貯蓄経済研究

東芝の不祥事は特異な事例か

東芝は、内部告発に端を発する不適正会計事件で、第三者委員会の報告を受け、前代未聞の直近三社長の辞任を発表した。2009年3月期から2014年12月期までの間に1,518億円の利益水増しが行われたと第三者委員会から指摘されており、社内調査を含めるとその額は1,562億円に膨らむ巨額の不適正会計事件に発展した。

東芝は2014年3月期連結決算で売上高約6兆5千億円、営業利益約2,900億円に上る日本を代表する総合電機メーカーだ。2003年1月に委員会等設置会社に組織変更したが、その際の報道資料では、

「当社は、1998年に執行役員制度、99年に社内カンパニー制を導入するとともに、2000年6月には指名委員会、報酬委員会を設置し、01年6月には社外取締役を3名体制とし取締役の任期も1年に短縮するなど、改正商法を先取りする形で一連の経営体制の改革を進めてきました。今回、委員会等設置会社に移行することにより、この改革を更に推し進めることができると考えています。(中略)

取締役会は、日常的な業務執行決定を行わず経営の基本方針等の決定と監督機能に徹することとなり、また、社外取締役を過半数とする指名、監査、報酬の3委員会を設置することになるので、監督機能が強化でき、透明性の向上も図ることができます。 当社では、社外監査役2名を含む4名の監査役体制で監査機能の充実を図ってきました。新制度では、監査委員はこれまでの監査役の「適法性監査」に加え「妥当性監査」も行うことや、取締役としても機能することから、経営監査部等内部監査・統制部門との連携強化により監査機能を更に充実、強化させていきます。」

と述べており、社外取締役を積極的に導入して企業統治の強化にいち早く取り組んだ先進的な企業としての評価も高かった。

しかしながら、2009年のリーマンショックと2011年の東日本大震災による福島原発事故を契機に、主力の原子力事業を中心に収益が悪化し、業績回復を焦るあまり、当期利益至上主義に走ったことが本事件の主因とされている。経営の監督機能と執行機能を分離し、取締役会を監督機能に特化させたものの十分な効果は現れず、さらに直近三社長の確執もあり、トップの権力闘争が本事件を加速したことも否めない。

どのような不適正会計事例があったのか、第三者委員会の報告書要旨によると、次のとおりだ。

「①インフラ事業では「工事進行基準」と呼ばれる会計基準を適切に用いず、原価の過少計上や売上高の過大計上が行われた。最高財務責任者が裏付けのない原価の増加見積額を計上することを考案し、田中久雄社長の了承を得た。業績へのマイナス影響を回避する意図で行われた可能性が高い。

②地下鉄用電機製品の受注では、11年度末の会計処理で佐々木則夫社長 (当時:現会長)が数十億円の損失見込みを認識していたが、引当金の計上を指示した形跡は見当たらない。設備更新工事では、田中氏が35億円の損失の計上時期を13年10~12月期ではなく14年1~3月期に行う方針を示した。損失計上を先延ばしする意図があったとみられる。(調査に対し)田中氏は、損失の計上時期を遅らせることが駄目なら財務部なりが拒絶すればよかったと述べた。

③映像事業では遅くとも08年ごろから、損益目標を達成するため「キャリーオーバー」と称する損益調整で当期利益をかさ上げしてきた。両氏(佐々木前社長と田中現社長)は利益かさ上げを認識していたと認められるが、何らの対応も行っていない。

④パソコン事業では当期利益のかさ上げを目的に、製造委託先に通常より高い価格で無理に部品を買わせる「押し込み」販売が行われた。08年度上半期に西田厚聡社長(当時:現相談役)は50億円の利益上積みを「チャレンジ」として求めた。(後任の)佐々木氏は3日で120億円の営業利益改善を求めるなど押し込みを誘発した。田中社長の就任後はかさ上げの解消が検討されたが、押し込みは継続的に実行された。監査委員会が押し込みについて議論した形跡も対応を取った形跡もない。監査委が十分機能したとは到底評価し得ない。」

これら不適正会計は何故行われたのか。経営トップにより経営判断として行われことが最大の要因だ。そのため、上司に逆らえない企業風土も相俟って、誰も異議を唱えることは出来ず、経理部門や財務部門も、内部統制部門として会計処理の適正性についてチェックすべき役割があるにもかかわらず、全く機能していなかった。内部統制機能を最も発揮すべき取締役会や監査委員会でさえも問題の指摘や改善への議論は行われなかったという。構造的には組織ぐるみの事案と言われても仕方が無い状況ではないだろうか。田中社長は、会見で不適正会計処理は認めたものの、このような処理について認識や指示があったことは否定しているが、報告書を見る限り認識の上示唆・黙認していることは明らかであり、保身のための強弁にしか聞こえない。今後、証券取引等監視委員会の調査、株価急落に伴う株主の損害賠償訴訟、会社に損害を与えた経営陣の経営責任を問う株主代表訴訟などにより、トップの責任が追求されていくものと考えられる。

一方、東京商工リサーチの2014年度「不適切な会計・経理を開示した上場企業」調査によると、これらに該当した上場企業は42社に上り、2006年に調査を開始して以来昨年度に続き最高を更新したそうだ。東芝の事案に類似する「架空・水増し売上」が6社、業績や予算達成を目的とした不適切会計も多く見られた。業種別では、円安などで業績が好調な製造業のほか、運輸・情報通信業が前年から大幅に増加し、子会社や関連会社を多く抱え、国内外でグローバル化を進める東証1・2部に増加が目立った。

2009年3月期決算以降、上場企業は財務情報の正確性を強化するために「内部統制報告書」の開示が義務付けられたが、不適切な会計や経理などを未然に防ぐ体制は十分に定着せず、上述のように上場企業の不適切な会計処理は減少する傾向にないことから、金融庁と東京証券取引所は今年3月5日、上場企業に独立性が高い社外取締役2人以上を選ぶように促すことなどを盛り込んだ企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)を決定した。株主の権利・平等性の確保のほか、適切な情報開示と透明性の確保、内部通報制度の整備など5項目からなり、上場企業が守るべき行動規範を網羅したものだ。

東芝の第三者委員会も再発防止策として、「社外取締役を増員してコーポレートガバナンス(企業統治)体制を強化し、社外取締役の独立性を一層確保。特に監査委員会を構成する社外取締役は、法律関係、財務・経理の知識がある人材を選任する必要がある。」としている。経営責任を明確化した上での経営陣などの抜本的な人事刷新、意識改革などの企業風土の改善、内部通報窓口の周知徹底なども提言している。

だが、どのように社外取締役の増強、内部統制機能の強化など再発防止策が講じられても、経営トップが、率先して、企業倫理に徹し、自らコーポレートガバナンスに服し、コンプライアンスを優先しない以上、不適正会計事件は根絶できないのではないか。今回の事件もいずれ発覚することは誰にでも分かるのに、三代の社長に渡って行われ、是正はできなかった。オリンパスの巨額損失隠し事件でも十年以上に渡り歴代のトップが係わっていた。会計操作による目先の業績確保や不祥事隠蔽による組織防衛は一見成功するように見える悪魔の囁きだ。魂まで売り渡してしまっては、組織のトップとして、在任する資格も責任を全うする覚悟もないと言えるのではないだろうか。

経営陣はいかなる事態が生じても自律を忘れず最終的に責任を取る覚悟を持ち、会社は有効で確固たる企業統治(コーポレートガバナンス)を行い、役員・社員は法令遵守(コンプライアンス)を最優先に行動する。あらゆる不祥事を根絶するには、この三原則を徹底し確立すること以外に、他に方法はない。

(2015年7月29日 掲載)

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