4. まとめ

 1985年から1994年までの日々価格データに基づいて,市場に存在した全銘柄の約15〜20%の転換社債をサンプル抽出して調べた結果,平均してほぼ2%(転換社債価格に対する割合)程度の値をもった逆乖離が,かなり頻繁に生じている(のべ25,522件)ことが明らかになった。その頻度や大きさは1980年代後半には大きかったとはいえ,最近でも逆乖離がなくなっているわけではなく,毎月4%の逆乖離率を発生させている銘柄が存在している。また,連続して2日以上逆乖離が発生していた件数ものべ15,436件もあり,たまたまどちらかの市場で特殊な価格形成が行われた結果,逆乖離となったとは言いがたい。

 一見すると無リスク裁定の機会に見えるこれら逆乖離は,いわゆるサヤ取りによって利益をあげられたのであろうか。特に転換社債市場で指摘される流動性の小ささ(執行リスクと価格へのマーケットインパクト)を考慮するため,逆乖離を発見してから翌営業日にやや取引成立がやや起こりにくくなることが予想される価格で指値注文を出すという取引戦略を考案した。特に,指値ベースでは前日の乖離幅に売買委託手数料と有価証券取引税など直接的な手数料分を上乗せし,前日の乖離幅分は正味の利益として確保する取引を考え, ここで全体の約1割にあたっているサンプル銘柄の価格実現値に照らしてこの取引による賭けが儲けを生んだかどうかを調べてみた。すると,売買代金が100万円から500万円といったもっとも小口の投資家についてすら,平均約3%(=4.9-2)のサヤを確保できた状況が10年間で71件見つかった。

  ただし,これについて無リスク裁定の機会があったという解釈は行いたくない。ここでは信用取引に伴うオプション(追証および逆日歩)のプレミアム,および取引執行リスクのプレミアムを考慮しなかったため,このような結果になったと考える。先の取引戦略は,追証,逆日歩,執行リスクなどを負担するポジションを取った結果として,事後的に平均すれば3%程度のリターンをあげられたと考えている。この値がリスクに見合ったものかどうか,これらオプションプレミアムの推定とともに,今後の課題としたい。




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