郵政研究所月報



                                              87 1996年1月

『高齢者世帯の貯蓄行動と就業行動』

−1994年郵政研究所アンケート調査による分析−

                             第二経営経済研究部長 大田  清
                                    研究官 桜井 俊行
 郵政研究所が1994年11月に実施した「家計の金融資産選択に関する調査」(アンケート調査)の個票データを用いて、世帯主が60歳以上の高齢者世帯の貯蓄行動と就業行動を分析した。その結果は以下のとおりである。
  1.  高齢者の貯蓄の状況を、金融資産の貯蓄フォロー(狭義の貯蓄フォロー)と、実物資産及び負債の増減をも含めた純資産(正味資産)の増減、すなわち、経済学でいう貯蓄フロー(広義の貯蓄フロー)の両面からみてみた。それらの指標の算出は、アンケート調査における二つの問い、すなわち、(a)現在貯蓄をしているか取り崩しているかという問いと、(b)金融資産が増加したか減少したかという問いの二つの問いへの回答を用いたものの二とおりで行った。
     金融資産の貯蓄フローでみると、(上記の(b)で算出した指標でみた場合には)貯蓄がプラスの世帯の割合よりもマイナスの世帯の割合の方が多い。これを有職と無職に分けてみると、有職の世帯ではプラスが多いのに対し、無職となっている高齢者の世帯では、マイナスの世帯の方が多い。
  2.  貯蓄をより広義にとらえて、実物資産及び負債の増減をも含めた正味資産の増減(経済学でいうフロー)でみると、借入金の返済という形態の貯蓄をしている世帯が含まれることもあって、上記の金融資産でみたよりも貯蓄性向の数値が高めのものとなっている。高齢者世帯全体では貯蓄がプラスの世帯の割合の方がマイナスの世帯の割合よりも多くなっている。しかし、無職となっている高齢者の世帯だけでみると、なおマイナスの世帯の方が多い。
  3.  貯蓄目的(金融資産積み増し目的)としては、「(老後の)生活に備えるため」、「病気、災害、その他不時の出費に備えるため」を挙げる高齢者世帯が多い。一方、実際の貯蓄取り崩し目的もこの二つ(「生活費のため」、「病気等不時の出費のため」)の目的が多い。
  4.  高齢者の貯蓄性向(実物資産等を含めた広義の貯蓄性向)と世帯属性、意識等との関係を見てみると、まず所得が多く、生活にゆとりがあって貯蓄余力のある世帯ほど貯蓄性向が高い。また、遺産動機がある世帯の方がわずかながら、貯蓄性向が高い。さらに、当然ではあるが、健康な高齢者の方が病気・病弱な高齢者よりも貯蓄性向が高い。
  5.  高齢者の就業行動については、以前の職業がサラリーマンである高齢者の方が、以前の職業がサラリーマンでない高齢者よりも、有職率が有意に低いことが確認された。もっとも、このことが就業機会の多寡を反映しているのか、公的年金の受給可能額の違いを反映しているのかは定かではない。