研究

季刊 個人金融2026年冬号

発行年月 2026年2月

特集 

貧困の連鎖と格差の固定化

世代を超えて引き継がれる「貧困の連鎖」は、格差の固定化をもたらし、日本社会の持続可能性を脅かす深刻な問題です。
これは個人の自己責任に帰すべきものではなく、社会全体で取り組むべき喫緊の課題といえます。
本特集では、まず子どもの貧困と教育格差に焦点を当て、その現状を分析するとともに、連鎖を解消するための方策について
考察し、あわせて、経済状況や教育水準等の社会的要因が生み出す「健康格差」、および懸念される就職氷河期世代の「就労格差」を取り上げ、その実態と支援のあり方を展望します。

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目次

特集

ひとり親世帯の現状と養育費施策のありかた

千葉大学大学院社会科学研究院教授 大石 亜希子

【ポイント】
子どもの貧困率が改善する一方で、ひとり親世帯の貧困率は依然として高い。ふたり親世帯の所得が向上する中、ひとり親世帯は低所得層の実質所得水準が低下するなど内部格差も進行している。母子世帯は長時間労働でも低賃金な非正規雇用が多く、就労所得が伸び悩んでいる。養育費の確保はもとより、税制・教育支援等との整合性を高めながらさらなる政策支援が不可欠である。

    子どもの貧困と社会保障制度

    実践女子大学人間社会学部教授 広井 多鶴子

    【ポイント】
    日本の母子世帯の貧困率が高い背景には、福祉政策が生活保障から就労支援(ワークフェア)へと転換したことにある。現行の子どもの貧困対策は、再配分の失敗ではなく個々の家庭の「貧困の連鎖」問題と捉え、現金給付を抑制する一方で無償教育等の現物給付を優先している。再配分の責任を放棄し解決を子ども自身に委ねる構造が、母子家庭に高い貧困を温存させている。

    貧困の連鎖と格差の固定化における教育の役割

    龍谷大学社会学部准教授  数実 浩佑

    【ポイント】
    教育支援への偏重は、条件付き生存保障や貧困問題の個人化を招く恐れがある。貧困対策には教育格差の解消だけでなく、経済支援の拡充や労働市場の改革が不可欠だ。同時に、構造的な困難の中でも子どもが自律的に行動できるよう「ケア」と「セラピー」両面の支援が重要となる。自己責任論に陥らず当事者を支える教育の役割が今、求められている。

    教育格差における地域間格差

    北海道大学大学院教育学研究院准教授 上山 浩次郎

    【ポイント】
    銘柄大学の都市部集中など、高等教育における進学の機会と達成には顕著な地域差がある。本稿は、近年の格差拡大の要因やメカニズム、政策の影響や階層・性別との関連、地域独自の因果効果を巡る研究動向を概観する。格差是正には、進学を前提としない多様なライフコースの保障と、多角的な知見に基づく慎重な政策議論が必要である。

    ライフコースの視点から高齢期の健康格差の原因を探る 
    桜美林大学大学院老年学学位プログラム教授 杉澤 秀博

    【ポイント】
    高齢期の健康格差は、少年期の経済的困窮が全生涯にわたる不利へと連鎖・累積し、経済的地位の下降が影響を及ぼすことで形成される。この傾向は出生コーホート間で差異があるものの、依然として根強い。格差是正には、子ども時代からの経済・教育面の支援に加え、ライフコース全体を視野に入れた包括的かつ継続的な政策介入が不可欠である。

    所得と貯蓄から考える人々の経済状況と健康問題

    早稲田大学人間科学学術院助教 平原 幸輝

    【ポイント】
    所得や貯蓄などの経済状況は、年齢や規則的な生活習慣を統制した上でも健康状態に有意な影響を及ぼし、特に貧困層では健康悪化が促進される傾向にある。格差是正には、費用支援による健康診断の受診促進が身体的健康の維持に有効であり、精神的健康については無料相談等の取り組み拡大が重要である。

    就職氷河期世代は特別な世代なのか? 

    関西学院大学総合政策学部准教授 四方 理人

    【ポイント】
    1978年~ 92年生まれの世代は、20代で高い非正規雇用割合を経験した。30代で正規雇用割合は他世代と同水準に回復するものの、男性の所得格差は依然として大きい。世代的な画期は、従来の氷河期世代よりも、1990年代末から2010年代初頭に労働市場へ参入した層に顕著であり、高い非正規率と所得格差の拡大を経験した世代といえる。

    就職氷河期世代のキャリアと支援の課題
    -量的分析とインタビュー調査から-

    独立行政法人労働政策研究・研修機構統括研究員 堀 有喜衣

    【ポイント】
    氷河期世代は現在では正社員率こそ他世代並みだが、不安定な職を繰り返す「ヨーヨー型キャリア」が多く、正社員転換後も低収入に留まる傾向がある。中年期の正社員化には、「小さな労働市場」でのマッチングや逆算思考による就職活動が有効である。老後の低年金への懸念に対し、年金拠出期間の延長や高齢者雇用の充実など就労支援に留まらない包括的な政策が求められる。

    ※【ポイント】は事務局で作成したものであり、執筆者の承諾を得たものではありません。

    支援活動フロントライン

    「どんな境遇からでも、自立を目指しリスタートできる」 

    一般社団法人コンパスナビ 理事  高橋 多佳子

    書評

    橋本 健二(著)
    『新しい階級社会』最新データが明かす< 格差拡大の果て> 

    奈良女子大学人文科学系教授 林 拓也

    大湾 秀雄(著)
    『男女賃金格差の経済学』

    武蔵大学社会学部教授 中西 祐子

    季刊個人金融 20年の歩み(2024年~2025年)

    2026年夏号で創刊20周年を迎えます。
    20年を振り返る図表を掲載します。

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    一般財団法人ゆうちょ財団 研究部

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