郵政研究所月報 

1998.7

調査・研究

地域におけるインターネットの活用に
関する調査研究



元通信経済研究部研究官  高谷  徹 


【要約】

 本調査研究の目的は、地域におけるインターネット活用に関する現状分析・先進事例分析により、有効な活用モデルと実現のための方策を提言することである。
 インターネットの活用は地方公共団体を含めた地域における活動のあらゆる局面に変化をもたらす可能性を持っているが、Webサイトを開設しただけに留まっている地方公共団体も多い。地方公共団体が地域におけるインター 本調査研究の目的は、地域におけるインターネット活用に関する現状分析・先進事例分析により、有効な活用モデルと実現のための方策を提言することである。
 インターネットの活用は地方公共団体を含めた地域における活動のあらゆる局面に変化をもたらす可能性を持っているが、Webサイトを開設しただけに留まっている地方公共団体も多い。地方公共団体が地域におけるインターネットの活用に向けて取り組む際にはサービスの高度化とコスト削減の両立、関係主体がインセンティブを持つモデルの構築、行政と民間の望ましい役割分担の確立といった課題がある。
 Webサイト開設地方公共団体を対象としたアンケート調査を行った結果、Webサイトを開設しているものの行政内部の情報化が不十分で、インターネットの本格利用は進んでいないこと、更新頻度が低く地域にメリットがある活用が行われていないこと、地域内の連携プロセスが不足していること、ISP事業は位置付けに明確化が必要なこと、人口規模別に条件が大きく異なることが明らかになった。
 また、インターネットを活用している地域に対するヒアリング調査を行った結果、地方公共団体単独ではなく、他の地方公共団体地域住民、民間事業者など地域の様々な主体を取り込んだ事業が効果的であること、同時並行的・網羅的ではなくとも地域の実状に応じた多様な発展経路が可能であること、公平性を重視した事業では限界があること、「工夫」によってコスト・人的負担が軽減できること、研修制度・人的支援が不可欠であること、フィードバックシステムが必ずしも十分ではないことが明らかになった。
 今後、地域全体のインターネット活用を進めるためには、単なる「ホームページ開設」に留まるのではなく、「地域イントラネット」という視点からの取り組みが必要である。また、事業の進め方についても従来の行政による事業とは異なったアプローチが必要である。
 行政自身が主体的に取り組むべき課題として行政内部におけるインターネット活用を進めるほか、複数の行政機関による情報流通、地域の住民に対するサービスのためのツールとしての活用、市区町村や町内会・自治会レベルなど、地域コミュニティでの情報流通を地域全体で促進する必要がある。
 インフラ整備については各種支援方法の得失を考慮し、地域の現状に最もふさわしい手段を検討しなければならない。人材についても雇用の場の確保まで含めた対応が必要であろう。
 また、インターネット関連の事業を進める上では、事後評価重視、「横並び」ではない事業展開、隣接地域・地域住民と歩調を合わせた事業展開、「時間」を視野に入れた事業展開が特に重要である。ネットの活用に向けて取り組む際にはサービスの高度化とコスト削減の両立、関係主体がインセンティブを持つモデルの構築、行政と民間の望ましい役割分担の確立といった課題がある。
 Webサイト開設地方公共団体を対象としたアンケート調査を行った結果、Webサイトを開設しているものの行政内部の情報化が不十分で、インターネットの本格利用は進んでいないこと、更新頻度が低く地域にメリットがある活用が行われていないこと、地域内の連携プロセスが不足していること、ISP事業は位置付けに明確化が必要なこと、人口規模別に条件が大きく異なることが明らかになった。
 また、インターネットを活用している地域に対するヒアリング調査を行った結果、地方公共団体単独ではなく、他の地方公共団体地域住民、民間事業者など地域の様々な主体を取り込んだ事業が効果的であること、同時並行的・網羅的ではなくとも地域の実状に応じた多様な発展経路が可能であること、公平性を重視した事業では限界があること、「工夫」によってコスト・人的負担が軽減できること、研修制度・人的支援が不可欠であること、フィードバックシステムが必ずしも十分ではないことが明らかになった。
 今後、地域全体のインターネット活用を進めるためには、単なる「ホームページ開設」に留まるのではなく、「地域イントラネット」という視点からの取り組みが必要である。また、事業の進め方についても従来の行政による事業とは異なったアプローチが必要である。
 行政自身が主体的に取り組むべき課題として行政内部におけるインターネット活用を進めるほか、複数の行政機関による情報流通、地域の住民に対するサービスのためのツールとしての活用、市区町村や町内会・自治会レベルなど、地域コミュニティでの情報流通を地域全体で促進する必要がある。
 インフラ整備については各種支援方法の得失を考慮し、地域の現状に最もふさわしい手段を検討しなければならない。人材についても雇用の場の確保まで含めた対応が必要であろう。
 また、インターネット関連の事業を進める上では、事後評価重視、「横並び」ではない事業展開、隣接地域・地域住民と歩調を合わせた事業展開、「時間」を視野に入れた事業展開が特に重要である。

*現株式会社三菱総合研究所システム工学研究センター


調査・研究(高谷徹)

1.調査研究の目的と概要
 インターネット・ブームを背景に、地方公共団体においてもインターネットを情報化の一手段として取り組む例が増加している。すでに全国の市町村の約1/3はWebサイトを開設している状況にある。また、住民のインターネット利用環境の地域間格差是正等を目的としてISP事業に関与したり、地域の情報流通を促進するために情報ハイウェイの構築を目指す地方公共団体も見られる。
 しかし、インターネットを有効な政策実現手段と捉えて積極的に活用方策を摸索する地方公共団体がある一方で、単にWebサイトを開設しただけに留まっている地方公共団体も多い。
 インターネットの活用は地方自治体を含めた地域における活動のあらゆる局面に変化をもたらす可能性を持っている。例えば、地方公共団体と住民の情報交流の活発化は住民の意思の行政への反映を一層容易にし、複数組織のネットワークを活用したコラボレーションは高度な住民サービスの実現を可能とする。
 また、近年では行政の役割として、住民に対する直接的なサービス提供主体となるだけではなく、ボランティア活動などの例に見るように、住民の自発的な活動を後方支援するという側面も重要となっている。地域の情報通信基盤の整備を行政が積極的に推進していくことで、住民同士の自発的な活動やコミュニケーションを支援することも可能となる。
 従って、地方公共団体においてはインターネットの特性を十分に整理した上で重要施策として総合的な取り組みを進めていく必要がある。
 しかし、地方公共団体が地域におけるインターネットの活用に向けて取り組む際には、サービスの高度化とコスト削減の両立、関係主体がインセンティブを持つモデルの構築、行政と民間の望ましい役割分担の確立といった課題がある。
 以上のような背景を踏まえ、地域におけるインターネット・イントラネット活用に関する現状分析・先進事例分析により、有効な活用モデルと実現のための方策を提言することを目的とする。

2.地方公共団体におけるインターネット活用の可能性

2.1 地方公共団体をとりまく環境の変化
 地域住民の価値観やライフスタイルの多様化に伴い、行政に対するニーズも多様化している。これらを踏まえた行政サイドの対応課題としては、ノンストップサービス、マルチアクセス、ワンストップサービスといったサービス形態の充実、住民ニーズにマッチした情報、分かりやすい形での情報提供といった情報内容の充実が挙げられる。
 また、多様化する住民ニーズに応えていくため、あるいは地域の課題・問題点を解決していくためには、行政と住民とのより一層のコミュニケーションと信頼関係の構築が不可欠である。そのためのスタンスとして求められるのは「開かれた行政」であり、そのアプローチとして、行政の保有する情報や施策決定過程の情報の積極的な公開、様々な場での住民参加が課題となっている。
 このように行政に対するニーズが多様化する一方で、地方公共団体の財政状況は厳しさを増している。地方財政白書平成10年度版によれば、地方公共団体の将来にわたる実質的な財政負担は10%以上の伸びで増加しており、平成8年度末で102兆7,582億円に達している。この額は標準財政規模の約2倍、名目GDPの約2割にも達している。


調査・研究(高谷徹)

2.2 地方公共団体におけるこれまでのインターネット活用への取り組み
 地方公共団体によるインターネットの整備・活用に対する関心が高まったのは、94年ごろからである。この時期には政府レベルでも93年に米国でNII構想が発表され、94年にはわが国でも電気通信審議会により「21世紀の知的社会への改革に向けて」で2010年に向けて光ファイバー網の全国整備が目標として掲げられるなど、情報通信基盤の整備が社会全体の重要な課題として認識されるようになってきていた。
 このような状況下で、地方公共団体においても情報通信基盤の整備・活用を行う必要がある、インフラ整備が大都市から整備されていくことによる地域格差是正のために方策が必要である、との議論が行われるようになった。情報通信基盤については、当初はVOD(Video On Demand)をアプリケーションの中心にすえた議論が多く見られたが、93年にわが国でも商用インターネット接続サービスが開始され、MosaicをブラウザとしてWWWが普及するにしたがって、議論の中心がインターネットへ移っていった。
 インターネットを明示的に全県的なネットワークとして整備・活用する構想としては、96年1月に岡山県の「岡山県が目指すべき高度情報化の基本的方向」における「岡山情報ハイウェイ構想」が早かった。岡山情報ハイウェイ構想の中では県民のインターネットアクセス権の確保を重要課題とした上で、地方におけるインターネットの接続コスト、速度の不足に対する施策として「岡山情報ハイウェイ構想」が位置付けられている。
 また、行政がISP事業に関与することにより、住民にインターネットへのアクセスを提供しようとする地方公共団体も多くあらわれた。
 地方公共団体自身によるインターネットの活用面でも、1995(平成7)〜1996(平成8)年にかけて、WWWによる情報提供を行う地方公共団体が急増している。WWWによる情報提供については、都道府県レベルではほぼ整備済みとなっており、より小規模な市町村へと広がってきている。
 97年以降、地方公共団体におけるインターネットの取り組みには変化が生じつつある。それ以前に重要な課題と認識されてきた、住民に対するインターネット利用環境整備、大都市との地域格差が民間ISPの全国展開と料金の低廉化によって再定義が必要になっているためである。各地で「情報ハイウェイ」構想が相次いで発表されるようなったが、インフラ整備に関する地方公共団体の役割については、それぞれの地域で考え方に特色があり、多様化が進んでいる。単にインターネットへのアクセスが出来るだけではなく、通信速度の面でも地域格差をなくすことが課題となってきており、地域内の通信を最適化することを目的とした「地域IX」を摸索する動きも山梨県等でみられる。


http://www.pref.okayama.jp/kikaku/joho/joho.htm
IXについては郵政省のIX研究会が97/9に報告書を出している。http://www.mpt.go.jp/pressrelease/japanese/denki/970918j601.html
http://www.y‐nix.or.jp/


調査・研究(高谷徹)

2.3 地域におけるインターネット活用の構成要素と可能性
 「地域」という一定の広がりの中でインターネットの活用を考える場合、地域の構成主体や情報の流れに着目すると図2−1のように考えることが出来る。
〇「行政内部」〜行政内部における活用〜
 主に「行政情報化」として取り組まれてきた分野であり、例えば行政内部事務におけるイントラネット活用等が挙げられる。
〇「行政・公共機関間」〜行政や公共機関の間における活用〜
 都道府県と市町村、あるいは病院・保健所と市町村といったように、地域に存在する複数の地方公共団体・公的機関の間におけるインターネットの活用である。
〇「行政・住民間」〜行政と住民、行政と地域産業の間における活用〜
 住民や地域産業と行政の間の情報交換におけるインターネット活用である。現在広く行われているWWWを利用した情報提供もこの分類に含まれる。
〇「地域住民・産業」〜地域住民間、地域産業間における活用〜
 住民間のコミュニティ活動における利用や、産業振興を目的とした地域産業のネットワーク利用が含まれる。
〇「行政(対外)」〜行政と地域外の情報交換における活用〜
 行政と地域外の情報交換における活用であり、WWWによる地域の紹介は代表的なものである。
〇「住民(対外)」〜住民及び地域産業と地域外の情報交換における活用〜
 住民や地域産業が地域外と情報交換する際の活用である。
〇「インフラ整備」〜地域のインフラとしてのネットワーク整備〜
 地域における共通のインフラとしてのインターネット(地域イントラネット)の整備である。
〇「人材育成」〜ネットワークを活用する人材の育成〜
 地域でインターネットを活用していく人材をどのように育て、定着させていくかも地域共通の課題となる。

図2−1 「地域」におけるインターネット活用の構成要素


調査・研究(高谷徹)

3.地方公共団体におけるインターネット活用の現状
 地方公共団体におけるインターネット活用の現状を定量的に把握するため、現在主流となっているWWWによる情報提供に重点を置いてアンケート調査を行った。

3.1 アンケート調査の概要
 地域におけるインターネットの活用主体としては、公的機関、自治会、地域産業等さまざまなものが考えられるが、今回のアンケート調査では都道府県と、Webサイトを開設している市町村等を対象にアンケート調査を行った。対象数は1,069で回収数が713、回収率は67.2%であった。調査期間は1997年11月28日 (金)〜12月19日(金)で、調査票を調査実施機関である野村総合研究所から各自治体に郵送し、回収についても各自治体から野村総合研究所に郵送する形式をとった。
 なお、本アンケートの集計結果は、Webサイト開設都道府県・市町村に対する調査結果であることに注意が必要である。

3.2 行政情報化の進捗状況
 地域でインターネットを活用していくためには、行政自身の情報化が重要なバックグラウンドとなる。そこで、パソコンの整備状況、ネットワークの活用状況について、全職員数に対する比率でたずねた。
 市町村の状況を図3−1に示す。「パソコン台数」については全職員数に対する導入率で「2〜4割程度」が5割弱(47.3%)、「1割未満、なし」も42.3%であり、ようやく導入を開始した段階であることが分かる。「庁内LANのハードウェア整備」、「電子メールアドレスの共有」、「職員向け庁内WWWの利用」等ネットワークに至ってはほとんど利用されていない。
 都道府県について図3−2に示す。市町村とほぼ同様の傾向であるが、「パソコン台数」では「2〜4割程度」が7割以上(73.3%)を占めるのをはじめとして、各項目について市町村よりも高い割合を示している。
 Webサイト開設自治体を対象とした今回の調査でさえ、地方公共団体の情報化は遅れている現状が明らかになっている。全庁LANや霞ヶ関WANの導入が進む国レベルより都道府県は遅れており、市町村はさらに遅れているという状況がうかがえる。

図3−1 Webサイト開設市町村の行政情報化進捗状況

図3−2 Webサイト開発都道府県の行政情報化進捗状況


アンケートでは、Webサイトを示す用語として、わかりやすさを優先してマスコミで一般化しつつある「ホームページ」を用いている。しかし、これは複数の意味を有しており、指し示すものが不明確になるため本報告書では必要に応じてWebサイト、Webページ等の用語に置き換えている。


調査・研究(高谷徹)

3.3 Webサイトの開設時期
 市町村では約半数近く(58.1%)が1996年7月〜1997年6月の1年間にWebサイトを開設している。また、それ以降に開設した市町村も多い(1997年7〜12月で22.4%)。一方、都道府県については、半数以上(53.3%)の都道府県が、1996年後半に開設している。
 人口規模別では、10万人以上の市町村は1996年以前の開設が半数以上であるのに対し、10万人未満の市町村では1997年以降の開設が半数を超えている。
 都道府県のWebサイト開設はほぼ終了し、市町村では規模の大きな市町村から開設が進行しつつあるのが現状と考えられる。

3.4 Webサイトに係わる運用・管理体制
 WWWサーバーの日常的な運用・管理主体について図3−3に示す。市町村では、「民間のプロバイダー事業者」が最も高く5割近く(49.3%)を占め、次いで「自治体内部の情報化担当セクション」(23.1%)となっている。市町村では半数以上が民間事業者に委託していることが分かる。
 一方、都道府県においては、「自治体内部の情報化担当セクション」が半数近く(48.9%)、次いで「第三セクター」(20.0%)となっており、行政及び関連団体で取り組まれていることが伺える。
 市町村について人口規模が大きくなるほど「庁内の情報化担当セクション」、「第三セクター」、「自治体が支援する協議会・外郭団体」といった行政関連団体で運用・管理する割合が高まる傾向がある。
 HTML文(公開する情報内容自身を除く)を作成・更新している主体については図3−4に示したように市町村、都道府県とも「自治体内部の情報化担当セクション」(各43.0%、35.6%)が最も高い。次点は、市町村で「民間のプロバイダー事業者」(23.4%)、都道府県で「第三セクター」(20.0%)となっており、WWWサーバーの日常的な運用・管理主体に任せる形態が多いものと推測される。
 市町村について、ほとんどの人口規模で行政関連の組織で作成している場合が半数を超えている。
 小規模な自治体では、体制、ノウハウ等も資源不足になりがちであるため、全てを行政で行うのは現実的ではない。従って、行政自身が行うべきことと外部委託可能なものを目的に応じて整理することがより重要となるだろう。
 Webサイトの更新頻度について図3−5に示す。
 市町村では、「月に1〜2回程度」が半数近くを占める(45.8%)ほか、「年に数回程度」が3割弱(28.3%)となっており、月単位での更新ペースが主流である。また、「開設当初から更新していない」も1割以上(12.3%)ある。
 一方、都道府県においては、週に1回以上更新しているところが7割近く(68.9%)占め、うち26.7%は「ほとんど毎日」更新しており、その頻度が高いものとなっている。都道府県での組織的な取り組み姿勢による結果が表れている。
 Webサイトの更新プロセスについてみると市町村では「情報化担当セクションによるとりまとめ、更新」が半数を超えている(58.3%)。
 それに対し、都道府県では約半数(48.9%)で「各課が独自に更新」を実施しており、情報化の全庁的な体制が整備されつつあることが伺える。次いで「情報化担当セクションによるとりまとめ、更新」(42.2%)となっている。


調査・研究(高谷徹)

図3−3 WWWサーバーの日常的な運用・管理主体

図3−4 HTML文を作成・更新している主体サーバーの日常的な運用・管理主体

図3−5 Webサイト更新頻度


調査・研究(高谷徹)

3.5 インターネットで提供している情報の提供レベル
 提供情報分野については、市町村、都道府県ともに同様の傾向を示しており、「商工・観光関連」「文化・教育関連」「自治体広報関連」でその割合が高くなっている。また、都道府県の方が各分野に渡り提供している割合が高くなっている。
 提供している情報の中で、その提供レベルをみると、「片方向で提供している」がほとんどであり、「双方向で提供している」割合は低い。情報提供が比較的なされている都道府県においても、「双方向で提供している」割合は、各分野で概ね10%未満であり、市町村にいたっては「商工・観光関連」の7.2%が確認できる程度となっている。

3.6 情報化担当の職員数
 行政情報化、地域情報化の担当の人員を、兼任も含めた合計値について、市町村では1〜4人が7割以上(73.6%)と最も多い。一方都道府県では、20人以上が33.3%ともっとも多く、10人以上配置しているのが73.3%と一般的であることが分かる。
 市町村の情報化担当人員数を人口規模別に見ると、人口規模が小さくなるほど情報化担当人員数も減っており、5千人未満の市町村では9割近く(86.1%)が1〜4人の人員しか情報化担当に配置していない。
 次に、情報化担当人員の担当内容による構成比をみると、市町村では行政情報化・地域情報化という情報化と他の業務を兼任している人員が占める割合が半分を超えている。次いで多いのは行政情報化専任の人員であり、地域情報化担当の人員は行政情報化との兼任を含めても2割に満たない。
 市町村については、人口規模が小さくなるほど他の業務との兼任が占める割合が増加し、5千人未満の市町村ではほとんど8割以上が情報化と他の業務の兼任となっている。また、地域情報化を担当する人員の比率は市町村の人口規模に関わらずほぼ一定で、行政情報化担当人員に比べて低い割合である。
 一方都道府県では、7割以上が行政情報化、あるいは地域情報化の専任となっている。

図3−6 Webサイト開設市町村における情報化調整組織の現状


調査・研究(高谷徹)

3.7 情報化について調整を行う協議会や会合の設置
 情報化、特にネットワークの活用を進めていくためには、関係組織の調整や情報交換が極めて重要な要素となる。そこで、情報化について調整を行う協議会や会合の設置状況について目的別にたずねた。その結果を図3−6、図3−7に示す。
 まず、市町村については、いずれの目的でも設置していない傾向が目立ち、設置した割合が最も高い「庁内の調整」でも4割弱(38.0%)にとどまっている。また、より地元に近い組織的性格を持ちながら、地元住民・企業との調整では1割前後という低い設置率となっている。これは、情報化のレベルが庁内はもとより、庁外には至っていない状況を反映している。
 一方、都道府県については、「庁内の調整」において8割以上(84.4%)、他自治体間とでは5〜6割程度の割合で、なんらかの機関、会合を設置している。また、地元との関係においても「地元企業との調整」のために、5割近く(48.8%)の団体で調整機能を持たせている。

3.8 ISP(Internet Service Provider)事業に対するスタンス
 インターネット利用環境の地域間格差是正等を目的として、自治体がISP事業に関与する例が増加している。そこで、都道府県のみへの設問として、ISP事業に対するスタンスを尋ねた。
 ISP事業に「特に関与していない」とするところが全体の3分の2(66.7%)を占めている。そして、自治体として関与している団体については、自治体自身でプロバイダー事業を行っているケースは1件のみで、それ以外では「第三セクター」もしくは「自治体が支援する協議会・外郭団体等」が、事業を行っている。
 ISP事業に関与していると回答した都道府県の中で、開始するに至った問題意識では、最も多くなっているのは、「その他」の6件であり、自由記入欄をみると、「県内中小企業の情報化の促進」という意見が多くなっている。
 次いで多いのは、「同一都道府県内における同等の料金での利用」「インターネットを利用した地域交流の場の創造」「三セク等の事業の柱として」という3つとなっており、それぞれ5件であった。
 自治体がISP事業に関与するに際し、民間事業者とのすみわけをどう考えたかについて最も多かったのは、「地域、個人、法人等サービス提供者を限定する」で8件となっている。次いで「基本的なサービスレベルと対象を入門者に限定」の5件が続いている。

図3−7 Webサイト開設都道府県における情報化調整組織の現状


調査・研究(高谷徹)

3.9 アンケート調査のまとめ

3.9.1 限られた利用形態
 地方公共団体によるWebサイトの開設は都道府県ではほぼ終了しており、現在市町村の開設が急速に進んでいる段階にある。しかし、インターネットの活用という視点から考えた場合、Webサイトの開設による片方向の情報提供はあくまでも1アプリケーションの1利用形態にしかすぎない。例えば、WWWについても地方公共団体職員自身が情報収集に外部サイトを見に行くような利用形態も考えられる。また、インターネットの中核的なアプリケーションと言えるものにはWWW以外に電子メールがある。これらインターネットの本格的な利用を行うには、職員一人一台のパソコンとインターネットに接続されたLANが前提となるであろう。
 しかし、今回のアンケート調査結果で明らかになったように、「Webサイト開設自治体」という対象に限っても、パソコンの整備を手がけるのが精いっぱいで、LANによるネットワーク化、電子メール、グループウェアといった行政情報化は極めて遅れている。
 また、Webサイトの更新は情報化担当セクションがとりまとめてから行っているとの回答が多かったが、現在Webサイトで提供されている情報分野の偏りも含めて考えると、関与しているセクションが限られていて全庁的な取り組みに至っていないことを示していると言える。

3.9.2 地域にメリットがある活用の不足
 市町村がWWWで多く提供している情報で最も多かったのは、商工・観光関連であること、月に1〜2回以下の更新頻度が大半を占めることからうかがえるように、地域外の利用者を想定した一般的な観光情報や、通常の広報紙と同程度の定型的な情報提供を行っているWebサイトが多い。
 地域住民等を主な対象と想定し、それら利用者に目にみえるメリットを生むWWWの特性を生かした活用方法の確立はこれからの課題と言えるだろう。

3.9.3 地域内の連携プロセスの不足
 情報化について調整を行う協議会や会合は、都道府県では多く設置されているのに対し、市町村では行政内外どちらも半数以下の設置割合となっている。特に地域企業や地域住民との調整がなされていない状況にある。
 「ネットワーク」の整備と活用は多くの関係主体の協調が必要である上、情報通信分野のアプリケーションの高度化には利用者からの連続的なフィードバックが重要である。従って、地域に最も密着した施策展開を求められる市町村で設置割合が低い現状は、地域全体のインターネット活用を進める上で望ましい状況ではない。

3.9.4 地域の情報通信基盤としての位置づけが望まれるISP事業
 今回は都道府県のみを対象にISP事業への関与を調査した。ISP事業を行うに至った問題意識としては、中小企業の情報化促進の他に、地域交流の場を作りたい、第三セクター等の事業の柱したい、といった回答が多かった。一方でサービスの提供対象は企業(法人)向けが中心となっており、目的と現状が単純には結び付いていない。
 また、中小企業や住民を対象とした場合でも、地域内の通信を目的としたものと地域外との通信を目的としたもので提供サービスも異なってくることが考えられる。
 地域全体としてのインフラ整備の位置付けと、行政の役割の明確化が重要な課題となってくる。

3.9.5 人口規模別に異なる条件
 Webサイトのサーバの管理、HTML文の作成、情報化担当人員の配置等では地方公共団体の人口規模によって明確な違いがあることがわかった。人口規模が小さい地方公共団体では行政組織も小規模となり、十分な人員が割けなくなることはやむを得ないこととも言える。民間ISPによるインターネット利用環境も地域によって大きな差があるのが現状である。従って、インターネットの活用やそれに向けたアプローチも人口規模によって異なったものを検討する必要がある。


調査・研究(高谷徹)

4.地方公共団体におけるインターネット活用事例
 地域におけるインターネット活用のモデルを検討するため、現在活用している地域に対してヒアリング調査を行った。

4.1 オホーツク地域(網走支庁26市町村)
 北海道北東部に位置する網走支庁に属する26市町村を「オホーツク地域」と呼んでいる。26市町村のうち、市は網走市、北見市、紋別市の3つである。地域ISPとして村田システムインターネット研究会とオホーツクWEBがある。
 オホーツク・インターネット事業は、地域のインフラ整備と情報発信を行う、26市町村の共同事業である(http://www.ohotuku26.or.jp/参照)。
 26市町村の首長、網走支庁関係者、学識経験者等からなる「オホーツク委員会」が90年(平成2年)10月に設立された。オホーツク委員会において、95年(平成7年)ごろからマルチメディア・インターネットの重要性が指摘され、オホーツク委員会でもインターネットに対する勉強会を設ける等の取り組みを始めた。インターネット等の情報通信はオホーツクのような過疎地でこそメリットがあるが、国等の整備に任せては人口稠密地域から整備が進み、過疎地は後回しになってしまう。道路等の整備と異なり、情報通信分野の遅れは決定的な遅れとなってしまうので地域の力を結集して何とかしなければならないという危機意識が生まれた。このような背景から生まれたのがオホーツク・インターネット事業であり、「地域の力を結集して、地域みずからが早期にインフラ整備を実施し、オホーツク地域の活性化を図ろうとする」ことを目的としている。
 ネットワークの構成図を図4−8に示す。
 アクセスポイントは紋別市、北見市、網走市の三か所に設置されている。インターネットへのuplinkは、旭川にアクセスポイントを持つ上位ISPによって確保している。
 三市以外の町村は、それぞれ最寄りのアクセスポイントにINS64を用いたダイヤルアップIP接続を行う。町村以外の公共的団体も最寄りのアクセスポイントにダイヤルアップIP接続を行う。町村以外は通常の電話回線で接続している場合が多い。三市にアクセスポイントを設置したことにより、26市町村全てから市内料金または隣接料金で接続することが出来る。
 WWWサーバー、メールサーバー等は北見市に設置されており、利用者の電子メール配送やWebページの公開に利用される。これらのサーバーも含めてインフラ整備であるとの考え方である。
 また、地域ISPは北見〜網走、北見〜紋別の回線と3市のアクセスポイント設備の空きを利用して事業を行うことが出来る。

図4−8 オホーツク・インターネットのネットワーク構成
(http://www.ohotuku26.or.jp/organization/iinkai/inter/net.htm)


調査・研究(高谷徹)

 オホーツク・インターネットによるサービスは各主体毎に表4−1のように提供されている。
 地域の住民や営利企業等の団体は、直接オホーツク・インターネットを利用することは出来ない。オホーツク・インターネットの設備を利用している地域ISPに加入することにより、間接的にオホーツク・インターネットを利用することになる。これは、民間事業者を圧迫しないようにするためである。ただし、北見に4ポート、網走・紋別に2ポートguestポートを設けており、誰でも無料で20分までアクセスできるようにしている。これは、インターネットがどのようなものか、気軽に試せる機会を提供するためである。
 98年(平成10年)3月13日現在、オホーツク・インターネットのトップページに対するアクセス件数は一日平均209、メールアカウント発行数は864件となっている。Webページを公開している団体は26市町村のほか、22団体に達している。
 各市町村には企画担当が兼務することによってオホーツク・インターネット担当が置かれている。メールアカウントやインターネット接続サービスの利用は申請を各市町村が取りまとめて審査し、それをオホーツク委員会の事務局が取りまとめて審査し、委託している民間ISPに作業を依頼するという形式を取っている。
 責任分担は自己責任を原則としている。Webページについては各利用者にアクセス権が設定されたディレクトリが割り当てられ、そこに自分でFTPでファイルを転送して公開する形態をとっている。Webページの内容については当事者が責任を持って管理しており、事務局は全体ページ以外の内容について関知していない。市町村のWebページも基本的な構成のみ最初に統一して作成したが、それ以降は各市町村が更新している。
 インターネットやパソコン自体経験が少ない職員が多いため、各市町村職員2名のほか、国や道の職員も参加した研修を行っている。研修は年4種類のレベルの講座を行っており、1回は半日(4時間)程度である。研修を行った結果、パソコンを触ったことがない職員でも電子メールのやりとり、Webページの作成とFTPによるサーバーへの転送が出来るようになっている。
 26市町村の情報機器やWebページ作成・管理用のソフトウェアはオホーツク委員会で推奨するものを定めている。これによって、研修を含めた運用サポートが容易になっている。
 オホーツク・インターネット事業のコストは、Webページ作成、機材購入、回線開設費用等の開設費用が3,110万円、施設維持管理、研究費等の運営経費が97年度(平成9年度)で2,040万円かかっている。これらの費用は道等からの補助金、地元の土木業界を中心とした組織「オホーツク21世紀を考える会」の出資、26市町村の負担によって賄われている。26市町村の負担は均等割、人口割、普通交付税基準財政需要額割を組み合わせた方法で負担されている。この分担方法は、オホーツクでの他の共同事業でも用いられているものである。表4−1に示したサービスについては全てオホーツク・インターネットとして料金を徴収していない。利用者が負担するのはアクセスポイントまでの通信費である。
 オホーツク・インターネット事業が複数市町村の共同事業として実現できた理由としては、26市町村の首長が参加する組織であるオホーツク委員会が存在し、これまでも共同事業を行ってきたという背景が考えられる。
 また、PCの利用が必ずしも活発ではない市町村でもWebページ公開等が実現している理由としては、各市町村の職員に対する研修の実施、共同事業であるためのお互いの情報交換、推奨機器・ソフトウェアの指定による環境の統一等の理由が考えられよう。参加市町村の一つである丸瀬布町の場合は、別の課に情報リテラシーの高い職員がいたことも作業をスムーズに行う上で有効であったという。
 オホーツク委員会としては、今後、回線やハードディスク等、ハードウェアの整備を需要に応じて進めていくとともに、現在進捗が遅れている物販関係の情報の充実を図ることを検討している。

表4−1 オホーツク・インターネットのサービス提供対象
(http://www.ohotuku26.or.jp/organization/iinkai/inter/kijun.htmより作成)


インターネットへ接続 E‐Mailアカウント発行 WWWサーバー利用 AP空きポート利用 回線利用
市町村
(運営費負担団体)

常時IP
接続可

容量制限無
× ×
教育機関
当面常時IP
接続不可

容量制限無
× ×
公共的団体等
常時IP
接続不可

一団体
10MBまで
× ×
地域ISP × × ×

調査・研究(高谷徹)

4.2 岡山県「岡山情報ハイウェイ構想」
 岡山県では「岡山情報ハイウェイ構想」として、インターネットの整備と活用を目指し、全県的な実験を推進している。
 「岡山県高度情報化基本計画」(岡山情報ハイウェイ構想)は平成8年2月に策定された。
 具体的な構想・事業の内容としては

  • 岡山県としては、一課室一ホームページを実現。
  • 岡山県高度情報化実験推進協議会で、40テーマを平成8年度より3年で全県的に実験。
  • 地域IXを実現し、将来的には民間ISPやCATVの接続も計画。

となっている。
 まず、岡山県庁では、庁内LANがすでに完成しており、庁内の全ての課や室がWebページを公開する、「一課室一ホームページ」を実現している。各Webページは内容も含めて各課室が主体的に作成しており、HTML作成ソフトウェアで作成した後、庁内LANを用いてサーバーにFTPを行うことによって公開している。
 全県的な実験については、運営体制・責任体制として平成8年9月に県内外の個人、団体、企業等(約280)の参加による「岡山県高度情報化実験推進協議会」設立されている。事務局は第三セクターの「株式会社岡山広域産業情報システム(通称オービス:OBIS)」である。県庁内の組織としては、平成8年に企画課内に情報政策室が設置され、平成9年4月に企画部情報政策課となった。岡山情報ハイウェイの総合的な取りまとめは、情報政策課がその役割を担っている。
 モデル実験事業は、平成8年度から平成10年度までの3ヶ年事業だが、プロジェクトに交付金を付けるかどうかの判断は、協議会が各年度別に行っている。
 岡山情報ハイウェイ構想では、県内のバックボーンを行政として整備することを目指している。2005年予定の全国的なFTTHに先行して、1999(平成11)年度よりの本運用を計画している。インフラ整備については現在、岡山県高度情報化モデル実験の基礎的実験の一テーマ「インターネットワーキング技術」として実験が進められている。
 現在は、岡山県高度情報化実験推進協議会のワーキンググループのテーマとして「インターネットワーキング技術」が設けられ、バックボーンネットワークや地域IXの構築に関する実験を行っている。


調査・研究(高谷徹)

 岡山情報ハイウェイの概念図を図4−9に示す。
 岡山県は、自らの行政目的の実現のため、県庁と地方振興局等からなるWANを構築することを計画している。WANのネットワークは、大容量化の実現とその際のコスト負担の面から最終的に自設線とすることを考えている。この行政目的で敷設されたネットワークの余剰部分を県内のバックボーンとして活用するために、ダーク・ファイバーとしてISP等の通信事業者やCATV事業者に開放する。この考え方のダーク・ファイバーを岡山では「パブリック・ファイバー」と呼んでいる。
 岡山情報ハイウェイはインターネットを利用したい住民に対して直接開放するのではなく、ISPなどの接続事業者に対して開放するところに特徴がある。すなわち、住民が岡山情報ハイウェイに直接接続してインターネットを利用できるようにするのではなく、住民は岡山情報ハイウェイを利用しているISPなどの接続事業者を利用することによって間接的に利用できる。直接岡山情報ハイウェイを利用できるのは、役場や県立高校などに限ることを考えている。
 岡山情報ハイウェイは、「パブリック・ファイバー」として開放されるのであってISPになるのではないため、電子メールアカウントを発行したりする訳ではない。また、接続したISP等に対して、岡山情報ハイウェイに接続された他のISPとの接続やインターネットへのuplinkを保証するわけではない。民間事業者にとっては「地域IX」として機能し、「域内通信域内処理」を実現する予定である。
 9年度のネットワーク構成は一部借り上げ線が混在した、県庁を中心としたスター型のネットワークである。岡山と倉敷の間の国道2号には、建設省が道路監視システムのために光ファイバーを埋設している。この光ファイバーから県庁と倉敷地域振興局に県が自設した光ファイバーを接続することによって、本庁と倉敷振興局を接続している。この光ファイバーをATMで利用する。

図4−9 岡山情報ハイウェイの概念図
(http://www.pref.okayama.jp/kikaku/joho/backbone.htm)


調査・研究(高谷徹)

4.3 三田市ゆりのき台
 三田市は、兵庫県の南東部に位置し、国際公園都市ウッディタウンを始めとするニュータウンの建設により、96年9月末まで人口の伸び率が10年連続で日本一となり、著しく発展している。ゆりのき台は、ウッディタウンの北部に位置し、将来ウッディタウンでも最も大きな町になる見込みである。住民の年齢層は、30代後半〜40代前半が中心で、自治会の加入率は、80〜90%となっている。パソコンの保有率は、1997年2〜5月に自治会が住民向けに実施したアンケート(回収率約20%)によると約53%であり、パソコンの保有希望率としては60%と過半数を超えている。
 ゆりのき台自治会は、1995年12月、三田市から行政業務の一部を請け負う形(行政事務委託料、資源ごみ回収奨励金他の補助金)で正式に発足した。自治会では、広報紙の配布や回覧により、住民への情報提供を行っているが、各家庭に敷設されているCATVを利用するなど、常々簡素化したいとの願望があったため、1997年2月、「ゆりのき台自治会ホームページ」を開設した。
 開設当時のコンテンツは、回覧板、ゆりのき台イベント紹介、バス・電車時刻表、お知らせ、ゆりのき台自治会紹介、三田市紹介、自治会に関する情報など静的情報を中心に発信していた。現在は、パチンコ店開店問題に代表されるように動的情報に力を注いでいる。また、Webページ上に設けられた掲示板である「町のビジョン作りを目指す住民トーク」は、住民と双方向コミュニケーションを実施するにはどうしたらよいか、自治会メンバと検討した結果生まれたものである。町づくりする上での問題を取り上げ、住民から様々な意見を集めている。住民からのメールについては、書き込み易いように、フォーマットを設定するなどの工夫を実施している。
 三田市の情報としては、市役所から提供される施設、観光、歴史関係などを掲載している。市役所関係の情報は、特に断りなく取り上げてもよいことになっている。歴史関係の情報は、教育委員会の資料を一部借用できるように働きかけている。
 Webサイト利用者からの電子メールは、開設当初は約10件/月であったが、現在は約3件/月である。地域内の住民と地域外の人の割合は、約1:1である。アクセス件数は開設1周年を目前に10,000件を達成し、現在は平均1,200件/月程度である。
 現在、学校を核にした地域の情報化を目指している。学校にはパソコンなどの機器があるため、学校を巻き込んで実施していくことを考えている。教育委員会も地域とのつながりを重視していることから、前向きである。
 兵庫県立三田西陵高等学校は、情報化に積極的に取り組んでいる。ゆりのき台自治会としても当高校とタイアップして、地域の情報化を推進しようと考えている。現在、地域の住民を対象にパソコン講習会を実施する計画を、生涯学習の一環として検討している。講師については、ゆりのき台自治会へ一部支援の依頼があった。講習会は無料の予定である。
 ゆりのき台中学校に関しては、技術部の全員でWebページの作成を行っている。ゆりのき台小学校に関しては、校長、教頭、および技術家庭の教員と、それぞれ調整を行っている。
 ゆりのき台のWebサイトのうち、学校関係のコンテンツに関しては、全て生徒に一任させたいと考えている。現在、中学生を対象に育成しており、技術クラブのWWWに興味を持っている有志が5〜6名参加している。中学生を対象にしている理由は、Webページの作成は、小学生は実力的にまだ困難で、逆に高校生は独学でできると考えているたためである。
 Webサイトの作成・運営の体制は5名体制である。Webサイトの編集メンバの人件費は無く、Webサイトの編集・管理・運営は、自治会活動の一環として、ボランティア的に行われている。Webサイトのコンテンツが、ゆりのき台自治会として相応しい内容か否かは、編集メンバ全員の意見を聞いて決めている。同メンバで判断がつかない場合は自治会役員で審議している。
 現状の課題としては、「編集メンバを自治会体制上今後どうするか」が最大の悩みとなっている。次に、「コンテンツをどのように集めるか」があげられる。そして、「Webサイトを見られる人を増やす」ことがあげられる。将来的には、Webサイトを見られるようになった住民が、Webサイトをまだ見られない住民に教えていくといった風潮が生まれることを期待している。
 今後の展開としては、地域の情報化と町づくりの2本を柱として取り組んでいる。
 町が段々と大きくなるにつれ、様々な問題が発生しており、これらの問題を事前に察知し、行政へ投げかけることが必要になってきている。そのため、しくみをつくり、それを活用することにより、住民との双方向のコミュニケーションを活性化していくことを考えている。
 三田の町作りは、ニュータウン、農村部、旧市街地がうまく融合していくことがポイントである。農村部の人と共同で朝市を実施したり、旧市街の商店街を広く紹介することで、ニュータウンの人々と旧市街地や農村部の人々との交流を図れば、地域が活性化し、新たな発展が期待できる。


調査・研究(高谷徹)

4.4 ヒアリング事例のまとめ
 ヒアリング事例から、地域におけるインターネット・イントラネットの活用について以下のような点が明らかになった。

4.4.1 多くの主体の取り込みの必要性
 各々の地域によってインターネットに対する取り組みの経緯の詳細は異なるが、いずれの自治体においても共通して言えることは、大都市との格差拡大や情報通信技術による地域社会の維持に関する強い危機意識が首長、庁内職員、地域住民、民間事業者、といった関係者の間で共有されていることである。
 行政の一事業に留まるのではなく、地域の様々な主体のコンセンサスを得ることによって、危機意識・目的意識が集約され、地域全体への取り組みへと発展していく。
 その結果として、各主体間の連携・役割分担が生まれて地域全体のポテンシャルが引き出されている。

4.4.2 多様な発展経路の存在
 地域内のインフラ整備については、岡山県やオホーツクなどでは、インターネットのような公共性の高い情報通信インフラの一部は、公共セクターによって整備すべきであるという考え方で事業を進めている。また、行政が整備を行う場合でも、岡山県のように基幹ネットワークのみ行政が整備し、原則としてISP事業は行わない場合と、オホーツクのように電子メールサービス、WWWサーバーのディスクスペース提供まで対象を限定しつつも行っている場合がある。
 インターネット活用の展開プロセスを見ても、岡山県のように行政としての活用から地域の利用へというものから、オホーツクのように地域のインフラ整備と対外情報発信を契機に行政内の活用が進みつつあるもの、ゆりのき台のように地域住民からのボトムアップで学校へと展開するもの、と様々である。
 地域全体でのインターネット活用は、必ずしも同時並行的・網羅的に各分野で進める、あるいは特定分野を先行させる必要があるものではなく、地域をとりまく環境や既存の施策に応じて可能なところから進め、その後順次展開していく、という多様な発展経路が可能であると思われる。

4.4.3 公平性を重視した事業の限界
 民間分野でインターネット活用を進めている団体からは、行政は公平性を重視するばかりではなく、先行的な事例をモデルとして重点的に支援して欲しいという意見も聞かれた。
 例えば、岡山情報ハイウェイは実験という位置付けではあるものの、実験プロジェクトを指定することによってやる気のある団体を支援し、実現のためのモデルを確立することをねらっている。
 議会や住民などの理解を得た上で、先行事例への重点投資が効果的と考えられる。


調査・研究(高谷徹)

4.4.4 「工夫」によって軽減できるコスト・人的負担
 どの地域でも、多かれ少なかれ、国や都道府県など上位行政組織からの補助金への依存が見られる。しかし、オホーツクや岡山の例に見るように、サーバーを複数市町村で共有したり、ソフトウェアや研修を有効活用することによって、コストや人的負担が軽減できる。Webページの作成が負担になっているとの声は今回の調査では全く聞かれなかった。また、インフラ整備についても岡山情報ハイウェイでは建設省の光ファイバーを活用することによって負担を軽減している。
 インターネット活用に必要なコストや人的負担は、連携や共同事業等の「工夫」によって軽減する余地がかなりあることを示している。

4.4.5 実現に不可欠な研修制度・人的支援
 岡山県やオホーツクの例では、人材育成に関して研修制度を行っている。組織的な研修以外でも、作業上の疑問点は身近な「詳しい」人材の助けを借りて解決している。すなわち、どの自治体においても、情報リテラシーの高い職員などが身近におり、彼らが情報化の中核を担っているという事例が散見される。
 疑問点やノウハウを随時共有できるような柔軟な研修制度・人的支援が実現には不可欠である。

4.4.6 必ずしも充分ではないフィードバックシステム
 多くの事例を通じた問題点として、実施している事業の利用者と担当者の間でのフィードバックシステムの弱さがある。
 Webページを分散して各組織で作成している場合でも、そのページへのページビュー等のデータが作成者に継続的に通知されている例は少ないようである。従って、利用者の声が作成者に届いていなかったり、フィードバックのシステムが十分でなかったりするため、利用増→利便性向上→利用増、という好循環に至っていない。


調査・研究(高谷徹)

5.地域イントラネットの実現へ向けて
 今後、地域全体のインターネット活用を進めるためには、単なる「Webサイト開設」に留まるのではなく、「地域イントラネット」という視点からの取り組みが必要である。また、事業の進め方についても従来の行政による事業とは異なったアプローチが必要である。

5.1 地域イントラネット
 地域イントラネットは次のように定義できる。

地域内に存在するインターネットの一部分(分節)を地域内の情報共有・コミュニケーション手段という目的・機能に特化した視点から見た場合の呼称

 地域の情報流通・コミュニケーションのインフラとしてインターネットを活用する、つまり地域イントラネットを実現することにより、次のようなメリットが期待できる。

  • インターネットの利用者全てを潜在的なコミュニケーション対象・利用対象とできる。
  • インターネットの技術進歩に伴う先端的な技術を地域の情報流通・コミュニケーションに容易に取り込むことが出来る。
  • 基盤となるネットワークをインターネットに統合することによって、目的毎・対象毎に個別にネットワークを整備・利用する必要がなくなり、本来の情報活動に特化できる。
  • 地域内で様々な情報共有やコミュニケーションを行う際に、ユーザーは個別のインターフェイスや操作方法ではなく、普段からインターネットで用いているものをそのまま活用できる。
  • 一つのネットワーク、ユーザーインターフェイスを準備・習得するだけで、様々な活用方法を実現することが出来るため、利用者にとって便益がコストを上回りやすくなり、結果として地域のネットワーク利用の裾野を広げることができる。
  • 限られた範囲でしか利用されて来なかった地域の情報を、地域のより多くの主体が利用できるようになる。
  • 対象者が限られていたために、広報紙等既存のマスメディア・ネットワークではフォローできなかった地域の情報活動が促進される。(旅行に例えれば最少催行人数が減少するようなものである。)
  • ネットワークだけではなく、顔を会わせることができる実体社会と連携した情報活動が実現できる。

調査・研究(高谷徹)

 ここまで「地域」という概念を単に物理的な広がりとして用いて議論を展開してきたが、その指し示す領域の大きさは様々なものが考えられる。この大きさの捉えかたによって、地域イントラネットの性質も異なってくる。本調査研究で対象とする地域としては表5−1のような3つの大きさが考えられる。「地域イントラネット」もそれぞれの「地域」に対応したものからなる階層的なものとなる。
 イントラネットでは全社的な取り組みが行われることによって、構成員全員が同一のアプリケーション、同一のデータベースを利用することも多いが、地域イントラネットでは地域の構成員全てがアプリケーションを利用しなければならない訳ではない。一つの主体が複数のアプリケーションに参加していることもあり、重層的な構造となる。
 アプリケーション、若しくはそこで扱われるコンテントの対象が極めて明確である場合は、参加メンバーを登録制にしたり、セキュリティをかけて関係者以外には情報が漏れないようにしたアプリケーションも有り得る。また、行政や医療機関が個人情報をやりとりする場合は外部に情報が漏れないように暗号化する、あるいはネットワーク自身を物理的・論理的に区分してしまうことも考えられよう。

表5−1 「地域」のレベル

地域のレベル 特徴
都道府県・広域行政体レベル  都道府県や、複数の市町村によって構成された広域行政体程度の領域。通勤、通学、娯楽を含めた日常的な生活行動はほとんど全くこの範囲で完結している。
 構成員数が多い反面、それら構成員を対象にして行政が発信する情報や、構成員同士が共有する情報の密度は必ずしも高いものではない。
市町村レベル  市町村程度の領域。中核的な行政機関が1つ存在する。
 共有する情報の密度は高くなるが、構成員と顔見知りになる範囲よりは大きい。小規模な市町村では大規模なアプリケーションの発展には限界がある。
町内会・自治会レベル  町内会・自治会程度の領域。小学校、中学校の学区域とはほぼ同じ大きさであり、地域活動が行われる最も基礎的な単位となる。
 構成員数が少ないために、電子的コミュニケーションも実社会でほぼ顔見知りのメンバーが対象となる。

調査・研究(高谷徹)

5.2 各分野における活用モデルと各主体の役割
 図2−1にあげたそれぞれの分野で地域の各主体が地域イントラネットとしての活用を進めていく必要がある。
 例えば、行政と住民・地域産業の間の活用には、行政サービスの高度化と開かれた行政・自治の実現という2つの側面が考えられる。
 行政サービスの高度化に含まれる情報提供の場合、WWWの特性を生かした即時性の高い情報、かつ住民が本当に必要な情報を重視すべきである。例えば、申請手続きや交付手続きはどのセクションで、何時から何時まで受け付けているのか、必要なものは何なのか、年末年始はいつが休みなのか、といった基本的な情報は不可欠である。
 また、現状ではページに連絡先として電話番号やFAX番号しか書かれていないWebサイトも多い。これはアンケートからも明らかになったように行政自身の情報化が遅れが背景にある。利用者から見た場合、そのまま電子メールで連絡出来ないために、ダイヤルアップIP接続であればわざわざインターネットへの接続を切断してから、電話で連絡しなければならない。しかも、連絡できるのは行政のサービス時間内のみである。電子メールの活用も行政と住民のコミュニケーション手段として位置付けるべきである。
 さらに、どちらかといえば行政から住民への一方向型の情報提供に留まっていたWWWであるが、施設の空き状況確認や申し込みにも活用できることは、航空会社等のサービスを見れば明らかである。平日に並ばなければ予約が出来ない施設の利用がWWWで可能となれば利用者にとっては大きなメリットがある。
 このように、現在の法制度や枠組みの中にもインターネットを活用する余地は多くあるが、より本質的な課題としては、将来的な行政サービス自身のネットワーク活用を視野に入れていく必要がある。行政サービスにおけるワンストップサービス、マルチアクセスの実現や、広域・連携による施設整備と利用まで考えれば、行政・住民間の活用は、より日常的な行政サービスが多い市町村レベルが主体となりつつも、都道府県レベルでの調整が必要になると考えられる。
 開かれた行政・自治の実現としては、行政が保有する情報のWWWを活用した積極的な公開が望まれるほか、住民の意見を施策展開に反映させていくことも重要である。例えば、オホーツク地域においては策定中の地域の将来シナリオ「オホーツクさらに跳ぶ」を原案段階でWWWで公開し、広く意見を求めている。
 一方、地域住民間のインターネット活用については、市町村レベルや町内会・自治会レベルが中心となる。このレベルでは特に、実社会の地域活動と連動した電子的コミュニケーションが可能となるため、顔の見える関係のなかでより信頼感の高い情報が流通すると考えられる。このような地域コミュニティでインターネットを活用することによって、より多くの参加者を期待できるほか、小規模なコミュニティ活動も行いやすくなる。
 このような地域コミュニティにおけるインターネットの活用は、ボトムアップ的、自然発生的なものだが、その中で行政に期待される役割としては、形成されたコミュニティのパイロットプロジェクトとしての支援や、市町村のWebページからのリンクによる信頼性の担保といったものが考えられる。
 また、町内会・自治会レベルで代表的な公的機関は小中学校である。ゆりのき台自治会が地域の学校と連携を目指していたりしているように、学校を地域のインターネット活用と位置付けることは有効である。学校をインターネット接続する事業は多くの地域で進行しており、ここを拠点にインターネット利用の底辺を広げることが期待できる。
 地域ISPもこのような地域に密着したインターネットの活用を支援、コーディネートによって需要を発掘していくことが全国型ISPとの差別化の面でも重要である。
 一方、地域産業のインターネット活用については、都道府県レベル、市町村レベルの取り組みが中心となる。都道府県や市町村に求められる役割としては、地域産業間のインターネット活用に関するノウハウを共有する場の提供及びコーディネイトが挙げられる。「〇〇県情報化推進協議会」のような形態で、地域の産官学からなる情報化推進組織が存在する。都道府県は多い。中にはISP事業を行ったり、会員間でメーリングリストやニュースグループを運用しているものもある。このような協議会を支援することが方策の一つとして考えられる。


調査・研究(高谷徹)

5.3 地域イントラネット実現へのインフラ整備と人材育成
 地域イントラネット実現のための地域全体の課題と考えられるものとして、インフラの整備と人材の育成が挙げられる。
 地方公共団体の視点から現状で考えられるインフラ整備に対する施策を類型化して表5−2にまとめた。現在行われている事業は、これらの複数にまたがっている場合も多い。
 いずれの施策によっても、インフラに関わる全ての格差が解消されるわけではないことに注意が必要である。また、生じ得るメリット及びデメリットについても、民間事業者の事業展開状況、人口密度等、それぞれの地域のおかれた環境によってその影響の大きさが変わってくる。
 以上述べた施策は供給側に関するアプローチと言える。もう一つ重要なアプローチとして、需要側のアプローチがある。すなわち、民間事業者からみた事業環境自身を改善することによって、インフラ整備を促す手法である。具体的には、行政自身が大口の利用者となる、地域の学校等公共機関に財政支援を行うことによってネットワーク利用を進める(それぞれが民間ISPと契約する)、等の方法によって需要を生みだし、結果として民間ISPの参入を促す方法である。インターネットの利用が拡大しつつある現状では、このような需要側からのアプローチも極めて有効な手段として検討すべきである。
 人材については、地域イントラネットの運用と活用を主導する「リーダー型」の人材と、活用する「ユーザー型」の人材の二通りを育成していく必要がある。また、それらの人材を生み出す教育の場の整備と、それらの人材が地域に定着するための雇用の場の確保が必要となる。
 教育の場の整備について、例えば岡山県では県立高校に対してインターネット接続を提供することによって、将来の岡山情報ハイウェイを運用できる人材を発掘することを狙っている。公教育の場でインターネットを日常的に活用することは、リーダー型、ユーザー型のいずれの人材の育成にも極めて効果的と考えられる。地域に数多くある学校を地域イントラネット活用の拠点とすることは、生徒の保護者への影響も含めて考えると極めて重要であろう。人材の育成には時間がかかるため、早急な取り組みが必要である。
 また、地域イントラネット活用に関わる組織内部の人材育成については、研修が重要であることが明らかになった。例えば、オホーツクの市町村、岡山県の各課室では、当初からインターネットに親しんでいたわけではないにも関わらず、組織的な研修や個人的な問い合わせによってWebページの作成を通常業務として行う段階にまで達している。
 最後に、年齢、所得、障害等の社会的格差への配慮は地域のみの取り組みでは限界があるものもあるが、地域の様々な分野で活用を進める上で常に念頭に置くべきであろう。例えば、広く行われているWWWによる情報提供についても、見栄えをよくすることを追求するだけではなく、構造の明確なHTML文で構成することにより、様々なユーザーエージェントで情報を活用できるよう、模範的なものを作るべきである


HTML文は本来文章の見え方を記述するものではなく、構造を記述するものである。最近ではHTML文を読むことによってWWWを「聞く」ことができるユーザーエージェント(ブラウザ)も生まれている。このようなユーザーエージェントでも効果的に情報伝達を行うには、より明確なHTMLの記述が必要とされる。例えば、http://www.ibm.co.jp/kokoroweb/


調査・研究(高谷徹)

表5−2 地域イントラネットのインフラ整備に対する施策の類型

施策のタイプ 内容 メリット デメリット 備考
民間事業者主導 インフラ整備には行政は関与せず、民間事業者による事業展開に期待する。 民間事業者の参入を阻害しないため、競争によって多様なサービス内容とサービスレベルが実現される。 事業が成立しない需要密度が少ない地域等ではサービスが展開されない、展開が遅れる、メニューが乏しい、等の状況が生じる。 民間事業者の事業展開が活発な大都市で最も有効である。
ISP事業参入
(基本サービス)
行政または第三セクター等の関連団体がISP事業を行う。
事業内容としては接続サービスや基本的なサービスレベルに限定して利用のボトムアップを狙う。
地域内全てで同時にサービスを提供できる。
付加サービスや高度なサービスを提供する民間事業者とは競合しない。
本来民間事業者が参入できる地域の参入が妨げられ、結果としてサービス内容・サービスレベルが画一化する。
先進的なサービスについては特定地域しか提供されないため、時間的格差が生じる。
サービス提供対象を個人、あるいは公的機関に限定することによって、デメリットを減少させることは可能である。
民間事業者の事業展開が少ない地域で有効である。
ISP事業参入
(高度サービス)
行政または第三セクター等の関連団体がISP事業を行う。
事業内容としては付加サービスや高いサービスレベルも含め、先進的な利用も支援する。
地域内全てで同時にサービスを提供できる。
先進的なサービスに対する需要も満足させることが出来るので、時間的格差の解消にも有効である。
本来民間事業者が参入できる地域の参入が妨げられ、結果としてサービス内容・サービスレベルが画一化する。
付加サービス等の関連事業の機会も制限してしまう。
サービス提供対象を個人、あるいは公的機関に限定することによって、デメリットを減少させることは可能である。
民間事業者の事業展開が少ない地域で有効である。
バックボーン整備 地域内のバックボーンを整備し、ISPに開放することによって、地域内の格差解消を狙う。 方法によっては地域内の通信品質を改善することが出来る。
地域内のサービス・品質格差を緩和できる。
全国型ISP、地域ISPのいずれの事業も直接的に妨げない。
ISPの事業展開の大きな制約である通信距離によるコストを軽減できる。
地域内全てでサービスが提供され、競争が生じるかはアクセス部分を提供する民間事業者の意向に依存する。
バックボーンによって節約されたコストを事業者が利用者に還元する保証はない。
都道府県レベルの大きさで、地域ISPの事業展開が進んでいる場合は有効である。
地域IX整備 地域IXを設置し、地域における通信環境を改善する。 地域内の通信が最適化される。
地域ISPの情報交換の場として発展する場合もある。
トラフィックの面でも東京に集中している現状では、特に全国型ISPにとって利用するメリットが少ない。
地域内全てでサービスが提供される、サービスレベルが向上するかは民間事情者の意向に依存する。
全国にいくつもの地域IXを作るのは現状では難しい。

調査・研究(高谷徹)

5.4 行政における地域イントラネット関連事業の進め方
 ここでは、行政が地域イントラネット関連の事業を進める際に求められる手法について整理した。

5.4.1 事前評価から事後評価へ
 地域イントラネットに代表される情報通信分野特有の事業では、「事前評価」に加えて「事後評価」が極めて重要であるというところに特徴がある。
 インターネットの世界では変化が「ドッグ・イヤー」で進んでいる上、その変化の度合も大きい。従って、「事前評価」は重要であるものの、その段階で評価を完了するのは不可能かつ不十分である。むしろ、プロトタイプのような位置付けでスタートし、環境の変化や利用者の反応を取り入れながら高度化を進めるといった「事後評価」重視のアプローチが重要であろう。
 現在行われている事例の中にも、先進的なシステムを構築しながらも、利用者からのフィードバックが十分ではない、あるいは全く行われていないと感じられるケースも存在している。このような事業展開ではシステムがいつのまにか時代遅れになってしまう、という可能性も否定できないであろう。
 インターネットの世界で常に行われている、「できるところからどんどん始めてみよう」という姿勢が求められている。

5.4.2 「横並び」ではない事業展開
 行政が事業展開を進める際に、万人に等しいサービスを提供することを第一義におくと、効果に限界が生じる。
 今回の調査でも、ゆりのき台や、オホーツク地域の民間ISPであるオホーツクWEBのように、先進的な事例こそ行政が支援して欲しい、という意見が聞かれた。
 特定対象に限定したスタートアップ事業を公共が行う、あるいは支援し、そこから綿的な拡大を目指す、といった「横並び」ではないアプローチが必要とされている。

5.4.3 隣接地域、地域住民と歩調を合わせた事業展開
 アンケート調査でも明らかになったように、人口規模の小さな市町村ではインターネット活用への取り組みが遅れたり、体制の充実が難しい。郵政省「地域における広域・連携アプリケーションの展開に向けて」でも中心市町以外の周辺の市町村や過疎地域等の情報化を進めるためには広域化が必要であると指摘されている。人的資源や財源の有効活用、ノウハウの共有のためには、広域・連携によるネットワークの活用が必要である。また、行政サービスに対するニーズであるワンストップサービス、マルチアクセスを実現していくためにも、周辺自治体と連携した取り組みは重要である。
 さらに、行政間だけではなく、公的機関、教育機関、地域住民、企業等と幅広く意見交換や調整を行い、利用者の意見を反映した事業展開が必要であろう。しかし、アンケート結果によれば、地域住民との調整を行う協議会や会合を設置しているWebサイト開設市町村は1割にも満たない。
 オホーツク・インターネット事業のねらいにも掲げられているように、「地域の力を結集する」ことが求められている。

5.4.4 「時間」を視野に入れた事業展開
 情報通信分野の変化が速く激しいため、地域イントラネットの活用に関しては、「時間」を強く意識した事業展開が不可欠である。例えば、ある時点で行政が事業を行うことが経済的であっても、将来もその環境が維持される保証はない。行政に求められる役割も動的に変化していくものである。
 地域イントラネットの活用に関しては、時系列な視点に立った評価及び実現への経路を考えなければならない。


高度情報通信社会構築に向けた地域情報化推進方策についての調査研究会、「地域における広域・連携アプリケーションの展開に向けて―地域情報化プログラム―」、平成9年5月
様々な行政サービスが、一つの窓口で、さらには一回の手続きで利用できること。
ある行政サービスが様々な窓口で受けられること。例としては、市町村に対する申請が居住市町村役場とは異なった、職場の近くの市町村役場で行えることが挙げられる。
調査・研究(高谷徹)

5.5 残された課題
 最後に、地域でのインターネット活用を進める上で、地域だけでは解決できない課題について言及する。
 まず、全国的なネットワーク・トポロジーに起因する問題である。我が国のインターネットは、東京及び大阪のIXを中心としたネットワークになっている。これは現実のトラフィックが東京に集中していることにも対応しているため、民間ISPの立場からは必ずしも問題ではないが、それ以外の地域の通信環境を改善しようとする立場からは理想的ではない。加えて、ネットワークの安全保障の面からも望ましくない。全国的なルーティングはどのようなものが望ましいのかの検討が必要である。
 また、地域イントラネットを活用していくためには、インターネット利用者をいかに増やしていくかという問題が存在する。今回の調査の中でも、インターネットの利用者が少ないために現状行政として事業を推進すべきかを問題意識として有している、との声が聞かれた。郵政省においても、高齢者や身障者などに対するコンピュータ機器の利用増加を推進する施策を展開しているが、幅広い人達に受け入れられるようなインターネット利用環境を整備していくことが必要である。
 さらに、ネットワークを利用した行政手続きや商取引、個人情報の保護や有害情報の取り扱いに関連した法制度や技術の整備を進めていく必要がある。
 本調査研究では郵政研究所客員研究官である木下準一郎兵庫大学経済情報学部助教授にご指導頂いた。また、ヒアリング調査、アンケート調査に関しても多くの関係者にご協力を頂いた。この場を借りて感謝を申し上げる。
 なお、本稿は5月20日に行われた第10回郵政研究所研究発表会 情報通信セッション「地域におけるインターネットの活用に関する調査研究」の配布資料に、アンケート調査等の調査研究内容の全体を含む報告書の内容の一部を加筆・修正したものである。

<主要参考文献、リソース>
「オホーツクファンタジア(オホーツク・インターネット事業)」http://www.ohotuku26.or.jp/
「オホーツクWEB」http://www.okhotsk.or.jp/
「岡山県ホームページ」http://www.pref.okayama.jp/
 小林和真「UNIX Magazine 98/1月号及び2月号:岡山情報ハイウェイ」、1998
「ゆりのき台自治会ホームページ」http://www.venus.dti.ne.jp/〜yurinoki/


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