3. 通話需要分析モデルの構成と考え方

交通需要分析における四段階推定法 , , を参考にして、通話需要分析モデルの考え方を提案する。なお、今回は分析単位となるゾーンとして都道府県を用いている。


3.1. 発信着信通話量モデル

交通における発生集中交通量モデルに対応するモデルである。このモデルは、各都道府県の発信通話量(通話OD表の行計に相当)、着信通話量(通話OD表の列計に相当)が、各都道府県の社会経済指標とどのような関係にあるかを表現したものである。交通においては、ある都道府県の発生交通量と集中交通量は一致するのが一般的であるが、通話においては発信通話量と着信通話量が一般に一致しない。これは、交通では出発地から目的地への往復が対として存在するが、通信においてはそのような制約がないためである。




3.2. 地域間通話量モデル

交通における分布量モデルに対応するモデルであり、所与の各都道府県の発信通話量、着信通話量から、各都道府県間の通話量(通話OD表のマトリックス成分に相当)を推計する。既存の研究に多く見られる重力モデルを用いた通話需要の分析では、2つの地域の人口規模、距離、料金を用いて直接地域間通話量を求めているため、発信着信通話量モデルと地域間通話量モデルを同時に扱っていると考えることもできる。
これらを二段階に分割して扱うことにより、人口のような各都道府県自体が持つ属性と、距離のような各都道府県の間の属性のそれぞれの影響を分離して考察することが可能となる。交通においては交流の抵抗要因として、移動距離、料金距離、時間距離等が考えられるが、通話においては所要時間に対応する概念がないところに特徴がある。また、通話においては開始こそ発信側の意思によって行われるものの、情報の流れ自体は必ずしも発信から着信方向のみではないことに注意しなければならない。




3.3. 通話メディア分担モデル

交通における分担交通量モデルに対応するモデルであり、所与の各都道府県間の通話量が、加入電話、公衆電話、自動車携帯電話、PHSといった通話メディア間でどのような利用割合になっているかを推計するモデルである。

交通の場合は1つのトリップが1つの交通機関で完結するのに対し、通話メディアの利用では、発信側が加入電話、受信側がPHSというように利用通話メディアが異なる場合がある。

このような通話メディア特有の特性を加味して通話メディアの分担関係を考慮するためには、発信通話メディアと受信通話メディアの組み合わせである4×4通りの組み合わせ について考察する必要がある。

また、発信側の通話メディア利用割合、または着信側で利用割合について考察することも考えられる。今回は、通話メディアの分担で主体的な役割を果たす発信側による通話メディアの割合を求める。また通信メディア分担モデルにおいても3.2と同様、交通で大きな分担要因となる所要時間に対応する概念がないところに特徴がある。




3.4. 通信ネットワーク配分モデル

交通における配分交通量モデルに対応するモデルであり、所与の各都道府県間の通話メディア別通話量が各通信事業者のどの経路を通るかを分析することを目的としている。通信事業者の選択と通信ネットワーク上の経路選択の二段階のモデル化が考えられる。第1段階の通信事業者選択においては、利用可能エリアの違い、料金等により、どの通信事業者を選ぶかが決定される。第2段階の経路選択においては、ダイナミック・ルーティング等技術の進歩により、事業者自身によって管理されている。従って第2段階の部分は地域通話需要を分析するためには重要でない。 なお今回は通信ネットワーク配分モデルについては取り上げていない。



3.5. 今回の分析で取り扱う範囲

本論文では、全目的、業務及び私用の目的別の通話需要分析を行う。それぞれの目的について3.1から3.4までのいずれのモデルを適用するかについて述べておく。

まず最初に全目的の通話需要分析(全通話需要分析)として、加入電話発信、公衆電話発信、自動車携帯電話発信、PHS発信のトラヒック全てを加算した通話トラヒックを対象に、図 1に示したように発信着信通話量モデル、地域間通話量モデル、通話メディア分担モデルの三段階による分析を行う。

図 1 全通話需要分析のフロー



次に、業務と私用における通話需要分析を行う。通話交流は目的によって交流形態が異なっていることが予想されるため、この種の分析が重要となるが、目的別に集計された通話メディア別トラヒックデータは存在しない。そこでここでは、加入段階で事務用と住宅用に分類されているNTTの加入電話加入電話発加入電話着トラヒックデータを用いて、業務と私用における通話需要構造の違いについて考察する。NTTの加入電話発加入電話着のデータを用いるため、発信着信通話量モデルと地域間通話量モデルの二段階による分析を行う。



図 2 業務用及び私用通話需要分析のフロー




また、通話需要分析モデル全体としてシミュレーションを行う場合は、各サブモデルは前段階のサブモデルによる推計値を用いて推計を行うが、今回はモデルの構築に主眼をおくため、各モデルは説明変数として実績値のみを用いて計算を行っている。例えば、地域間交流モデルでは、説明変数に発信着信通話量モデルによって得られた発信通話量、着信通話量ではなく、実績値である発信通話量、着信通話量を用いている。


加入電話発と公衆電話発に分離された自動車携帯電話・PHSの着信 平成7年度時点では自動車携帯電話とPHSの間の通信は行われておらず、また公衆電話は発信のみであるため、実際は10通りの組み合わせとなる。



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