4. 結論及び今後の課題


関東地方の一都六県を対象に実施したアンケート結果の分析により、世帯の家族属性が通話サービスに対する支出に一定の影響を及ぼしていることが明らかになり、そこには、世帯主の年齢で代表される世帯のライフステージ、世帯所得、情報通信機器の保有・利用動向、自営業を営んでいるか否か、単身赴任者などの遠隔地家族の有無といった要因が影響を及ぼしている可能性が示唆される結果が得られた。

 さらに同じデータセットを対象とし、市町村別抽出率をウェイトとする一般化最小二乗推定量を用いてSeemingly Unrelated Regressionを試みることで、各加入パターンのそれぞれについてAI需要体系の有意な推定結果が得られ、標本平均において弾力性を評価することにより、概要以下のことが明らかになった。

  1. 支出弾性値から判断すると、世帯の加入パターンの違いにかかわらず、NTT、NCC、携帯電話事業者の提供する通話サービスはいずれもunit elasticityである。

  2. 自己価格弾力性からは、加入パターン1( NTT、NCC及び携帯電話に加入している世帯)の場合は、携帯電話サービスの需要は、価格の変化に対し弾力的でありNTT、NCCの電話サービスの需要は、携帯のそれに比べて非弾力的である。加入パターン2(NTT、NCCに加入している世帯)においては、NTT、NCCの電話サービスに関する自己価格弾力性は、-0.4から-0.5であり、加入パターン3(NTT、携帯電話に加入している世帯)については、NTT、携帯の電話サービスの自己価格弾性値は、-1.32、-1.16である。加入パターン1のNTTおよび携帯の自己価格弾力性の計測値に比べ、加入パターン3のそれが、かなり高いことが特徴的である。

  3. 加入パターン1の交差価格弾力性の推定結果からは、NTTの電話サービスは、NCCおよび携帯のサービスと補完的である一方、NCCの電話サービスは、携帯のサービスと代替的であることが明らかになった。利用可能なサービスが2種類に限られている加入パターン2および加入パターン3に関しては両サービスが代替的であるという消費者行動の理論と整合的な結果が得られている。

さらに、今後の検討課題としては以下の三点を挙げることが出来よう。

  • まず、 AI需要体系の推定および各サービスの交差価格弾力性計測結果の頑健性を確認する必要がある。そもそも3種類の通話サービスが利用可能な場合、異なるサービスの間には、補完関係、代替関係、いずれの可能性も許されている。したがって、AI需要体系に代表される多財支出体系に基づく交差価格弾力性の計測を通じ、異なるサービス間で代替関係または補完関係であることを初めて明らかにできる加入パターン1がわれわれの用いたAI需要体系の特徴を最も生かすことができる。しかしながら、今回のデータセットでは、加入パターン1の標本数は、300強に過ぎない。今後、加入パターン1の標本数をさらに増やすことができれば、われわれの計測結果、すなわち、NTTとNCCおよびNTTと携帯電話のサービスはそれぞれ補完的、NCCと携帯電話のサービスは代替的とする計測結果の頑健性を確認できる。

  • また、世帯属性(所得階級、家族構成、世帯主職業など)をAI需要体系の特定化に明示的に組み入れることができれば、世帯属性の統御を通じ、われわれが今回採用したモデルのパラメータ推定値および標準誤差の推定値の改善が図られる可能性がある。

  • 最後に、本稿の分析においては加入パターンを所与とした上で、通話需要体系の分析を行った。しかしながら、加入パターンが通話需要に何らかの影響を与えることは当然に予想される。従って、通話需要のパラメータを正しく把握するためには、加入パターンと通話需要を同時に説明するようなモデルに基づく需要体系の推定が適当である。具体的には、sample selection modelなどを用いてAI需要体系を構築するという手法を考慮することも必要である。


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