貯蓄経済研究

再び、ふるさと納税制度を問う

ふるさと納税制度については、 2017 9 12 日付本コラム「ふるさと納税制度は本当にふるさとを応援しているのか」で、二つの問題点を指摘した。
一つ目は、返礼品の過度な高額化競争だ。ふるさと納税といっても実態は自治体への寄付にすきない。多額の寄付を集めようと、自治体は返礼品を豪華でニーズの高いものにしようと工夫を凝らす。寄付をしようとする者 ( 以下、寄付者という ) は民間のふるさと納税専用ポータルサイトで、どの自治体が寄付額に対する返礼品の割合が高いかを調べて寄付をする。自らを育ててくれたふるさとやお世話になった自治体への恩返しという制度の高邁な趣旨はもはや胡散霧消しているといっても過言ではない。
二つ目は、上限はあるものの、寄付額の全額 ( 二千円を除く ) 所得税と個人住民税 ( 以下、住民税という ) から控除される仕組みだ。寄付額が増大すればするほど、寄付者の居住する自治体の税収は減少する。だが、福祉、教育、環境といった行政サービスは同じように提供しなければならない。減収幅は、 2018 年度分で、東京都で 645 億円、次いで横浜市の 103 億円、首都圏の 1 3 県で 1,166 億円にも上る。対前年度比で 40% 近く増加したという (2018 7 27 日付け日本経済新聞 )
ただ、控除額の 75% が国からの地方交付税で補填されるので全額が減収になるわけではないが、地方交付税を受け取らない東京 23 区等の自治体は全額減収だ。そもそもこの地方交付税での補填も問題だ。言わば、寄付者は、控除された税金を地方交付税で補填してもらって居住自治体からはこれまでと同様の行政サービスを享受しながら、二千円の負担で高額な返礼品を貰っていることにならないだろうか。
これではふるさと納税をしない人との格差があまりにも大きく、誰もがコストパフォーマンスの高いふるさと納税に走ろうとするのをやむを得ない。従って、通常の寄付でも控除対象となる所得税は別として、住民税の控除は廃止するか、控除額を限定すべきではないか。
 
前者の問題点を是正すべく、総務省は、 2019 年 2 月 8 日、返礼品を納税額の三割以内で地場産品とすることを義務付ける地方税法等の一部を改正する法律案を国会に提出した。
本法案は 3 月 2 日衆議院で可決、参議院に送付された。この法案が成立すると、6月1日から、この義務付けに反する自治体はふるさと納税制度の指定を受けられなくなり、制度から除外されることとなる。つまり、寄付者は、指定を受けられなかった自治体に寄付しても、寄付額分を居住自治体の住民税から控除できるという特典を受けられなくなる。
総務省は、以前から返礼品は地場産品に限り納税額の三割以内という自治体への指導を強化していたが、指導に従わない自治体が多額の寄付を集め、指導に従った自治体との間で不公平感が高まったため、指導に法的強制力を持たせるために今回の法改正に踏み切ったものだ。
 
最近のふるさと納税の実態を総務省の平成 29 年度現況調査 ( 2018 7 月 6 日公表 ) で見てみよう。
寄付額総額は平成20年度制度創設時の約 45 倍の約 3,653 億円、件数は約 346 倍の約 1,730 万件。特にこの二、三年、住民税控除を受けるために行う確定申告が簡素化されたこと等もあり、寄付額は急速に増大している。
寄付額が最も多い都道府県は北海道で約 365 億円。市町村別では大阪府泉佐野市が約 135 億円で最も多く、二位の宮崎県都農町の二倍近い額に上り、寄付全体の 3.7% を占める。
制度実施のための経費は返礼品調達費用、返礼品送付費用、事務経費などで約 2,027 億円 ( 寄付額の約 55% ) 。寄付額を上回る経費が掛かっている自治体もあることは冒頭に掲げた前回のコラムでも指摘した。制度維持に多額の経費が掛かることとふるさと納税で住民税が流出することが多額の寄付を集めようという競争を自治体間で過熱させている原因だと考えられる。
この調査の時点で、返礼品は地場産品で寄付額の三割以内という指導を受け入れる意向のない自治体(寄付額 10 億円以上)は泉佐野市、静岡県小山町など 12 自治体 もある 。
寄付額とその使途 (事業内容) を両方とも公表している自治体は 1,138 で全体の 63.6% 。 両方とも公表していない自治体が 199 もあることには驚く。何に使っているかを公表しないことは寄付者の善意を裏切ることにならないだろうか。
これらを見ると、泉佐野市の突出振りが際立っている。同市は総務省の指導に従う意思は無く、上記法改正にも、自治体の自主性を奪う国の押し付けと猛反発している。総務省は寄付額の五割を超え、かつ地元とは関係の無い高額商品を送付し続ける泉佐野市を身勝手だと強く批判し、法改正が実現した暁には指定から外すことも匂わす。これに対し、泉佐野市はこれまでの寄付への恩返しとして、 100 億円還元閉店キャンペーンと銘打ち、 2 月から 3 月にかけて返礼品とは別に寄付者にギフト券を提供する施策を実施中だ。対立は深まるばかりでふるさと納税制度の根幹が揺らぐ事態だ。
これらを見ると、泉佐野市の突出振りが際立っている。同市は総務省の指導に従う意思は無く、上記法改正にも、自治体の自主性を奪う国の押し付けと猛反発している。総務省は寄付額の五割を超え、かつ地元とは関係の無い高額商品を送付し続ける泉佐野市を身勝手だと強く批判し、法改正が実現した暁には指定から外すことも匂わす。これに対し、泉佐野市はこれまでの寄付への恩返しとして、 100 億円還元閉店キャンペーンと銘打ち、 2 月から 3 月にかけて返礼品とは別に寄付者にギフト券を提供する施策を実施中だ。対立は深まるばかりでふるさと納税制度の根幹が揺らぐ事態だ。
このような事態が勃発するのも、後者の問題点である、ふるさと納税制度が住民税の控除という特典を寄付者に与えるからではないだろうか。もし、この特典が無ければ、どのような高額返礼品を泉佐野市が提供していたとしても、せいぜい寄付額の五割程度しか寄付者には戻ってこないため、残りは持ち出しになる。
現状は実質的に二千円の負担でこれを超える高額の返礼品を貰えることになるので、返礼品の価値が高い泉佐野市に寄付を集中させている。法改正で三割以内の地場産品といくら法的に限定しても、前述の泉佐野市のように還元キャンペーンと称して返礼品とは別に寄付者に物品を提供する方法が横行すれば、規制の抜け道になる恐れがあり、問題は解決しない。
だが、この特典の見直しまでは、総務省も考えていないようだ。制度そのものの根幹にかかわる問題であり、制度の廃止に繋がるからに相違ない。特典を温存するのであれば、せめて、ふるさと納税制度で指定を受ける場合は、自治体は返礼品を含めて寄付者に物品の供与を一切行ってはならないというルールを新たに設定すべきではないか。
現実に、返礼品を提供しない自治体もある。返礼品問題を抜本的に解決しない以上、いずれ、ふるさと納税制度は瓦解の危機に晒されるように思えてならない
ふるさと納税制度は都市部と地方の自治体相互間だけでなく、地方の自治体相互間でも寄付の獲得を巡って対立を激化されている。地方自治の健全な発展を考える上で望ましい状況でないことは明らかだ。
寄付者の中には、返礼品に囚われず、本来の趣旨を踏まえて、自然保護や災害復興、地域の活性化等自治体の地道な取り組みに共感して寄付する人も多いはずだ。そのような人々は見返りを期待せず、純粋に自治体の役に立ちたいという思いが強いのではないか。
ふるさと納税制度が更なる改善を経て、自治体間の対立を緩和し、国民の間に見返りを期待しない真の寄付文化を育てることを願わずにはいられない。

(茶臼岳)
(2019 年 3 月 12 日 掲載)

お問い合わせ先

一般財団法人ゆうちょ財団 貯蓄経済研究部

〒101-0061 東京都千代田区神田三崎町3-7-4 ゆうビル2階

Tel. 03-5275-1812 / Fax. 03-6831-8970

一般財団法人ゆうちょ財団 総務部

〒101-0061 東京都千代田区神田三崎町3-7-4 ゆうビル4階

Tel. 03-5275-1810 / Fax. 03-5275-1806