2. パソコンの普及状況

(仕事でのコンピュ−タ−利用とパソコン所有)

 仕事でコンピュ−タ−を利用している人の比率は、16.1%(90年)から21.2%(95年)に増加している(総理府「科学技術と社会に関する世論調査」1995年参照、以下「世論調査」という)。この増加傾向は全消でのパソコン普及率(5.8%(84年)、12.4%(89年)、16.8%(94年)、国民生活白書96年版による)とほぼパラレルな動きである。

 世論調査によれば、ホワイトカラ−(管理・専門技術・事務職)の55.8%が仕事で利用していると回答している(ブル−カラ−は19.6%)。ホワイトカラ−の職務分野でコンピュ−タ−利用が進んでいることがうかがえる。この仕事での利用率は、全消での世帯のパソコン所有率(民間職員20.9%、公務員24.8%)とはかなり乖離した数字である。このことは仕事ではコンピュ−タ−やパソコンを利用しているが、パソコンを所有するという形で自ら積極的に人的投資をする人は多くはないことを示唆している。

 さらに世論調査では、科学技術の進歩が労働条件を向上させたというのはホワイトカラ−で48.5%である(悪化したは14.9%)。多くの人が技術の進化を歓迎している。他方で、コンピュ−タ−等の普及で働き口は減るとする人はホワイトカラ−の46.3%であり(そうは思わないは49.3%)、さらにブル−カラ−等も含めたコンピュ−タ−の利用者で49.0%(〃45.7%)、コンピュ−タ−を利用していない人では57%(〃29%)に達する。この将来の労働需給に対する人々の予想は、コンピュ−タ−が新たな産業や職種の勃興をもたらすと共に、陳腐化した技術に依存する産業の衰退や職種のde-skill化を予見しているものといえよう 。9

 これらの意味でも家計でパソコンを所有するという積極的な行為と賃金の関係を分析することが望ましいといえよう 。10



(パソコン普及の概況)

 全消の2人以上世帯でのパソコン普及状況を見てみる。全体の普及率は16.1%である。2%の世帯は2台以上所有している(表1参照)

 世帯主の職業別に見ると官公職員、民間職員及び法人経営者の所有比率が高くなっている(表2参照)。これらの職業で相対的にパソコンを利用する必要性が高い可能性がある。世帯主の勤務先産業別にみると、電気・ガス・熱供給・水道業、サービス業、製造業、公務でやや高くなっている(表3参照)。勤務先の企業規模との関係では、企業規模が大きくなるにつれて、パソコン所有比率は13%から27%へと単調に増加している(表4参照)。これは大企業に勤務する者ほど、技術革新に積極的に対応する必要に迫られている(あるいは賃金の増加が期待される)ということかもしれない。

 世帯主の年齢階級との関係をみると、45〜49歳までは増加しているが、その後は低下傾向にある。これは加齢が進むと新技術への対応に困難が増すということなのかもしれない((表5参照)。また子供との関係では明らかに子供が成長するほどパソコン所有比率が高くなる傾向がある(表6参照)。このことは、特に高校生大学生のいる世帯では、子供がゲ−ムに使うという形で消費財としてパソコンを所有している可能性を示唆している 。11

世帯主の人的資本に対する投資としてのパソコン所有を考える場合は、子供の状態をコントロ−ルする必要があることを示している。なお、居住地の都市規模別に見た場合は、特段の差はうかがえない(表7参照)12

====表1〜表7====


  1. コンピュ−タ−やパソコンの発達普及で、働き口の減った職種あるいはde-skill jobの例として、電話交換手と和文タイピストを上げることができる。前者はコンピュ−タ−利用の典型である自動交換機に置き換えられた。後者はパソコンにより特殊技術がde-skill化された。
  2. パソコンに代表される情報処理能力はfirm specificというよりは、勤務先を変更しても使用できる一般的なskillである。一般的な技術の修得は企業内での訓練よりは、労働者個人により行われる。企業はそのような一般的なskill、それもhigh-skillを身につけた労働者を引き止めるためには、より高い賃金を提示すると考えられる。
  3. ただしパソコンに支援された教育という側面に留意する必要はある。
  4. 国民生活白書[1996]はこの全消を用いて、パソコン所有についてプロビット分析を行っているが、賃金関数との関係は分析していない。


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