非対称情報と公的金融


横浜国立大学・郵政研究所 井上 徹
郵政研究所(現国民金融公庫総合研究所) 夏井 高志
郵政研究所(現神奈川大学・郵政研究所) 宮原 勝一

[要約]

  1. 資金調達市場におけるリスクと非対称情報の問題の重要性は、早くから認識されており、最近では、Costly State Verification などの多くのモデルが提案されている。しかし、金融機関の費用条件を考慮したモデルは少なく、貸出行動とリスクの関係についての実証研究も少ない。さらに、公的金融の貸出行動とリスクについての研究は、皆無といってよい。この研究の目的は、金融機関の費用条件と、公的金融の収支相償原則を明示的に取り入れた非対称情報下での貸出モデルを導き、公的金融と民間金融を比較する形で実証研究を行うことである。

  2. モデルと含意: 企業は、それぞれ1単位の資金を必要とするプロジェクトを持っており、qの確率で成功する。成功収益はθ、失敗すれば0。担保となる資産εは、[0,εu]の範囲に分布する。株主は有限責任であり、支払条件は、

    成功の場合 r 確率q  失敗の場合 ε* 確率1−q

    成功時にrを支払わなければ、将来の利益機会(現在価値v)を失う。支払履行条件は、

    r≦ε+v …@ 特に r=ε*+v …@'

    民間銀行の期待利潤関数は、ρを(限界的な)資金コストとすると、

    E(π)=qrL+(1−q)ε*(L)L−ρL−C(L) …A

    ε*=(ρ+C'−qv)/(1−η) …B , η=−(L/ε*)ε*'>0…C  

     公的金融機関は、収支相償と@'の制約の下で行動するから、

    ε*P=ρP+CP/L−qv …D

     費用関数を二次関数と仮定すれば、

    民間金融 r=(1−η)−1{α−ηv+ρ+βL+(1−q)v} …E

    公的金融 r=α+β/2*L+γ/L+ρP+(1−q)v …F

      このモデルの主要な含意は、次の二つである。

    (1)公的金融は、カウンターシクリカルな貸出を行う可能性がある。
    (2)公的金融は、同一の利子率でよりリスクの大きい借り手に対する貸出を行うことができる。

  3. 実証結果:E、F式の推計から、モデルを支持する結果を得た。


English Version



  1. はじめに
  2. 貸倒リスクと公的金融仲介の行動モデル
  3. 実証分析
  4. まとめ
  5. 参考文献