5.まとめ


 市場を設立し維持するためにも経済資源は必要であり,市場取引の参加者(利用者)がどういった形でどれだけこの費用を支払っているかは,市場取引メカニズム自体の効率性を検討する上で必要である。こうした問題意識から,この論文では株式市場における信用取引制度にかかる取引費用とその大きさを投資家の立場から分析した。まず,追加証拠金(追い証)があるため,信用取引では買い方・売り方とも,将来の株価の動きによっては資金を預け入れることにコミットしたことになり,一種のオプションが内在している。なお,追い証の請求を受けた時点での資金調達コスト(機会費用)を負担するため,オプション価値(プレミアム)は株価と金利の2つの状態変数に依存する。さらに信用取引のカラ売りポジションでは,市場全体での貸株株数(売建残高)が融資株数(買建残高)を上回った場合に,品貸料(逆日歩)を徴収される。この仕組みのため,市場の取組みの動きに依存する2種類目のオプションも内在している。このように,信用制度にはオプションが内在するという新しい見方を提示するとともに,転換社債における逆乖離の日々データを用いることで,この観測できないオプション・プレミアムが実際にも無視できないと解釈できる実証結果を得た。これらは,特定のオプションモデルを仮定しないで導かれたものではあるが,より厳密な吟味のために,今後モデルに基づくオプションプレミアムの推定作業を行うことが望ましい。


    謝辞:郵政研究所第10回研究発表会,ファイナンスフォーラム,金融学会秋季大会などで,さまざまな方から有益なコメントをいただいた。日興證券投資工学研究所の桑原浩人,木内伸和の各氏,筑波大学の高橋正文,青山学院大学の芹田敏夫,関西学院大学の平山健次郎の各先生方からいただいたコメントは,特に有益でした。もちろん本文中における誤りは,筆者の責任です。


return