No.101 1997年2月

日米両国の家計の貯蓄行動と遺産・相続の実態

−「貯蓄に関する日米比較調査」結果より−

                       第二経営経済研究部主任研究官   蟹江  健一

1.本稿は、郵政研究所が平成8年(1996年)1月から3月にかけて実施した「貯蓄に関する日米比較調査」の結果の簡単な分析を行いながら、日米両国の家計の貯蓄行動と遺産・相続の実態について論じたものである。
2.貯蓄習慣について日米で大差はない。高齢者世帯の多くが貯蓄をしている点に関して、世帯主年齢60歳以上の世帯の公的年金給付への依存度(生活費に占める割合)と貯蓄習慣との関係をみたところ、米国と比べて日本の世帯は、公的年金給付で貯蓄余力がより大きくなっている可能性があるとの示唆が得られた。また、日本では、世帯主年齢60歳未満の世帯の公的年金への期待度(老後の生活費の何%程度をまかなう予定か)と貯蓄習慣との相関関係は、米国ほど明確にはみられなかった。
3.金融資産保有総額の平均値は日本の方が若干大きいが、対年収比では米国の方が高い。この結果はマクロ統計データとも整合的である。金融資産保有額のばらつきは、米国の方が大きい。金融資産・負債とも、全般的に、目的別の保有割合では米国の方が高く、額では日本の方が高い。個々の目的に関しては、次のような結果を紹介するとともに、それぞれの含意についても若干言及した。
@「老後の備え」目的の貯蓄は、米国では若年者世帯、日本では高年齢者世帯が中心に行っている。
A「不時の出費」目的の貯蓄は、米国よりも日本の自営業者の方がよく行っている。
B「マイホーム取得」目的の貯蓄額は日米の不動産価格の違いを反映している。持ち家率は日米間で大差はないが、不動産価格や相続の在り方の違いを反映して、年齢別持ち家率は大きく異なる。
4.相続資産は、日本では居住土地・建物、米国では金融資産が中心となっている。相続資産の時価評価額は日本の方が大きく、相続による資産格差が生じるおそれは、日本の方がより高い。遺産を残すことに対する考え方については、「余ったら残す」という回答が日米とも最も多いが、純粋に子供のためにという利他的動機から遺産を残すという回答の割合は、米国の方が高い。日本では、高齢者世帯において、子供に面倒を見てもらうためという「戦略的」動機から遺産を残すという回答の割合が高くなる傾向にある。