郵政研究所ディスカッション・ペーパー・シリーズ No.1997-12




地域間通話需要分析








田北 俊昭*
宮田 拓司**
高谷 徹**





1997.11.4


本論文は、第9回郵政研究所研究発表会発表論文No.1997-04(1)に加筆・修正したものである。この研究発表会でコメンテイターをしていただいた専修大学商学部三友仁志助教授、今後の検討も含めて意見をいただいた大阪大学鬼木甫名誉教授・客員教授(大阪学院大学経済学部教授)、東北大学経済学部栗山規矩教授に感謝いたします。ありうべき誤謬は、すべて筆者の責任である。

* 郵政研究所客員研究官(山形大学人文学部総合政策科学科助教授)
** 郵政研究所通信経済研究部


[要約]

本論文の目的は、従前から利用されている「加入電話」と「公衆電話」に普及の著しい「PHS」と「自動車携帯電話」を加えた複数の通話メディアの地域間の通話需要を統合的に説明するモデルを開発し、都道府県間通話需要を分析することである。本論文では通話需要分析を交通と通信の差異を考慮しつつ、交通需要分析と整合的な方法で行うことに特長がある。

通信と交通は、地域間交流の指標として捉えた場合は類似点が多い。しかし、交通分野で地域計画との関連から実務的に重要視してきた需要分析は、通信分野では、その社会的な位置付けが異なっていたこともあって、地域の特性や新しい通話メディアの普及が通話需要に与える影響を総合的に検討できる形で行われていない。そこで本論文では、交通需要分析の考え方を応用した「通話需要分析モデル」の考え方を示した。このモデルは、各地域の発信通話量、着信通話量を説明する「発信着信通話量モデル」、所与の発信着信通話量から地域間の通話量を説明する「地域間通話量モデル」、地域間通話量を通話メディア別に分解する「通話メディア分担モデル」、通話メディア別地域間通話量を各通信事業者別のネットワークへ配分する「通信ネットワーク配分モデル」から構成される。

具体的な分析としてはまず、加入電話、公衆電話、自動車携帯電話、PHSを合計したトラヒックデータを用いて通話需要分析を行った。各都道府県の発信着信通話量は、各都道府県の人口、通話メディアの普及状況を説明変数とするモデルで説明できた。都道府県間通話量については、域内距離について修正パラメータを導入した二重制約モデルを用い、発信着信通話量を所与とし、通話距離を説明変数として説明できた。通話メディア分担については、発信都道府県における各通話メディアの通話比率や各都道府県間の通話距離の影響を説明変数とするモデルを構築した。なお、「通信ネットワーク配分モデル」は今回作成していない。

通話需要分析では、利用した通話メディアと並んで通話目的が重要であるため、業務通話需要分析と私用(住宅用)通話需要についても分析を行った。分析にはこれらの目的別に分類できる唯一のデータであるNTT加入電話発加入電話着のデータを用いた。業務通話の各都道府県の発信着信通話量は、事業所従業員を説明変数とした指数型関数で説明できた。住宅通話については業務通話ほどの説明力は得られなかったものの、各都道府県の年齢構成を説明変数としたモデルが構築できた。都道府県間通話については、通話需要分析と同様の二重制約モデルを適用し、通話距離を説明変数としたモデルを構築した。業務および私用のトラヒックデータが加入電話発着のみしか存在しないため「通話メディア分担モデル」以降については扱っていない。
今後の展開として、過去および平成8年度のトラヒックデータを含めた通話需要分析を行い、事業所分散・人口移動や移動体普及が通話トラヒックに与える影響等に対する応用が考えられる。



1. はじめに

2. 通話トラヒックデータに関する整理

3. 通話需要分析モデルの構成と考え方

3.1. 発信着信通話量モデル

3.2. 地域間通話量モデル

3.3. 通話メディア分担モデル19

3.4. 通信ネットワーク配分モデル

3.5. 今回の分析で取り扱う範囲

4. 全通話需要分析

4.1. 発信着信通話量モデル

4.2. 地域間通話量モデル

4.3. 通話メディア分担モデル21

5. 業務通話需要分析

5.1. 発信着信業務通話量モデル

5.2. 地域間業務通話量モデル

6. 私用通話需要分析

6.1. 発信着信私用通話量モデル

6.2. 地域間私用通話量モデル

7. まとめ

8.補 論

9.参考文献