2. 推定に用いたデータについて
2.1. アンケートの概要及びデータの特性
本稿では、郵政研究所が実施した二回のアンケート調査に基づき、家計が可処分所得から通話支出として配分した金額を事業者が提供する各種電話サービスに割り振る行動に焦点をあて、AI需要体系による通話需要関数の推定を行う。アンケート調査の概要は以下のとおりである。
表 2.-1 アンケートの概要
| 第一回アンケート調査 | 第二回アンケート調査 |
実施時期 | 1997年1月 | 1998年2月 |
アンケート対象地域 | 関東地方一都六県(茨城、群馬、栃木、埼玉、千葉、東京、神奈川) |
サンプル抽出方法 | 市町村単位の住民基本台帳からのニ段階無作為抽出 |
調査方法 | 郵送調査法 |
調査票配布世帯数 | 6,000世帯 | 2,300世帯 |
有効回答数(率) | 1,465世帯(24.4%) | 1,006世帯(43.7%) |
電話サービスの利用には、その前提として事業者への加入という行為が必要である。世帯が利用可能な電話サービスの利用パターンにはいくつかのバリエーションが存在する。本稿では加入需要については所与として通話需要を推定するため、表 2.-2に示す3つの加入パターン を分析対象とする。
表 2.-2 加入パターン
| NTTの加入電話サービス | NCCの市外電話サービス | 携帯電話サービス |
加入パターン1 | 加入 | 加入 | 加入 |
加入パターン2 | 加入 | 加入 | 未加入 |
加入パターン3 | 加入 | 未加入 | 加入 |
以下に掲げるのは、加入パターン別に示された、後述の需要関数の推定作業で必要とされる変数に関する基本的な統計情報である。支出シェアとは総通話支出に占める各事業者への支払いシェアを意味し、通話料金とは、実積・大石・高谷[1998]で提示された通話料金算出の手法に沿ってMessage Area毎に算出された通話料金指数を意味する 。
表 2.-3 加入パターン1の場合
変数 | 標本数 | 平均値 | 標準偏差 | 最小値 | 最大値 |
税引き前世帯所得 | 337 | 1160.653 | 680.3949 | |
NTT通話料金 | 375 | 9.5970 | 0.6421 | 8.4342 | 11.3445 |
NCC通話料金 | 375 | 19.6365 | 1.9157 | 15.8580 | 22.7500 |
携帯電話通話料金 | 375 | 36.6177 | 3.0428 | 32.3656 | 39.6253 |
総通話支出 | 375 | 16962.12 | 15032.61 | 0.0000 | 102822.3 |
NTTへの支出シェア | 374 | 0.4626 | 0.2261 | 0.0000 | 1.0000 |
NCCへの支出シェア | 374 | 0.2129 | 0.1936 | 0.0000 | 1.0000 |
携帯電話への支出シェア | 374 | 0.3246 | 0.2441 | 0.0000 | 1.0000 |
表 2.-4 加入パターン2の場合
変数 | 標本数 | 平均値 | 標準偏差 | 最小値 | 最大値 |
税引き前世帯所得 | 488 | 1049.344 | 590.0214 | |
NTT通話料金 | 533 | 9.6460 | 0.6315 | 8.4342 | 11.3445 |
NCC通話料金 | 533 | 19.9988 | 1.9007 | 15.8580 | 24.4436 |
総通話支出 | 533 | 6700.639 | 5439.612 | 0.0000 | 38403.5 |
NTTへの支出シェア | 528 | 0.6375 | 0.2616 | 0.0000 | 1.0000 |
NCCへの支出シェア | 528 | 0.3626 | 0.2616 | 0.0000 | 1.0000 |
表 2.-5 加入パターン3の場合
変数 | 標本数 | 平均値 | 標準偏差 | 最小値 | 最大値 |
税引き前世帯所得 | 283 | 1065.371 | 663.2128 | |
NTT通話料金 | 312 | 9.5926 | 0.5734 | 8.4342 | 11.1031 |
携帯電話通話料金 | 312 | 36.8170 | 2.9006 | 32.3656 | 39.6253 |
総通話支出 | 312 | 17314.22 | 35944.15 | 0.0000 | 605505.7 |
NTTへの支出シェア | 311 | 0.6302 | 0.2423 | 0.0000 | 1.0000 |
携帯電話への支出シェア | 311 | 0.3698 | 0.2423 | 0.0000 | 1.0000 |
2.2. 家族属性が各電話サービスの支出シェアに与える影響
世帯の家族構成(「家族属性」)の類型を、世帯構成員の性別・人数を基準に表 2.-6のとおり定義した上で 、世帯の家族構成が支出シェアに与える影響を分析する。
表 2.-6 家族属性の定義
家族属性 | 家族構成 |
Single世帯 | 男性1人である世帯 |
Couple世帯 | 男性1人+女性1人 |
Core世帯 | 男性1人+女性2〜3人、あるいは、男性2〜3人+女性1人 |
Big世帯 | 男性2〜3人+女性2〜3人 |
2.2.1. データの概要
まず、加入パターン1に属する世帯において、NTTに対する支出シェアはCouple世帯の場合が他の家族属性と比較して小さい世帯が多い(図1)。NCCに対する支出シェアについてはCouple世帯の場合が他の家族属性の場合に比較して若干小さめではあるが、NTTへの支出シェアほどの差はない(図2)。さらに、携帯電話に対する支出シェアはCouple世帯の場合が他の家族属性の場合に比較して大きい世帯が多いことが示されている(図3)。
次に加入パターン2の場合の支出シェアに関しては、各家族属性間に明らかな差異は見られない(図4、図5)。
図 4
| 図 5
|
最後に加入パターン3においては、NTTに対する支出シェアについては、Single世帯の場合<Big世帯の場合<Core世帯の場合<Couple世帯の場合の順でシェアの大きい世帯の占める割合が多い(図6)。さらに、当然に予想されることであるが、携帯電話に対する支出シェアはSingle世帯の場合<Big世帯の場合<Core世帯の場合<Couple世帯の場合の順で小さい世帯の占める割合が多くなっている(図7)。
図 6
| 図 7
|
2.2.2. 分析
前節で、加入パターン1あるいは3に該当する世帯においては、家族属性が支出シェアに対し一定の影響を及ぼしていることが明らかになった。ここでは、両加入パターンにおける家族属性毎の人口統計学的特徴を調べることにより、具体的に、どのような特性が支出シェアに影響を及ぼしているのかについて分析を加える。
図 8
まず、加入パターン1の場合をみてみよう。図 8には各世帯の筆頭者たる世帯主の年齢に関する家族属性毎の分布が示されている。Single世帯とCouple世帯で20代、30代の割合が全体の過半数を占め、その他の家族属性では40代と50代が過半数を占めている。世帯主の年齢は当該世帯のライフステージを代表するものと考えることができるので、世帯主の年齢が若いCouple世帯は世帯構成員の平均年齢も低いことが期待できる。大石[1998]で示されているように、携帯電話の利用は若年層に大きく偏っているため、Couple世帯の携帯電話への支出シェアの高さについては、世帯のライフステージの若さが大きく貢献しているものと考えられる。
各種情報機器の保有率などについての傾向は表 2.-7のとおりである。Couple世帯において、パソコン通信及びインターネットなどのネットワーク利用率が低いことは、アクセスポイントまでの接続はNTTの市内網を介することが通常であることを考えると、NTTの加入電話サービスに対する支出シェアに対しマイナスの影響を及ぼし、他方、自営業従事率が高いことは、業務用として利用される携帯電話への支出を増大させるという影響を及ぼしていることが考えられる。
世帯主年齢階層のデータ(図 8)のみからは、Single世帯についても、Couple世帯と同様の支出シェアの傾向を示すことが期待されるが、表 2.-7に示されるパソコン通信及びインターネットなどのネットワーク利用率の高さ及び自営業従事率の低さによりライフステージ効果が相殺され、Core世帯、あるいは、Big世帯と同様の傾向を示すに至った可能性がある。
表 2.-7 加入パターン1の世帯属性
| 第一順位 | 第二順位 | 第三順位 | 第四順位 |
パソコンの保有 | Big世帯 63.61% | Couple世帯 61.34% | Core世帯 59.72% | Single世帯 52.91% |
ワープロの保有 | Big世帯 73.14% | Core世帯 64.96% | Couple世帯 53.65% | Single世帯 36.12% |
ファックスの保有 | Big世帯 64.55% | Core世帯 59.44% | Couple世帯 50.43% | Single世帯 32.32% |
パソコン通信の利用 | Single世帯 56.91% | Core世帯 26.17% | Big世帯 18.68% | Couple世帯 18.32% |
インターネット利用 | Single世帯 55.53% | Core世帯 28.58% | Big世帯 24.37% | Couple世帯 14.61% |
自営業従事の割合 | Couple世帯 34.64% | Big世帯 32.48% | Core世帯 27.83% | Single世帯 13.05% |
遠隔地家族の存在 | Single世帯 28.74% | Big世帯 23.53% | Core世帯 16.14% | Couple世帯 11.75% |
さらに、3.3.節で後述するように、NTTの電話サービスは必需財であるが、携帯電話サービスは奢侈財であると解釈できる推定結果が得られているが(表 3.-4)、Single世帯において世帯所得が低い階層に属する世帯の割合が大きいこと(図 9)が奢侈財としての性質を持つ携帯電話サービスの利用を減らし、支出シェアに影響を及ぼしていることも否定できない。
図 9
次の加入パターン3の場合を見てみよう。世帯主の年齢に関しては、Single世帯とCouple世帯で20代、30代の割合が全体の過半を占めるが、Single世帯の方がより若年の層に偏った分布をしている(図 10)。Core世帯の場合は50代以上が7割を占め、Big世帯は40代50代を中心に比較的万遍なく分布している。パターン2の場合と同じ理由で、世帯のライフステージの若さがSingle世帯の携帯電話への支出シェアにプラスの影響を及ぼしていることが期待できる。
図 10
各種機器の保有率などについての傾向を表 2.-8に示す。先ほどのケースとは逆に、世帯主年齢分布ではSingle世帯と同様の傾向を示すことが期待されるCouple世帯であるが、ネットワーク接続率の高さと自営業従事率の低さが、NTTの加入電話への支出シェアが比較的高い一方で、携帯電話への支出シェアが比較的低いという結果をもたらしていることが想定できる。
表 2.-8 加入パターン3の世帯属性
| 第一順位 | 第二順位 | 第三順位 | 第四順位 |
パソコンの保有 | Big世帯52.44% | Couple世帯46.96% | Core世帯45.76% | Single世帯26.32% |
ワープロの保有 | Couple世帯65.79% | Big世帯63.38% | Core世帯60.92% | Single世帯16.99% |
ファックスの保有 | Core世帯38.87% | Single世帯36.98% | Couple世帯36.69% | Big世帯35.34% |
パソコン通信の利用 | Couple世帯34.39% | Single世帯28.94% | Core世帯23.41% | Big世帯11.65% |
インターネット利用 | Couple世帯32.52% | Core世帯24.35% | Single世帯11.89% | Big世帯4.45% |
自営業従事の割合 | Core世帯31.80% | Big世帯23.05% | Single世帯19.91% | Couple世帯16.14% |
遠隔地家族の存在 | Core世帯14.75% | Single世帯8.79% | Big世帯9.07% | Couple世帯2.56% |
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