郵政研究所ディスカッションペーパー・シリーズ 1998-16



転換社債市場と株式市場間の裁定機会



谷川 寧彦
古家 潤子※※



1998.10.30


* 郵政研究所客員研究官(大阪大学大学院経済学研究科助教授)email:tanigawa@econ.osaka-u.ac.jp
** 郵政研究所第二経営経済研究部研究官email:koie@iptp.go.jp

[要約]

  1. 1985年から1994年までの日々価格データに基づいて,全体の約15〜20%の転換社債をサンプルとして調べた結果,平均してほぼ2%(転換社債価格に対する割合)程度の値をもった逆乖離が,かなり頻繁に生じていること(全体でのべ約25,000件)が明らかになった。その頻度や大きさは1980年代後半には大きかったとはいえ,最近でも逆乖離がなくなっているわけではなく,毎月4%の逆乖離率を発生させている銘柄が存在している。

  2. 一見すると 無リスク裁定の機会に見えるこれら逆乖離は,これを利用して利益を得ようとすると株式・転換社債の売買委託手数料や有価証券取引税が必要となる。また,転換社債は流動性が低いことが知られており,そのために価格が修正されず逆乖離が放置されている可能性もある。これらを考慮しても裁定取引により利益を得られたかどうかをみるために取引戦略のシミュレーションを行った。

  3. シミュレーションの結果,前日と同じ価格で指値注文を出す取引戦略の場合,約900件について平均2.9%の裁定利益が上げられたことがわかった。これは取引費用を考慮しても利益を上げられた水準である。また,指値注文を出す段階で取引費用約2%を上乗せしておき,前日の乖離幅分を正味の利益として確保しておく場合でも,71件が平均4.9%(取引費用を除くと2.9%)の裁定利益をあげられた。

  4. しかし,上の取引戦略を行う場合,信用取引に伴うリスク,および取引執行リスクが存在する。上の結果はこれらを考慮していないためと考えられ,これについては今後の課題としたい。



1. はじめに



2.逆乖離について

2.1 逆乖離とは

2.2 データ

2.3 逆乖離の計算

2.4 逆乖離はどれだけみられたか



3.サヤとりをシミュレートする取引戦略

3.1 転換社債市場における流動性

3.2 逆乖離を利用したサヤ取りの取引戦略

3.3 売買委託手数料等との比較

3.4 裁定機会があったように見える理由



4.まとめ



5.参考文献