貯蓄経済研究

日本郵便の高齢者向けサービスはヒットするか

日本郵便株式会社は、2013年8月26日、高齢者向け生活支援事業を10月から開始する旨発表した。その内容は、

  1. ① 郵便局員が、月一回高齢者の自宅を訪問したり、局主催の食事会に招いたりして、生活ぶりや健康状態を確認し、遠隔地に住む家族に報告
  2. ② 医療や生活の悩みに関する電話相談サービスを24時間提供
  3. ③ 電話で毎日安否を確認するサービスを提供
  4. ④ 米や水などを定期的に届ける買い物代行サービスを提供

である。①と②は基本料金1,050円で提供し、③と④は別料金を徴収する。まずは、北海道、宮城、山梨、石川、岡山、長崎の各県の一部地域にある郵便局103局で試行し、2014年4月から順次拡大し、翌15年4月から全国展開するという。

早速、地方新聞の投書欄に、77歳の高齢者から、「核家族化により高齢者の多種にわたる課題が発生している中で、・・・山間部や離島に在住している人にとっては安堵の気持ちを抱く方も多いと思う。・・・・時代に合致した試みで社員挙げての取り組みと努力を期待したい。」という声が寄せられた。特に、中山間地や限界集落などで暮らすお年寄りにとっては、身近な郵便局の取り組みでもあり、大きい期待があるのだろう。

超高齢社会の到来は確実に進んでいる。内閣府の『2012年度高齢社会白書』によると、2013年に65歳以上の高齢者は総人口の25%を超え、35年は33%、60年には40%に達する。世界のどこの国も経験したことのない社会だ。国の社会保障政策も介護保険制度もおそらくこの超高齢社会に向けて十分な対応を取ることは難しいだろう。地方公共団体は平成の大合併で広域化し、行政の目配りは行き届かず、高齢者世帯の生活上の問題に即応できないに違いない。高齢者支援事業や介護関連事業のニーズは高まりこそすれ、衰退することはない。

郵政事業は、国の事業であった時代から地域に根差す郵便局の役割として高齢者への気配りを重視してきた。過疎地域のひとり暮らしの高齢者(70歳以上)や高齢夫婦世帯を対象に郵便の配達社員による励ましの声かけなどを行うひまわりサービス(平成24年3月末で95自治体)、窓口に出向いて年金などを受け取ることが困難なお年寄りなどに年金や恩給を支払期ごとにご自宅までお届けする年金配達サービス、買い物したい品目を記入した葉書を郵便物として預かり生活サポート協議会に配達し、生活サポート協議会が商店に発送を依頼し商店から当該品目をゆうパックとして預かり届ける買い物代行サービスなど、郵政事業の本業と見事にマッチさせ、できる限り余分のコストを掛けずに無料でこのようなサービスを提供してきた。国営事業として自治体からも高齢者対応の公的役割を期待されていたこともある。

2003年の郵政事業庁時代から、さらに一歩踏み出し、これらに加えて、地方公共団体の庁舎等へ出向かないでも戸籍謄本や住民票の写しなどの公的証明書が受け取れるサービスなども開始した。2003年の公社化を経て2007年の民営化後も引き継がれて上述のサービスは提供されてきた。

今回の新たなサービスは、本業とのマッチには拘らず、これまでの高齢者の見守りや生活支援の経験と実績をもとに、さらに付加価値を付けた事業内容に拡充し、本格的に高齢者支援事業に乗り出そうというものではないか。もしそうであるとすれば、ここで十分注意しなくてはならないことがある。サービス内容的にはこれまでの高齢者支援サービスと似ているものの、本質的には全く違う事業としての採算性と収益性を目指すものだということだ。これまでの経験と実績があるだけに、高齢者などユーザー側も関連する地方公共団体も郵政事業のCSR(企業の社会的責任)を強調し、できるだけ料金を低めに、あわよくば無料に設定するように迫るだろう。この高齢者支援事業をさらに内容を充実し、採算性も重視し、将来的に郵便やゆうパックなどの本業に続く事業の柱に育てようと考えているのならば、日本郵便はこのような要請には民間企業としての事業の性格を丁寧に説明して採算性の追求に納得を得、これが引いては経営の健全化に寄与し、最大のCSRである郵便局の津々浦々までの存続に繋がることを理解してもらうことが必要である。それが利用者の拡大をもたらすことにもなる。併せて、このプロジェクトに専念する体制を現場から構築し、必要な人的かつ設備的投資を惜しまず、郵便配達や郵便局業務の片手間に行うサービスのような意識を社員に植え付けないことが大事である。

高齢者支援事業のうち高齢者向け緊急通報、見守り・安否確認サービスの市場規模だけでも2010年で約90億円、2020年には132億円に達するとの予測もある。この市場には、既に警備会社や通信機器メーカーなどの複数の企業が参入している。日本郵便が、後発として乗り込む以上、成功を勝ち取るためには、今後とも、入念なマーケットとニーズの調査を行い、先発にないサービスの創意工夫と高度化を進め、このプロジェクトに取り組む社員の意欲の醸成を図ることが不可欠ではないだろうか。

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