郵政研究所月報 
1998.1

調査・研究


インターネットの抱える諸問題と今後の展望
−特に知的財産権保護に関して−





情報通信システム研究室研究官  姫野 桂一 





[要約]
 インターネットに関する問題の中で、最近、知的財産権に対する関心が高まってきている。知的財産権は従来から、いわゆる特許権、意匠権、著作権等の無体財産権を総称する言葉として使われているが、インターネットに代表されるデジタル情報を扱う電子メディアの急速な普及が、知的財産権について様々な問題を起こしつつあり、そのための対応も急務となっている。
 インターネットの情報流通は、情報がデジタル形式によって、送られるため、コピーしても品質が劣化しないという特徴がある。また、情報が国境を容易に越えられることもあり、知的財産権の保護に関して、サーバーを法規制の緩い国(パテントへヴン、コピーライトへヴン)に置くことを助長することも否定できないことが指摘されている。
 我が国においては、インターネットの利用に関し、知的財産権については、本格的な議論が開始されたばかりであるが、その代表的な論点としては、ネットワークを通じて流れる著作物の不正コピーなどの著作権に関する問題があげられる。 この点に関しては、1996年12月に締約されたWIPO著作権条約(WIPO Copyright Treaty)及びWIPO実演家・レコード条約(WIPO Performances and Phonograms Treaty)を受け、1998年1月から施行された改正著作権法においては、通信カラオケやインターネット等のリクエストを受けて行うインタラクティブ通信において、著作隣接権として「送信可能化権」が認められることとなった。
 インターネットに代表されるコンピュータネットワークが急速に普及している今日においては、ネットワーク上のメディアの情報流通にかかる知的財産権の保護の在り方について、法的な対応だけでなく、電子透かし等の技術的な面からも対応していくことが極めて重要になると考えられる。


はじめに 

 インターネットや衛星放送等の国際的情報発信・受信手段の登場が、個人の情報の受発信の自由度を飛躍的に高めた反面、従来の社会で培われてきた文化そのものに対する影響や秩序に対する影響が懸念されている。
 そこで、当郵政研究所では、平成8年度(1996年)に「インターネット等の国際的メディアが社会・文化・思想に及ぼす影響に関する調査研究」を実施した。この調査研究は、各国の有する社会的、経済的な環境の相違や思想・主義が異なっていることが、インターネットを取り巻く環境に影響を及ぼしているであろうという考えのもと、インターネットを中心とする国際的受発信メディアについて、各国で運用中あるいは検討中の規制に焦点を当てて現状調査を行ったものであり、日本、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ合衆国、シンガポール、中国、オーストラリア等の世界各国が、インターネットをどのように位置付け、どのような取り組みをしているかについて事例を整理した。
 我が国においても、インターネットは1995年以降、急速に普及しており、企業の広報活動や個人の情報の発表の場として用いられる等、その利用内容も非常に多様化している。また、単なる情報入手のための手段にとどまらず、電子商取引等のサイバービジネス分野への展開等への期待も高まっている。
 しかしながら、インターネットは、その情報流通の自由度が逆に、映像、音楽に関わる知的財産権侵害の可能性、個々の情報の信憑性の確保等、国際的な観点からも様々な問題点をもたらしている。また、わいせつ情報・暴力の問題等、公序良俗・社会秩序等の問題や表現の自由との関係でも大きな問題を提示している。
 本稿では、前半で、昨年度の当郵政研究所の調査研究の概要をレビューし、後半でインターネットをめぐる様々な問題の中から、知的財産権を中心にその現状や知的財産権保護の技術的な展望をまとめた。 なお、本稿において意見にわたる部分は、筆者の私見である。 

 本稿の執筆にあたり、知的財産権全般の最近の動向については、東京大学先端科学技術研究センター教授の玉井克哉先生よりご助言をいただきました。
 また、インターネット上の情報流通に関する知的財産の保護についての技術的動向については、奈良先端技術大学院大学教授の嵩忠雄先生、助手の渡辺創先生より、ご助言をいただきました。
 紙面を借りて厚く御礼申し上げます。

1. インターネットの抱える諸問題と展望 

1) インターネットの利用動向 

(1) インターネットの普及・利用動向
 1990年にインターネットの商業利用が解禁されて以来、その利用者数は世界的に急激な増加をみせている。インターネットに接続されているコンピュータはホストと言われ、その数でインターネットの普及状況を見ることができる。ここでは、Network Wizards社の提供するInternet Domain Survey(http://www.nw.com/zone/host-count-history/)のデータからホスト数の推移を見ることにする。
 Internet Domain Surveyによれば、1991年7月ではインターネットに接続しているホスト数は53.5万台に過ぎなかったが、1997年7月では1,954万台と6年間で約37倍に増加している(図1)。


図1 インターネットに接続しているホスト数の推移(全世界)

出所) Network Wizard社(http://www.nw.com/zone/host-count-history/)
をもとに作成(データはいずれも7月末の数値である)


(2) インターネットの特徴と情報流通上の問題点
 インターネットの特徴を整理すると概ね次のようなことがいえる。
 @ 出版、放送、通信等の機能を有する
 A 個人が自由に情報発信できる
 B マスメディア的な情報発信を個人で行うことができる
 C 情報発信権・情報アクセス権を実現する核である
 D 国境を越えて情報が伝播・拡散する 

 また、インターネットは先にふれたように、従来のメディアにない特徴を有しているために、情報流通上、様々な問題点を有している。インターネットの情報流通上の問題点を例示列挙すると、概ね次のようなことがいえる。
 @ 個人の情報発信が容易であるが、発信者側に倫理的な自己規制が働かないこともある
 A 発信者に匿名性があり、違法な情報発信の行われる素地がある
 B 違法な情報を流すサーバーを削除しても、別のサーバーに容易にコピーできるため、情報は流通し続ける可能性がある
 C 特定の国の国内法の規定の差があるため、ある国で違法とされた情報も、別の国では合法的なものとして情報流通し続ける
 D 特定のプロバイダーが違法な情報流通の制限を行っても、他のプロバイダーを使って違法な情報流通が存続する可能性がある 

 こうした問題点をEU委員会報告では、違法又は有害なコンテントについて、保護法益によって、区分している。知的所有権については、ソフトウェア、音楽等の著作物の無断頒布が例示されている(表1)。


表1 EU委員会報告による違法又は有害なコンテントの区分
保護法益 違法又は有害な情報内容の例
国家安全保障 爆弾製造、違法な薬物製造、テロ活動
未成年の保護 不正販売行為、暴力、ポルノ
個人の尊厳の確保 人種差別
経済の安全性・信頼性 詐欺、クレジットカードの盗用
情報の安全・信頼性 悪意のハッキング
プライバシーの保護 非合法な個人情報の流通、電子的迷惑通信
名誉、信用の保護 中傷、不法な比較広告
知的所有権 ソフトウェア、音楽等の著作物の無断頒布
出所) 「インタ−ネット上の情報流通について−電気通信における利用環境整備に関する研究会−(報告書)」
(郵政省電気通信局)(1996年12月)

(3) アンケート調査に見るインターネットに対する意識
 インターネットの利用動向や問題点については、これまでも多くの研究機関によって、調査されてきている。
 ここでは、「インタ−ネット上の情報流通について−電気通信における利用環境整備に関する研究会−(報告書)」(1996年12月 郵政省電気通信局)と当研究所が実施した「新しいメディアの利用動向に関する調査研究」(1997年7月)におけるインターネットユーザーのアンケート調査結果をレビューし、インターネットの抱える問題点を整理する。 
 まず、「インタ−ネット上の情報流通について−電気通信における利用環境整備に関する研究会−(報告書)」(1996年12月 郵政省電気通信局)の実施したアンケート調査(http://www.mpt.go.jp/policyreports/japanese/group/internet/kankyou-4.html)から、インターネットにおける情報流通の問題についての対応策について概観する。
 ここで、利用者調査というのは、電子メール利用者を対象とした「インターネット利用者に関する意見募集」でサンプル数は926件、一般調査というのは、「インターネットに関するアンケート」として、サンプル数が547件である(いずれも、1996年11月実施)。 
 インターネットにおける情報流通の問題について、利用者調査では、「ネットワーク上の詐欺」(63.5%)、一般調査では「他人を誹謗中傷する情報の流通」(73.3%)が最も多かった。
 一方、「無断転用等の著作権の侵害」と回答した人は、利用者調査で42.4%、一般調査で43.4%であり、「ネットワーク上の詐欺」、「誇大広告、虚偽広告」、「他人を中傷する情報の流通」に次いで多かった(図2)。


図2 インターネットにおける情報流通の問題(MA)

出所) 「インターネット上の情報流通について‐電気通信における利用環境整備に関する研究会‐(報告書)」
(郵政省電気通信局)(1996年12月)

 際立った特徴としては、「無断転用等の著作権の侵害」については、「ネットワーク上の詐欺」と同様に利用者調査、一般調査の回答率に大きな差が見られなかったのに対し、「他人を中傷する情報の流通」、「わいせつ情報の流通」、「過度な暴力を描写した情報」では、一般調査の回答が利用者調査を大きく上回っていることである。
 この要因としては、日頃インターネットを利用していない人は、利用している人に比べると「他人を中傷する情報の流通」や「わいせつ情報の流通」等に対して、拒絶する意識が大きいことも影響を与えている可能性があると考えられる。 
 インターネットを用いた商取引の経験の有無については、利用者調査では「商取引の経験がある」と42.5%が回答しているのに対し、一般調査では「商取引の経験がある」という回答は、0.5%にとどまった(図3)。


図3 インターネットを用いた商取引の経験の有無
出所) 「インタ−ネット上の情報流通について‐電気通信における利用環境整備に関する研究会‐(報告書)」
(郵政省電気通信局)(1996年12月)

 一般調査については、さらに、インターネットを利用して商品を購入しない理由についての質問を設けている。その結果、「画面を見ただけで商品を買うのは不安だ」(28.5%)、「決済方法の安全性が確保されていない」(18.6%)、「購入するまでの手続きが面倒だ」(18.2%)であった。また、「個人情報の流用が怖い」(13.6%)など、情報流通上でのセキュリティに不安を持っている人が多いことが明らかにされた(図4)。今後、利用者がインターネットによるオンラインショッピングの際の情報漏洩の不安を払拭していくことが、電子商取引の普及の鍵の1つになると考えられる。 


図4 インターネットを利用して商品を購入しなかった理由(MA)
出所) 「インターネット上の情報流通について‐電気通信における利用環境整備に関する研究会‐(報告書)」
(郵政省電気通信局)(1996年12月)

 一方、当郵政研究所が1997年1月に実施したインターネットユーザーアンケート調査結果では、インターネットによる今後予想される影響について見ることにする(このアンケート調査は、「新しいメディアに関する調査研究」の一環として、パソコン通信(ニフティサーブ)を用いて実施したものである(サンプル数は1,939))。
 インターネットの普及の社会的な影響については、「インターネットを使ったビジネスが普通になる」(62.5%)、「インターネット上での犯罪が増加する」(55.8%)、「オンラインショッピングなどが一般化する」(49.6%)、「さまざまな情報の公開が進む」(47.7%)、「回線がつながらないといったトラブルが増える」(45.6%)といった項目について、そう思うとする人が多く、インターネットの普及はビジネスやショッピングの形態を変え、情報公開を進めるというメリットもあるものの、ネット上の犯罪が増加するほか、インフラ面でも懸念が残るという結果が示された(図5)。


図5 インターネットによる今後予想される影響(MA)
出所) 「新しいメディアの利用動向に関する調査研究」
(郵政省郵政研究所)(1997年7月)

2) インターネットと表現の自由の問題 

(1) 各国の表現の自由に対する規定
 インターネットの抱える問題点は、国際法の観点からも極めて多くの問題を提起している。代表的な論点としては、例えば、インターネットによる国際的な商取引において、商品引き渡しの不履行などの契約上のトラブルが生じた場合に、どの国の法律に準拠して処理するかという問題やインターネット上で著作権侵害や名誉毀損が行われた場合の不法行為の準拠法などが問題とされる。
 インターネットの急速な普及に伴い、憲法における表現の自由の問題はこうした問題の中でも特に、大きな問題としてあげることができる。さらに、表現の自由の問題に関しては、名誉毀損の問題やわいせつの問題等が大きな議論になっている。ここでは、紙幅の制約もあるので、表現の自由の問題とわいせつの問題についての、各国の規定について概観する。
 現行法の規定では、名誉毀損については、他人の名誉を毀損すれば、刑法第230条、民法第709条、第723条の規定により、刑事上、民事上の責任を問うことができるとされている。
 表現の自由とその限界について、各国はどのような規定を設けているかを整理した(表2)。


表2 諸外国における表現の自由の規定
国 名 表現の自由を保障する憲法規定 表現の自由の限界に関する憲法規定
日 本 憲法第21条第1項 憲法第12条
シンガポール 憲法第14条第1項 憲法第14条第2項
(国の治安、他国との友好関係、秩序良俗などを
守るために必要な法律によって制限される)
中 国 憲法第35条 規定なし
(しかし、実質的な憲法の理念である「共産党の
指導」によって制限される)
オーストラリア 名文規定なし
(表現の自由は保障されているが
憲法に名文規定なし)
名文規定なし
(法律上の他の権利の侵害、刑事的犯罪を構成
する場合に制限される)
イギリス 不文法
(Common Law)
名文規定なし
(法律上の他の権利の侵害、刑事的犯罪を構成
する場合に制限される)
ドイツ 憲法第5条第1項 憲法第5条第2項
(@一般法、A青少年保護のための法律、B個
人的名誉によって制限される)
フランス 人権宣言第11条 人権宣言第11条
(各法律の定めるところによる)
アメリカ合衆国 連邦憲法修正第1条 規定なし
(法律上の他の権利の侵害、刑事的犯罪を構成
する場合に制限される)

(2) 諸外国におけるわいせつ表現に関する規定
 表現の自由は基本的には制限されてはならない重要な権利であるが、憲法はその権利を無制限に保障しているものではない。
 インターネットの普及とともに、海外からのわいせつ情報の流入に対する問題意識が高まり、活発な議論が行われている。わいせつな表現については、例えば、刑法第175条の「わいせつ物頒布等」に関する規定のように、表現の自由の濫用であって、憲法の保障の範囲外であると解されている。
 したがって、刑法第175条のわいせつ罪の規定が合憲であることを前提とすれば、インターネットを通じて頒布したわいせつ画像は処罰されることになる。
 刑法第175条の規定と関連するが、我が国においては、関税定率法第21条第1項第3号により、「風俗を害すべき書籍」として海外からのわいせつ図画を輸入禁制品としている。しかし、インターネットによるわいせつ情報の流通は、この規定を実質的に形骸化させてしまう可能性が指摘されている。
 諸外国におけるわいせつ表現に関する規定を整理してみると、各国ともわいせつ罪に対する法制度が整備されている(表3)。
 一般的傾向としては、アジア各国は総じて、我が国よりもわいせつ表現に対する罰則が厳しい傾向にあると考えられる。しかし、児童ポルノに対する規制が、欧米では我が国以上に極めて厳しいものとされているように、わいせつの概念や罰則についての、世界的に統一されたコンセンサスを得ることは難しい状況にあるといえる。


表3 諸外国におけるわいせつ表現に関する主な規定
国 名 わいせつ表現に関する主な規定
日 本 刑法第175条
(わいせつな表現物の販売、頒布等の禁止)
シンガポール 刑法第292条
(わいせつな表現物の販売、賃貸、配布等の禁止など)
刑法第293条
(未成年者に対するわいせつな表現物の販売、賃貸、配布等の禁止)
刑法第294条
(公共の場でのわいせつな行為、歌の禁止)
中 国 刑法第170条
(営利目的でのわいせつ文書・図画の製造・販売の禁止)
「わいせつ物厳禁に関する規定」
オーストラリア Crimes Act 第574条A
(わいせつな表現、良俗に反する表現物の販売・配布等の禁止)
イギリス Obscene Publication Act第2条第5項
(わいせつ表現物の出版、営利目的の出版のための所持の禁止)
ドイツ 刑法第184条第1項、第2項
(ポルノグラフィック文書の18歳未満の者への提供の禁止等)
「青少年に有害な文書の頒布に関する法律」
フランス 刑法第283条
(良俗に反する表現物の販売・配布等の禁止)
刑法第284条
(良俗に反する公然の場における歌、発話等の禁止)
アメリカ合衆国 合衆国法典18編 第1465条
(わいせつ物の販売、配布の禁止)

(3) 諸外国におけるインターネットに対する見解(通信か放送か)
 我が国においては、インターネットのコンテントに関する規制が問題となって以来、インターネットが果たして放送として位置づけられるべきメディアであるのか、あるいは通信として位置づけられるべきメディアであるのかという問題が注目を集めてきた。 この定義が問題となるのは、放送であるとされるならば、その公共性ゆえにある程度のコンテント規制も許容されるものの、通信であるとされるならば憲法第21条第2項や電気通信事業法第4条(表4)などに規定される「通信の秘密」のために、規制そのものが困難になる可能性が高いためである。すなわち、通信の場合は、通信の秘密の規定が適用されるので、何人も通信内容の知得、漏洩、窃用することは許されないが、放送の場合は、視聴させることを目的としているので、番組の内容を知得、漏洩、窃用することは問題とはならないということになる。
 我が国においては、インターネットについては、従来の放送や通信と異なる「公然性を有する通信」という性格を有しているが、現行の法体系では、インターネットは「放送」ではなく、「通信」の範疇に入ると解されている。 
 放送と通信の定義は、国によって多様である。例えば、フランスでは、我が国でいう放送は「視聴覚通信(Communication audiovisuelle)」という概念に含まれており、「電気通信手段を用いてする、公衆(またはその一部)に対する符号、信号、文言、画像、音、メッセージの供与で、私信(correspondance privee:特定の者への通信であって、秘匿性を有するもの)でないもの」(フランス1982年放送法)と定義されている。これは、かなり広い概念である。

表4 電気通信事業法の規定
電気通信事業法4条1項
 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならないと。
電気通信事業法4条2項
 電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。

 我が国では、放送は「公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信」(放送法2条1項)と定義され、(電気)通信は「有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けることをいう」(電気通信事業法第2条第1項)と規定されている(因みに、電気通信事業法の電気通信には、放送と通信の双方が含まれている)。
 それではインターネットに関してはどのように位置付けられているのであろうか。諸外国においては、インターネットを電子メールのように特定の人に宛てた従来の電話などの通信手段に近い機能と、WWWのように不特定多数の人に宛てた比較的放送に近い機能とに分けて考えている国が多いと思われる。例えば、シンガポールにおいては、電子メールは規制の対象とはなっておらず、またドイツにおいては、インターネットの機能を通信に近いテレサービス(Teledienste)と放送に近いメディアサービス(Mediadienste)に分けてそれぞれの異なる厳しさの規制を加えようとしている。このメディアサービスという概念は、我が国における「公然性を有する通信」と非常に近い概念であり、ドイツにおけるインターネットの捉え方は我が国の検討においても参考になると考えられる(表5)。

表5 諸外国におけるインターネットの位置づけ
国 名 インターネットの位置づけ
日 本 ・従来の放送や通信と異なる「公然性を有する通信」という性格を有している
・現行の法体系では、インターネットは「放送」ではなく、「通信」の範疇に入る。
シンガポール ・インターネットの機能のうち、WWWについて放送と同様の規制を加えている
・電子メールは私的な通信であるとして規制の対象外である。
・不特定多数に対する「マスメール」は規制の対象となる可能性があるとして、
検討されている。
中 国 ・法的位置づけについての公式発表はない。
・規制方法自体は、衛生放送に準じた登録制を採っている。
オーストラリア ・政府発表では、インターネットと放送は異なるとしている。
・ただし、実際には放送を監督するオーストラリア放送庁(ABA)がインターネッ
トを監督し、かつ放送法の改正によってインターネット・コンテストに対応しよう
としている。
イギリス ・法的位置づけについての公式発表はない。
・ただし、原則として一般法を適用しつつ自主規制に任せようとする方法は出
版の扱いに準じている。
ドイツ ・インターネットの機能のうち通信的側面は州政府が規制し、放送的側面は
州政府が規制する。
・基本的に、コンテストに関して放送的側面に対する方が厳しくなっている。
フランス ・視聴覚通信という放送概念にインターネットも含まれるため、放送の監督機
関であるCSAがインターネットも監督している。
アメリカ合衆国 ・政府発表では、インターネットは放送にも通信にも含まれない別の概念であ
るとしている。
・ただし、インターネットを規制する通信品位法は、「商用目的のためのわいせ
つな電話」や「脅迫電話」などの電話=通信に関する規定の改正として成立し
ている。

 また、インターネットの通信的な側面についても、ドイツでは通信の秘密との関係でユニークな規定の仕方をしている。すなわち、テレサービス(Teledienste)においては、プロバイダーの責任としては、通信の秘密を侵すことなく知り得たコンテントについて、技術的に可能な措置をとらなかった場合にのみ責任を問われるとしている。これは、逆に言えば、通信の秘密を侵してまで通信内容のチェックを行わなくてもよいということであり、インターネットの通信的な側面についてはコンテントの規制よりも通信の秘密が優先されることを意味している。
 以下に、各国のインターネットに対する動向を整理した(表6、表7)。

表6 各国のインターネットに対する動向(1)
国 名 内  容
イギリス 1996年9月23日、英国のプロバイダーの団体であるインターネット・サービス・プロバイダー協会(ISPA、Intemet Service ProviderAssociation)、ロンドン・インターネット・エクスチェンジ(LINX、London Internet Exchange)及びセイフティネット財団(Safety-NetFoundation)の三者が、インターネットの情報を業界で自主的に規律するR3セイフティネット(R3 Safety-Net)を発表し、政府、警察、業界から歓迎されている。
ドイツ 1996年11月に新聞・出版と放送のコンテントに関する現在の自主規制システムを拡大することにより、インターネット・コンテントの自主規制を改善する提案が提出された。これによって、有害なコンテントを提供するプロバイダーは、苦情や問い合わせの窓口としても利用者へのアドバイザーとしても機能する青少年保護委員を任命することが要求されることになる。 また、主要なプロバイダーが属するインターネット・コンテント・タスクフォースも、ホットライン及び違法コンテントへのアクセスを遮断する技術的手段等を含む新しいシステムを発表している。
フランス 1996年6月、電気通信規制法が国民議会で採択されたが、憲法院は、7月24日、アクセスプロバイダーの刑事責任の免除に関する2つの規定について、明確性に欠けるとして憲法に違反すると決定した。また、1996年10月にソウルで開催されたOECDのワーキンググループ会合において、インターネットに関する国際協力規定(Agreement on international cooperation with regard to theINTERNET)の案がフランスから提出された。 この提案は3部から構成され、第1に、関係者の分類、適用する規則、情報提供者とホストサービス提供者の責任に関する原則等署名当事国により承認される一連の原則を定めている。第2に、特に基本的な倫理規則の尊重及び消費者保護の改善を保障することを目的とするガイドラインを定めている。第3に、署名当事国間の法的及び警察に関する協力の原則を定めている。


表7 各国のインターネットに対する動向(2)
国 名 内  容
アメリカ合衆国 アメリカ合衆国では、改正通信法223条について、憲法修正1条に反するとして違法訴訟が提起され、1997年7月連邦最高裁判所より違憲判決が出された。 また、受信者側で特定の情報を選択的にブロックするフィルタリングシステム技術の開発も推進されている。
シンガポール シンガポール放送庁(SBA、Syngapore Broadcasting Authority)は、1996年7月にプロバイダー等に対するクラス・ライセンス制度、コンテント・ガイドラインを発表した。プロバイダーは登録が必要であり、放送庁が接続の禁止を求めたサイトについて、プロバイダーは接続を停止しなければならないとされている。またコンテント提供者がシンガポールで登録された政党である場合又はシンガポールに関する政治的若しくは宗教的議論に携わるブループである場合には登録が義務づけられている
中 国 中国のインターネットの歴史は1994年に始まる。その年の8月に、中国郵電部はアメリカのスプリント社との間で「中華民国はSprint Linkを通じてインターネットに接続する」ことを合意した。ゲートウェイは当面、北京と上海にある電信局におかれる。 中国政府は科学と経済の発展のためにインターネット導入が不可欠であると判断したものの、それを通じて国内に流入する諸外国の情報に深い注意を払っている。インターネット上を流れるコンテントを規制するためには上に挙げた既存の法律によって規制することも可能ではあるが、より規制を徹底させるため、そして何よりもインターネットの管理そのものを一元化するという目的のために新しい法律を制定することとなった。
オーストラリア オーストラリア放送庁(ABA、Australian Broadcasting Authority)は、1996年6月に「オンラインサービスのコンテントに関する調査検討」の報告書を通信芸術相に提出した。報告書では、自主規律に関するサービスプロバイダーの実施規範の整備とオンラインコンテントに対する格付け方式の推進を提言している。

3) インターネットの抱える問題についての我が国の対応方向

 インターネットの抱える問題について、考えられる対応方向を「インターネット等の国際的受発信メディアが社会・文化・思想に与える影響に関する調査研究」(郵政省郵政研究所)(1997年8月)をもとに総括する。 
 「国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由」をも含めた「表現の自由」の権利が、児童を含めたすべての者の権利であることは、基本的な人権の一つとして国際的にも承認されている。また、科学や文化の分野における国境を越えた情報交流には、科学・文化の発展に貢献するものとして国際的にも高い意義が認められている。 我が国としても、これらの精神を十分に尊重し、積極的に国際的な情報交流を行うべきであると考えられる。 
 もとより、各人の表現の自由の権利の行使は、それぞれの自由意思によって行われるべきものであるが、インターネットは、個人・団体が世界に向けて、あるいは世界から、直接に、訴求力の強い映像情報を受発信できる新しいメディアであり、その社会的影響力が大きい一方、国際的な情報受発信を初めて行う者も多く、必ずしも、他の国家・民族の社会・文化等を尊重し、国際的な融和を念頭においた情報発信を行うとは限らないと考えられることから、表現の自由の権利に内在する制約を十分に念頭においてこの権利を適切に行使するように、まず、情報発信する個々人自らが、国際的な情報受発信の有する高い意義と情報発信に当たって留意すべき点等についての基礎的な知識を修得するとともに、コミュニケーションに際しての基本的なマナーやエチケット等を知悉しておくことが望ましいと考えられる。また、行政機関や関係業界団体等は、そのサポートを行うことが望まれる。 
 具体的には、これまで検討してきたインターネットの国際的受発信メディアとしての特徴や国際社会・諸外国におけるインターネットへの対応等を踏まえ、我が国としても、今後、
 @ 我が国と諸外国との間の情報の自由な流通による国際交流・相互理解の促進
 A 我が国と諸外国の文化の相互刺激による健全な発展等の促進
 B 我が国及び諸外国それぞれの社会秩序や善良な風俗等の維持
 等を図る観点から、次のような点について、自己啓発等を行うことが望ましいと考えられる。 
 なお、以下では、行政機関、電気通信事業者、関連業界団体、利用者等を必ずしも区分して記載していないが、自らの表現の自由の権利の行使の結果に責任を負うのは表現した個人・団体自身であることに鑑み、行政機関、電気通信事業者、関連業界団体にあっては、当面は、利用者への情報提供、ガイドラインの提示(従うか否かは利用者の判断に委ねられる。)等のサポートにとどめ、その推移を見て、必要であれば法的措置の検討を行う等の段階的な対応をとることが望ましいと考えられる。
 ただし、表現の内容によっては、国際的な情報発信であるか否かを問わず、わいせつ物頒布罪・名誉毀損罪・侮辱罪・信用毀損業務妨害罪・不正競争罪・著作権侵害罪・詐欺罪等に該当する情報、盗品・海賊商品・麻薬等の違法な物品の譲渡情報、等の犯罪を構成する場合や損害賠償請求の対象となる場合があるので、どのような情報が犯罪や私法上の不法行為を構成するかについては、各人の責任において、最低限必要な知識を習得しておくことが必須と考えられる。少なくとも、自己が発信しようとする情報の内容が、法に触れるものではないかどうか、他人の権利等を侵害するものではないかどうかについて、検討してから発信するという慎重な姿勢が望まれる。

(1) インターネットによる国際的な情報交流の促進
 我が国は、その経済力等から国際社会で重要な地位を占めつつあるものの、我が国の社会や文化・思想についての情報発信は諸外国に比較して必ずしも多くはないと考えられる。我が国の実情を広く世界に正しく知ってもらうことが、我が国を理解してもらう第一歩であることから、個人による世界に向けた情報発信や外国との交流を積極的に進めていくことが望ましいと考えられ、インターネットは、そのためのツールとして様々な可能性を秘めていると考えられる。
 インターネットによる国際的な情報交流を促進するために、まず、インターネットの普及のための環境整備、インターネットに係る情報リテラシーの涵養を図るとともに、国際的な情報交流の有する社会的・歴史的な意義について、知識の習得、周知啓発を図っていくことが望ましい。

(2) 利用者のモラルの向上及び国際感覚の涵養
 対面や電話等の1対1のコミュニケーションにおいて当然に守るべきマナーやエチケットが存在しているが、インターネットによるコミュニケーションにおいても、このことは同様である。
 特に、ネットニュースやホームページ等世界中の誰からでも閲覧可能な媒体に情報を掲示するに当たっては、わいせつな表現等我が国で違法とされる情報を掲示してはならないことは勿論のこと、戦争の宣伝や、他国や他民族を差別するような情報、公序良俗や道徳に反する情報、自国民・他国民を問わず他人の人権・プライバシーその他の権利を損なう情報については、掲示すべきではないと考えられる。
 どのような表現がそのような掲示すべきではない情報に該当するのかの判断は難しいが、各人それぞれが自らの発言・表現には責任を伴うことを念頭において、掲示の可否について判断していくべきであると考えられる。

(3) 各国の規制に関する情報提供
 国によって、社会体制・文化・風俗等は大きく異なっており、ある国では合法な情報内容が他国では違法とされることや、ある国では普通に行われている表現が他国で問題視されることが十分にあり得る。例えば、表現に関する許容度について我が国と他の先進国を比較した場合、わいせつ的表現については我が国の方が厳しい反面、暴力的表現や児童ポルノについては他の先進国の方が厳しいと思われる。
 しかし、各国の表現に対する規制内容や道徳観念等に関する情報は、あまり多くはないほか、あっても内容が古かったりして必ずしも正確とは限らないように思われる。
 そこで、2)の各人の情報発信に当たっての判断材料とするためにも、情報発信しようとする個人・団体は、諸外国、少なくとも情報発信しようとしている相手国・相手民族等の情報をできる限り収集するよう努力を行い、自分が発信しようとしている情報内容が特定の国や民族等を侮蔑・差別することとなるようなものではないかどうか慎重に検討する姿勢が望まれる。また、行政機関や関係団体等は、諸外国の規制に関する情報を収集して、インターネット上で随時参照できるようにする等、その周知を行うことが望まれる。

2. インターネットにおける知的財産権の問題と展開 

 インターネットの発達による電子商取引の進展、情報流通の増大は、先にふれた表現の自由の問題、わいせつ情報の問題以外にも、現行の法制度上多くの問題を提起している。
 ここでは、現在の知的財産権制度の概要を整理し、インターネットにおける知的財産権の問題と展望について述べる。

1) インターネットにおける知的財産権に関する問題 

(1) 知的財産権制度の概要
 最近、注目を浴びている知的財産権制度は、著作権、工業所有権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)、半導体集積回路配置利用権、不正競争防止法等の無体財産の保護に関する制度である。一般に、知的財産権は、開発に多くの投資が必要とされる反面、模倣防止が困難であることが多く、古くから国際的な保護が求められてきた。
 特許権等の工業所有権に関しては、1883年に「工業所有権の保護に関するパリ条約(以下、パリ条約という。)」や1970年に「特許協力条約(PCT)」が制定され、工業所有権に関する国際的な保護を図っている。
 一方、著作権については、1986年にスイスのベルヌで「文学的及び芸術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下、ベルヌ条約という。)」を制定し、現在では、1971年のパリ改正条約を適用している。このベルヌ条約では、@内国民待遇の原則、A無方式主義の原則、B法廷地法の原則、C遡及効の原則等が掲げられている。さらに、無方式主義を採用している国(著作物の創作と同時に著作権が発生する主義を採用している我が国やヨーロッパ諸国等)と方式主義を採用している国(著作物の登録後、著作権が発生するアメリカ合衆国や南アメリカ諸国等)の相互間の不便を解消するため、1952年に「万国著作権条約」が制定された。万国著作権条約では、@内外人平等の原則、A不遡及の原則等が掲げられている。また、著作物にマルCマーク(copyright mark)、著作権者名、最初の発後年を表示すれば、無方式主義の国民の著作物も保護されるとしている。
 こうした知的財産権を国際的に管理・運営する機関として、1970年に世界知的所有権機関(以下、WIPOという)が国連の専門機関として設立された。また、GATTウルグアイ・ラウンドにおいても、知的所有権の貿易的側面(TRIPS)協定の交渉が1986年に始まり、1994年のウルグアイ・ラウンドの結了に伴い、1995年に世界貿易機関(WTO)が設立され、TRIPS協定もその一部として発効した。TRIPS協定では、半導体回路配置権、地理的表示保護、営業秘密等を含む知的財産権全般に関する保護として、@知的財産権保護の最低基準、A知的財産権分野の内国民待遇と最恵国待遇の適用、B権利執行制度等が掲げられている。

(2) インターネットにおける知的財産権の問題
 インターネットにおける知的財産権の問題としては、インターネットのドメイン名に関する問題や著作権侵害の問題などが代表的である。このうち、インターネットのドメイン名に関する問題というのは、既存商標と類似のドメインを使用することは、商標権を侵害するのではないかという論点や商標で保護が図られる国とインターネットのドメインが使用される国が必ずしも一致しない等の論点が代表的である。
 一方、著作権侵害の問題としては、タレントの写真やキャラクターを第三者がインターネットを通じて発信した場合、パブリシティ権(肖像権、氏名表示権)や複製権等の侵害にあたるのではないかという論点や映画やテレビの画面や音楽を発信した場合に、著作権侵害になるのではないかという論点等があげられる。
 我が国の著作権法は、フランス、イタリア等の大陸法的な発想を基調としているとされている。著作権は、物権ではないが、排他的権利として設計されており、その限界として著作物の利用の促進による文化の発達等と著作権者の経済的利益の調和をどこで図っていくかを明確にするために、著作権自体を様々な「支分権の束」として構成している。したがって、これまでもプログラム等の新たな情報形式やインターネット等のネットワークによる情報流通形態が登場する度に、支分権を追加・拡充する方向で改正が行われてきた。 インターネットに代表される情報のデジタル化、ネットワーク化を特色とするマルチメディアの出現により生じる著作権法上の問題として、「著作権法詳説(第2版)」(三山雄三著)では、以下の10点を掲げている。
 @ マルチメディア・ソフト自体の著作物性
 A 無断複製、無断利用による著作権侵害の容易性
 B 無断改変による著作者人格権(同一性保持権)侵害の容易性
 C 著作権処理の困難性ならびにこれらに要する時間および費用のロス
 D 編集、加工、共同作業により共同著作物が成立した場合の不自由性
 E 共同著作物の権利の特定困難
 F 権利者か利用者かの判別困難
 G 原著作物の権利者の著作権が及ぶ範囲
 H プライバシー保護の問題
 I 公序良俗等倫理上の問題 
 次に、幅広い論点を有する著作権法上の問題のうち、無断複製、無断利用による著作権侵害の容易性とその対応についての動向について述べる。

(3) インターネットにおける無断複製等の問題への対応
 インターネットに代表されるコンピュータネットワークが発達するまでは、出版社、映画会社、放送局などのメディアが著作物を流通させており、これを前提に著作者がメディアから著作物利用の対価を得る仕組みを著作権法は予定していた。しかし、インターネットの急速な普及によって、不特定多数の利用者が著作権侵害をする可能性を有するようになっている。
 このような状況になった要因としては、インターネットにおける情報がデジタルであることやネットワークを通じて、インタラクティブ(双方向)に情報が世界中を駆け巡るといったインターネット情報の特性によるものが大きい。つまり、インターネットにおける著作物等の知的財産権に関する情報をコピーすることで、容易にオリジナル=コピーという品質を確保できるようになったということである。すなわち、@デジタルであるために情報が劣化しないこと、A編集や改変が容易であること、B国境を越える利用が可能なこと、C大量かつ多様な情報発信が可能なこと等が特性としてあげられ、こうした特性を有するが故に、逆に著作権侵害等の可能性が大きくなったということである。
 一方、世界主要国は「ベルヌ条約」の締約国となっており、インターネットのコンテントも同条約及び国内法によって、保護されることになっている。わが国の場合は、コンテントをサーバーに配置することは、著作権法第2条第1項第15号の複製に該当し、アクセス者のリクエストに対応して配信することは、同条同項第17号の有線送信に該当する。これらの権利は、著作権法第21条の複製権や第23条の有線送信権によって、著作者に権利が専有されることになる。しかし、ベルヌ条約は、インターネットの特性(デジタル情報であること、容易に情報が国境を越えること等)を予定していないこともあったため、WIPO(世界知的所有権機関)において、1996年12月に四半世紀ぶりに改正され、「WIPO著作権条約(WIPO Copyright Treaty)」及び「WIPO実演家・レコード条約(WIPO Performances and Phonograms Treaty)」という新条約が採択された。
 さらに、WIPOによる新条約の採択に対応して、わが国においても1998年1月1日より改正著作権法が施行されている。
 改正著作権法の主要な改正点を例示すると次のとおりである。
 
 @ 公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線通信の送信を行うことを「公衆送信」とし、あわせて「放送」等の定義を改めることとした。
 A プログラムの著作物について、同一の構内における有線電気通信の送信も公衆送信に該当することとした。
 B プログラムの著作物について、公衆送信を行う権利を専有することとした。
 C 実演家は、その実演を送信可能化する権利を専有することとした。
 D レコード製作者は、そのレコードを送信可能化する権利を専有することとした。
 E 通信カラオケやインターネット等のリクエストを受けて行うインタラクティブ通信において、著作隣接権として「送信可能化権」が設けられた。

(4) 郵政省における取り組み
 郵政省では、「通信・放送の融合と展開を考える懇談会中間取りまとめ」(平成9年6月報告)等において、指摘されるように、サイバー社会に向けて、権利の適切な保護を図りつつ、情報流通の円滑化を促進するための新たな対応が求められるとしており、「技術的な対応」と「新たな知的所有権ルール・体制の検討」の2点を提言している。
 まず、「技術的な対応」としては、ネットワークを流通するコンテントについて、不正コピーを抑制・防止する技術の開発を促進する必要性があるとしている。また、コンテントの中には、不正コピー防止のため、コピープロテクション技術を採用したものが多くなっていることをふまえ、これに対するコピープロテクション解除装置の製造・販売等への対応についての検討の必要性を提言している。
 一方、「新たな知的所有権ルール・体制の検討」については、デジタル化によって、情報の加工・複製・改変が容易となり、ネットワーク化の進展により瞬時に広範囲に情報が伝達するようになった社会においては、これらのデジタル・ネットワークの環境や、多様なメディア環境に適合した新たな知的所有権ルールが必要となってきているとしている。
 わが国の著作権法では、1986年にネットワーク化に対応した「有線送信権」に関する規定を置き、WIPO新条約の採択に対応した国内法の改正も行われているが、現行の著作権法の延長だけでは、デジタル・ネットワーク環境において情報の適切な保護と運用面での円滑な権利処理を両立するために十分といえず、今後、著作権のみならず、知的財産権全般にわたる情報の保護について幅広く対象に置き、新たな環境に対応したルールを検討する必要があるとしている。
 具体的には、電子出版における、ネットワーク上でのアクセスや利用毎に課金を行う利用権的なアプローチの導入等の検討が必要としている。また、他人の著作物を利用して新たな著作物を作成することが要因となる反面、著作物に対する権利関係が複雑化しており、今後の流通の促進を図っていくためには、著作物等に関するデータベースの構築や、権利の管理体制の整備等を提言している。

2) インターネットにおける知的財産権保護の展望 

(1) インターネットにおける知的財産権保護の対応方向
 先にふれたように、インターネットに代表されるマルチメディアにおける著作権上の問題は数多くあり、その対応も広範なものとなると考えられる。 
 この点については、先にふれた「著作権法詳説(第2版)」(三山雄三著)において、考えられる解決策として以下の7点を列挙している。

 @ 集中的権利処理機構の創設
 A SOFTWARE ENVELOPなる手法の開発(著作権を保護するソフトウェアの開発)
 B 同一性保持権の不行使特約および第三者効の合意及び立法化
 C 共同著作物の利用(共有著作権の行使)に関する事前の同意
 D 共同著作物の権利の特定に関する合意
 E 秘密保持義務難
 F 情報提供者の参加排除および抑制 

 一方、アメリカ合衆国が1989年にベルヌ条約の締約国になったこともあり、今後のマルチメディア時代の著作権はベルヌ条約の無方式主義を前提として展開されることになると考えられる。
 国際的な著作権の法律の適用関係については、@属地主義(The Territorial Principle)、A内国民待遇の原則(The Principle of National Treatment)、B短期保護期間原則(The Principle of Shorter Period)が鍵となると考えられる。
 ここで、@の属地主義とは、著作物を複製、頒布等をする時の法律は、利用しようとしている国や地域の著作権法を適用しようとする原則である。
 Aの内国民待遇の原則とは、外国の著作物がその国の著作物と同じ内容の保護を受けられなければならないという原則であり、ベルヌ条約、万国著作権条約ともに採用している。
 Bの短期保護期間原則とは、我が国では、保護期間に関する相互主義と言われているが、例えば、我が国の保護期間が満了しない場合であっても、外国で満了しているものについては、保護しないという原則である。これは、内国民待遇の原則の例外とも言われている。
 インターネットにおける著作権侵害に対応するために、今後は、国際的に各国の著作権法等の国内法を調和させていくという、コピーライト・ハーモナイゼーション(Copyright Harmonization)によって、解決を図っていくということが必要である。コピーライト・ハーモナイゼーションとは、各国の著作権法を均質化していくというもので、著作権の保護が不十分な国については、保護基準を強化するように求めようというものである。特に、実演家の権利や放送事業者や有線放送事業者の権利等の著作隣接権の分野については、各国の制度にばらつきがあるため、今後著作隣接権を中心に国際的に法的な制度の調整を図ることが必要になると考えられる。
 しかし、法的な保護の強化だけでは、技術革新のスピードに追いつけないため、法的な規定が陳腐化する可能性もあり、実効性の面で限界が生ずることも考えられる。
 したがって、インターネットにおける著作権侵害への対応については、法的な保護の強化とともに、技術面による保護についても注力していく必要がある。

(2) インターネットにおける知的財産権保護技術(電子透かし)の概要
 サイバービジネス協議会が1997年10月にまとめた「コンテント保護・流通ワーキンググループ報告書」(サイバービジネスと通信サービスに関する課題検討委員会)においては、インターネットの電子会議室等に掲載されたコンテントは、利用者が各自のパソコンにダウンロードでき、また、ダウンロードされたコンテントは、自由に複製、加工、再利用ができ、誰でも二次利用ができることから、コンテントの著作権者の権利保護が難しいとされている。さらに、不正利用したコンテントを他のコンテントの素材として利用しても、不特定多数の情報発信者がいるインターネット上では、不正利用の発見が難しく、仮にオリジナルのコンテントの著作権者が不正利用を発見したとしても、何らかの加工がされた時は、オリジナルとの関係を証明することが難しいという問題が指摘されている。
 インターネットに代表されるデジタル情報を扱う電子メディアにおける知的財産権の問題と類似するものとしては、1980年代におけるデジタルオーディオテープ(DAT)の著作権問題や今後急速に普及すると予想されるデジタル・ビデオ・ディスク(DVD)における著作権問題等があげられる。
 特に、著作権に着目すると、@著作物の利用に応じた課金の問題(利用対価の徴収方法)、A不正コピーの防止(不正な複製の防止方法、発見方法)に大別されると考えられる。
 この点、@の著作者の利用に応じた課金の問題については、録音機器やテープ等に著作権料を上乗せ徴収したり、暗号化技術等によって対応を図っている。
 一方、不正コピーの防止については、コピープロテクト以外に有効な対応策がないとされてきた。郵政省では、電子透かし技術等の不正コピーを抑制・防止するための技術の開発を推進しているが、この電子透かし技術は、国内外で注目されている技術の1つであるといえる。
 電子透かし技術はdigital watermarkと言われるもので、デジタル著作物にID情報、ロゴなどを透かし情報として埋め込む、あるいは、隠し持たせる技術の総称であり、デジタル化した画像や音声に、人間には知覚できない秘密の情報を埋め込む技術である(図6)。
 「コンテント保護・流通ワーキンググループ報告書」(サイバービジネスと通信サービスに関する課題検討委員会)においては、電子透かしの要件を4つ掲げている。

 @ 電子透かしによってコンテントに埋め込まれた情報は、人間には認識できないが、専用の読み取りソフトを使用すれば、必要な時に埋め込まれた情報を抽出し、再生することができる。
 A 電子透かしを埋め込んだコンテントは、埋め込んでないコンテントと全く同様の方法で利用することができる。電子透かしを埋め込みによるコンテントの品質の影響は、問題にならない程度に小さい。
 B 電子透かしによって埋め込まれた情報は、埋め込んだコンテントの一部だけが複製されたり、加工された場合でも抽出することができる。
 C 電子透かしにより埋め込まれた情報を利用者側で除去あるいは改ざんしようとすると、コンテントが損なわれ、品質が大きく低下したり、利用できなくなる。

 電子透かしは、技術的には画像や音声のデータを「周波数スペクトル」という別の形式のデータに変換して、隠したい情報を挿入し、再び元の画像や音声に戻す方法がとられている。人が知覚できない部分に、透かし情報を直接埋める手法もある。周波数変換手法は解読しにくいが隠せる情報が少ないという特徴がある。
 画像や音声をコピーや改変した場合、透かしとして埋め込んだ情報は残り、無理に取り除こうとすると元のデータが壊れるようなしくみである。
 具体的には、著作物に著作権情報を埋め込み、それを透かし情報として残し、この情報を除去すると、著作物を劣化させるという利用や透かし情報そのものをどこに埋め込んだのかわからなくすることで、不正コピーを防ぐといった利用が考えられる。電子透かし技術には、画像圧縮技術や音声処理技術等を用いるが、データの冗長な部分(コンテントの一部の情報を変更しても人間にはその違いが認識できない部分)にあたかも雑音のように情報を埋め込むのが一般的である。

図6 電子透かし技術の概要イメージ
出所) 「コンテント保護・流通ワーキンググループ報告書」
(サイバービジネスと通信サービスに関する課題検討委員会:サイバービジネス協議会 1997年10月)

3) 電子透かし技術による知的財産保護の展望

 電子透かし技術を取り入れることによって、視覚的には、オリジナル=コピーであると認識される画像であっても、機械的にはオリジナル≠コピーと認識できるようになる。
 その一方で、解決すべき問題もある。例えば、電子透かし技術や著作権保護の対象とする著作物の評価手法をいかに確立していくかという問題がある。また、著名な絵画や映像等の著作物の保護と一般的な著作物の保護の度合いをどのように評価するかという問題もある。
 また、デジタル方式を前提とした技術的な保護策の限界という新たな問題もある。例えば、電子透かし技術は、写真や映画等の著作物において、一度アナログ情報に変換(その後の再デジタル化を含む)されてしまうと役に立たない。このため、デジタル→アナログ、アナログ→デジタルへの変換に対応できるように、デジタル情報とアナログ情報の著作権保護策の内容について、一致させていく必要がある。
 さらに、こうした著作権をどのように管理していくかという問題もある。アメリカ合衆国やヨーロッパでは、既に民間企業が静止画像の著作権管理サービスを行っているが、一元的に特定の機関が管理するのでは、改ざん等の問題へ有効に対応できない可能性がある。 こうしたことをふまえ、複数のサーバーで著作権情報を管理するシステムが奈良先端大学院大学の嵩先生、渡辺先生のグループによって提案されている(図7)。このシステムでは、複数の著作権管理サービス事業者が協力して、著作権情報を管理し、原画像を保有する原画像サーバーと電子透かしを施すサーバーは、異なる著作権管理サービス事業者が独立して管理する。埋め込みサーバーでは、原画像に格納されている画像データについては、知らされておらず、データ伝送は暗号を用いて行う。
 ユーザーから注文を受けた原画像サーバーは、スクランブルを施した画像を埋め込みサーバーに送り、埋め込みサーバーは、スクランブル画像に透かし情報を埋め込みユーザーへ送る。ユーザーはスクランブルを解除する復号関数をあらかじめ、原画像サーバーから受け取り、スクランブルを解除する。不正利用があった場合には、原画像サーバーと埋め込みサーバーによってユーザーを特定することができるというものである。


図7 複数のサーバーで著作権情報を管理するシステム
出所) 「通話量を考慮したサーバーの不正利用も防止する電子透かしシステム」
(三浦信治、大西重行、渡辺創、嵩忠雄)(電子情報通信学会技術研究報告)(1997年7月)、
「日経エレクトロニクス 1997年2月24日号」(日経BP社)をもとに作成

おわりに 

 インターネットの急速な普及と広範な利用形態は、今後もコンピュータネットワーク上での知的財産権の保護に影響を与えるであろうことは想像に難くない。とりわけ、コンピュータネットワーク上における著作権の保護については、まだ、課題はあるものの、電子透かしをはじめとする技術が実用化しつつある。
 一方、サイバースペースにおける不正行為への対応、プライバシー保護、ネットワーク上の取り引きへの対応、知的財産権の保護等の観点から、「通信・放送の融合と展開を考える懇談会 中間とりまとめ(融合懇中間報告)」等においては、「サイバー法」(高度情報通信社会を実現するための環境整備に関する法律)の検討が提言されている。
 なお、「サイバー法」の検討に当たっては、「サイバー社会における情報の自由かつ円滑な流通を確保することを基本原則とし、そのために必要な最小限の制度的整備を行うことの基本的考え方に基づくこと」及び「サイバー社会とは、ネットワークを通じて世界中が結ばれている社会であり、その対応には当然、国際的な連携が不可欠である」とされている。
 すでに、ドイツでは、インターネット等による電子商取引やその他のマルチメディアサービスの利用に関して「情報通信サービスの基本条件の規制に関する法律」が1997年7月に成立している。この中には、新法として、「テレサービスの利用に関する法律」、「テレサービスに際して個人の情報保護に関する法律」、「デジタル署名に関する法律」等が盛り込まれている。
 また、アメリカ合衆国でも1995年、ユタ州で「デジタル署名法」が制定されて以来、認証やデジタル署名について、州法レベルでの整備が進みつつある。
 このように、欧米諸国では、サイバースペースにおける情報利用について、法制度化する動きが進みつつあるが、我が国においても、国際的な連携の枠組みの中で、ネットワーク上での知的財産権の保護をはじめとする情報流通の保護についても、実効性のある制度、システムを検討していくことが必要である。 


(参考文献・引用文献)
(1) 「インターネット等の国際的受発信メディアが社会・文化・思想に与える影響に関する調査研究」(遠藤宣彦、西垣昌彦、姫野桂一)(郵政省郵政研究所)(1997年8月)
(2) 「新しいメディアの利用動向に関する調査研究」(仲島一朗、川井かおる、姫野桂一)(郵政省郵政研究所)(1997年7月)
(3) 「インタ−ネット上の情報流通について−電気通信における利用環境整備に関する研究会−(報告書)」(郵政省電気通信局)(1996年12月)
(4) 「通信・放送の融合と展開を考える懇談会 中間とりまとめ(融合懇中間報告)」(郵政省)(1997年6月)
(5) 「通話量を考慮したサーバーの不正利用も防止する電子透かしシステム」(三浦信治、大西重行、渡辺創、嵩忠雄)(電子情報通信学会技術研究報告)(ISEC97-36、p75-85)(1997年7月)
(6) 「日経エレクトロニクス 1997年2月24日号」(著作権保護技術の有力候補)(日経BP社)p100〜107、(1997年2月)
(7) 「コンテント保護・流通ワーキンググループ報告書」(サイバービジネスと通信サービスに関する課題検討委員会:サイバービジネス協議会)(1997年10月)
(8) 「世界のマスメディア法」(梅原猛編)(嵯峨野書院)(1996年4月)
(9) 「サイバー社会の課題と展望」(阪本泰夫)(ジュリストNo.1117)(有斐閣)(1997年8月1〜15日号)
(10) 「インターネットと表現の自由」(高橋和之)(ジュリストNo.1117)(有斐閣)(1997年8月1〜15日号)
(11) コンピュータネットワーク時代の知的財産法」(相澤英孝)(ジュリストNo.1117)(有斐閣)(1997年8月1〜15日号)
(12) 「コンピュータネットワーク時代における著作権施策の展開」(板東久美子)(ジュリストNo.1117)(有斐閣)(1997年8月1〜15日号)
(13) 「インターネットの法律実務」(岡村久道、近藤剛史)(新日本法規)(1997年5月)
(14) 「著作権法詳説(第2版) 判例で読む14章」(三山雄三)(東京布井出版)(1997年2月)



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  欧州通信市場の新たな動向

  情報通信基盤整備のマクロ経済分析