貯蓄経済研究

市場原理主義と金融危機

経済学は、人間の経済活動に関する学問であり、多くは、市場(マーケット)を通じて行われるお金のやりとりを分析し、理論付けをし、また予測する。

人間の経済活動が、合理的でないとすれば経済学は成立しない。例えば、一定の金額で買うことの出来る商品A、B、Cがあった場合、AよりもB、BよりもCが選ばれるときには、AよりもCが選択されなければならない。もし、AよりもB、BよりもC、CよりもAが同時に選択される場合があるとすれば、厳密な意味での価格理論(市場と経済学の基本となるもの)は成り立たない。 しかし、現実の市場は、矛盾を多く抱え、その破綻が目立つ。最近の大きな事件としては、リーマンショックといわれるサブプライムローン問題に端を発した世界的金融危機がある。

サブプライムローンとは、通常の住宅ローンを借りることが出来ない(審査に通らない)信用度の低い人向けのローンを指すが、このローンが住宅バブルの中で、大量につくり出され、更に証券化され、世界中に流通したのである。

このようなローンは、当然金利も高いし、簡単に流通するものではない。流通させるためには、多くの人々、言い換えれば、「市場」に対する合理的な説明が必要となる。

この合理性を説明した(と考えられた)のが、金融イノベーション、金融工学等として最先端の理論を用いた「安全な」不動産担保証券(MBS)や債務担保証券(CDO)である。これらの証券が倒産したリーマンブラザースなどの投資銀行から出され、更に格付機関がこれを高く格付し、組み換えられたものを世界各国の金融機関が購入したものである。

市場に関するプロである金融機関でさえ、情報の不完全性、市場の不完全性に気付かなかったのである。この危機は完全には、今も解消された訳ではない。

不動産バブルの崩壊とそれに伴う金融危機という構図は、日本の20年前の出来事と重なる。我が国は、今も失われた10年、20年に苦しみ、今年は更に東日本大震災、原発事故という大災厄の真っ只中にある。

市場原理主義は、自由で制約なき市場が、ムダを省き、最も効率的であるとするフリードマンを中心とする新シカゴ学派の考え方であり、米国のみならず、世界中でもてはやされた。この考え方が、金融事業において、レバレッジなどの金融イノベーションもあって、膨大な投機資金に膨れ上がり、世界中の市場の大きな不安定をもたらしている。

レーガンのアメリカは、ソビエト社会主義に勝利した。社会主義は極めて非効率であり、資本主義、市場主義のみが正しい道であるとの認識が広く、深く浸透した。金融がその中心にあった。

我が国のバブル崩壊に関しても、社会主義的な国家運営からの脱却、官僚主導からの転換、ムダの排除等の指摘がなされ、市場礼賛、米国型のルールの採用が、金融、法制等広い分野で行われ、「改革路線」、「グローバルスタンダード」として推進された。

リーマンショックは、この市場原理主義が大きな問題を抱えていること、特に金融規制について見直すべきとの指摘がなされ、新しい金融規制改革法(ドット・フランク法)が成立し、ボルカー・ルールの細目等について調整が行われている。

ボルカー氏の米国のFRB議長の後任であるグリーンスパン氏は、本人自らリバタリアンであるとしている。自由はリバティーであり、リベラルという言葉がニューディール以来、企業・資本家の利益より市民の利益を重視するイデオロギーとして使用されることが多くなり、これと区別し、真の意味での自由主義者という意味で、リバタリアンという言葉が使われる。

グリーンスパン氏が、「私の履歴書」で、述べていたが、彼がリバタリアンになった理由は、若い頃にある勉強会で出会った迫害から逃れ米国に渡ったヨーロッパからの移民である婦人の影響を強く受けたとしている。政府の訳の分からない連中が決めたことに従わなければならないことには耐え難い。例え間違いがあるとしても、自分の運命は自分で決めるべきであるとする強い決意に感銘を受けたことにあるそうである。

かなり、極端な考え方であり、自由至上主義と訳されることもある。また、フリードマンと同様のノーベル経済学賞の受賞であるステイグリッツは、効率性重視の市場至上主義が、世界中に、内外にわたる大きな格差をもたらしたと批判している。

イデオロギーではなく、経済理論として、いかにあるべきかについては、正確な予測をなしえるかどうかによって判断されるべきことはフリードマン自身によって主張されているところである。

さて、我が国の市場主義改革路線が、何をもたらしたかの評価が、真剣に行わなければならないが、失われた十年、二十年という言葉はあるが、しっかりとした総括とは言い難い。

次のステップへ進むためには、現実をしっかりと見つめ、何が問題であり、何を進めるべきであるのか、歴史的事実を踏まえた新しいプランを作成すべき時期に来ている。

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