い銀行不倒産神話が存在するが、1995年夏に大手地銀である兵庫銀行の経営破綻が生じている。これが、アンケート調査に影響を与えている可能性がある。また、証券会社は他の金融機関と比較してリスクが高いというのが一般的な見解である。 費用については、以下のようなことがいえる。民間金融機関では利潤を最大にするため、人口の多い地域に店舗を多く設置するが、公的金融機関である郵便局は、ユニバーサルサービスを謳い文句としているために、都市部も地方部にも平等に店舗を配置している。人口が店舗の配置に影響を与えないのであれば、人口と金融機関の店舗数との相関は低くなるはずである。都道府県の世帯数と金融機関店舗数との相関係数を見ると、銀行は0.9426、信用金庫・信用組合・労働金庫が0.9318であるのに対し、郵便局は0.8526であった。郵便局の相関係数は低いことがわかる。また、同じ都市部であっても、民間金融機関は駅の周辺に偏在しているのに対して、郵便局は駅から離れた場所にも存在している。
2.3 家族構成の変化本研究では、家族構成が主要金融機関選択に与える影響について分析するが、それに関連して、ここでは家族構成の変遷について述べる。近年、核家族世帯の割合が増加し、高齢化や少子化が進んでいる。高齢化がどのように進むかをみるために、表1に、国立社会保障・人口問題研究所の『日本の将来推計人口(平成9年1月推計)』より、老年人口の推移と将来推計を示す。65歳以上老齢人口の総人口に占める比率は、年々増加している。また、将来推計人口から判断すると、高齢化が急速に進むことが予想される。表2に、総務庁『国勢調査報告』より、過去の家族構成の変化に関する表から抜粋したものを示す。平成7年の調査結果を前回(平成2年)の調査と比較すると、高齢夫婦世帯は前回に比べ40.4%も増加している。今後はますます高齢者のみの世帯が増加する。高齢者は金融機関の距離的な近さや、金融サービスの利便性を重視して金融機関を選択すると予想される。 同じく表2から、核家族世帯は平成2年の調査と比較して、平成7年では6.4%増加している。平成7年時点で核家族世帯は全世帯の6割近くを占めている。核家族世帯であることが主要金融機関の選択に影響を与えているとすれば、核家族化が進むにつれ、国全体の金融機関の選択に変化が生じるといえる。 その他の家族構成の変化として、女性の社会進出に伴う専業主婦の減少が予想される。家計の預貯金の引き出しや預け入れを行うのが、専業主婦の場合は、時間的制約も少なく、受付業務取り扱い時間帯に利用することが可能である。しかし、共働きになると、勤務時間の都合で、一般的な業務取り扱い時間帯での利用が困難である場合が生じる。そのために受付業務時間の長い金融機関や、休日も受付業務を取り扱う金融機関、職場の近くに支店を持つ金融機関が望まれる傾向も強まると予想される。 |
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3.先行研究以下に、金融機関選択に関係する先行研究を紹介する。過去において、金融機関の選択に関する実証分析を行った研究に、松浦・橘木(1991)がある。この研究では、家計の金融資産選択に関する分析を行い、郵便貯金や簡易保険に対する選択要因を調べている。分析には、各資産の保有関数を求め、その結果を利用して需要関数を推計する、トービット・モデル(Type2)を用いている。取り上げた資産は、郵便貯金、銀行預金、相互銀行等預金、簡易保険、生命保険、株式、債券、株式投信、公社債投信、信託と多岐に渡っている。松浦・橘木(1991)の研究結果のうち、郵便貯金と銀行預金に関するものを以下に記す。郵便貯金は年収が保有関数、需要関数のいずれのケースも有意に負という、特徴的な結果が得られた。金利や店舗指標については、保有関数について正、需要関数について負の有意な結果が得られた。銀行の場合は、年収・金融資産残高・金利が、保有関数、需要関数のいずれにおいてもおおむね有意に正という結果が得られた。店舗指標は保有関数では有意に正であるが、需要関数では有意な結果が得られなかった。 松浦・橘木(1991)の分析においては、それぞれの資産選択が独立に行われているという仮定のもとで分析されている点に問題がある。郵便局と銀行への預貯金には補完関係が存在することが予想されるからである。 郵便局と銀行との需要関数を同時に推定することで、両者の補完関係について示唆した実証分析に福重(1997)の研究がある。福重(1997)は大都市圏の家計を対象に、家計がどのような基準で郵便局や銀行に預金を保有しているのかを、2変量のプロビット・モデルにより同時推定した。分析は要求払い預金と定期性預金で別に行なわれている。分析結果から、定期性預金に関しては郵便局の定期性預金を保有する確率は、銀行店舗の利便性が低い場合であることがわかった。要求払い預金においてはほとんどすべての家計が銀行の普通預金口座を持っており、追加的に通常郵便貯金を保有する世帯は、金融資産が多い、勤務地が首都圏外といったことが考えられる。 福重(1997)の分析では被説明変数に預貯金額を利用しているが、本研究では、主要金融機関という各家計の主観的な金融機関の位置づけを得られるデータを利用して、目的別に各金融機関を主要金融機関として選択する確率を推計している点、銀行、郵便局以外の金融機関も対象としている点で異なる。 福重(1997)の研究を理論的に裏付けている論文として、吉野・佐野(1997)の研究がある。吉野・佐野(1997)は、家計は資産を貯蓄する場合に、ある割合で郵便局と銀行に預け入れると仮定し、利便性を考慮して、預金選択行動モデルを動学で提示している。モデルの分析結果からは、定常状態における銀行預金比率は、銀行への距離が長くなると低下し、逆に郵便貯金金利が高くなると低下することが示される。また、預金残高が増加するときは、銀行預金への預金比率は高まる。 本研究は、家計の属性と主要金融機関の選択との関係に焦点を当てている点で、過去の実証分析とはやや視点が異なる。 |
4.分析方法4.1 主要金融機関決定関数まず、決済目的・貯蓄目的別に主要金融機関決定関数を求める。被説明変数は、主要金融機関としてどの金融機関を選択しているのかを表す変数、説明変数には家計の属性を用いて、マルチノミアルロジット分析2を行った。分析は、決済目的と貯蓄目的で分けて行った。(1) Witは、家計iがt期において、決済目的主要金融機関に銀行を選択した場合に1、信用金庫・信用組合・労働金庫を選択した場合に2、郵便局を選択した場合に3、農協・漁協を選択した場合に4をとる変数である。貯蓄目的の主要金融機関はこれらの値に加えて、証券会社を選択した場合に5をとる変数である。
4.2 主要金融機関への預貯金比率に関する分析 次に、家計の貯蓄目的主要金融機関への預貯金比率に関する分析について説明する。推計するのは以下の式である。
ここで、yjitは、貯蓄目的主要金融機関がjである家計について、家計iがt期に貯蓄目的主要金融機関jへ預け入れた金額の家計の貯蓄総額に対する比率(以下、「預貯金比率」と呼ぶ)である。アンケート調査から得られるデータでは、貯蓄目的主要金融機関への預貯金比率の上限が100パーセント、下限が20パーセントである5。したがって、観察されない真の値をyjit*とすると、
xjitは、貯蓄目的主要金融機関としてj金融機関を選択している家計iのt期における属性等の説明変数のベクトルである。説明変数には、各金融機関を貯蓄目的主要金融機関とする場合に1をとり、それ以外は0をとる主要金融機関ダミー変数、主要金融機関ダミー変数と年齢、年齢2乗項、家族人数、年収との交差項、世帯主が男性の場合に1、それ以外は0をとるダミー変数、世帯内の労働者数比率、未婚の子供の人数、貯蓄総額対数、借入金対数、家計の属する都道府県の人口密度である。 被説明変数が検閲されていたデータであるため、分析にはトービットモデルを用いた。トービットモデルの最大化されるべき尤度関数は、 (3) で表される。ここで、f(・)は正規分布の密度関数、F(・)は正規分布の累積密度関数である。σは誤差項の標準偏差である。
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5.データ用いたデータは、郵政省郵政研究所の「金融機関利用に関する意識調査」(平成7年度)である。この調査は全国4,500世帯を対象に行ったアンケート調査で、各家計とその世帯主の属性、決済目的・貯蓄目的別の利用金融機関がわかる。調査対象は単独世帯を除いている。また、決済目的、貯蓄目的別に、家計の貯蓄総額に対する主要金融機関への預貯金額の割合がわかる。この割合は階級値で示されている。調査時期は平成7年11月23日から12月10日の18日間である。家計の金融資産総額に関しては、貯蓄額の階級値が得られる6。今回サンプルとして用いたのは、世帯主が一般従業者(雇用されている人)の場合である7。また、外国銀行はサンプル数が非常に少ないことから、外国銀行を主要金融機関に選択している家計はサンプルから外した。保険会社は店舗を介してサービスを行うというよりも、むしろ営業員が顧客を訪問するという形態をとっており、他の金融機関と性質が異なる。したがって、今回の分析では保険会社を主要金融機関に選択している家計もサンプルから除外した。
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6.分析結果6.1 記述統計量ここでは、分析に用いたサンプルの統計量についての説明を行う。対象としているのは、世帯主が一般従業者の家計である。世帯主の年齢層別主要金融機関選択状況を表3.1に示す。全体をみると、決済目的、貯蓄目的とも銀行の占める割合がトップである。そのうち、決済目的主要金融機関において銀行が占める割合は69.5%と大きく、銀行は決済目的によく利用されることが伺える。郵便局についてみると、決済目的の主要金融機関では郵便局が占める割合は8.3%にすぎないが、貯蓄目的の主要金融機関では、郵便局が30.3%である。年齢層別にみると、決済目的主要金融機関では、年齢層が高くなるにつれ、銀行の割合が低くなり、農協・漁協の割合は高くなることがわかる。貯蓄目的でも年齢層が高くなるにつれ農協・漁協の割合が高くなることが観察される。 表3.2に、貯蓄目的主要金融機関への預貯金額が家計の貯蓄総額に占める割合を世帯主の年齢層別に示す。30代以上の年齢層では、金融資産総額の4割以上6割未満を貯蓄目的主要金融機関に預ける家計のパーセンテージが一番高い。 表4に変数の記述統計量を示す。決済目的と貯蓄目的によって、利用されるサンプルが異なるので、目的別に分けて示してある。 |
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6.2 目的別主要金融機関選択関数(マルチノミアルロジット)マルチノミアルロジット分析の結果を、表5.1、5.2に示す。表5.1は決済目的の分析結果、表5.2は貯蓄目的の分析結果である。表の上段では各係数の推定量を示し、下段では限界効果を示した。ダミー変数以外の変数の限界効果は、その変数が平均値のまわりで1単位変化すると、各金融機関の選択確率が何ポイント変化するかを意味する。ダミー変数の限界効果はダミー変数が1であった場合に、0である場合と比較して各金融機関の選択確率が何ポイント変化するかを示したものである。まず表5.1より、決済目的の主要金融機関を選択する場合の推計結果を見る。年齢と年収対数は全ての金融機関で有意である。その他の変数については金融機関によって有意であるものが若干異なる。 年齢の影響を限界効果でみてみよう。1次の項から判断して、世帯主の年齢が1歳上昇すると、銀行の選択確率は1.7%下がる。郵便局は年齢の2乗項も有意であることから、郵便局の選択確率は世帯主の年齢が55歳を超えると下がる。その他の金融機関の選択確率は世帯主の年齢が高くなるにつれ、上昇する。 家族人数の限界効果をみると、家族人数が一人増えると銀行を選択する確率は4.6%下がるが、他の金融機関の選択確率は上昇する。また、年収が1%増加すると銀行の選択確率は14.2%上昇し、その他の金融機関の選択確率は下降する。借入金が1%増加すると、銀行の選択確率は0.7%上昇し、郵便局の選択確率は0.6%下降する。 続いて表5.2の貯蓄目的主要金融機関の選択に関する分析結果をみる。年齢は全ての金融機関で有意である。年収対数は、信金・信組、郵便局、農協・漁協でマイナスに有意な影響を与える。 貯蓄目的において、各変数の限界効果をみていこう。まず年齢に関する項の限界効果をみる。郵便局、証券会社では年齢の2乗項も有意な影響を与えているので、銀行、郵便局、証券会社に関しては2乗項も考慮する。世帯主の年齢が50歳を超えると年齢が高いほど銀行や証券会社の選択確率が高くなる。一方、世帯主の年齢が50歳を超えると年齢が高くなるほど郵便局の選択確率は低下する。 家族人数が増えると、農協・漁協の選択確率は高くなるが、銀行や証券会社の選択確率は低下する。年収に関しては、年収が1%増えると、銀行の選択確率は9.6%増加し、郵便局の選択確率は3.1%、農協・漁協の選択確率は6.6%低下する。 |
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6.3 主要金融機関への預貯金比率に関する分析ここで、被説明変数に貯蓄目的主要金融機関への預貯金額が家計の貯蓄総額に占める割合をとった分析結果について説明する。表6に結果を示す。分析は貯蓄目的主要金融機関について行っている。家計の属性で預貯金比率を回帰した結果、証券会社では定数項以外、有意な変数が観察されなかった。信用金庫・信用組合・労働金庫では世帯主が男性であるダミー変数がマイナスに、農協・漁協では人口密度がマイナスに有意であるのが観察されるだけで、他の世帯属性は預貯金比率に有意な影響を与えていない。サンプル数の少ないことが影響していると考えられる。 銀行では、世帯主の年齢とその2乗項が有意である。銀行が貯蓄目的主要金融機関の場合は、世帯主の年齢が50歳以上の世帯では世帯主の年齢が高いほど預貯金比率も高くなる。一方、郵便局では世帯主の年齢がマイナスに有意な影響を与えており、郵便局が貯蓄目的主要金融機関である場合は、世帯主の年齢が高くなるほど預貯金比率は低くなるといえる。 また、貯蓄目的主要金融機関が銀行である場合も郵便局である場合も、貯蓄額対数が有意にプラスの影響を与えており、預貯金額が1%増加すると預貯金比率も1%上昇することがわかる。 |
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|||||||
変数 | 係数 | S.E. | 係数 | S.E. | 係数 | S.E. | 係数 | S.E. | 係数 | S.E. | |
世帯主年齢 |
-3.6846
|
1.5985**
|
-1.5586
|
2.4323
|
-2.1394
|
1.2967*
|
12.7251
|
7.6873
|
-3.3065
|
3.2710
|
|
世帯主年齢2乗 |
0.0336
|
0.0169**
|
0.0169
|
0.0266
|
0.0169
|
0.0144
|
-0.1276
|
0.0759
|
0.0388
|
0.0345
|
|
世帯主男性 |
-6.5045
|
11.7110
|
-41.3317
|
17.9728**
|
-0.6760
|
8.5796 | |||||
家族人数 |
-0.1107
|
1.9683
|
3.2668
|
3.5920
|
-0.6238
|
1.5943
|
-9.0248
|
5.9775
|
-1.3183
|
4.6637
|
|
労働者比率 |
-4.5815
|
8.2651
|
12.6643
|
16.8174
|
0.8938
|
7.4641
|
41.7426
|
29.9498
|
-23.7511
|
21.8572
|
|
子供の数 |
-1.1711
|
2.2423
|
2.0635
|
4.5002
|
-0.1129
|
1.8705
|
-5.9990
|
4.9800
|
-0.1038
|
5.3888
|
|
年収対数 |
6.9055
|
4.0558*
|
-0.6318
|
7.0374
|
-2.5192
|
3.6585
|
-7.6628
|
12.6225
|
-12.2572
|
12.5567
|
|
借入金対数 |
0.1076
|
0.5610
|
-0.6464
|
1.0174
|
-0.0752
|
0.4451
|
-2.3630
|
1.5496
|
-0.1615
|
1.5596
|
|
貯蓄額対数 |
5.5884
|
1.6699***
|
5.5053
|
3.4315
|
5.5340
|
1.6817***
|
3.8533
|
4.0975
|
0.1147
|
4.4276
|
|
人口密度 |
0.0005
|
0.0005
|
0.0004
|
0.0011
|
0.0000
|
0.0005
|
-0.0034
|
0.0014**
|
-0.0003
|
0.0013
|
|
定数項 |
73.0143
|
38.1754*
|
68.3240
|
62.6092
|
95.1851
|
29.5875***
|
-197.18
|
192.6333
|
215.4893
|
83.3964**
|
|
_se |
22.5955
|
1.2122
|
22.1426
|
2.2913
|
25.3584
|
1.1390
|
19.3226
|
3.1812
|
21.8226
|
2.5613
|
|
ML |
-868.9412
|
-240.759
|
-1335.62
|
|
-98.4618
|
-174.917
|
|||||
PseudR2 |
0.0182
|
0.0237
|
0.0083
|
0.0987
|
0.0139
|
||||||
サンプル数 |
213
|
62
|
331
|
29
|
41
|
7.むすび分析結果より、決済目的主要金融機関の選択と貯蓄目的主要金融機関の選択では、家計の属性が与える影響が異なることが示された。まとめると以下の3つのことがいえる。1)決済目的主要金融機関には、世帯主の年齢が高いほど信金・信組、農協・漁協が選択されるが、貯蓄目的主要金融機関には、世帯主の年齢が高いほど、銀行や証券会社が選択される。2)両方の目的において家族人数が少ないほど銀行が選択される。また、貯蓄目的主要金融機関では家族人数が少ないほど証券会社の選択確率も上昇する。3)両方の目的において年収が高いほど銀行が選択される。貯蓄目的主要金融機関への預貯金額の集中度に関する分析では、1)世帯主の年齢が与える影響については、貯蓄目的主要金融機関が銀行である場合は、世帯主の年齢が高いほど預貯金比率が上昇するが、郵便局である場合は、世帯主の年齢が高いほど預貯金比率は低下する、2)貯蓄目的主要金融機関が銀行、郵便局である場合は、貯蓄総額が高いほど預貯金比率も高くなることが示された。 本研究では他の要因をコントロールした後も、世帯主の年齢が高いほど銀行や証券会社を貯蓄目的主要金融機関として選択する比率が高くなることを示唆しているが、過去の研究結果は金融資産の証券としての保有が年齢とともに高まることを示している。宮尾(1993)は平成元年の全国消費実態調査より、世帯主の年齢が高まるにつれて貯蓄に占める有価証券の比率順次高まっていることを示している。藤崎(1997)も、郵政研究所の『96年度金融資産選択調査』に基づいた世代別および資産階級別個人貯蓄の内訳より、家計の金融資産に占める証券のシェアは世帯主が高齢者になるほど高くなることを示した。ただし、これらの分析では他の要因を十分にコントロールしていないことに注意する必要がある。 今後は、金融自由化により金融サービスが多様化することが予想される。今までは扱っていなかった金融商品を扱う金融機関も生じるであろう。その意味では、現在の分析結果をそのまま将来の家計の金融機関選択に対する指標とするには無理がある。しかし、今回の分析結果は、今後の家計の金融機関選択を考える上で少なからず重要な情報を与えている。特に、世帯主の年齢や家族人数が金融機関の選択に影響を与えており、高齢化や核家族化といった家族構成の変化が金融機関選択の形態を変化させることが予想できる。 今回は、利用者の側である家計の選択にのみ着目しているが、供給側である金融機関も激化する金融市場競争を生き抜くために顧客の選別を厳しくする可能性がある。その場合、家計の金融機関選択には新たに制約が加わる。需給の両者の立場を考慮に入れた分析が今後の課題として残される。 補論
となる。求めたいのはμとσの値であるから、上の式を以下のように展開して、最小二乗法を用いて両者を推計することができる。
最上階級の中央値をxtopと置き、金額がn階級に分かれているとする。すると
μ∧とσ∧はそれぞれ、μとσの推定量を意味する。左辺の値は正規分布表で確認できるので、推定量を用いて容易にln xtopを求めることができる。ln xtop=yとおくと、xtop=eyで求めたい値を得る。ここではeを2.71828として計算している。 (参考文献)Horioka, Charles Yuji(1990) "Why is Japan's Household Saving Rate So High? A Literature Survey", Journal of the Japanese and International Economies, Vol.4,pp.49-92.藤崎秀樹(1997)「1,200兆円個人金融資産の現状と今後の予測」,『月間金融ジャーナル』,12月号,pp.8-14。 福重元嗣(1997)「大都市圏における郵便貯金と銀行預金の競合・補完関係 --プロビット・モデルによる分析--」,財団法人 郵貯資金研究協会編『郵貯資金研究 --研究助成論文--』,第4巻,pp.93-111。 松浦克己・橘木俊詔(1991)「家計の金融資産選択と公的金融」,松浦克己・橘木俊詔編,『金融機能の経済分析』第3章,(東洋経済新報社)。 宮尾尊弘(1993)「高蓄積社会における資産保有と金融自由化」,高山憲之・原田泰,『高齢化の中の金融と貯蓄』第5章,(日本評論社)。 吉野直行・佐野良子(1997)「預貯金選択と利便性」,金融学会報告。 |