郵政研究所ディスカッションペーパー・シリーズ 1998-06
通信経済研究部 主任研究官 実積寿也
研究官 外薗博文 研究官 高谷 徹
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要 約 本研究の目的は、携帯・自動車電話事業及びPHS事業(以下、「移動体通信事業」と称す。)の現状を把握し、今後の政策展開のための議論の基礎資料を提供することにある。 移動体通信サービスに関する市場では、ここにきてサービス間・事業者間にある程度の格差がつきつつある。まず、サービス毎にみると、携帯・自動車電話(以下、「携帯電話」と称す。)の加入者数が引き続き順調に伸びている一方で、PHSは減少に転じており、PHS各社はマーケティング戦略の根本的な見直しを一部で迫られている。また、同一サービスを行う各社の間においても優劣の差が顕れつつあり、「強い事業者はより強くなる」という現象が見られる。 本研究では、こうした移動体通信事業分野を研究対象に、ヒアリング調査及びアンケート調査などを実施し、それらから得られたデータを分析した上で今後の移動体通信事業の課題整理を行った。 まず、移動体通信の普及状況に関する分析から、急速に普及が進んできた移動体通信の普及速度は96年度前後にピークを過ぎ、すでに鈍化しつつあること、最大普及率は全国で35.5%程度と思われること、事業者の参入時期と普及の進展に相関がみられること、等が明らかになった。 提供されている料金プランの種類については、多岐に渡る料金プランを展開する携帯電話とシンプルな料金プランのPHSという特徴が概観でき、それぞれに対する需要の分布から、携帯電話とPHSのサービスは一定の棲み分けを行っていること、従って、利用者の観点からみると、PHSサービスの導入は、移動体通信サービスに対する選択可能性の拡大という意味があったことが明らかになった。 累積加入数を被説明変数とする事業者別の分析からは、事業者は先行安定グループ、後発追い上げグループ、新規参入グループに類型化される。先行安定グループは、参入時期が早いためにエリアも充実している。従って、販売促進に注力することによって既に優位なエリア等のサービスレベルを十分に活かすことが加入者獲得につながると思われる。後発追い上げグループは、広告宣伝、販売促進に注力するとともに、営業エリアの規模の拡大を図ることが重要である。新規参入グループは、エリアで劣勢であることを補うために、販売促進に注力することによって、キャッチアップしていくための期間を確保することが重要となる。 累積加入数、地域内のシェアを被説明変数とする料金プラン別の分析からは、面積カバー率が大きい料金プランほど加入数が多いこと、料金水準が低いサービスほど契約数が多いことが明確になった。 今後の移動体通信の課題としては以下の点が挙げられる。 まず、エリア展開が加入者の獲得に重要であることが明らかになったが、エリア展開のための設備投資はどの類型の事業者にとっても大きな負担になっている。今後複数事業者の競争状態を維持しつつ、より一層のエリア展開を進めていくためには、無線局設備の設置支援、他事業者との鉄塔等のネットワーク設備の共同利用が有効と考えられる。 次に、普及速度が鈍化してくる市場環境を考慮すると、端末価格のみに依存した競争からの脱却、端末メーカーと事業者間の適正な関係、業界全体の統一的な与信管理等の実現が利用者の便益を生む競争状態の維持にとって重要な課題となってくる。 さらに、事業者の設備の有効活用の面からも、移動体通信の便益をより多くの人が享受できるようにするためにも、広い利用者層を満足させる料金プラン、サービス内容の実現が望まれる。 最後に、PHSについては、データ通信サービスのような独自サービスの展開で先行していくこと、依存するネットワーク事業者との接続のコスト設定とサービス導入までのスピードアップが重要な要素となる。
本研究は、郵政研究所客員研究官である横浜国立大学経営学部大塚英作教授にご指導頂いた。 |
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