4. 全通話需要分析

平成7年度の加入電話、公衆電話、自動車携帯電話、PHSのトラヒックデータから、通話トラヒック全体がどのような特性を持っているかを分析する。




4.1. 発信着信通話量モデル

平成7年度通話メディア計(加入電話、公衆電話、自動車携帯電話、PHS)の都道府県別発信通話量、着信通話量(実績データ、一部要推計)を被説明変数とするモデルを構築する。 各都道府県の発信通話量、着信通話量は、人口のような規模要因のほか、新たに普及しつつある移動体の普及度合によっても決定されると考えられる。そこで、各都道府県の一人当たり発信通話量、着信通話量を被説明変数とする式1、式2を考える 。

重回帰分析を行った結果を表 4-1と表 4-2に示す。

表 4-1 発信通話量モデルの推計結果



表 4-2 着信通話量モデルの推計結果

 発信着信共に、自由度修正済み決定係数0.94以上の良好なモデルを得た。1人当たり公衆電話台数に関する偏回帰係数γO、γDは符号条件を満たさなかった上、各都道府県でほとんど差がないため、分散が小さく説明変数として適当ではないと判断し、これを除外したモデルを採用している。 1人当たり通話需要に与える影響は、1人当たりPHS加入数が最も大きく、次いで1人当たり自車携帯電話加入数、1人当たり加入電話加入数と続いている。1加入当たりの通話時間からみると、全く逆の順番になっている。この理由としては、普及が終了した加入電話に対して、現在急速に普及しつつある自動車携帯電話・PHSの場合、通話需要が大きいセグメントとこれらに加入しているセグメントが重なっている影響が大きいものと思われる。

発信と着信の違いを見てみると、自動車携帯電話は発信への影響が大きい。自動車携帯電話は着信より発信に多く使われていることが理由と考えられる。PHSについては、利用形態からは説明がつかず、加入数が増大した今後のデータによって分析を深める必要がある。




4.2. 地域間通話量モデル

平成7年度の通話メディア計(加入電話、公衆電話、自動車携帯電話、PHS)のデータを被説明変数とするモデルを構築した。各都道府県の発信通話量と着信通話量は発信着信通話量モデルで分析されているため、発信通話量と着信通話量を制約条件とする以下のような二重制約モデル を用いる。 i県からj県への業務通話量は通話距離 をdとして式3で示されるものとする 。

ここでTijは制約条件として、


を満たさなければならない。従って、式3、式4、式5からAiとBjは、



に計算することにより収束計算を行う。

また、空間的相互作用モデルを作成する上で、地域内距離をどのように扱うかは常に非常に重要な問題である。地域内距離についてはいくつかの式が提案されている が、本調査研究では修正パラメータkを新たに導入した式8を用いる。

kとaは式9のように変形して最小二乗法を行うオッズ比法(Odds ratio method)によって同時に求めることができる。ここで求められたkとaを用いてAiとBjを収束計算して求める。

オッズ比法によって定められたkとaを表 4-3に示す。

表 4-3 地域間通話量モデルにおけるkとa

kは各県の面積を円とみなした場合の半径に対する域内距離のずれを示している。推計されたkは域内距離として用いられる場合が多い1よりもかなり小さく、通話の域内距離はかなり小さいことがわかる。 また、aは1よりやや大きな推計結果となっており、通話量はほぼ距離に反比例していることが明らかになった。

収束計算によって得たAiとBjは、共に大都市を有する都道府県で小さく、そうでない都道府県で大きい傾向が見られた。このAiとBjを用いて推計したT'ijと実績値Tijの相関係数は0.9863と高い値であり、今回構築した二重制約モデルは高い説明力を有していることがわかる。




4.3. 通話メディア分担モデル

通話メディア計を対象とした場合、各都道府県間の通話メディア計のトラヒックは、どのような通話メディアによって行われているかを検討する。


図 3 通話メディア分担のモデル


図 3に示したように、通話メディアの分担は3つの分担の組み合わせとして理解できる。まず第一段階として、通話の場所によって、屋内で中心に用いられる加入電話と屋外で中心に用いられる公衆電話、自動車携帯電話、PHSの間の分担が考えられる。次に、屋外で通話する場合、固定電話である公衆電話と移動通信である自動車携帯電話、PHSとの間の分担が考えられる。最後に、共に屋外の移動通信である自動車携帯電話とPHSの間の分担が考えられる。分担率の規定要因として、発信都道府県の特性である各通話メディアの台数(加入)比率や平均在宅時間、発信都道府県と着信都道府県の間の特性である通話距離が考えられる。得られた結論を簡単に整理すると以下のようになる。なお、計算結果をテーブル関数として、補論に示した。


a. 分担1においては、図 4に示したように発信都道府県の全電話台数(加入数)に占める加入電話の比率が高いほど、発信都道府県の在宅時間が長いほど通話トラヒックに占める加入電話トラヒックの割合が高くなる。



図 4 加入電話の台数比率とトラヒック比率の関係



台数比率に加えて通話距離による影響を示したのが図 5である。通話距離が200kmを越えるとほとんど 距離には依存しないことがわかる。200km未満でも通話距離による明確な傾向は見られない。




図 5 加入電話の台数比率、通話距離とトラヒック比率の関係


b. 分担2においては、発信都道府県の屋外電話台数に占める公衆電話の比率が高いほど、屋外トラヒックに占める公衆電話トラヒックの割合が高くなる。この場合もやはり通話距離の影響は明確ではない。

c. 分担3においては、発信都道府県の移動電話台数に占める自動車携帯電話の比率が高いほど、移動体トラヒックに占める自動車携帯電話トラヒックの割合が高くなる。PHSは平成7年度時点では加入数が小さいが、通話距離が短いほどPHSトラヒックの割合が高くなる傾向が明確に見られる。


規模要因としては事業所従業員数や人口、さらにはそれらを形態や年齢で分類したものが説明変数として考えられるが、ここでは普及要因のような他の要因も説明変数として取り込むこと、規模指標間は相互に相関が大きいため複数用いると多重共線性の問題が起きやすいことから、人口で代表させる。 なお、今回は平成7年度単年度のデータによる分析であり、料金水準は一律であると考え、通話料金は説明変数として導入していない。これは後の5.1や6.1でも同様である。

都道府県間の通話距離は、人口の集積を考慮して、各都道府県の都道府県庁所在MA(単位料金区域)間の距離で代表されるとし、方形区画番号表を用いて算出した。

以下のように料金距離d2をとりこんだモデルも検討したが、業務用、私用、通話のいずれでもd2の指数bの符号条件を満たすモデルが得られなかったため、通話距離d1のみのモデルを採用した。料金の遠近格差はすでにかなり縮小しており、通話交流に与える影響は軽微となっているものと思われる。 なお、d2をとりこんだ場合もd1と共通の修正パラメータkを導入することのより、オッズ比法でk、a、bを求めることができる。

ゾーン内可住地面積を円とみなしてその半径をとる方法、ゾーン間のみで推計した式を満たすように求める方法、隣接ゾーン間距離の1/4〜1/2をとる方法等があるが、決定的な手法はない。



return