2. 移動体通信の普及状況について



各種消費財の普及率は時間経過を説明変数とするロジスティック曲線等の成長曲線に従うことが経験的に知られている。そこで、携帯電話とPHSの人口普及率の推移について、ロジスティック曲線へのあてはめを行った。ロジスティック曲線へのあてはめは、北海道から九州・沖縄までの10分割した地域と全国計で携帯電話とPHSを合計したものについて行った。

ロジスティック曲線の特定には、最大普及率K、Kまでの相対普及速度を決定するパラメータa、普及時期を決定するパラメータbの3つを求めなければならない。そのため、一般には最大普及率Kを既知として線形化し、aとbを求める。しかし、今回は最大普及率も未知として計算を行うため、収束計算による残差自乗和の最小化により、K、a、bを求めた。ただし、収束計算であるために、計算結果は初期値に依存することに注意が必要である。

式形は、以下のものを用いた。

ここで、0 ※曲線はt=bでK/2となり、このときdY/dtが最大となる。
データは、92年度末、93年度末、94年度末のものと、95年度〜96年度までの四半期毎データの計15時点のものを用いた。ただし、PHSについてはサービス開始が95年7月であるため、95年9月からのデータとなっている。人口については、住民基本台帳に基づく各年度末のデータを用い、必要に応じて線形補間・補外を行った。

手順としては、まず全国計にK=0.5、a=-1.0、b=96という初期値を入れて収束計算を行い、そこで得られた結果を初期値として各地域の収束計算を行った。

普及率の推移とロジスティック曲線によるあてはめ結果を図2-1、図2-2に示す(x軸は年度末で示しているため、95とある位置が95年度末である)。


図2-1 携帯電話&PHSの地域別普及状況と曲線のあてはめ(1/2)




図2-2 携帯電話&PHSの地域別普及状況と曲線のあてはめ(2/2)
普及速度dY/dtの実績値を図2-3に示す。いずれの地域でも普及速度は96年ごろに峠を越え、鈍化傾向にあることが分かる。




図2-3 普及率の変化率(年率換算)

パラメータの推定結果を表2-1に示す。

表2-1 携帯電話&PHSのパラメータ推定結果

推計したb(最大普及速度達成時期)は最小が近畿の95.4、最大が東北の96.1であり、図2-3に示した普及速度の実績値とほぼ一致している。いずれの地域においても、普及の中間点(Y=K/2、dY/dt最大)を過ぎていると考えられる。

表2-2に各地域の事業者参入状況を示す。推計されたbに該当する欄を網かけし、全ての事業者が参入した時点を太線で示した。いずれの地域も普及の中間点に達したのは全ての事業者が参入した後であり、事業者の参入時期と普及の進展時期に相関があることがわかる。



表2-2 各地域の事業者参入状況

最大普及率Kは地域によって異なった結果が得られているが、bが大きい(現在まだ最大普及率に至るまでの初期段階にある)、あるいは図2-3でピークがはっきりしない地域については推計精度が低くなってしまう傾向がある。具体的には、北陸や四国がこれに該当すると思われる。その上で検討すると、現段階のデータからは、携帯電話及びPHSの最大普及率は、関東(信越も含む)、東海、近畿で40%程度、その他の地域で30%程度と考えられる。

今回は全国を比較的大きなゾーンに分割して推計を行っているため、分析結果の解釈には地域内の普及状況の差も大きいことに留意する必要があるが、東京、大阪、名古屋を含む三地域が他の地域に比べて最大普及率が大きいことから、大都市では最大普及率が大きいことが推察される。 移動体通信の需要が多いと考えられる15〜34歳までの人口が総人口に占める割合(若年比率)と最大普及率Kの関係を図 2-4に示す。北陸と沖縄は大きく外れているが、それ以外の地域については若年比率が高いほど最大普及率が高いという関係が見られる。




図 2-4 若年比率と最大普及率Kの関係



最大普及率Kに近づく相対速度を表すaの絶対値は1.19〜1.82となっており、他の消費財の普及 と比較しても最大普及率までの到達期間が極めて短いことを示している。地域別では、中国、九州、沖縄で速く、北陸、関東、近畿で遅い。

推計されたKとaの関係を図2-5に示す。


図2-5 最大普及率Kと普及速度aの関係



aの絶対値が大きいほどKが小さい傾向が明確に読み取れる。つまり、最大普及率Kが大きい地域でも、単位期間の普及率増分dY/dtが単純に大きくはならないことがわかる。図2-3でみてもdY/dtの上限は15ポイント程度である。すなわち、普及率が上昇していく絶対的な速度(dY/dt)、言い換えれば一定期間に上昇する普及率には上限があり、最大普及率Kが大きくなればいくらでも大きくなっていくわけではないことを示唆している。



return