郵政研究所月報
1998.1
欧州通信市場の新たな動向
−競争の進展と規制緩和−
第三経営経済研究部研究官 岩尾 哲男
1 はじめに
欧州EU15か国は、93年に市場統合を達成し、モノ、ヒトの移動自由化を達成した。今後99年には各国通貨を統合することにより、一段と深い経済的な関係を構築し、巨大な地域経済圏が実現する予定である。
長らく経済の低成長と産業の衰退、あるいは高い失業率に苦しんだEU各国の経済は、統合を進めることで経済の復興を目指している。それに伴い、EUの統一市場を有効に機能させるために、電気通信、運輸およびエネルギー網の整備が不可欠であることが、92年2月に調印された欧州の統合を推進する条約、いわゆる「マーストリヒト条約」の中に盛込まれた。
本稿では、特に欧州の電気通信市場を代表するイギリス、フランス、ドイツの3か国を取り上げ、各国の電気通信市場の新たな動向をみていく。まず、第2章においては、日本との比較も含めながら3か国の電気通信市場の概要を把握するため、通信インフラの現状、電気通信料金の動向などをみる。EU各国の電気通信制度や市場は様々に異なることから、これまでの自由化の取組みも異なっている。第3章では、98年1月の基本音声サービスの自由化にいたるまでの、3か国それぞれの自由化の流れと電気通信制度の改革および電気通信市場発展の特徴を取り上げる。第4章では、電気通信制度改革のなかでも重要である料金規制において革新的な試みとなったイギリスのプライスキャップに焦点をあて、その変遷と評価・問題点を論じる。第5章においては、自由化の潮流をつくったEUレベルでの取組みや法的枠組の推移と3か国の対応および現状についてみる。最後の第6章においては、98年の完全自由化後を見越した電気通信事業者の新たな動向をみて、さらに市場の競争化に伴って生じるユニバーサル・サービス問題についてふれる。
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