郵政研究所月報

1998.12


調査・研究

金融機関利用に関する意識調査

―郵便局利用者を中心とした家計の金融機関利用動向―


第二経営経済研究部主任研究官  丸山 昭治 

[要約]

 郵政研究所では平成9年11月から12月にかけて全国4,500世帯を対象とする「金融機関利用に関する意識調査」を実施した。この調査は金融自由化など日本経済の構造変化が進展するなかで金融機関・金融サービスに対する家計の意識を調査するもので平成元年から2年毎に実施している。本論文ではこの調査を用いて、金融機関のなかでも利用者が最も多い郵便局を利用している家計を中心とした利用特性に関する分析を行う。

 家計の属性と金融機関の選択の関係を分析したところ次のことが明らかとなった。現在利用している金融機関の利用者属性に関しては、郵便局では就業者比率、年収(年収貯蓄比率)が上昇するほど利用する確率が低下した。家計が居住している都市規模を5つに分類してそれぞれの影響について推計したところ、都市銀行、地方銀行ではそれぞれ有意な結果が得られたが、郵便局では信用金庫等と同様に特定の都市規模で利用者が増減する特性がみられなかった。次に郵便局をメインで利用している家計の特性をメイン利用者が最も多い地方銀行と比較すると、家族人数、就業者比率において両者に相違がみられた。

 金融機関を選択する理由を郵便局をメインで利用している家計についてみると、「自宅ほかよく行く場所に近いから」という利便性の要因をあげる割合が他機関利用者と同様に圧倒的に高いが、特に「金融以外のサービスを同時に受けられるから」の項目については他機関利用者に比べても高くなっている。

 郵便局をメインで利用してる人の多くが「預貯金金利が低い」ことに不満をもっていることを反映して、金融機関に対する要望としては「資金の有利な運用について」が最も多くなっているが、他の金融機関利用者と比較した場合には「老後の生活について」、「税金について」などの割合が高くなっている。今後ますます高齢化が進行するなかで公的金融機関としての郵便局に求められている役割が期待されているといえる。

 金融ビッグバンの名のもとで金融機関の間で競争が進展することに対しては大都市在住者、高額所得者層は肯定的な考え方をもっているが、その他の層では「小口利用者へのしわ寄せ」、を懸念する声も強くなっている。また、電子マネー等が普及し金融取引の電子化が一層進展する環境の下、利便性だけで金融機関を選択する家計は相対的に少なくなることが見込まれることから、各金融機関には家計との取引関係を継続していくために提供するサービスを含めてその役割を再検討する段階にあるものと思われる。

 

1.はじめに

(1) 金融機関利用調査の目的と沿革について

 郵政研究所では平成9年11月から12月にかけて「金融機関利用に関する意識調査」(以下、「意識調査」)を実施した。この調査は、平成元年から2年に1回実施しているもので、今回の平成9年調査は通算5回目に当たる。意識調査は金融自由化など日本経済の構造変化が進展する中で家計がどの金融機関・金融サービスを利用しているのかを把握するとともに、将来の金融市場に対する家計の意識を明らかにすることを目的としている。

 意識調査の質問項目については毎回見直しを行っており、例えば今回の調査では発行枚数が人口を上回るまで普及が一般的になったキャッシュカードやクレジットカードに関する設問、利用者が相対的に少ない証券会社に関する設問を取りやめた一方、金融機関の利用状況を利用頻度別に尋ねたほか、金融市場改革が進展した将来における金融機関と家計の関係に関する設問を拡充するなどの変更を行っている。

(2) 金融機関利用調査の調査方法について

 意識調査の調査方法についてはこれまでの調査方法を踏襲しており、調査の概要は図1のとおりである。調査対象は全国4,500世帯で、層化二段階で調査地点を選定したあと各地点の中からサンプルを抽出した。したがってサンプルの構成はわが国の人口構成とほぼ同一であり、例えば東京(都)および沖縄(県)の全国に占める人口比はそれぞれ9.24%、1.03%であるが、今回の調査で抽出されたサンプル数をみると東京は427で全体の9.49%、沖縄は45で全体の1.00%を占めており、層化二段階無作為抽出法を採用することにより全国の地域性、都市規模の特性に偏りがなく無作為にサンプルを選ぶことが可能となっている。

 調査方法は留置記入依頼法であり、あらかじめ調査員が手渡した調査表を対象世帯が記入後再度訪問して回収する方法を採っている。調査員が2回にわたって訪問することもあり回収率は質問紙留置法等と比較して高く、これまでの調査でも70%を超える回収率を維持している。なお、都市規模別にみた回収割合は13大都市(21.2%)、人口15万人以上の都市(29.0%)、人口5万人以上の都市(20.4%)、人口5万人未満の都市(6.7%)、町村(22.7%)である。

 

図表1 金融機関利用に関する意識調査の概要
対象項目 調査方法の内容
調査地域 全国
調査対象 世帯人員2人以上の普通世帯(調査対象者は世帯主又はその配偶者)
標本数 4,500世帯
抽出方法 層化二段無作為抽出法
 全国を郵政局別に12層に分ける
 各層の中の人口数をベースに5層に分ける
 各層の世帯数に比例させて4500の標本数を配分
 1地点16世帯程度になるように地点を決定
 対象世帯は各地点の住民票から抽出
調査方法 留置記入依頼法
 抽出された調査対象世帯に対し、調査員が調査票を持参
 調査項目等を説明の上記入を依頼
 数日後に調査員が再び訪問して記入済みの調査表を点検、回収
調査時期 平成9年11月21日〜平成9年12月8日
回収数(回収率) 3,298(73.3%)

 

(3) 調査時期と金融不安

 今回の調査の対象期間は平成9年11月21日から12月8日であるが、この期間の前後はわが国にとってこれまでにないほど金融機関の経営破綻が相次いだ時期であった。時系列で整理すると、11月3日に三洋証券が会社更生法の適用を申請して事実上倒産したのをはじめ、11月17日には資金繰り悪化から北海道拓殖銀行が経営破綻し、道内営業の北洋銀行へ営業譲渡した。11月24日には山一証券が自主廃業に向けて営業休止を届け出たほか、11月26日には徳陽シティ銀行が自主再建を断念して七十七銀行、仙台銀行などに営業譲渡することを発表した。

 調査期間前の平成9年4月には日産生命が業務停止命令を受けているが、銀行、証券、保険それぞれの業態で大手金融機関が倒産または経営破綻したことは家計が金融機関を取引先として選択する行動に大きな影響を及ぼすことが考えられる。現在のところは取引している金融機関が破綻しても家計の保有する預金や金融債などの金融商品は保護される状況にあるとはいえ取引金融機関が破綻した家計は取引金融機関の見直しをしていくものと思われるが、金融機関を選択する基準の変遷については2節の金融機関選択理由のところで詳しくみていくこととする。

(4) 本調査研究の概要

 本調査研究では郵政研究所より最近公表された調査報告書「金融機関利用に関する意識調査(平成9年度)」を用いていくつかの分析を行うものである。同調査報告書では金融機関・金融サービスの利用実態を全国レベルまたは地方郵政局ブロック・都市階級別に概観しているが、この論文では家計が利用している主な金融機関(「郵便局」、「都市銀行」、「地方銀行」、「信用金庫・信用組合・労働金庫」)のうち最も利用者の多い郵便局に関する利用特性を明らかにすることを目的とする。具体的な論点としては郵便局のサービスは郵便サービスだけでなく特に金融サービスに限定した場合であってもユニバーサルサービスを提供しているのかを他機関の利用者の特性と比較することにより分析することがあり、そのためには郵便局の利用者は全国あまねく分布しており、特定の利用者層(例えば富裕層や大都市在住者)に偏在する特性がないことを計量的に示す必要がある。また、他機関の利用者の特性と比較することにより郵便局の主な利用者はどのような属性を持っているのかを知ることも今後の金融機関の提供するサ ービスを考える上で重要であると思われる。

(5) 本調査研究の構成

 以下の構成は、まず2節で家計はどの金融機関を利用しているのかを概観したあと郵便局をはじめとする利用金融機関の選択に世帯主年齢や家族構成、年収、居住している都市規模などの属性がどの程度影響しているのかをみることにする。次の3節では金融機関の選択理由を利用金融機関別に把握したのち選択理由について意識調査と他の機関が実施した調査との比較検討を行う。4節では金融機関に対する満足度を郵便局(郵便貯金)について不満を感じる理由を明らかにするとともに、現在の金融機関に対して求められていることを各機関の利用者別に示す。5節では家計が想定している金融ビッグバン時代の金融市場の姿を属性別にまとめ、金融取引の電子化が金融機関と家計の関係に与えるインパクトを整理する。それまでの調査分析で明らかになったことなどをとりまとめ、金融機関に求められている金融サービスのあり方を示し、2年後の調査に向けた課題をまとめることで全体のまとめとする。

 

2.金融機関の利用実態

(1) 家計の利用金融機関動向

 ここでは家計の金融機関利用の概観を意識調査における「現在利用している金融機関」、「一番多く利用している金融機関」の調査項目でみていくことにする。取引口座や借入がある、株取引があるなど現在利用している金融機関(以下、現在利用機関)をまとめたのが図表2―1である。郵便局を利用していると答える人の割合が最も多く、以下、地方銀行、信用金庫・信用組合・労働金庫(以下、信用金庫等)、都市銀行と続いている。これを2年前の調査と比較すると郵便局、地方銀行をはじめほとんどの機関で利用率が上昇している。しかし第二地方銀行、長期信用銀行・信託銀行・商工中金・農林中金(以下、長期信用銀行等)については利用率が微増にとどまるか減少に転じているなど対照的な動きとなっている。

 現在利用している金融機関の中で最も多く利用している機関(以下、メイン利用機関)をまとめた結果が図表2―2である。ここでは現在利用している機関とは上位の機関が入れ代わっているところがあり、地方銀行、都市銀行、信用金庫等、郵便局の順番となっている。メイン利用機関として郵便局を選択する家計の割合が相対的に少ないことに関しては、郵便局利用者は口座を持っていても最も頻繁に利用する機関が郵便局ではないケースが多いことが窺われ、逆に都市銀行を利用している家計の総数は相対的に少ないものの利用している人はメインで利用している人が多いことが分かる。

 最後に決済、預貯金の取引別に利用状況をまとめたのが図表2―3であり、全ての金融機関で預貯金がある人の割合は決済取引がある人の割合を上回っている。地方銀行、都市銀行、第二地方銀行などほとんどの機関では両者に大きな差が認められないのに対し、郵便局や長期信用銀行等では貯金取引がある人の割合が相対的に多くなっているが、これらの機関は主として給与振込や公共料金の自動払い込みなど決済目的よりは預貯金を貯める目的で利用している人が多いことが予想される。

 

図表2―1 現在利用している金融機関(複数回答)

 

図表2―2 最も多く利用している金融機関(メイン利用機関)

 

図表2―3 取引別にみた金融機関の利用状況(複数回答)

 

(2) メイン利用機関に関する分析

a.分析の概要

 以下では意識調査で明らかとなった利用金融機関について、各機関の利用者の特性による影響を分析する。分析対象については、現在利用およびメイン利用の上位4機関(郵便局、地方銀行、信用金庫等、都市銀行)を取り上げるが、その中でも特に利用者が最も多い郵便局を利用している家計の特性を詳しくみていくことにする。分析の方法は最初に現在利用機関の利用に関して利用者属性の影響を明らかにしたのち、メイン利用機関についても同様の分析を行い現在利用の分析の結果と比較検討するために各機関間において変数のマージナルな効果を比較するほかメイン利用の最も多い地方銀行と郵便局との比較を行う。

b.金融機関利用に関する先行研究

 家計が利用している金融機関を家計属性から分析した研究としては松浦・橘木[1991]、福重[1997]、奥井[1998]などがある。このうち松浦・橘木[1991]では総務庁「貯蓄動向調査」を用いて郵便貯金の保有関数、需要関数別にトービットモデルで推計している。郵便局利用者の属性に関する部分を紹介すると、年収が郵便貯金の保有、需要に有意な負の影響を与えている一方、金融資産残高は正の影響、家族人員数、世帯主年齢に関しては有意な結果が得られなかったとしている。福重[1997]においては、首都圏を調査対象とした日本経済新聞社による「金融行動調査」のデータを用い、通常郵便貯金および銀行の定期性預金の選択関数を二変量のプロビットモデルで推計している。郵便局の通常貯金の需要に関しては世帯主年齢、世帯人員が正の影響を持つ一方、総所得、ローン返済額は負の影響をもつとしている。また銀行の店舗網が発達している東京都中央部では通常貯金を選択する確率が低くなっている。奥井[1998]では平成7年度の「意識調査」を用いて決済と貯蓄目的別にみた金融機関選択関数をマルチノミアル・ロジットモデルを用いて分析している。郵 便局を決済目的で利用している家計を対象とした金融機関決定関数によれば世帯主年齢が有意に正の影響がある一方、年収については負の影響があり、そのほか家族人数や労働者比率、人口密度などの変数は有意な影響がみられないとしている。貯蓄目的の利用に関してもこれらの変数の影響は決済目的の場合とほぼ同様の結果となっている。

c、データについて

 以降の分析で使用するデータは意識調査(平成9年度実施)の個票データである。単身世帯のサンプルについては調査段階で除いており利用可能な標本数は3,298であるが、現在利用機関の分析を行うにあたっては世帯年収、世帯貯蓄総額など金額の回答がないサンプル855を取り除いたため2,443のサンプルを使用している。現在利用機関の分析で用いる各変数の記述統計量をまとめたものが図表2―4である。変数のうち世帯主の性別および都市規模についてはダミー変数となっている。都市規模の変数についてはサンプル世帯が居住している地域を表わしており、13大都市から町村まで5階級に分類している。また世帯年収および世帯貯蓄総額については調査票の階級値における中央値を採用しているが、最下級および最上級の階級については中央値がとれないためそれぞれ階級の最大値、最小値を用いた。メイン利用機関の分析ではメイン利用機関の回答がなかったものおよび地方銀行、都市銀行、信用金庫等、郵便局をメイン利用していない家計のサンプル(346)を除いているので対象となるサンプル数は2,097である。

 

図表2―4 主要変数の記述統計量
  平均 標準偏差 最小値 最大値  
年齢
世帯主男性
家族人数
世帯内就業者数
就業者比率
世帯年収
世帯貯蓄総額
年収貯蓄比率
都市(13大都市)
都市(15万以上)
都市(5万以上)
都市(5万以下)
都市(町村)
48.973
0.938
3.935
1.926
0.523
656.693
846.214
1.499
0.217
0.289
0.200
0.070
0.226
11.010
0.242
1.395
0.909
0.242
359.866
1,020.650
1.167
0.412
0.453
0.400
0.255
0.418
22



0.125
200
200
0.050




69

11

1.000
2,000
5,000
10.000





ダミー


世帯内就業者数/家族人数


世帯年収/世帯貯蓄総額
ダミー
ダミー
ダミー
ダミー
ダミー

 

d.分析の定式化について

 現在利用機関に関する分析では問題となるのは郵便局、地方銀行など該当機関を利用するか利用しないかであるが、このように2つの選択肢のある質的選択を分析するモデルとしてはロジットモデルとプロビットモデルがある。しかしメイン利用機関に関する分析はある属性を持つ家計が地方銀行、都市銀行、信用金庫等、郵便局という4つの機関の何を選択するかという問題であり、このように2つ以上の離散的な選択肢がある場合にはプロビットモデルは使用できないことから、今回は各々の分析においてロジットモデルを使用することにする。

 したがって現在利用機関の分析では、

  y1ix’bu1i
 (i=1,2,3,4)
 (x:経済主体の特性ベクトル、b:係数ベクトル)
  y1i=1 金融機関iを利用している
  y1i=0 金融機関iを利用していない

となる。このうちiは金融機関(郵便局、地方銀行、信用金庫等、都市銀行)をあらわしている。

 一方、メイン利用機関の分析では、

  yx’buにおいて、
x:経済主体の特性ベクトル、b:係数ベクトル)
  y=1 地方銀行をメイン利用機関として利用している
  y=2 都市銀行をメイン利用機関として利用している
  y=3 信用金庫等をメイン利用機関として利用している
  y=4 郵便局をメイン利用機関として利用している

と定式化される。

 上記xで示した説明変数としてはそれぞれの推計式で共通の変数ベクトルを用いる。説明変数は、世帯主年齢、世帯主年齢の二乗項、世帯主性別、家族人数、世帯内の就業者比率、年収貯蓄比率、居住している都市規模とする。

e.推計結果1(現在利用機関)

 現在利用機関の利用者属性に関する推計結果及び各変数のマージナル効果は図表2―5のとおりである。最も利用者の多い郵便局については、世帯主年齢、就業者比率、年収(年収貯蓄比率)で有意な結果が得られており、年収が多い層ほど郵便局を利用する確率が減少すること、年齢が高いほど利用確率が増加することについては先行研究の推計結果と概ね同様の傾向がみられる。都市規模の係数は13大都市ではプラス、その他ではマイナスであるがともに有意な結果が得られていないことから郵便局の利用者が特定の都市規模に偏る特性を持っていないことを示唆している。都市規模の影響に関して郵便局と対照的なのが地方銀行と都市銀行である。地方銀行では都市規模が大きいほど、都市銀行では規模が小さいほど利用者が減少する傾向があり、それぞれの係数のほとんどが有意な結果となっている。都市銀行では世帯主年齢はプラス寄与、家族人数、就業者比率は有意にマイナス寄与となっているのに対し、地方銀行では都市規模以外の変数はすべて非有意となっているところも対照的である。信用金庫等に関しては、世帯主年齢の係数がプラスであること、都市規模の係数が有意でないことにつ いては郵便局と共通した結果が得られたが、家族人数、就業者比率が上昇するほど利用確率が増加する点に相違がみられる。なお、同様の方法で利用取引別にみた郵便局の利用、すなわち貯蓄と決済取引別にみた家計の属性の影響も推計したが、就業者比率および年収のマイナス寄与など現在利用での分析と比較して大きな違いはみられなかった。

 次にマージナル効果の影響をみると、郵便局では年収が1%上昇すると利用する確率は3.6%減少するのをはじめ地方銀行、信用金庫でもそれぞれマイナスの影響がみられるのに対し、都市銀行では0.5%上昇するという結果になった。家族人数に関しては年収とは異なり、都市銀行だけがマイナスの影響がみられる。世帯主の年齢では年齢の上昇はそれぞれの機関の利用確率を上昇させるが、その上昇率は信用金庫等が3.1%と最も高く、次いで郵便局の1.4%となっている。

 

図表2―5 推計結果(現在利用機関)
  郵便局 地方銀行 信用金庫等 都市銀行
定数項
(t−値)
−0.3787
(−0.4023)
1.0959
(1.4023)
−3.9469
(−5.2716**
−3.0639
(−3.6742**
年齢
(t−値)
(年齢)
(t−値)
0.1129
(2.7563**
−0.0011
(−2.5353
0.0102
(0.3079)
−0.0003
(−0.7297)
0.1259
(3.9613**
−0.0013
(−3.9372**
0.08328
(2.3321
−0.0009
(−2.4701
世帯主男性
(t−値)
0.0701
(0.2993**
0.0315
(0.1748)
0.0414
(0.2423)
0.6623
(3.3801**
家族人数
(t−値)
0.0190
(0.3923)
0.0531
(1.4464)
0.1386
(4.0329**
−0.1950
(−4.7848**
就業者比率
(t−値)
−0.5424
(−2.0296
−0.0618
(−0.299)
1.0149
(5.1248**
−0.5390
(−2.4533
年収貯蓄比率
(t−値)
−0.2825
(−6.3516**
−0.0291
(−0.7522)
−0.0531
(−1.4655)
0.0242
(0.5828)
都市規模1
(t−値)
都市規模2
(t−値)
都市規模3
(t−値)
都市規模4
(t−値)
0.0231
(0.1296)
−0.2326
(−1.4396)
−0.0066
(−0.0369)
−0.0499
(−0.1980)
−1.2768
(−9.4672**
−0.2765
(−2.1101
−0.5622
(−4.0710**
−0.2233
(−1.1283)
0.0229
(0.1826)
0.0795
(0.6816)
−0.0624
(−0.4940)
0.1855
(1.0397)
0.2704
(17.2735**
0.1498
(10.5095**
0.1282
(8.4508**
−0.7911
(−2.5271
対数尤度 −1,021.02 −1,509.48 −1,660.99 −1,380.70
利用者サンプル数 2,067 1,599 1,226 1,001
(注) 信用金庫等:信用金庫、信用組合、労働金庫
都市規模1(13大都市)、2(15万人以上都市)、3(5万以上都市)、4(5万以下都市)
**は1%水準、は5%水準で有意であることを示す。
マージナル効果
  郵便局 地方銀行 信用金庫等 都市銀行
定数項
年齢
(年齢)
世帯主性別
家族人数
就業者比率
年収貯蓄比率
都市規模1
都市規模2
都市規模3
都市規模4
−0.048047
0.014328
−0.000139
0.008900
0.002412
−0.068808
−0.035845
0.002929
−0.029513
−0.000847
−0.006330
0.234380
0.002188
−0.000053
0.006731
0.011366
−0.001321
−0.006235
−0.273060
−0.059138
−0.120240
−0.047763
−0.960890
0.030653
−0.000316
0.010086
0.033759
0.024709
−0.012932
0.005577
0.019364
−0.015197
0.045162
0.588870
0.016005
−0.000177
0.127280
−0.037484
−0.103610
0.004643
0.519840
0.287830
0.246450
−0.152050

 

f.推計結果2(メイン利用金融機関)

 ここでは選択肢が4つある多項ロジットモデルを用いるが、係数は特定の選択肢(今回の分析では都市銀行)についてはゼロに基準化され、係数によっては影響の程度の比較ができないため変数間の影響を比較するためにそれぞれの変数のマージナルな効果を用いる。係数間の比較はできないが、各変数の影響を比較するためにメイン利用者が最も多い地方銀行と郵便局についての推計結果およびメイン利用機関の利用者属性に関するマージナル効果の推計結果は図表2―6のとおりである。ここでは年収が1%増加すれば地方銀行をメイン利用機関として選択する確率は0.5%増加、都市銀行は1.0%増加する一方、信用金庫等は0.7%減、郵便局も0.8%減少しており、現在利用の推計結果と比較して地方銀行の影響がプラスに転じていることが注目される。

 そこでメイン利用機関として最も多く利用されている地方銀行の推計結果をみると、家族人数、就業者比率の影響は地方銀行をメイン機関として選択する確率に対して有意にプラスの影響を持っていることが分かる。郵便局に関しては、世帯主ダミーで有意な結果が得られているのみで現在利用の分析において有意にプラスの影響がみられた世帯主年齢の影響では有意な結果が得られていない。このように地方銀行の分析ではメイン利用機関としては家族人数、就業者比率の影響が表れたのに対し、郵便局では現在利用の推計と異なりメイン利用の分析において有意な推計結果が得られないことが、利用はしているもののメインの取引先としての利用が地方銀行等と比較して相対的に少ないことを裏付けているものと思われる。

 

表2―6 推計結果(メイン利用機関)
  地方銀行 郵便局
定数項
(t−値)
0.30816
(0.3217)
0.48698
(0.3947)
年齢
(t−値)
(年齢)
(t−値)
−0.03061
(−0.7262)
0.00035
(0.7704)
−0.03566
(−0.6630)
0.00063
(1.1225)
世帯主男性
(t−値)
−0.40478
(−1.5541)
−0.93343
(−3.3232**
家族人数
(t−値)
0.20133
(3.9261**
0.03844
(0.5913)
就業者比率
(t−値)
0.72014
(2.6281**
−0.19505
(−0.5579)
年収貯蓄比率
(t−値)
−0.03022
(−0.6317)
−0.09713
(−1.4760)
都市規模1
(t−値)
都市規模2
(t−値)
都市規模3
(t−値)
都市規模4
(t−値)
−0.02410
(−0.1441)
0.11174
(0.7008)
0.10483
(0.6035)
0.37751
(1.4446)
0.19763
(0.9205)
0.24399
(1.1868)
0.08885
(0.3869)
0.18715
(0.5347)
対数尤度 −1,509.48
利用者サンプル数 847 329
(注) 都市規模1(13大都市)、2(15万人以上都市)、3(5万以上都市)、4(5万以下都市)
**は1%水準、は5%水準で有意であることを示す。
マージナル効果
  郵便局 地方銀行 信用金庫等 都市銀行
定数項
年齢
(年齢)
世帯主性別
家族人数
就業者比率
年収貯蓄比率
都市規模1
都市規模2
都市規模3
都市規模4
0.247200
−0.006431
0.000046
−0.018695
0.026634
0.086087
0.005033
−0.033943
−0.024655
−0.005028
0.023364
0.071172
0.003761
−0.000059
0.090716
−0.033631
−0.124940
0.010070
−0.014933
−0.042880
−0.029016
−0.079285
−0.439640
0.005900
−0.000047
0.016039
0.021661
0.145580
−0.007405
0.027900
0.056626
0.038335
0.075925
0.121260
−0.003230
0.000061
−0.088061
0.014665
−0.106730
−0.008327
0.020977
0.010909
−0.004291
−0.020004
利用者サンプル数 847 535 386 329
(注)信用金庫等:信用金庫、信用組合、労働金庫

 

(3) 金融機関と郵便局の利用頻度と交通アクセス

 郵便局を利用している家計の動向を把握する際に問題となるのは、意識調査において郵便局利用者はサンプル全体の80%以上を占めていることもあり全体の動きとほとんど変わりがないということがある。このため以下では郵便局を「メインで利用している」家計(470サンプル)を中心にみていくことにする。郵便局のメイン利用者は郵便局だけを利用しているわけではない点に留意する必要があるが、現在利用の設問とは異なり各機関で重複がないのが特徴である。

 最初に1か月当たりの金融機関全体と郵便局メイン利用者の利用頻度をまとめたのが図表2―7である。利用回数についてみると、全体の平均利用回数が3.6回であるのに対して郵便局メイン利用者は3.1回と若干少なくなっている。分布状況では1か月に3回利用する層が最も割合が多くなっているものの、1回、2回しか利用しない利用者層では郵便局メイン利用者が多く、5回以上の層ではほとんど金融機関全体の方が高くなっており、郵便局をメインで利用している家計は他の金融機関の利用者と比較して相対的に少ない取引回数で金融サービスを利用していることを示している。

 次に金融機関への交通アクセスを郵便局メイン利用者と金融機関全体のサンプルでまとめたのが図表2―8である。金融機関へのアクセス方法としては自家用車、徒歩、自転車の割合が最も高くなっていることにかわりはないが、郵便局メイン利用者は自家用車の割合が全体に比べて10%以上低いのが大きな特徴である。郵便局数は平成9年度末で約24,600と他の金融機関と比べて最も多く、自家用車で行かなくても行ける場所にあることを反映しているものと思われる。一方、郵便局メイン利用者の徒歩の割合が全体よりも少ないことに関しては、徒歩で行ける金融機関は大都市部に多いことに注意が必要である。つまり都道府県別にみた場合「徒歩」と答える人の割合が最も高いのは東京都であるが、東京において郵便局をメインで利用している人の割合は10%程度と、都市銀行の63%、信用金庫等の19%等に比べて低い水準にある。郵便局のメイン利用者の分布を都市規模別にみたとき偏りが少ないことが、これら3つの主要な交通アクセス方法にばらつきが少ないことを示していると考えられる。

 

図表2―7 1か月当たりの金融機関の利用頻度

 

図表2―8 メイン利用機関への交通アクセス(複数回答)

 

3.金融機関の選択理由

(1) 金融機関の選択理由の概観

 前節では家計が利用している金融機関の現状について個票データを使った分析も含めてみてみたが、ここでは家計はどのような判断基準で金融機関を選んでいるのかについて意識調査以外の調査結果も用いて分析することとする。まず、意識調査において金融機関を選択する理由について尋ねた結果をまとめたものが図表3―1である。これをみると金融機関を選択する理由として、「自宅や勤務先、よく行く場所に近いから」と答える人の割合が86%と最も多く、次いで「勤め先との関係で」、「外務員が訪問してくれるから」、「支店数が多いから」、「名の通った金融機関で信頼が高いから」、「借入を受けているから」の理由がそれぞれ20%前後となっている。このうち自宅等に近いこと、外務員の訪問、支店数の多さなどの項目が上位に上がっている背景には家計が金融機関の扱っている商品の収益性よりは利便性を重視していることがあるものと思われる。一方で「商品の利率、利回りがよいから」、「いろいろな相談にのってくれるから」など商品や金融サービス面を重視する回答の割合は比較的少なくなっている。これは現在では家計が一般的に利用している金融機関の提供する金融サー ビス(例えば預金金利)にそれほど差別化がされておらず、どの金融機関を利用しても得られるサービス内容に相違がないことが背景にあるものと思われる。

 

図表3―1 金融機関の選択理由(複数回答)

 

(2) メイン利用機関別利用者の選択理由

 次に家計がメインで利用している金融機関毎にその選択理由をまとめたものが図表3―2である。ここでは「現在利用機関」と「選択理由」についてクロス集計を行ったが、郵便局の利用率が80%を超えていることにより全体の動向とほとんど相違がみられなかったため、以下では「メイン利用機関」を対象とした分析を行うこととし、選択理由については上位5項目を取り上げるものとする。機関別にみた選択理由と全体の選択理由(前出図表3―1)を比較してみた時、次の点が注目される。

 1、「自宅ほかよく行く場所に近いから」を選択理由として上げる割合はどの機関を利用している層でも圧倒的に高い。平成9年の調査時点においてはどの金融機関をメインで利用しているかにかかわらず店舗が近くにあるという利便性は最大の選択理由であることを示している。

 2、「勤務先との関係」では都市銀行、地方銀行をメインで利用している層の回答が比較的高い。これは銀行の業務が企業取引も大きなウェートがあり、銀行利用者の中に企業取引を通じて家計の取引も始めた人が相対的に多いことが考えられる。原則として個人の取引しかない郵便局は4つのメイン利用機関の中で最も少ない結果となっている。

 3、「外務員が訪問してくれる」は信用金庫・信用組合・労働金庫をメインで利用している層の回答割合が特に高く、全国レベルでみても利用動向に偏りが比較的少ない信用金庫等は渉外による「足」で顧客との取引を確保していることが伺える。

 4、「名の通った金融機関で信頼が高いから」については都銀メイン利用者の回答が高くなっているが、これは中小金融機関の経営破綻を懸念する家計の中で資金量など規模が大きく知名度の高い金融機関を選好する割合が大きいものと思われる。郵便局、地方銀行の割合は全体の動向とそれほど変わらないが、信用金庫等の回答割合は10%前後と全体の半分程度の水準となっている。

 

図表3―2 メイン利用機関別にみた選択理由(複数回答)

 

(3) 類似調査にみる金融機関の選択理由

 家計が利用している金融機関に関するアンケート調査はいくつかの調査機関によって実施されている。ここでは最近発表された意識調査以外のアンケート結果より金融機関の選択理由をみてみることにするが、各調査の調査方法など概要と金融機関選択の理由(上位5項目)をまとめたのが図表3―3である。ここでは1998年に入ってから発表された3つの調査(「貯蓄と消費に関する世論調査(貯蓄広報中央委員会)」、「第2回金融機関の選び方調査(大東京火災海上保険株式会社)」、「利用者のための金融機関人気度ランキング(日経ホーム出版社)」)を比較検討する。

 

表3―3 関連調査にみる金融機関の選択理由
調査機関 貯蓄広報中央委員会 大東京火災海上保険 日経ホーム出版社
調査対象地域 全国 東京、大阪、名古屋 全国
調査対象者 6,000世帯
普通世帯(2名以上)
20〜59歳の男女個人 雑誌「日経マネー」の読者
888人
回収数 4,287世帯 1,062人 610人
回収率 71.5% 不明 68.7%
調査方法
抽出方法
層化2段無作為抽出 エリアサンプリング 無作為抽出
調査方式 留置面接回収方式 質問紙留置法 アンケート用紙送付
調査実施時期 平成10年6月〜7月 平成10年2月 平成10年6月〜7月
金融機関選択理由
1番目 近所に店舗等がある 経営状態や業績が良い 金利等運用条件が良い
2番目 経営が健全で信用できる 会社がクリーン 格付けが高い
3番目 店舗網が全国展開 社員等の態度が良い 店舗の立地が良い
4番目 相談窓口が充実 家、会社の近くにある サービスが優れている
5番目 収益性の高い商品 窓口対応が親切 的確な情報提供能力
(注) 選択理由については一部表現を要約している
大東京海上火災調査の選択理由は銀行を選択するケース
(出所) 貯蓄広報中央委員会「貯蓄と消費に関する世論調査」
大東京海上火災保険()「第2回金融機関の選び方調査」
日経ホーム出版「利用者のための金融機関ランキング」

 

a.「貯蓄と消費に関する世論調査(貯蓄広報中央委員会)

 貯蓄広報中央委員会による貯蓄と消費に関する世論調査は全国6,000世帯を対象とし、層化二段無作為でサンプルを抽出している点で意識調査と共通している点が多いが、調査実施時期が平成10年6月から7月であり日本版金融ビッグバン始動後の全国調査であることが注目される。金融機関の選択理由としては「近所に店舗等がある」の回答が70%以上と圧倒的に高く、「店舗網が全国的に展開されているから」の27%とあわせて利便性が最大の理由となっていることがわかる。一方、「経営が健全で信頼できるから」の回答も40%近くと高くなっており、相次ぐ金融機関の経営破綻を目の当たりにして「信頼できる」金融機関を一段と重視する姿勢をみることができる。

b.「第2回金融機関の選び方調査(大東京火災海上保険株式会社)」

 大東京火災海上保険による第2回金融機関の選び方調査は東京、大阪、名古屋の大都市圏に在住している個人を対象としていることが特徴の1つである。この調査における選択理由をみると「経営状態や業績がよい」、「会社がクリーンである(不祥事と縁がないこと)」が上位項目となっており、相次ぐ銀行の経営破綻や不祥事などが金融機関への生活者の目を厳しいものにしているとしている。これらの項目の割合は1年前の調査時と比べても上昇しているのに対して「家、会社の近くにある」など利便性を重視する項目はランクダウンしている点は意識調査や前出貯蓄と消費に関する世論調査など全国レベルの調査と異なっている。

c.「利用者のための金融機関人気度ランキング(日経ホーム出版社)」

 日経ホーム出版社による利用者のための金融機関人気度ランキングではサンプル数はやや少ないものの金融雑誌の読者が対象であり、資産運用に関する金融情勢に敏感な個人の金融機関に対する意識を把握することができる。この調査におけるサンプルはほとんどすべての年代において「取引したい金融機関」の第1位が外資系金融機関であることもあり、金融機関の選択理由は「金利などの運用条件がよい、または過去の実績が高い」が最上位で、次の「格付けが高い」も含めて収益性を重視した理由が高くなっている。また、「サービス内容にほかと違う優れた面がある」、「的確な情報を提供できる能力がある」など金融機関の提供するサービスの質についても重要な選択要素となっている。

(4) 意識調査との比較検討

 これまで3つの類似調査を例に取り金融機関の選択理由をみてきたが、調査時期、調査対象の違いにより選択理由も大きく異なってくることが分かった。特にこれまで選択理由の上位にあった利便性に関連する項目は都市部在住者や金融情勢に関心がある人を対象とした調査では最重要視されていない傾向にある一方、かわって収益性を重視する項目が上位に上がってきており、今後金融ビッグバンの進展により実績配当重視型の商品が増えてくること、金融取引の電子化が進展し店舗に行かなくても金融サービスを受けることが可能になることを考えるとこの傾向は全国レベルにおいても続くものと思われる。

 最後に郵便局をメインで利用している層の選択基準をみることによりこの節でのまとめとする。郵便局をメインで利用している人は全体の選択理由上位5項目のうち「名の通った金融機関で信頼が高いから」と答える割合が他の機関と比べて若干高い程度であるが、その他の項目についてもクロス集計を行ったところ、「借入を受けているから」の割合は全体の19%に対して郵便局メイン利用者が10%と低くなっている一方、「金融以外のサービス(郵便など)を同時に受けられるから」の割合は全体の14%に対して30%と著しく高くなっている。大半の人が近くに店舗があるという利便性により郵便局を選択していることに変わりはないが、1つの店舗で郵便・貯金・保険のサービスを受けることができるという他の金融機関ではみられない特性が利用率向上に貢献していることが分かる。

 

4.金融機関・金融サービスに対する満足度と要望

(1) 郵便局(郵便貯金)に対する満足度

 ここでは郵便局利用者の特性を分析するために郵便局(特に郵便貯金)に対する満足度をみていくことにする。郵便局に対する満足度の推移を示したのが図表4―1であるが、平成7年調査までは「満足している」と答える人の割合が70%強を占めていたのが9年調査になって63%まで低下し、同時に「不満がある」の割合が10%以上も上昇したことが分かる。次に「不満」と答えた人を対象に不満を感じる理由をまとめたのが図表4―2である。5年調査、7年調査と比べて継続的に上昇傾向にあるのが上位項目の「預貯金金利が低い」、「営業時間が短い」であり、「経営内容の開示が不十分」、「手数料が高い」についてもウェートはそれほど大きくないが上昇傾向にあるといえる。

 最大の不満理由は預貯金金利の低さに関する項目であるが、各調査時期の預貯金金利(定額貯金を1年間預け入れた場合)の推移をみると、1.8%(平成5年調査時)→0.35%(平成7年)→0.25%(平成9年)と継続的に低下している。平成7年と平成9年の金利水準はほぼ同程度であるが、平成7年後半には金利も若干の上昇局面にあった(平成8年前半に0.45%まで上昇)のに対し、平成9年調査時では金融機関の破綻が相次ぎ金利も下落局面であったことから水準の低さに加えて金利が上昇する期待も見込めないという状況で不満が拡大したものと思われる。

 

図表4―1 郵便局(郵便貯金)に対する満足度の推移

 

図表4―2 郵便局(郵便貯金)に対して不満を感じる理由(複数回答)

 

(2) 利用頻度別にみた郵便局に対する満足度

 郵便局(郵便貯金)に対する満足度を詳しく分析するために利用頻度別にクロス集計した結果が図表4―3である。利用頻度とは、「利用している(口座を持っているなど取引がある)」、「最も多く利用している(メイン利用)」、「二番目に利用している」、「三番目に利用している」、「利用していない」の別である。まず最も多く利用している層の満足度は73%とサンプル全体の63%を10%上回っている一方、三番目に利用している層の満足度は62%とメイン利用の数字より10%下回っている。全く郵便局を利用していない層については不明(分からない)が18%を占めているのをはじめ、不満を感じている割合も34%と全体より高くなっている。この点については「満足していない」から「利用していない」のかその逆なのか今回の調査だけでは判別できない面もあるが、これら「満足していない」層に対してどのようなサービスを提供すればいいのかという点について以下でみていくことにする。

 

表4―3 利用頻度別にみた郵便貯金に対する満足度
郵便貯金利用状況 郵便貯金に対しての満足度 合計 サンプル数
満足している 満足していない 不明
利用している
 最も多く利用
 二番目に利用
 三番目に利用
66.0%
73.0%
65.0%
62.1%
32.7%
26.4%
32.9%
34.2%
1.3%
0.6%
2.1%
3.7%
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
n=2,752
n=470
n=1,219
n=792
利用していない 48.2% 34.3% 17.5% 100.0% n=546
全体 63.0% 33.0% 4.0% 100.0% n=3,298

 

(3) 金融機関から教えてほしい情報

 金融機関への要望として金融機関から教えてほしい情報について、全体で調査したときに上位5項目にあがったものをメイン利用機関別にまとめたのが図表4―4である。郵便局をメインで利用している人が教えてもらいたい情報としては「資金の有利な運用について」が最も高く、「税金について」、「金融商品の特徴や種類について」がこれに次いでいる。他の機関利用者との比較では借入に関する要望が比較的少ない一方で「税金について」、「老後の生活について」の項目が他と比べて最も高くなっている。特に老後の生活についての情報が求められていることに関しては、郵便局を利用している人の属性として世帯主の年齢が上がるほど利用する確率が高くなることを示したところであるが、世帯主が65歳以上の高齢世帯は2020年には1995年の2倍になるとの見通しが発表されるなど今後の少子・高齢社会のもとで郵便局に求められている役割が重要になってくることを裏付けている。高齢化の進展に対応した郵便局の金融商品としては福祉定期郵便貯金、介護貯金が あるが、このような公的金融サービスの充実は利用者のニーズにかなったものといえよう。

 

図表4―4 メイン利用金融機関から教えてほしい情報(複数回答)

 

(4) ATM・CDに対する要望

 次にメイン利用機関別にATM・CDに対する要望をまとめたのが図表4―5である。ここでも全体を対象に調査した際、上位5項目に上がった要望について集計している。郵便局のATM・CD利用に関しては資金の振替をする場合を除いて手数料がかからないため、「時間外手数料を安くしてほしい」など手数料関係の要望は郵便局利用者に限れば少なくなっている。「他機関利用時の手数料を安くしてほしい」という要望に関しては現在では郵便局のネットワークと民間金融機関のネットワークの接続がなされていない状況で判断が難しい面もあるが、おそらく郵便局メイン利用者の中の民間金融機関利用者が業態間利用に関する要望を述べたものと思われる。また「どの機関でも使えるようにしてほしい」の要望は郵便局メイン利用者においては割合が相対的に少ないが、平成11年には郵便局のネットワークと銀行のネットワークが接続される予定であり、これにより双方の機関で現金の払い戻しなどができるようになることから2年後の調査では他機関利用に関する要望は減少することが見込まれる。

 設置台数に関する要望は都市銀行、地方銀行メイン利用者で多く、信用金庫等、郵便局利用者の間では比較的少なくなっている。平成8年度末におけるATM・CDの設置台数をみると都市銀行31,000台、地方銀行33,000台、信用金庫等22,000台、郵便局約23,000台であり郵便局の設置台数は他の機関と比べて特別多い水準ではないが、1つの機関で、原則手数料のかからないATM・CDのネットワークを保有していることに留意する必要がある。一方で「操作を簡単にしてほしい」の要望は郵便局利用者間が他の機関利用者と比べて最も高く、今後は単なる量的拡大だけではなく現在のATM・CDの扱いが難しいと感じている層への対応も求められているといえる。

 

図表4―5 メイン利用金融機関のATM・CDに関する要望(複数回答)
(注)郵便局メイン利用者の手数料に関する要望は民間金融機関のATM・CDに関する要望を回答したものと思われる。

 

5.金融機関・金融サービスの将来

(1) 金融ビッグバンの進展

 現在わが国では2001年までに3つの原則「フリー、フェア、グローバル」のもと欧米並みの国際金融市場を作るべく金融ビッグバンが進展しているところである。平成10年には4月から改正外国為替法が施行され海外預金や内外資本取引が自由化されるなど着実に改革が進められている。今後は業態間の垣根が撤廃されることで投資信託や保険商品の銀行での窓口販売が予定されているが、このような金融改革の動きを家計はどのようにみているのであろうか。金融自由化がますます一般的になり投資信託など金融商品に対する投資からの収益が取引する金融機関によって違いがでてくるようになれば、また金融取引の電子化がますます進展すればこれまでのように「よく行く場所に近いから」という理由だけで金融機関を選ぶ家計は相対的に少なくなり、金融サービスの質を重視する家計が増加していくものと思われる。

(2) 将来の金融市場に関する家計の意識

 意識調査において「金利や商品について、各金融機関がもっと自由に競争すべき」という考え方に対して尋ねた設問で自由な競争を歓迎すると答えた人の割合を都市規模別、世帯主年齢別に示したのが図表5―1である。これをみると、破線で示した全体の平均(「歓迎する」と答えたは割合は77%)と比較することで金融機関の自由競争を歓迎する層、しない層の違いをみることができる。都市規模別でまとめてみた場合では5万人未満の都市および町村部に在住する家計が自由競争に対して否定的な見方をする人が多くなっているが、これを世帯主の年収別にみると1500万円以上の世帯が92%が自由競争を歓迎している一方、300万円未満の世帯では68%、400万円未満の世帯でも70%と年収1500万円以上の世帯と比較して20%以上もの開きがあることがわかる。

 この結果は金融機関の競争の結果得られる期待利益の違いに起因するものと思われるが、現在の金融ビッグバンの動きもひいては大都市在住、高額所得者にとっての利益が優先される可能性もあることを示している。これを裏付ける材料として、意識調査では「金融機関の自由な競争が進むと、大口の利用者の優遇が進む一方、小口の利用者にしわ寄せがくる」、「金融機関の自由な競争が進むと、地方や住宅地などの店舗が閉鎖されて不便になる」という設問も設けているが、これらの考え方に対して肯定的な意見は全体の半分以上を占めていることが挙げられる。

 

図表5―1 金融機関の自由競争に対する肯定的な見方

 

(3) 金融取引の電子化

 今後の金融市場を考える上で無視できない動向の1つに金融取引の電子化が挙げられる。取引を電子化している例として話題となっているものに電子マネーがあるが、平成10年7月からはビザインターナショナルなどが中心となって東京で2000店舗(拠点)を対象とした大規模な実験が行われているのをはじめ、郵政省でも2月から埼玉県大宮市でICカードを電子財布として利用できる実験を行っている(平成10年9月末日現在の発行枚数約49,700枚)。このような実用化に向けた実験が全国で実施されていることもあり認知度は高まっていると思われるが、意識調査においても電子マネーの認知度は30%程度と平成7年調査時の10%以下に比較して上昇している(図表5―2参照)。

 しかし全国レベルの認知度は2年前の水準と比べて上昇しているとはいえ、その状況を都市階級別にみると5万人以上の都市では認知度は30%を超えているのに対して、5万人未満の都市・町村では20%前後と認知の程度にも違いがみられる。現在はまだ認知度が低く、全国レベルの実用化には時間がかかると思われるが、郵政省でも平成11年度中にはインターネット上での口座間送金などが可能となる「インターネットホームサービス」を実施する予定であり、またキャッシュレスショッピングが可能となるデビットカードも実用化段階に入ることからも今後の金融取引を考える上で電子的な手段の占めるウェートが大きくなっていくものと思われる。今後金融機関の店舗で行っている金融取引が自宅でできるようになることは、これまで「近くにあるから」という理由だけで金融機関を選択していた家計に選択基準の見直しを迫られることになるだけでなく、取引の代替が起こり金融機関がコストのかかる店舗でのサービスを縮小することも予想されることから、今後の金融市場を考える上で無視することができないもの と思われる。

 

図表5―2 電子マネーの認知度
(注)平成7年調査では「電子財布」として質問している。

 

6.まとめ―将来の金融市場における各金融機関の役割と今後の課題―

 これまでの分析では郵便局を利用している、または郵便局をメインで利用している家計を中心として既存調査研究も参照しながらその利用特性を分析してきた。郵便局を利用している家計の属性としては世帯主の年齢が高くなるほど利用する確率が高まり、年収が増えるほどまた世帯内で働く人が増加するほど利用確率が低くなること、地域別にみた利用分布は都市銀行、地方銀行ほど偏っていないことなどが明らかとなった。これらの特性はメインで郵便局を利用している家計についてみると居住している都市規模の影響には変化ないが、その他の属性の影響で違いがみられるところがあった。家計が郵便局を選択する理由としては主に利便性によるところが大きく、郵便・貯金・保険という3つのサービスを同時に受けられることも利用の増加につながっていることが分かった。

 一方で現在は日本版金融ビッグバンの名のもとで自由な競争市場を作るべく金融市場の改革が進展している。金融市場の自由化が進展して金融機関が独自の商品開発に乗り出してくれば家計にとってサービスの選択余地が広がり、より収益性の高い商品を提供する金融機関を選択する家計も増えていくことが予想される。この動きは従来までは「自宅等の近くにあるから」という理由だけで金融機関を選択していた家計に金融機関との取引を見直すことにつながるものと思われる。しかし一方でこうした金融ビッグバンを含めた自由化の恩恵を全ての家計が享受できるとはみられていないのが現状で、むしろ小口利用者の多くは「自由競争」の悪影響を被る懸念さえ感じている。このように将来が不確実な状況のもとで公的金融機関として小口利用者を顧客対象とする郵便局をはじめ各金融機関に求められている役割を再検討する必要に迫られている段階にあるものと思われる。

 郵政研究所では次回の意識調査を平成11年度に実施する予定であるが、今回の調査で十分把握することができなかったことおよび経済情勢の変化で調査する必要に迫られていることを追加することでアンケート調査の精度を高めていく必要があると考えている。具体的には、金融機関の利用面では家計の金融機関の経営破綻や不良債権問題に対する意識、金融機関選択の理由の変化、金融ビッグバン以降始めた新たな金融取引について調査項目を拡充する必要がある。このほか金融サービス面でも次回の調査時には実用化段階に入っていると思われるデビットカード、電子マネーの利用動向を詳細に捉えることにより現金を含めた金融取引のあり方についての意識を把握していくことも重要な調査項目となり得る。このように本調査には家計の金融機関・金融サービスに対する意識を的確に把握することで家計に対して提供される金融サービスの方向性を考える材料の1つとしての役割を果たしていくことが求められているといえよう。

 

<参考文献>

郵政省郵政研究所[1998]「金融機関利用に関する意識調査(平成9年度)」平成10年11月発行

松浦克己・橘木俊詔[1991]「家計の金融資産選択と公的金融」『金融機能の経済分析』(東洋経済新報社)

松浦克己[1996]「機関投資家と家計の株式投資」橘木俊詔・筒井義郎編『日本の資本市場』所収(日本評論社)

福重元嗣[1997]「大都市圏における郵便貯金と銀行預金の競合・補完関係」『郵貯資金研究第4巻』

奥井めぐみ[1998]「家計の主要金融機関決定に関する分析」『郵政研究所月報(1998年9月号)』

須藤修・後藤玲子[1998]『電子マネー』(ちくま新書)

中村実[1998]「日本版金融ビッグバンの狙いと衝撃」『NRI知的資産創造(第6巻第1号)』

和合肇・伴金美[1996]『TSPによる経済データの分析(第2版)』(東京大学出版会)

金融情報システムセンター[1997]『金融情報システム白書(平成10年版)』

郵政省貯金局[1998]「郵便貯金‘98(郵便貯金のディスクロージャー冊子)」

貯蓄広報中央委員会[1998]「貯蓄と消費に関する世論調査」

大東京火災海上保険株式会社[1998]「第2回金融機関の選び方調査」

日経ホーム出版社[1998]「利用者のための金融機関人気度ランキング」『日経マネー1998年10月号』

郵貯資金振興会[1997]『個人金融年報(平成10年版)』

 

脚注

「郵便局」は他の金融機関と異なり、郵便という金融サービス以外のサービスを提供しているため、例えば郵便貯金は利用していなくても郵便局は利用している人がいる可能性は高い。意識調査では郵便局を「金融機関」として質問しているので本来なら「郵便貯金・簡易保険」とするのが正確な表記であるが、他の表記とのバランスを考え、以下でも「郵便局」を用いる。 Return
例えば郵便局利用者の特性を厳密に分析するためには郵便局しか利用していない人を調査対象とすることが望ましいが、郵便局を利用していると回答したサンプル数(2,067)のうち都市銀行、地方銀行、信用金庫等も同時に利用している人を除くとわずか109サンプルしか残らない。第二地方銀行、長期信用銀行などその他の金融機関利用者を除くと100サンプル以下となり、サンプル数の不足により分析結果にバイアスがかかることが予想されるため、以下では郵便局をメインで利用している家計(サンプル数470)を対象とした分析を行うこととする。 Return
メイン利用機関の分析で多項ロジットモデルを定式化するにあたり、任意の2つの選択肢(例えば郵便局と地方銀行の利用)の選択は第3の選択肢(例えば都市銀行の利用)の存在によって影響されないという、いわゆるIIA(Independence of Irrelevant Alternative)の仮定を前提としている。 Return
平成9年度末におけるその他の金融業態別の店舗数は次のとおり。地方銀行約8,000、信用金庫等約11,500、都市銀行約3,500。単独の機関で郵便局に次いで多いのは農協(約18,000)である。 Return
日本版金融ビッグバンとの関係では外国為替及び外国貿易管理法(外為法)の改正により平成10年4月から自由に海外の企業や家計と資本取引をすることが可能になったが、外貨預金などは法改正以前にも取引可能であったこともあり調査時点(平成10年6月)においては金融機関の選択にまで影響を及ぼすような画期的なサービスの利用はまだ多くないという見方もある。 Return
福祉定期郵便貯金:老齢福祉年金、障害基礎年金等を受給している人を対象に、金利引下げの影響を緩和することを目的として実施されている1年定期貯金(預入限度額300万円)。平成11年2月までの取扱い。 Return
介護貯金:公的福祉サービスを受けており介護が必要な利用者の金利を優遇し、貸付の上乗せ利率を軽減する定期貯金(総額制限500万円)。全国103か所の暮らしの相談センターで介護相談サービスを受けることができる。 Return
電子マネーとは通貨に関する情報の記録や移転を電子媒体やコンピュータネットワークを用いるための手段であるが、具体的には「クレジットカード型」、「電子現金型」があるとされる。前者は従来からの決済方法の媒体をコンピュータネットワークで行うのに対し、後者はICカード等に書き込まれた電子情報を決済手段として用いることであり、意識調査においては「電子現金型」の認知を調査している。 Return
米商務省の試算によれば銀行における1回当たりの取引コストは店舗の場合1.07ドルであるのに対し、電話52セント、ATM27セント、インターネット1セントとなっており、インターネットバンキングは店舗でのサービスに比べ約100分の1のコストとなっている。 Return

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日本版債券レポ市場の現状と課題