郵政研究所月報 

1998.5


調査・研究

通話料金指数の作成


通信経済研究部主任研究官  実積 寿也
住友海上火災保険 金融法人第一部主任(元通信経済研究部研究官)  大石 明夫
通信経済研究部研究官  高谷  徹

[要約]

 1985年の第一次情報通信改革により電気通信分野に競争原理が導入された結果、今日まで多数の新規参入事業者があらわれ、互いにサービスを競いあっている。基本的な電気通信サービスである電話サービスに関しても競争が進展しており、新サービスの導入と料金表の変更が繰り返されている。そのため、通話料金の水準の経時的な推移を明らかにすることが興味の対象となる。本稿では、「通話サービスの利用は、曜日・時間帯・距離区分毎に提供されるセグメント毎の通話サービスの個別の利用を集計することにより表現することができる」という考え方に立脚し、各セグメントの単位時間当たりの通話料金を、基準年における対応する需要量から算出したウェイトで集計することによって、通話料金に関する価格指数(「通話料金指数」)の構築を試みる。
 我々の計算結果によれば、加入電話サービスに関しては、NTT独占の時期(1978年度→1986年度)は年平均で2.44%の料金低廉化が行われているに過ぎなかったが、NCCの参入後(1986年度→1996年度)は年平均4.63%の値下げが行われたことが示されており、第一種電気通信事業分野への競争原理の導入は料金低廉化に明らかに貢献しているということが推論される。また、料金水準の地域差は、携帯電話サービスに関するもののほうが、加入電話におけるものに比べて大きいという結果も得られた。
 本稿で示した手法で算出した通話料金指数を採用した上で、いくつかの適切な仮定を追加し、さらにはアンケート調査の方法を工夫することによって、通話料金の及ぼす影響をより適切に考慮した通話需要分析が可能になることも併せて期待できる。

1.はじめに

2.通話料金指数の考え方

3.料金指数の算出

4.算出結果

5.おわりに

参考文献

 

補論1 平均通話料金および加重平均用比率の算出方法

通話料金cの算出方法

加入電話発信の距離段階別時間帯別通話料金 cjktNTT→fix cjkltNCC→fix

 各年度末時点と前年度末時点の料金を算術平均した値を各年度の曜日別距離段階別時間帯別通話料金とし、さらに曜日別(平日と土・日・祝日)は基準年度の暦日数で加重平均し、距離段階別時間帯別通話料金とした。

 携帯電話発着信の事業者別距離段階(都道府県)別時間帯別通話料金ckmntNTT→mob cjkmntmob→fix cmob→mobkmnt

(13)

r*:基準年度の平日日数/365
cjkltNCC→fix、ckmntNTT→mobについても同様の方法で計算した。

加重平均用比率rの算出方法

 距離段階別時間帯別の加重平均用比率rijkNTT→fix rijklNCC→fix rmknNTT→mob rmjknmob→fix rmknmob→mob rijkNTT→fixは以下の算式で求めた。

(14)

hijkNTT→fix:MAiの距離段階j時間帯kのNTT発信加入電話着信の通話時間
rijklNCC→fix、rmknNTT→mob、rmjknmob→fix、rmknmob→mobについても同様の方法で計算した。

事業者別の加重平均用比率rilNCC→fix rmnNTT→mob rmnmob→fix rmnmob→mob

rilNCC→fixの求め方は以下のとおりである。

(15)

rmnNTT→mob、rmnmob→fix、rmnmob→mobについても同様の方法で計算した。

発着信別の加重平均用比率 rifix→fix,fix→tel    riNTT→fix,fix→fix rimob→fix,mob→tel

(16)

riNTT→fix,fix→fix、rimob→fix,mob→telについても同様の方法で計算した。

 

補論2 住宅用通話料金、事務用通話料金の計算方法

 通話時間帯、通話距離、平均通話時間(保留時間)といった通話行動は、通話目的別に大きく異なっていることが予想される。今回算出した通話料金指数は、これらの異なった通話行動が積み重なった結果と解釈できる。従って、特定用途の通話について分析を行う場合は、本稿で示した通話料金指数の考え方を発展させ、用途に最適な通話料金指数を作成して用いるのが望ましい。ここではもっとも一般的な通話目的の違いである「事務用」と「住宅用」に関しての考え方を示す。今回算出した指数において用いた通話料金表では、事務用と住宅用で差が設けられていない。そのため、指数算出上違いが出てくるのは通話料金表の加重平均に用いたトラヒックデータにおける通話パターンの違いである。

 トラヒックデータの中で、事務用と住宅用が区別できるのは、加入時に事務用と住宅用の区別があるNTT加入電話発加入電話着のトラヒックのみである。また、このトラヒックでも事務用と住宅用が区別されて報告されているのは第1表から第4表までのみであり、第5表はこれらの合計値でしか報告されていない。従って、NTT加入電話発加入電話着の第1表から第4表における事務用と住宅用のデータを元に、指数の算出に必要な事務用と住宅用の通話パターンを推計していくことになる。

加入電話発携帯電話着のトラヒックについては、通話時間帯の分布で顕著であるように、加入電話発加入電話着の通話パターンとかなり異なっているため、NTT加入電話発加入電話着のデータを用いて推計を行うことは困難である。そこでここでは、加入電話発加入電話着の料金pitfix→fixについてのみ考え方の一つを示す。

 修正が必要となるのは、(3ト(5)式における加重平均用比率である。これらの加重平均用比率を(14)式及び(15)式で計算する際に、NTT加入電話発加入電話着の事務用と住宅用の比率を用いて事務用または住宅用のみに修正したMA間通話時間を用いればよい。例えば、東京MAから横浜MAへの通話時間については、NTT加入電話発加入電話着の東京都から神奈川県へのトラヒックにおける事務用と住宅用の比率を乗じればよい。このような操作を、全てのMA間、全ての加入電話事業者に施して計算することにより、住宅用あるいは事務用のpitfix→fixを得ることが出来る。

 



  
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移動体通信の普及動向と通話支出