郵政研究所月報 

1998.6

調査・研究


郵便局舎のアメニティに関する研究




技術開発研究センター主任研究官
研究官
神山 貞弘
  石津千絵美




【要約】

 現在、郵便作業の機械化や郵便業務の情報化が推進されており、それに伴い郵便作業室内環境が大きく変化している。また、少子化による将来の労働力不足から中高年者や女性の労働力の活用が予想されており、そのための郵便作業室内環境の改善が求められる。
 本調査研究では、郵便作業室内で働く職員の室内環境に関する意識及び郵便作業室内の物理的環境の実態調査・分析を行い、職員が働きやすく生産性の高い郵便作業室内環境について新しい環境基準の指標となる基礎データを構築することにより、今後の郵便局舎設計に資することを目的として実施してきた。
 まず、現在の郵便局で働く職員が室内環境について何をどう判断することにより「働きやすさ」と評価するかを明らかにするため、3局においてインタビュー調査を実施した。この結果、郵便局舎のアメニティに関する評価項目が600項目ほど抽出され、この中からアメニティ6要素(意欲・精神・身体・安全・効率・社会)に分類した。
 次に、より多くの郵便局の傾向を把握するため、インタビュー調査で得られた評価項目について、全国から条件の異なる50局を選定して、総計約1,800名の郵便関係課の内勤職員に対してアンケート調査を実施した。この結果、郵便局舎については、「安全」要素に関して「ふつう」以上の評価であるが、特に「身体」「効率」「精神」の要素について比較的低いという結果になった。また、「全体として働きやすい職場である」という全体総合評価と個別評価との相関関係を分析した。これにより、郵便局舎の総合的なアメニティを改善するポイントが明らかにされた。更に、評価項目について、満足度評価と重要度評価からアメニティの優先度について分析し、アメニティの優先領域が明らかにされた。インタビュー調査局のうち2局の郵便作業室内において、夏冬の2回室内環境の4要素(温熱・空気・音・光)の物理的測定による実態把握・分析を行った。
 これらの調査・分析から、現在の郵便局舎のアメニティを改善するポイントは、「身体」要素に関しては冷暖房効果と空気環境、「効率」要素に関しては郵便作業室内のスペースの余裕・レイアウト計画のしやすさ、「精神」要素に関しては休息室のアメニティの改善であると考えられる。
 今後は、施設の快適さを維持し向上させるためには、時系列的に施設の快適さの要因を的確に捉え、それを客観的に評価する手法が必要であり、その手法として施設ユーザー評価(POE)が有効な手法の一つであると考えられる。


郵便局舎のアメニティに関する研究

1.はじめに
 「郵便局舎のアメニティに関する研究」は、郵便作業の効率化と迅速化のためにますます進むと思われる機械化やOA化、そして少子化や高齢化に伴う将来の労働力不足により増加すると予想される女性および高齢者の職員へ対応するために、郵便事業を施設的にサポートしていくに当たって、郵便局の働きやすい職場環境に対する職員ニーズを把握し、設計情報として活用することにより、生産性の高い高性能な郵便局舎を適正なコストで効率的に設計するための情報を提供することを目的として実施した。
 本調査研究では、執務空間における働きやすさの条件が[アメニティ]であると独自に定義し、郵便局舎のアメニティについて、調査した。
 なお、本調査研究では、調査対象を物流施設としての郵便局舎に限定し、郵便関係の内勤職員に絞って行っているため、窓口利用のお客さまや総務・貯金・保険・集配等の各職員は対象としていない。

2.アメニティの定義

2.1 生産性向上
 生産性とは、厳密には生産システムへの投入量と産出量の比で表現される係数のことであるが、一般的には人的な労働生産性を意味していることが多い。具体的に何を以て生産性というかについては議論があるが、単純には次のようなことが生産性であると理解されている。

  • 生産する量
  • 生産する速度
  • 生産過程や成果の質

 これらの生産性のアップとともに、負の生産性とされる作業ミスや突発欠勤等の減少も合わせて、いわゆる生産性向上であると考えて差し支えない。
 経営工学の分野では、生産性向上は物的資源と人的資源の有効利用を同時に考えなければ成り立たないといわれており、生産労働者の肉体的および心理的な苦痛や負担を軽減し、仕事への充実感や働き甲斐を見いだせるような環境を提供する必要があるとされている。また、顧客満足(CS)や高度な生産システムを充実させても、その成果は実際には現場の従業員の努力に負うところが大きいとして、従業員満足(ES)があって、より効果的な生産性向上が実現できると説いている。
 本調査研究では、このESの部分に着目した。


CS:Customer Satisfactionの略称
ES:Employee Satisfactionの略称
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2.2 行動的環境
 建築と人間の関係を探るとき、人間工学的にはその物理的関係と心理的関係を別個に考えられている。すなわち、物理的には、大きな建築空間は小さな人間を内包する存在であるが、心理的には、主体である人間に対して建築空間は知覚される刺激として対立する存在になるとされる。
 このような、建築と人間の物理的関係における建築の物理的諸条件を地理的環境といい、その地理的環境を人間が知覚した結果ある行動を起こした場合、その行動を起こさせる要因となる知覚、つまり建築と人間の心理的関係における条件を行動的環境と呼ばれている。たとえば、室内温度が20℃であることは地理的環境であるが、それを暑いと知覚して上着を脱ぐなど、暑いという生理的反応や、暑いと感じる心理的感覚が行動的環境に当たる。
 これまでの建築は、行動的環境を客観的に把握することが難しいため、地理的環境を基準とした仕様設計でなされることが多かった。しかしこれからは、建築としての使いやすさ、すなわち行動的環境を基準とした性能設計が強く求められてくる。
 経営管理における人間を行動面からタイプ別に分類するものとして、マグレガーのX理論とY理論という考え方がある。行動的環境は、X理論の場合とY理論の場合とでは、その価値が全く違ってしまう。
 X理論は、人間は生まれつき労働を好まず、統制や命令をされなければ努力しないとする考え方で、Y理論は、人間は‘条件さえ整えば’目標に向かって進んで労働し、自己管理を行い自発的に努力するものであるとする考え方であるといわれている。
 行動的環境は、Y理論の方でいう‘整えられるべき条件’に位置づけることができよう。この条件には、給与や福利厚生といった雇用条件、本人の健康状態、職場における人間関係等の他に、職場である建物の機能性、すなわち、執務空間としての働きやすさが挙げられる。
 本調査研究では、この‘執務空間における働きやすさ’の条件を[アメニティ]と定義する。


図2.2.1 建築と人間の関係



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2.3 アメニティの構成要素
 単にアメニティと一口にいっても、いくつかの構成要素がある。そこで、オフィス等の執務空間の評価に関する既存の研究による分類を用いて、アメニティを表現してみる。
 図2.3.1は、執務空間における働きやすさや快適性、すなわちアメニティについて、実際にオフィスや工場等で働く社員に対してインタビューを行い、多くの意見データを要約してまとめ、その傾向別に大きく分類したところ得られた分類要素である。
 調査によると、執務空間のアメニティは6つの要素に分類できる。下半分の3つは基本的アメニティであり、中でも[安全]要素は最も基本的な、最優先させるべき条件である。上半分の3つは高度なアメニティであり、特に[意欲]要素は最も高度な最上位の条件である。ただし、[安全]要素については、オフィスのような事務空間では業務上の危険が少なく、ほとんど問題視されないことから、オフィスのアメニティは[安全]を除いた5要素とされている。
 以下、郵便局舎のアメニティもこの6要素を用いた。


図2.3.1 アメニティーの構成要素



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3.郵便局舎のアメニティ調査

3.1 調査および分析手法の概要

(1)調査方法
 アメニティの調査は、対象である建築を人間の感覚的尺度を用いて評価することにより行う。人間の感覚は個人個人にとっては主観的なものであるが、尺度となる人間の数や範囲を広げることで、ある程度の客観性を得ることができる。
 人間尺度による評価を得るための一般的な調査には、態度や意識あるいは行動等について幅広い意見を引き出し、それを整理分析する定性調査と、大量のサンプルに対して調査を行い、集計して数値化したデータで傾向を明らかにする定量調査とがある。一般に、定性調査はインタビューやヒヤリング等の面接によって行われ、定量調査はアンケートのような調査票を用いて行われることが多い。
 本調査研究では、まず定性調査を行い、その分析結果に基づいて定量調査を行った。

(2)定性調査の分析手法:評価グリッド手法
 定性調査の分析に用いられている手法の一つに、“評価グリッド手法”がある。評価グリッド手法とは、認知心理学の考え方に基づいた臨床心理学の面接調査の分析手法であるレパートリーグリッド法を、建築空間の評価研究に応用可能な形に改良発展させた分析手法で、定性調査データの分析に広く用いられている。具体的には、ユーザーが建築空間を評価する際の評価の単位(評価項目)をユーザー自身の言葉を用いて抽出することを目的とした面接調査を行い、そこから抽出された評価項目の相互の関係を分析して空間の定性的評価構造を導き出すのである。
 この手法のメリットは、人間尺度による評価には避けられない個人差を無視することなく、評価の構造を取り出せる点にあるといわれている。評価自体に個人差があっても、評価項目の関連性と全体の樹系的階層構造には共通性が多いため、この手法を用いた分析により、人間が何をどう判断して建築空間を評価するかが明らかとなる。


評価グリット手法:1996年に改称。旧称は「レパートリーグリッド発展手法」という。
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(3)定量調査のデータ収集法:SD法
 定量調査のデータ収集・分析に用いられている手法の一つに、“SD法”がある。SD法とは、言語による尺度を用いてある概念の構造を定量的に明らかにするための実験手法として心理学の分野で用いられていたが、現在では建築計画や商品開発の分野において、評価手法として広く用いられている。
 調査は評価に当たる言語を5段階や7段階の評価レベルでユーザーに提示し、感じたままのレベルを選択してもらう形で行う。評価に用いる言語は、事前に面接調査を行って集めておくのが最も効果的である。
 この手法のメリットは、定性的な情報を容易に定量化できる点にあるといわれている。情報量が大量であるほど、そのデータによる結果の信頼性は高くなる。また、データは目的によってさまざまな統計分析にかけることが可能であるため、データ間の相関関係を見るなど多角的な分析ができる。


図3.1.1 建築空間に対する評価構造図の例



図3.1.2 SD法による5段階評価の例



SD法:Semantic Differential Methodの略称。日本語の別名を「意味微分法」という。
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3.2 インタビュー調査

(1)インタビュー調査の実施概要
 インタビュー調査は、現在の郵便局で働く職員が何をどう判断することにより「働きやすい」と評価するかを明らかにするために行う。本調査研究では、まず調査対象となるサンプル局の条件を挙げ、分類条件の組合せの異なる3局(a,b,c)を選定した。

サンプル局の共通条件

  • 東京都内の普通郵便局
  • 書状区分機を配備している局

サンプル局の分類条件

  • 築年別:築後約10年(a,b)・築後約30年(c)
  • 機能別:地域区分局(b)・集配一般局(a,c)

 調査は、性別・年齢層・役職・担務等をばらつかせて選んだ各局の職員10名ずつ、総計30名に対して、1人当たり1時間30分の持ち時間で実施した。また、特に局舎に関わる内容とはあえて限定せず、郵便局における働きやすさ全般について意見を聞くという形式で行った。

(2)分析結果
 インタビュー調査により得られた3局分の意見データを評価グリッド手法により分析した結果、郵便局舎のアメニティに関する評価項目が600項目ほど抽出された。これらの評価項目のアメニティ6要素ごとの抽出率と、各要素に属する評価項目全体の要点は、次のとおりである。
 これによると、郵便局職員は、[身体]、[効率]、次いで[精神]の各要素に属するアメニティについて、特に多くの関心を寄せていると考えられる。
次に、分析から得られた約600の評価言語を極力集約し、中でも発言者数の多い特に重要と思われる項目を簡素化して、基本的な樹系図により示すと、図3.2.2のようになった。
 なお、図では評価項目が全て肯定的に表現されているが、実際のインタビュー調査においては、サンプル局の状況や個人的見解の違い等から、肯定的意見と否定的意見とが両方得られている。これは、評価の構造自体が分かりやすくなるよう、あえて肯定的表現に統一したものである。
 各アメニティ要素別の具体的な評価項目の内容は、次のとおりである。

意欲
所属する課や担務による温熱環境の不公平や、職員とゆうメイトによる厚生施設面での不公平があると、仕事へのやる気が損なわれる。
社会
輸送容器の汚れ、区分機や把束機のトラブル等で、郵便物を汚損しやすくなる。容易に残留を発見できない状況がある。
精神
休息室が分煙されていないために、煙の不快感のせいで十分休息できないと、リラックスや気分転換ができず、仕事によるストレスが解消されない。窓があったり自然光で明るいという雰囲気だけで、職場が気分よく働ける環境になる。
効率
柱数が多くスパンが短いなど、レイアウトがしにくい施設だと、スペースを有効利用できない。取扱量や要員数の増加が施設計画当時の予想を越えていると、狭隘化が深刻で搬送通路が確保できない。エレベータの台数や性能が作業に適合しないと上下搬送に支障をきたし、作業効率が低下する。
身体
特定局等に残る郵袋や区分機から発生する紙ぼこり、喫煙によるタバコの煙、発着からの排気ガス等により空気が汚れる場合がある。外気温の状況と冷房期間が必ずしも一致せず、更に、区分機からの放熱、空間の広さや発着の開け放しによる空調効率の悪さ等から、夏の暑さによる不快感を感じることがある。冬の乾燥する時季になると、輸送容器や区分機に触れると静電気が発生する場合があり、衝撃から不快感がある。
安全
パレットに指を挟まれたり足を轢かれたりすること等で、手足に軽いケガをすることがある。

休息室:作業中の小休止に利用する作業室内に配置される室。職員用とゆうメイト用の2つに分かれている場合が多い。昼休みに利用する方は休憩室といい、一般に食堂と併設される男子用、更衣室と併設される女子用、男女各ゆうメイト用の4つに分かれていることが多く、休息室とは別室の場合が多い。
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図3.2.1 郵便局社のアメニティの6要素別の評価項目抽出率



図3.2.2 郵便局のアメニティ6要素別の評価構造図



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3.3 アンケート調査

(1)アンケート調査の実施概要
 インタビュー調査等の定性調査は、調査方法の性質上、対象とする局数やユーザーの人数に限りがある。そこで、より多くの郵便局の傾向を把握するために、対象とする郵便局舎の条件をより細分化して局数を増やし、インタビュー調査で得られた評価項目を基本としたアンケート調査を実施し、全国規模で郵便局舎のアメニティを検証した。
 調査対象とするサンプル局の条件を以下のとおりとし、全国から分類条件の異なる50局を選定して、総計約1,800名の郵便関係課の内勤職員に対して調査を実施した。

サンプル局の共通条件

  • 1965年以降に新築あるいは増築した普通郵便局
  • 新夜勤を実施している(宿直室を有する)局
  • 書状区分機を1台以上配備している局
  • 郵便関係内勤定員が多い(35名以上)局

サンプル局の分類条件

  • 全国12郵政局(沖縄郵政管理事務所を含む)別
  • 機能別(2分類):地域区分局・集配一般局
  • 築年別(4分類):1990年代・1980年代・1970年代以前・増築経験有
  • 職員1人当たり面積別(集配一般局のみ3分類):20 /人未満・20〜25 /人未満・25 /人以上

 なお、対象とする職員は、インタビュー調査と同様に性別、年齢層、役職、担務、経験年数等をばらつかせ、各局の規模ごとに人数を調整して選定した。
 アンケート調査票は、インタビュー調査で得られた評価項目のうち、特に発言数の多い項目や問題として重要と思われる項目を厳選し、それに対する満足度をSD法の5段階評価で、重要度を3段階評価でそれぞれ提示する形式とした。


図3.3.1 アンケート調査票の質問項目とその回答例



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(2)分析結果
 アンケート調査データの分析では、全国的な傾向を見るための平均値の他に、各データ間の相関関係をいくつかの統計分析手法を用いて算出した。以下、それらの代表的な分析結果を記す。

アメニティ総合評価
 6要素別総合評価は、図3.3.2で示した6つの郵便局舎のアメニティについて満足しているか否かを、それぞれ5段階で職員に評価してもらう形で行った。
 図を見ると、郵便局舎は全国的に[安全]要素に関しては評価[3.ふつう]以上であるが、その他の評価は比較的低く、特に[身体]と[効率]の各要素の評価が低いことが分かる。これは、インタビュー調査で得たサンプル局3局の傾向とほぼ一致する。
 次に[全体として働きやすい職場である]という全体総合評価と、80項目の個別評価との相関を見る。まず、80項目をその相互関係の強さや類似性・共通性ごとにグルーピングするために因子分析にかけ、そこから求められた各共通因子と全体総合評価との相関のウェイトづけをするために重回帰分析を行った。
 因子分析とは、多数のデータの中に含まれる潜在的な共通因子(特性)を抽出し、それを解釈することによりデータの持つ構造を明らかにしようとするもので、SD法を用いた心理学研究のための方法として発達した統計手法といわれている。重回帰分析とは、多数のデータ間の複合的な相関関係を読みとることで、それらの中に潜むさまざまな特性や要因を説明、あるいは予測するために用いる統計手法である。
 分析の結果は、以下のとおりである。
 まず、因子分析の結果、80の項目は10の因子軸にグルーピングされた。項目ごとの因子負荷量は、その項目が属する因子に対するその項目の寄与の度合いを示している。
 次に、全体総合評価と各因子との重相関係数を重回帰分析により求めた結果、第V 因子軸、第X 因子軸、第U 因子軸…の順に高い数値が得られ、局舎の働きやすさを大きく左右する因子軸とそれに属する項目が明らかにされた。表3.3.1は重相関係数の高い3つの因子軸と、各因子軸への寄与が高い評価項目を抜粋し、まとめたものである。
 この結果によると、職員が局舎を[働きやすい]と評価する要因としては、作業空間が広く余裕があることやレイアウト計画が適切であること(第V 因子軸)、休憩/休息室がくつろぎやすく十分休息できること(第X 因子軸)、各種厚生施設が充実していること(第U 因子軸)の順に強い。また、表では割愛したが、その次には作業室内の機器類が使いやすいことや肉体的負担の少ないこと(第T 因子軸)、エレベータが使いやすいこと(第Y 因子軸)、空気環境や温熱環境等が適切であること(第W 因子軸)、と続く。
 これより、局舎の総合的なアメニティを改善するポイントは、郵便作業室内のスペース的余裕とレイアウトのしやすさ、休憩/休息室等の厚生施設のクオリティにあると推測することができる。


図3.3.2 アメニティ総合評価50局平均値



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表3.3.1 総合評価と個別評価の相関関係











重相関係数 抽出因子軸と属する評価項目
0.393 因子軸 因子負荷量
作業空間の広さやレイアウト計画 作業室が広々としていて開放感がある 0.72
作業スペースの広さに余裕がある 0.71
フロア全体の見通しが良い 0.67
通路と作業スペースがきちんと分けられている 0.67
輸送容器の保管スペースが十分確保されている 0.62
機能的なレイアウトがされている 0.59
スペースを有効に利用したレイアウトである 0.49
作業室がきちんと整理整頓されている 0.49
柱がレイアウトや搬送動線の邪魔をしていない 0.46
自分の属する作業グループや管理グループがワンフロアでまとまっている 0.40
区分機のレイアウトが適切である 0.39
自然光が入り開放的な雰囲気である 0.36
0.319 V因子軸 因子負荷量
休憩休息室 休憩室でくつろげる 0.72
休息室でくつろげる 0.66
休憩室の広さが十分である 0.66
休息室の数や広さが人数に対して十分である 0.61
0.246 第U 因子軸 因子負荷量
厚生施設におけるリフレッシュ効果 トイレが明るく衛生的である 0.74
清潔なお風呂に入れる 0.72
浴室が明るい雰囲気である 0.70
浴槽の広さや蛇口・シャワーの数が十分にある 0.65
トイレの数が十分である 0.57
洋式トイレの数が足りている 0.54
食堂が混雑せずゆったりと食事ができる 0.52
局舎内でレクリエーション施設や器具が気軽に利用できる 0.50
宿直室が衛生的で気持ちよく利用できる 0.46
自然光が入り開放的な雰囲気である 0.43
食堂の雰囲気が良くくつろげる 0.40
食堂でタバコの煙や臭いが気になることがない 0.36



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実態評価と重要度評価
 個別評価の80項目は、[スペース]や[温熱環境]等の評価対象別にも分類することができる。そこで、各項目を、まず作業空間と厚生施設とに分け、それぞれを評価対象グループ別に分類して50局の総平均値を出した。
その結果を、作業空間と厚生施設、実態評価と重要度評価別に示す。なお、どのグループにも属さない項目については、ここでは除いている。
 図を見ると、局舎に対する実態評価は、作業空間の方が厚生施設よりもかなり低いことが分かる。特に[空気環境]と[温熱環境]については比較的低い評価を得ている。厚生施設の方は、[休憩/休息室]と[更衣室]の評価が比較的低い。また、重要度については、作業空間のアメニティの方が厚生施設のそれよりも重要である評価されている。
 これは、個々の局の事情は別として、一部を除いた厚生施設については一般的に職員がほぼ満足していることと、逆に郵便作業室にはアメニティに関する問題点が多いことを示している。
 次に、個別の80項目に対する各評価の50局平均値データを、実態評価を横軸、重要度評価を縦軸とした平面上にプロットし、アメニティの優先度について分析した結果を記す。
 プロットする平面は、次の4領域に分割する。

  • [A]:実態評価が低い・重要度評価が高い
  • [B]:実態評価が高い・重要度評価が高い
  • [C]:実態評価が低い・重要度評価が低い
  • [D]:実態評価が高い・重要度評価が低い

 この場合、[A]領域が優先度が最も高い領域となり、逆に[D]領域には過剰なアメニティが存在する可能性がある。[B]および[C]領域は優先度が低く、現状維持で構わない領域である。
 なお、ここでは80項目全ての表示はできないので、重要な評価項目のみ記している。
 図を見ると、80項目のうち8割近い63項目が[A]領域に属することが分かる。これは、アンケートでは、インタビュー調査で職員が比較的働きにくいと感じている項目を選んで調査したため[A]領域に集中している。
 [A]領域のうち、特に優先度の高い最優先領域に属する作業空間関係の4項目は、全国的に職員が郵便局における問題として意識しているものであるといってよい。
 一方、[D]領域に属する厚生施設関係の2項目は、個別には特に過剰なアメニティという内容ではないため、現状維持領域の範囲として認識してよいと思われる。


室内環境の4要素:〔温熱環境〕〔空気環境〕〔光環境〕しか記述していないが、〔音環境〕は〔区分機〕に含まれている。
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図3.3.3 評価対象別の実態評価および重要度評価



図3.3.4 郵便局舎のアメニティのポートフォリオ分析



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空調に関する実態評価
 空調効果、特に冷房効果は、インタビュー調査で最も多くの職員が[問題がある]とコメントしていた評価項目である。そこで、80の評価項目とは別に、空調効果の過不足の有無や室別の状況等についての、より詳細な質問項目をアンケート調査票に設けて調査し、集計した。
 なお、データは複数回答であるため、図ではパーセンテージではなく、職員約1,800名中の何名が過不足を感じると回答したかで示す。
 図より、空調効果に関しては[冷房が効かず暑い]という冷房不足を感じている職員が多く、また、それも作業室内において感じている場合が多いことが分かる。


図3.3.5 空調効果に関する実態評価



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3.4 物理的環境の実測調査
 物理的環境の実測調査は、郵便局舎における室内環境の4要素(温熱・空気・音・光)の実態を把握・分析するために、インタビュー調査のサンプル局であるaおよびb局で実施した。ここでは、[温熱環境][空気環境][音環境]について述べる。

(1)温熱環境の基準
 わが国には、労働省が定めた事務所衛生基準規則をはじめ、室内の温熱環境の基準がいくつか設けられている。郵政省でも、郵便局舎の設備設計基準の中で、室内環境基準を設けて定めている。表3.4.1に一般に用いられる環境基準の代表的な値を示す。
 一方、郵政省の室内環境基準は、省エネルギー法の観点から温度と湿度が定められているが、表の快適基準のような各室内での執務内容別の値にはなっておらず、全執務室に対して温度は夏27℃・冬18℃、湿度は50%と一律の値である。しかし、一般的に身体を動かす仕事ほど暑さに敏感であることを考えると、郵便作業室内で立って区分をしたり、積載や搬送などの軽作業をする職員と、座って一般事務をする職員とが同じ温熱環境の中で働けば、双方の暑さに関する不快感に差が出るであろうことは容易に推測できる。

(2)温熱環境の評価
 人間の温熱感覚に及ぼす要因としては、温熱4要素(温度[℃]・湿度[%]・気流[m/s]・放射[℃])と、人体側の着衣量および活動量の合計6要素が支配的であるとされている。
 温熱4要素は計器により測定して求める。温熱環境の評価は、一般に温度と湿度の2要素でなされることが多いが、厳密には室内の空気の動きである気流や、室内に存在する全ての物体や生体が発する放射熱の影響をも受けている。
 着衣量および活動量は、おおよその目安で判断することにより決まる。着衣量には、裸を0.0、男性の一般的な背広スタイルを1.0とした評価単位[clo]を用いる。この場合、薄い夏服は0.5clo、冬に厚着をすると1.5clo程度となる。活動量には、座って安静な状態を1.0とした評価単位[Met]を用いる。この場合、オフィスでの座業は1.2Met、一般的な軽作業は1.5Met前後、積載や搬送等の作業は2.0Met以上になる。
 国際規格ISO7730では、温熱環境の総合評価指標として、上記の温熱6要素により求められるPMV(予測平均申告)を採用している。これは、人体の熱均衡を基礎とする複雑な快適方程式に基づく評価法で、主に英国を除く欧州諸国で使用されている。
 PMVの評価尺度は、次のように7段階で表される。
 PMV指標では、その値が0.0の場合が最も良く、約95%の人が快適に感じるという評価となり、約90%の人が快適と感じる−0.5<PMV<+0.5の範囲が、一般的に快適と評価される環境であるとみなす。ISO7730では、この指標を−2.0<PMV<+2.0の範囲で使用するよう推奨しており、約80%以上の人が不快であると評価する−2.0以下、あるいは+2.0以上の環境は、著しく不快な環境であるとしている。
 なお、PMVの値に対し、何%の人が不快に感じるかを示す指標をPPD(予想不満足率)といい、PMVから計算式により求められる。PPDは、その値が0.0の場合は0%の人が不快と感じ、1.0の場合は100%の人が不快と感じる環境であることを示す。
 本調査研究では、このPMVおよびPPDを用いて実測調査結果を分析した。


表3.4.1 事務所衛生基準規則

要素 衛生基準 快適基準
温度 17〜28℃ 夏:座 業24〜27℃
軽作業20〜25℃
冬:座 業20〜23℃
軽作業18〜20℃
湿度 d40〜70% 50〜60%
気流 0.5m/s以下 0.5m/s以下


図3.4.1 PMVの評価尺度



PMV:Predicted Mean Voteの略称
PPD:Predicted Percentage of Dissatisfiesの略称。
※ PMVやPPDの指標を求めるための方程式は非常に専門的で複雑なため、ここでは省略する。

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(3)温熱環境実測調査の実施概要
 温熱環境の実測調査は、インタビュー調査のサンプル局3局のうちの2局をサンプル局として選定し、その郵便作業室内にて夏(8月中旬)と冬(2月下旬)の2回、同日同時間に3日間(72時間)実施した。
 実測場所は各局とも2箇所とし、書状区分機付近、小包区分機付近(発着場付近)、区分機のない階の区分函付近の中から設定し、温熱4要素を測定した。

温熱環境実測調査の分析結果
 本稿では、各実測場所の実測地点のうち、人間が最も気温に対して敏感となる頭部の高さに近い床上1.5mの地点のデータを用いた。

夏の温熱環境実測調査
 温熱環境の夏の実測調査の分析結果は、次のとおりである。
 なお、PMVを求める計算に必要な着衣量および活動量の値は、郵便局の職員の夏の標準的制服を0.5clo、郵便作業室内での軽作業を1.5Metとした。
 表を見ると、a局の書状区分機付近のPMVが突出して高く、平均値がISO7730の推奨範囲を逸脱しており、8割近い人間が不快に感じる暑熱な環境(区分機配備に伴う冷房改修前の調査)であることが分かる。それに比べ、a局の区分機の置かれていない階は、PMVが0.0〜1.0以下の範囲におさまっている比較的快適な環境である。これより、郵便作業室内の温熱環境に対して、区分機の発熱による放射の影響が極めて大きいことが理解できる。
 一方、b局の場合は、区分機付近であっても集配一般局ほど極端な結果ではなく、3割ほどの人間が不快に感じる程度の環境である。
 なお、湿度は2局とも衛生基準の範囲内であった。


表3.4.2 夏の実測調査によるサンプル局のPMVおよびPPD


PMV PPD×100%]
最高値 最低値 平均値 最高値 最低値 平均値
a局 書状区分機付近(5階) 2.48 1.62 2.05 93.0 57.0 78.2
区分函付近(7階) 1.00 0.30 0.58 26.0 7.0 12.6
b局 小包区分機付近(1階) 1.67 0.85 1.19 60.0 20.0 35.2
書状区分機付近(2階) 1.57 0.83 1.10 55.0 20.0 31.2


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(4)冬の温熱環境実測調査
 温熱環境の冬の実測調査の分析結果は、次のとおりである。
 ただし、夏の調査終了から冬の調査までの半年の間に、2局とも室内のレイアウト変更を実施していたため、実測場所が一部若干変更されている。また、a局の方は、夏の調査終了後に書状区分機周辺に個別冷房を設置したため、冬の調査では温熱環境がある程度改善された状況になっている。
 なお、PMVを求める計算に必要な着衣量および活動量の値は、郵便局の職員の冬の標準的制服を0.95clo、郵便作業室内での軽作業を1.5Metとした。
 冬は夏と比べて、2局とも全てPMVが−1.0〜1.0の範囲内におさまっており、室温に関しては特に大きな問題がないといってよい。
 ただし、PMVの値がほぼ(+)寄りであるため、中には冬であっても暑いと感じる職員が存在し得ると推測できる。特にa局の書状区分機付近では、冬でも暖房を一切入れず、新設した個別冷房を24時間フル稼働していてこの値なので、区分機からの放射熱がいかに大きいかが分かる。
 また、2局とも、特に書状区分機付近は湿度がかなり低く、衛生基準の最低値である40%をほぼ下回っている。乾燥は室温が高いほど進むので、暖房だけでなく、書状区分機の放射熱が乾燥をさらに促進しているものと思われる。これは、冬の乾燥による静電気の発生に関する意見の多かったインタビュー調査の結果を裏づけるものである。
 一方、地域区分局の1階のみPMVの最低値に(−)の値が出ているが、これは、深夜の発着口から冷気が侵入し、ある程度寒くなったためと考えられる。


表3.4.3 冬の実測調査によるサンプル局のPMVおよびPPD


PMV PPD×100%
最高値 最低値 平均値 最高値 最低値 平均値
a局 書状区分機付近(5階) 0.79 0.03 0.45 18.0 5.0 9.9
区分函付近(6階) 0.80 0.54 0.70 19.0 11.0 15.3
b局 小包区分機付近(1階) 0.79 −0.36 0.51 18.0 5.0 11.3
書状区分機付近(2階) 0.87 0.55 0.71 21.0 11.0 15.7


表3.4.4 冬の実測調査によるサンプル局の湿度


湿度
最高値 最低値 平均値
a局 書状区分機付近(5階) 45.7 23.2 35.8
区分函付近(6階) 47.4 29.0 41.0
b局 小包区分機付近(1階) 52.0 33.6 43.8
書状区分機付近(2階) 39.5 28.3 35.4


表3.4.5 事務所衛生基準規則

要素 衛生基準 快適基準
粉塵 0.15mg/m3以下 0.15mg/m3以下
CO
空調ビル :10ppm以下
一  般 :50ppm以下
10ppm以下
CO 空調ビル:1,000ppm以下
一  般:5,000ppm以下
1,000ppm以下

郵便局舎のアメニティに関する研究

(5)空気環境の基準
 空気環境で扱われる規制の対象は非常に多岐にわたるが、多くは空気汚染物質が問題となっており、人間の行動に伴い発生する浮遊粒子状物質(浮遊粉塵)と、燃焼や喫煙により発生する一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO)が、室内空気の主要な汚染物質として各種法律における規制の対象とされている。
室内の空気環境の基準値は、温熱環境と同様、事務所衛生基準規則等で定められているが、郵政省では特に基準を設けておらず、これら一般の基準に則ることとしている。
なお、空気環境は一般濃度(%)や質量濃度(mg/m)を指標として個別に評価するため、温熱環境のような総合評価指標は存在しない。

(6)空気環境実測調査の実施概要
 空気環境の実測調査は、冬の調査でCOおよびCOの濃度、浮遊粉塵を測定した。COおよびCOの実測場所は、各局とも発着場と休息室とし、発着場では郵便車の入る時と出た直後について、休息室では混雑時と無人時について、それぞれ別々に1回のみ測定した。

(7)空気環境実測調査の分析結果
 COおよびCO濃度の実測調査の結果は、次のとおりである。
 表を見ると、各局ともCOおよびCO濃度は、事務所衛生基準規則の許容範囲内におさまっており、基準を満たしているといえる。
 しかし、休息室の混雑時のCO濃度が高く、許容値に近い値となっている。この高濃度の原因は、人体から排気される通常のCO量よりも、喫煙によるCO発生の影響と推測できる。
 なお、浮遊粉塵については、夏冬、休息室及び各作業箇所で各1回測定したが、いずれも基準よりかなり低い数値であった。

(8)音環境実測調査
 郵便局においては、各種区分機等の騒音をはじめ、郵便車の発着の音、輸送容器の搬送に伴う音など多くの雑音が発生する。そのため、音環境については工場等の騒音レベル基準に則るのが適切である。
 音環境実測調査の結果、郵便作業室内の騒音レベルは一般の工場等における音環境の基準を満たしており、大きな問題点はなかった。しかし、作業室内に設置されている休息室の騒音レベルが、厚生施設のような居住空間としては高い数値があった。これは、休息室の間仕切りがたいていスチール製の簡易なものであるため、作業室からの雑音を十分に遮断・吸収できないことが原因と推測される。また、インタビュー調査でも、休息室の位置にもよるが、外からの騒音がうるさいという評価もあった。


表3.4.6 サンプル局のCOおよびCO2濃度

実測場所 実測時間 a局 b局
CO[ppm] CO[ppm] CO[ppm] CO[ppm]
発着場 郵便車入車時 3.1 530 1.0 450
郵便車発車時 3.4 560 0.9 460
休息室 混雑時 3.9 940 1.2 870
無人時 1.6 590 0.8 480



郵便局舎のアメニティに関する研究

3.5 考察
 インタビュー調査の結果から[安全]要素については、郵便局での作業はもともと大きな危険を伴わないことから、評価項目数が最も少なく、おおむね満足されていることが分かる。しかし[身体]や[効率]要素については、郵袋廃止とパレット化による腰痛や粉塵発生の防止、郵便物処理の機械化による効率化を実現させているものの、まだ他にもさまざまな問題点が多く残っているようである。
 また、高度なアメニティの中で最も評価項目数の多い[精神]要素では、休息室の性能に関する評価項目数が比較的多く、職員が仕事の合間の小休止を重視していることや分煙対策を強く求めていることが明らかにされた。
 アンケート調査の結果、現在の郵便局舎において最も問題が多いのは[身体]と[効率]要素に属するアメニティである。特に、[身体]要素に関しては、実測調査でも明らかになったように冷房効果と空気環境が、[効率]要素に関してはスペースの余裕とレイアウト計画のしやすさが、アメニティ改善のキーポイントであるという結果になった。
 厚生施設の方では、主に[精神]要素に属する休息室のアメニティの改善が強く望まれていることが明らかにされた。
 温熱環境については、夏季の冷房効果に問題があることが分かったが、地球環境やコスト等を含めて総体的に判断すれば、省エネルギーに努めることも考慮するべきである。しかし、その範囲の中で座業と軽作業の室内基準温度に差をつければ、職員の問題意識はかなり緩和されるのではないかと思われる。また、温熱環境への影響が大きい区分機の放射熱を抑えるための技術を開発することも、1つの解決策として考えられる。
 スペースの狭隘については、室の用途変更や増築等による対応が考えられるが、都市部に立地する局舎の場合、物理的にどうしても限界がある。このような局舎では、レイアウトの良否がより重要となる。
 レイアウト計画は、作業室の面積や形状、柱のスパンや太さ、設備機器・防火区画・開口の位置等さまざまな要因の影響を受けるため、区分機やOA機器の増設・更改に伴うレイアウト変更により、思わぬ不都合が生じやすい。これからの局舎には、レイアウト変更に対応できるフレキシビリティ性がますます強く求められるため、この問題は最も局舎設計における検討を必要とする最重要課題であるといえる。
 休息室は、郵便作業室内に設置されるため、作業に伴うさまざまな影響をダイレクトに受け、室内環境の問題点がどうしても多くなる。郵便作業室との間の遮断性を高めるなど、厚生施設としてのリフレッシュ機能のレベルアップを図る必要がある。また、休息室では喫煙による不快感があるため、換気機能を高めるだけでなく、職員用とゆうメイト用に分かれている現在の分割を喫煙用と禁煙用に分けることも、職員による休息室への評価を高くすることになるのではないかと推測できる。


郵便局舎のアメニティに関する研究

4 さいごに 
 本調査研究おいては、郵便作業室内で働く職員の室内環境に関する意識及び郵便作業室内の物理的環境の実態調査・分析を行い、職員が働きやすく生産性の高い郵便作業室内環境について新しい環境基準の指標となる基礎データを構築することにより、今後の郵便局舎設計に資することを目的として実施してきた。
 今後、本調査研究で得た多くの局舎ユーザー評価のデータが郵便局舎設計に役立てられ、そのアメニティを改善させることの一助となれば幸いである。
 また、今後施設の快適さを維持し向上させるためには、時系列的に施設の快適さの要因を的確に捉え、それを客観的に評価する手法の確立が必要となってくる。
 近年、欧米において、その手法の一つとしてPOEが実用化されている。POE(Post-Occupancy Evaluation[入居後評価])の概念はいまだ確定した定義はないが、建設省建築研究所が中心となっている室内環境フォーラムでは、「POEとは、計画された居住環境の居住者に対する動的な効果の検証」と定義している。最近では、Pre-Occupancy Evaluation(入居前評価)という施設計画時のニーズ調査に用いられる手法とあわせてPOEと呼ぶようなってきている。
 最近、日本においても一部民間においてPOEが実用化されてきている。POEの本質的な目的は、POEにより実施した施設の性能評価を実際の施設の計画・設計に活かしていくことである。同機能の施設を数多く繰り返し設計している郵便局舎において、アメニティの優れた郵便局舎を計画するためには、POEが有効な手法の一つであると考えられる。しかし、日本で開発されたPOEとしては、オフィスを主な対象としたものがほとんどであり、郵便局舎にそのまま適用することは適切でない。POEを郵便局舎に対して導入する場合には、郵便局舎専用のPOEを開発して実施していく必要があると考えられる。


郵便局舎のアメニティに関する研究

参考文献

経営工学シリーズ14 作業研究(千住鎭雄編:日本規格協会)
経営工学ハンドブック(日本経営工学会編:丸善)
経営工学ライブラリー1 経営工学概論(秋庭雅夫ほか:朝倉書店)
建築・室内・人間工学(小原次郎・内田祥哉・宇野英隆編:鹿島出版会)快適なオフィス環境がほしい居住環境評価の方法(日本建築学会編:彰国社)
建築・都市計画のための 空間学(日本建築学会編:井上書院)
建築・都市計画のための 調査・分析方法(日本建築学会編:井上書院)
公共の色彩を考える(小池岩太郎・細野尚志監修/公共の色彩を考える会編:青娥書房)
ビルの環境衛生管理[上巻](ビルの環境衛生管理編集委員会編:(財)ビル管理教育センター)室内空気汚染のメカニズム(池田耕一:鹿島出版会)
国際規格ISO7730(田中辰明訳:空気調和・衛生工学 第61巻 第3号)オフィスの室内環境評価法POEM-O普及版(室内環境フォーラム編集/建設省建築研究所監修:ケイブン出版)


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