X.データと変数について

 

1 デ−タの概要

 本論文では1996年の「家計における金融資産選択に関する調査」(郵政研究所)を用いる。同調査は全国の世帯主が20歳以上の家計について6千世帯(ただし世帯主が60歳以上の家計について更に500サンプルを加重している)を対象として行われれている(層化多段無作為抽出法、留置面接法による)。実際に回答されたのは3,942サンプルである。

 同調査では世帯主の年齢、職業、勤務先企業規模、学歴、世帯人員、子供数等の家計の属性を知ることができる。危険資産や安全資産の保有状況を分析する上に必要な預貯金、株式・投資信託、保険等の金融資産や負債の残高(及びそれら各項目の1年間の増減)を知ることができる。また貯蓄や負債の目的も報告されている7)。さらに持ち家の有無と土地や建物の自己評価額も報告されている。また世帯員毎の年収及び世帯の年収合計とその収入種類を知ることができる8)。月間の生活費や税・社会保険料支払額が報告されている。以上のように「家計における金融資産選択に関する調査」は、家計の属性と金融資産の保有状況について包括的な情報を与えてくれる。これから「見えざる出資」と「危険資産保有比率」に関するモデル分析に必要な危険資産や安全資産の保有状況、更に消費等の変数を作成することができるので、同調査は本分析とは整合的なデ−タである。

 なお本論文では安全資産残高を預金、保険、債券、貸付信託・金銭信託及び財形の合計額とした。危険資産残高は株式及び投資信託の合計額とした。


 

2 被説明変数、説明変数の取り上げ方

 被説明変数としての危険資産保有比率(16式、18式)は次のように定義される(以下SBRATIOと表記する。なお安全資産の対数値はLDEPOSITと表記する)。
SBRATIO=(株式+投資信託の残高)/安全資産残高 (%)
 またモデル1の説明変数である安全資産所得比率(安全資産所得比率は可処分所得とグロスの年収の2ケースで計算した。以下WBRATIO1,WBRATIO2という)と安全資産消費比率(CBRATIO)は各々次のように定義される。

WBRATIO1=(税込み年収-12×税・社会保険料)/安全資産残高 (%)

WBRATIO2=税込み年収/安全資産残高 (%)

CBRATIO=(12×月間生活費)/安全資産残高 (%)

モデル2では年齢とその二乗項(AGE、AGE2)の他、家計の危険資産保有比率に影響する可能性のあるものとして以下のような変数を考えた9)。所得の安定性の影響の有無を考慮して他の世帯員の収入比率(OTHRATIO)を取り上げる。
OTHRATIO=(世帯の税込み年収-世帯主の年収)/世帯の税込み年収 (%)  また負債や実物資産の影響をみるために負債額(絶対値)の対数値(DEBT)と持ち家ダミ−(MOCHIYA)を取り上げる10)

世帯主の勤務先の企業規模500人以上と100~499人(EMP500、EMP100)を考慮した。これは大企業ほど所得も安定しまた株式発行数も多いことを考慮したものである。さらに世帯主の学歴に関し中卒(JUNIOR)、高卒(HIGH)、大卒(UNIVERSE)ダミ−を考慮した。これは市場が完全に効率的でなければ、株式投資を行うには情報の収集分析が必要とされる、その情報力が危険資産の保有に影響しているかどうかをを教育歴を用いることで、検証を試みるものである(石川[1991]参照)。


 

3  サンプルの取り上げ方

まずデ−タの信頼性を確保するために、以下のサンプルは分析から除いた。

@世帯人員、世帯主の職業、世帯主年齢、世帯主の性別の各項目について回答の無いもの。
A合計収入各欄(世帯員毎)とも回答のないもの。
B金融資産合計零かつ収入合計零のもの。
C生活費の回答のないもの。
D可処分所得が負となるもの。
E世帯主が在学中のもの。
F子供数の回答のないもの。
本論文では「見えざる出資」と危険資産保有の関係を取り上げている。この見えざる出資は民間企業に勤務する者が特に課題となる(自営業では見えざる出資は問題とならないであろう)ので、サンプルは民間企業に勤務する家計に限定した。またSBRATIOの定義から安全資産を保有する家計に限定した。
これらの結果用いたサンプルは1,142である11)。 主要な変数の記述統計量は表1に掲げるとおりである(なお標本設計に当たり60歳以上のサンプルが加重されていることに鑑み、それを考慮して1.018:0.828で59歳以下と60歳以上はウエイト付けしてある)。



表1 主要な変数の記述統計量
 平均標準偏差最小最大
SBRATIO 7.4425.30250
WBRATIO1 2404990.3094833
WBRATIO2 2635440.3095833
CBRATIO1543762.554320
AGE43.811.22073
AGE220449954005329
LDEPOSIT6.211.241.619.55
OTHRATIO15.519.6010
DEBT2.363.1308.70
MOCHIYA0.5830.49301
CHILD1.691.0509
EMP5000.330.47501
EMP1000.2190.41401
JUNIOR0.1280.33401
HIGH0.4590.49901
UNIVERSE0.3330.47101


TOP